月島さんについていくと、受付の前に数人の男性たちの姿があった。
金髪とかそういうのではなく短めの黒髪という真面目そうな雰囲気を持つ人たちだった。
「お待たせしました、武田さん。この子です」
武田と呼ばれた男性が、こちらのほうに視線を向ける。
「この間、ここのサポートミュージシャンになったんですけど、実力は十分です。美竹君、こちらは武田さんと言って、この後のライブに出演する予定の人よ」
「どうも初めまして。俺の名前は
「美竹一樹です。ギターを担当しています」
何が何だか流れがさっぱりわからないが、とりあえず武田さんに自己紹介をする。
「実はな、俺のバンドのギターを担当している奴が、入院しちまってな。あー、事故にあって足を骨折しただけだから命に別状はねえんだが、今日のライブには出演するのは不可能。そこで、ここのサポートミュージシャンに頼んで出演しようと思ったんだが」
「ギター担当で、今日は入れるのが美竹君だけなの。もし引き受けてくれるなら、このままリハーサルをしてもらうことになるけど、どうする?」
おおよその事情は把握できた。
まさにサポートミュージシャンがバンドに加わる典型的な理由のパターンだ。
(自分の実力を知るいい機会だし、それに)
困っている人を放っておくのもなんだか申し訳ないような気がする。
この依頼を成功させれば等級を上げることだってできるのだから、一石二鳥だ。
「私でよければ、喜んでその依頼お受けいたします」
「そうか! 本来は等級の高い人にやってもらいたいんだが……この際だ、等級なんてどうでもいい。引き受けてくれたことを感謝する」
男性の反応に、なんだか微妙だなと思ってしまう。
別にお礼を言われるために、引き受けたわけではないのだからかまわないが、だからと言ってはっきりと言われると多少はこっちだっていい気がしない。
「それでは、こちらのほうに必要事項を書いて提出してください。美竹君も準備を進めて」
「わかりました」
月島さんの指示に従い、従業員用のロッカーにしまっていた自分のギターを取りに向かう時
「あまり気にしたらだめよ。言いたい人には言わせておけばいいんだから」
と、すれ違いざまに月島さんに言われた言葉は、僕の心に深く刻まれる。
すべての準備を終えて、僕たちはリハーサルのためにスタジオに入る。
「これが俺たちの演奏する曲の譜面だ」
「拝見します」
武田さんから演奏するであろう楽曲の譜面を受け取った僕は、それに目を通していく。
(今回はオリ曲のみのブッキングイベントだったはずだから、オリジナルか)
ライブハウスで行われるライブには大きく分けて二つの種類がある。
ライブハウスがイベントを企画して実施する”ブッキングイベント”
もう一つが、ライブハウスの人以外の人が主催者となって、ライブハウスを貸し切り状態にさせる”ホールレンタル”
今回は前者のタイプだ。
そのため月島さんから一通り、このイベントの趣旨や彼らのグループの情報を聴いていた。
今回のイベントはバンドの種類を問わずオーディションに合格したグループが出演できるらしい。
条件もオリジナル楽曲のみ演奏するにすることだけなので、それほど敷居は高くない。
そんなイベントに出演を決めたバンドの一つが今僕に依頼した武田さん率いる『ライトニング』というバンドだ。
このバンドは男性のみで構成されるバンドらしい。
よく弾く曲調はロック系というよりはメタル系のほうなので、十分に僕が対応できるジャンルともいえる。
もっとも、ポップ系なども最近は挑戦したいと思っているので、そっち系のジャンルでも構わないのだが。
(サポートミュージシャンとしての初めての依頼……今後の命運を握っているといっても過言ではないだろう)
そんなことを考えながら、譜面を頭に叩き込む。
「よし、それじゃ一回通しで演奏するか」
『おう(はい)!』
リーダーである武田さんの号令に従い、僕たちは一度通しで演奏をする。
「1,2,3!」
ドラムの人のリズムコールと共に始まった演奏に、僕は全神経を集中させる。
イントロからBメロまでは緩やかな曲調で、サビの部分になると一気に激しい曲調に変貌する。
(こういうのもいいかも)
演奏をしながら、僕は今後の曲作りの参考にする。
そして間奏ではギターである僕の速弾きとなり、それを抜ければあとはアウトロの部分に入り曲は終わった。
そしてぶっ続けで二曲目となるが、こっちはメタル調であり、全体的に難易度が高い。
何せBPMが200を超えているのだ。
速弾きでもないところが速弾きクラスに化けたりしてもおかしくはない。
だが、僕の今のレベルであれば問題ない。
「よし、いい感じだ」
そんな二曲目を弾き終えたところで、今回演奏する曲すべてを弾いたのか武田さんが感想を口にする。
(確かに良かったけど)
僕にはどこかちぐはぐな音に感じられた。
演奏自体に問題はない。
ただ、皆とやる時のような安心感や安定感はないけれど、それでも十分にうまい領域に入る。
だが、それでもしっくりとこない。
その原因が僕にあることもわかっていた。
(一番浮いてるのは僕だもんね)
今まで組んだことがないから……というのは言い訳にはならない。
今後サポートミュージシャンとして成長するには、この問題を解決するしかない。
(もしかして……)
僕はその時、ある考えが頭の中でひらめく。
それは確証もないこと。
(でも、やってみる価値はあるかも)
「あの、すみません」
「どうした?」
思い立ったがなんとやら、僕は武田さんに声をかける。
「もう一回リハやってもいいですか?」
「……ああ、構わない。お前らもいいよな?」
全員がOKを出したことで、もう一度リハをすることになった。
(これでだめなら万事休す)
そして始まった演奏で、僕はその方法を試してみる。
(うん、いい感じ)
その結果、先ほどよりも音の一体感が出たようにも感じられた。
まるで、最初からずっと一緒に演奏をしていたかのような……さすがに啓介たちの時ほどではないけど。
「……なんてことだ」
「いつもの演奏と全く同じっすよ」
それは、武田さんたちの反応を見てればすぐにわかる。
武田さんたちは今の演奏の音が、変わったことに驚いている様子だった。
(なるほど、そういうことか)
その様子を見ながら僕は、サポートミュージシャンとして上達していくコツのようなものが、わかったような気がした。
演奏がうまければいいというわけじゃない。
それにプラスして、バンド毎によって変わってくる独特の音色に、どれだけ近づかせるかがカギなのだ。
(まさかここでも”演技”が役に立つなんて)
演奏中は自分という存在をさらけ出すようなものだ。
それなのに、演技をして違う自分をさらけ出すのは、どうなのかと思わなくもないが、これはこれでステップアップに有効かなと割り切ることにした。
「美竹