第51話 新生バンド誕生
「義父さん」
「どうした、一樹」
ある日の夜、僕はリビングでいつものように新聞を読んでいる義父さんの元まで行くと声をかけた。
「義父さんに、お願いしたいことがあるんだ」
「……言ってみなさい」
僕が、いつもお願いをしている時とは違うことに気づいた義父さんは、表情を引き締めて、僕に先を促す。
「実は―――――」
そして、僕はその願い事を告げるのであった。
BanG Dream!~隣の天才~ 第6章『月光への憧れ』
僕は日菜さんを除いたいつものメンバーでファミレスに来ていた。
「今日は来てくれてありがとう」
各々が頼んだ料理が運ばれてきたのを見計らって、まずはお礼から話に入る。
今日、ファミレスに来たのは、僕がみんなを呼び出したからだ。
「良いってことよ。にしても、久しぶりだな」
「確か、一周忌の時以来だったっけ」
この間、去年死んだ父さんと母さんの命日だったため、法事が行われた。
そこには啓介たちとおじさんたちの姿もあって、父さん達が一人ぼっちでないことが改めて実感できた瞬間だった。
「それで、用事って?」
「実はね……僕、もう一度みんなと一緒に音楽を……バンドをやりたいんだ」
そして、僕はそれをみんなに告げる。
「虫がいいのは分かってる。でも、文化祭の時に演奏して、尤もっとみんなと一緒にやりたいって思ったんだ。だから、もう一度僕と一緒にバンドを組んでほしい。この通りだっ」
僕はみんなに頭を下げてお願いする。
それは、文化祭の時から考えていたことだった。
半年以上前に、僕が勝手に解散させたバンド。
もう、思い残すことなんてないと思っていたはずなのに、一度演奏してしまうと、もう一回やりたいという思いが出てきてしまったのだ。
そんな僕のお願いに、
「一樹、顔を上げなって」
そう言われて顔を上げた僕の目に飛び込んできたのは、嬉しそうに笑みを浮かべる皆の姿だった。
「俺たちはな、その言葉を待ってたんだ」
「俺も、喜んで組むぞ!」
「私も、頑張るね」
「私もよ」
皆はそう言って受け入れてくれた。
そのことがうれしくて、僕は
「ありがとう」
と、お礼を言うのであった。
「それで、バンドをやるにあたっていくつか決めておきたいことがあるんだ」
お礼を言った後に、僕は話を進めていく。
「決めておきたいこと? なんだ、それ」
「このバンドはH&Pという名称ではなく、真っ新な状態で始めたい。だから、そのバンドのリーダーと副リーダーを決めたいんだ」
H&Pはもうすべてが終わっている。
これ以上やることはないし、やれない。
だから、全く新しい何もない状態から始めたいのだ。
「リーダーは一樹で、副リーダーは俺といったところか」
僕の意思を組んでくれたのだろう、田中君はすぐさまリーダーと副リーダーを決めていく。
だが
「僕はリーダーにはならない」
僕はリーダーになるのを拒否した。
「どうして?」
「H&Pの時は、僕がリーダーだったから自爆テロに近い解散をしてしまった。僕にはそんな権限を持つべきじゃなかったんだ。だから、僕は作戦参謀で十分だよ」
これが、僕なりの一つのけじめだ。
あの時の解散を、二度と引き起こさないように、僕は自分からその権限を?ぎ取ったのだ。
その代わりに、僕はこのバンドが目標に向かっていい方向に進むように作戦を練り、それを遂行する『作戦参謀』という肩書になることが一番ベストな形になる。
「わかった……なら、リーダーは俺が。副リーダーを啓介。お前が務めるんだ」
「よっしゃー。やってやるぞ!」
副リーダーになれたのが、よほど嬉しかったのか、啓介はすさまじい勢いで気合を入れていた。
「そして、もう一つなんだけど。僕たちをマネージメントで相談があるんだ」
「マネージメント?」
僕の口から出た単語に、中井さんが首を傾げて続きを促す。
「H&Pの時もそうだったけど、ライブの出演のオファーとかが管理できないでしょ?」
「あー、確かに」
「そういえばそうだね」
啓介たちも次々に同意していく。
僕たちは演奏することに集中したいタイプだ。
どのライブに出演すればいいのかなんてわかるわけもないし、中には日付がダブったりしていて、どっちかを捨てなきゃいけない場合だってある。
そうなったとき、僕たちでは対処が不可能だ。
「そのために、マネージメントをしてくれる人が必要なんだ」
「どこかの事務所に所属するということか」
田中君は、すぐに僕の言わんとすることを悟ったのか、つぶやいた。
それに僕は静かに頷く。
「でも、一体どこに――「それなんだけど、もう決まってるんだ」――何?」
啓介の言葉を遮るようにして告げた僕の言葉に、全員の目が驚きで見開かれた。
「というか、スカウトされたんだよ」
「……すまん一樹。経緯を話してくれてもいいか? いきなりのことに、理解が追い付かねえ」
あまりにも衝撃的な展開だったためか田中君の頭がこんがらがってしまったようだ。、
「わかった。実は―――」
僕は、みんなにもわかりやすいように事の経緯を説明するのであった。
それは、文化祭が終わった後一人で帰ろうとした時。
突然校門の横に立っていたスーツを着込んだ男性二名に、呼び止められた時のことだ。
「そうですね。では軽く自己紹介を。私は、こういう者です」
「同じく、こういう者です」
二人がこちらに名刺を手渡してくるので、それを受け取り確認する。
左側に立つひげを生やしている男性は、ライブハウス『CiRCLE』のオーナーだった。
続いて右側に立っている若い眼鏡をかけたトサカのような髪形をしている男性は、芸能プロダクション……いわゆる芸能事務所のスカウトマンだった。
「それで、一体私にどのようなご用件でしょうか?」
なんだかすさまじい肩書の人たちに、僕は少しだけ圧されていた。
「単刀直入に言ってしまうと、私はあなた方五名を、我が事務所に所属いたしませんかということお伝えにお伺いしました」
「……」
スカウトマンの男性……黒田さんの正体を知ってから、何となく想像はついていた。
やはり、スカウトをしに来たようだ。
「私は本日、息抜きのために偶然こちらによらせていただきました。そして講堂のほうに行ったとき、言葉には表せない衝撃を受けたんです。技術的な意味だけでなく、あなた方の演奏は十分プロと呼べるレベルです。ですので、もしこれからプロとしてやっていくのであれば、我々にその手伝いをさせていただきたいんです」
「………すみません。大変ありがたい話ですが、これは私の一存では決められません。一度他のメンバーたちと話し合いたいんです。お答えするまでの時間の猶予いただきたいんです」
スカウトされたことは純粋にうれしい。
だが、僕たち五人でとなると、僕だけの判断では決めることができない。
全員に確認をして賛同してもらうのが筋だ。
というより、それ以前にバンドを結成させる必要があるけど。
「いえ。前向きなお言葉を聞けて安心しました。それでは、8月の中旬までお答えをお待ちしますので、良いお返事を期待しております」
猶予は約一月ほどだ。
それでも、僕には十分すぎる期間だ。
そして黒田さんは一礼をすると、僕たちの前から去っていった。
それを見計らってか、残された男性……石田さんが口を開く。
「私の要件は、君自身なんだが……」
そこでいったん咳ばらいをすると、石田さんは僕にこう告げるのであった。
「私が経営するライブハウス『CiRCLE』でバイトとサポートミュージシャンとして働く気はないかね?」
と。
ということで、バンド結成&スカウトの話でした。