BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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今回はバイトの話になります。
とはいってもあの人たちがメインの話ですが。

それでは、どうぞ


第57話 練習と呼び出し

翌日、僕はライブハウス『CiRCLE』での初めてのバイトをすることとなった。

 

「それじゃ、あまり気を張らずに頑張ってね」

「は、はい」

 

(初めてバイトをするのに気を張らずに頑張るというのは難しすぎない?)

 

そんなどうでもいいことを考えつつ、この日のバイトは始まった。

 

(えっとまずは受付表の確認だったっけ)

 

この間月島さんに見せてもらった受付表を確認すると、午前中に3件、午後に4件の予約が入っていた。

僕は午後シフト。

しかも4件目のお客さんが来る前に上がるため実質3件といったところだろう。

 

(えっと、最初は……『After glow』夕焼け?)

 

このあと少ししてから来るバンド名に目を引かれた。

受付表には個人名もしくはバンド名のどちらかが記帳されている。

 

(……まあいっか。とりあえずこっちは準備を進めますか)

 

僕は、バインダーに用紙を一枚挟むと、After glowのメンバーが利用するAスタジオに入り、各機材のチェックを始める。

これも少し前に月島さんに言われていたことだ。

 

(音は鳴る……異常や危険物等もなし)

 

紙には予約の際の確認事項が分かりやすく記されており、それに沿って確認する流れになっている。

そしてすべての確認を終えた僕は、チェックリストの署名蘭に自分の名前を記すと提出資料ボックスと書かれた箱にリストを入れる。

後はスタジオのカギを用意すれば予約の受付準備は完了だ。

 

(今日は機材レンタルが2割引きだったっけ。これも説明して、興味を持ってもらったらリストを渡すんだよね)

 

スタジオの受付というのも、色々あって難しいな。

 

「あ、いらっしゃいませ」

 

そんなことを考えていたため、来店客を告げるベルの音に気付くのが少し遅れてしまった。

 

「こんにちは……って、一樹さんっ!?」

 

今後は気を付けないと、と自分を戒めていると、良く知る女性の声が聞こえてくる。

 

「って、ひまりさん!? なんでこんなところに」

「それは――」

「こにち―――って、一樹さんじゃないですか!」

「あ、一樹さんだ~。やっほー」

「え、一樹さん!?」

「に、兄さん!?」

 

そしてひまりさんに遅れるようにして入ってくる巴さんにモカさん、そしてつぐに蘭の4名。

皆、僕を見て目を見開かせて驚きを隠せない様子だった。

 

「いや……僕、今日からここでバイトをすることになったんだ」

「そうだったんですね。はー、びっくりした」

 

それはこちらのセリフだ。

 

「それで蘭達はどうしてこんなところに?」

「ちょっとー、自分のバイト先を”こんなところ”って言うのはどうかと思うわよ?」

「す、すみません」

 

しっかりと僕の声が聞こえていたようで、月島さんから笑顔で怒られた。

 

「あ、まりなさん。こんにちはー!」

「こんにちは、ひまりちゃん」

 

そして自然な動作であいさつをするところから見ると、ここの常連にもみられる。

 

「もしかして、『After glow』って蘭達のこと?」

「……そうだけど」

「そうだったのか……」

 

薄々そんな予感はしていたけど、いざ目の当たりにするといろいろと違ってくるものだ。

何せ、彼女たちは僕の”ライバル”になるかもしれない存在なのだ。

少しだけ、気分が落ち込んでしまっても、しょうがないことだ。

 

(でも、ちょっと楽しみかも)

 

気分が落ち込みつつも、どこかで彼女たちの演奏を聞くのを楽しみにしている自分もいるというのが、また滑稽だった。

 

「ねーねー、一樹さんも一緒に練習しましょうよ~」

 

そんな中、モカさんがニヤリと笑みを浮かべながら僕を誘い出す。

 

「も、モカちゃん一樹さんは今お仕事中だから、駄目だよ」

「えー、でもつぐも一樹さんと一緒に練習したいって、思わない―?」

「そ、それは……一樹さんと練習できたら楽しそうかなって思ったりもするけど……でも」

 

(つぐが完全にモカさんに流されてる)

 

だんだんと僕も参加する流れになり始めてるし。

 

「モカもつぐもだめだって」

「でも、客観的な立場で聞いてくれたほうが、いい練習になると思うぞ」

「いや、バイト中なんだし、駄目じゃない?」

 

(もうこのメンバーの中で、反対は名乗ってひまりさんと蘭だけか)

 

というより、バイト中に知り合いが結成しているバンドのほうに行くというのは、サボってるということにもなる。

 

(さすがにコーチをするのは仕事の範疇ではないし)

 

そんなことを考えている間にも、ひまりさんと蘭は籠絡されてしまったようで

 

『一樹さん(兄さん)、一緒に練習に付き合ってください!』

 

五人が声をそろえてお願いしてきた。

 

「いや、でもバイト中だからね?」

「練習を見て指導するのも仕事だ思いまーす!」

 

さすがに初日からさぼりという事態は回避したいが、全然歯が立たない

 

(しょうがない。こうなったら)

 

「月島さん、さすがにそれはまずいですよね?」

 

僕は最後の砦とばかりに先輩にもあたる月島さんに話を振る。

いくらなんでも、月島さんがだめって言えば彼女たちも諦めるだろう。

 

「え? 良いんじゃない、別に」

 

(あなたもですかっ!)

 

そんな僕の期待は一瞬で裏切られた。

 

「ほらほら、まりなさんのお許しも出たことだし」

「ゴーゴー、レッツゴ~」

 

気が付けば、モカさんと蘭に両腕をつかまれていた。

 

「ちょっ!? わかったから、行くから! だから、引っ張らないで!」

 

そして、そのまま引きずられるように連れていかれる僕にかけられたのは

 

「ちゃんと付き合ってあげるんだよー」

 

という月島さんの言葉だった。

 

 

 

 

 

そんなわけでスタジオに連行された僕は、準備を整えたころを見計らい、全員に声をかける。

 

「それじゃ、一曲聴かせてもらってもいいかな?」

『はい!』

 

実力を知るにはまずは演奏を聞く。

これが鉄則だ。

とはいえ、他人の演奏などそんなに聞いたことがない僕に、アドバイスなどできるのかが甚だ甚だ疑問だが。

構成としては、蘭がギターボーカルで、ひまりさんはベース、モカさんはギター、つぐはキーボードで、巴さんはドラムとなっている。

 

(僕たちと同じ構成か)

 

それだけでも、何かいいアドバイスができそうな気がしてきた。

 

「1,2,3,4」

 

巴さんのリズムコールと共に、演奏が始まる。

僕はその音にすべての神経を集中させる。

 

(なるほどロック系か)

 

曲調は非常に僕好みのものだ。

今でもそうだが、僕たちが演奏する局のジャンルは大体がロックかメタルといった感じだ。

イントロでは蘭のギターとモカさんのギターの音色がよくまじりあっている印象を受けた。

そしてギターやベースの音色に負けないように奏でられるドラムのビートも、またいい音だ。

 

(歌声も力強いし、いいな)

 

歌声もそうだが歌詞に強力なメッセージのようなものを感じられる。

そして、その歌詞は蘭達にぴったりと収まり違和感を感じさせない。

所謂、等身大の歌詞ということだ。

そんなことを考えながら聞いていると、曲が終わったようで、ギターの音の心地よい余韻がスタジオ内を包み込む。

 

「どうでしたか?」

「えーっと……その前に一つだけ聞いてもいいかな?」

 

感想を求めるひまりさんに、僕は重要なことを一つ聞く。

それが、この後の感想に大きく影響を及ぼすからだ。

 

「はい、なんですか?」

「このバンドを結成した理由を教えてほしいんだ」

「えっと……」

 

僕が言いきるのと同時に、彼女たちの間でモヤモヤしたような空気が漂い始める。

全員が言いにくそうな表情を浮かべているのだ。

 

「……別に、いいよ」

 

僕のお願いに蘭のほうに意味ありげな視線を向けたひまりさんに、蘭は一言つぶやく。

それを聞いたひまりさんは、僕のほうに視線を戻してすべてを話し始めた。

簡単にまとめれば、中学の時にクラスが別々になった時、一緒にいられるように結成したバンドらしい。

 

「なるほど……ありがとう」

「い、いえ。お礼なんて言われるほどじゃ……」

 

慌てた様子で声を上げるつぐに、僕は首を横に振る。

 

「いや、蘭のことを考えてくれたことに兄としてお礼を言いたいんだ」

「に、兄さん。恥ずかしいことを言わないで」

 

その時は違っても、今は蘭の兄だ。

であるならば、お礼の一つぐらい言って当然だと思ってのお礼だったのだが、蘭は恥ずかしそうに顔を赤くしながら止めてくる。

 

「蘭―、顔が真っ赤だよー」

「う、うるさいっ」

 

モカさんがにやっと笑いながら指摘すると、蘭は少しむっとした表情で声を上げる。

そんな光景に、自然とひまりさんたちは笑みを浮かべていた。

 

「それで~、一樹さんの感想を聞かせてほしいです」

「私も」

「……私も」

「アタシも、本気の感想をお願いします」

 

モカさんに続いてひまりさんや蘭さん巴さんたちが続くが、僕は少し困っていた。

 

(結成理由が理由だから、あまり厳しく言う必要もないけど……でも、それだと巴さんのオーダーに答えられないし)

 

言い方は悪いが、このバンドは皆が一緒にいられる”ツール”としての目的でできた印象が強い。

今は違うかもしれないが、そのようなバンドに全力でアドバイスをしても無意味に思えたし、それをすることによってバンド内の空気まで悪くすることを危惧していた。

 

「えーっと」

 

考え込んだ末に出したのは、あまり深くまで言わずに障りの部分だけに留めることだった。

 

「全体的にはいい演奏だったよ。ただ、各パートで問題点がいくつかあったかな。例えば蘭は、歌っているときにギターのリズムが少し乱れがちになってるし、ベースも少し音が弱い感じだしドラムのほうは時々リズムが走ったり遅れたりすることがあって、キーボードはもう少し他のパートと音をそろえたほうがいいかな」

『なるほど……』

 

本当はもっともっと踏み込んだ改善すべきポイントもあるのだが、それは今後の彼女たちの活動を見て言うことにした。

 

「ドラムやベースなどのリズム隊は、バンドにとっては大事な軸の一つ。だからこの二つの楽器はまず”テンポを一定に合わせること”を目標にすればいいと思う。そこからさらにいろいろと積み上げて行けば上達しやすいと思う」

 

しかし、人にものを教えるというのはなんだかよく言えないが、色々と感じるものがある。

 

「ギターやキーボードはぶっちゃけた話ドラムの音を聞いてそれを基準にしていればリズムがぶれることはない。だからこそドラムっていうのは大事なんだ。もちろんギターとかもなければ曲の色がないから重要なんだけどね」

『……』

 

(って、しまった!)

 

ついつい音楽について語りすぎてしまった。

いつも啓介たちにしているような感じで話していたため、皆が驚きに満ちた表情で固まっていた。

 

「ごめん、ちょっとあれだったね」

「いえいえ! とっても参考になりました。な、ひまり」

「は、はい!」

 

(年下の人にフォローされることがこれほど切ないのを、今知ったよ)

 

必死にフォローしてくる皆に、僕は人知れずダメージを負っていた。

 

「一樹さーん、モカちゃん一つお願いがあるんですが―」

「ものすごく嫌な予感がするんだけど……何?」

 

具体的には、パンを買ってきてほしいと同じぐらいのが。

 

「私達に一樹さんの演奏、聞かせてほしいでーす」

 

(ですよねー)

 

あそこまで語ってしまえば、当然聞きたくなるのも無理はない。

 

「いや、ギター持ってきてないし、それにブランクがあるからあまりうまく弾けないから」

「ギターだったら、あたしのを使えばいいじゃん。それに、兄さんこの間事務――「わかったから、だからそれ以上は言わないで!」――モガっ」

 

事務所に所属することになったことを言いそうになる蘭の口を慌てて抑える。

いずれは知られることになるのだから別に構わないが、だからと言って知ってほしいわけではない。

 

「それじゃ、蘭。ギター借りるよ」

「うん」

 

僕は蘭からギターを受け取ると、ストラップを肩にかける。

 

(なるほど、レスポールか)

 

確か、ロック系の曲に向いていると聞いたような気がする。

このバンドにはぴったりなギターだろう。

僕は一回、ピックで軽く弦を弾く。

軽く弾いただけでも、音は心地のよさを感じさせるのに十分だった。

 

「それじゃ、さっきみんなが弾いていた曲のイントロだけを弾くね」

「あ、楽譜を――「いらないよ」――え?!」

「さっき聞いていて何となくコードは分かるから、大丈夫」

 

集中して聞かなければいけないが、一度聞けばどのコードを弾いているのかが大体把握できる。

 

「いやいや、さすがにそれは―――」

「だったら、聞いてみて。行くよ」

 

苦笑する巴さんにそう言いは鳴った僕は、ギターを弾く。

それはさっき蘭が弾いていたのと、同じ音色を奏でる。

 

「っと、こんな感じだけど、どう?」

 

そして軽くイントロの部分を弾いた僕は、弦を抑えて音を止めると、皆に感想を聞く。

 

「すごいです! まるで何度も練習してきたみたいでした!」

「はい! うまく言葉では言えないですけどすごくいい音色でした!」

「……上手かった」

 

興奮した様子で言ってくるひまりさんと巴さんに、どことなく悔しそうにする蘭とスタジオ内は混とんと化してしまった。

 

「とっても良かったですよー。一樹さんのギターが、カズってました~」

「”カズって”?」

 

モカさんの口から出た得体のしれない単語に首をかしげるしかなかった。

 

(なんとなく日菜さんに似たにおいを感じるよ)

 

つまり、振り回されるということでもある。

 

「あはは、でも本当にすごかったですよ。一樹さん、もしよければ一回―――」

 

そんな中、つぐは苦笑しながら何かを言おうとした瞬間、スタジオのドアがノックと共に開かれた。

 

「練習中ごめんね。美竹君ちょっと来てくれるかな?」

「あ、はい。わかりました。それじゃ、みんな頑張って」

 

僕は月島さんに呼ばれて皆にそうエールを送ると、そのままスタジオを後にするのであった。




次回はサポートミュ-ジシャンの話です。
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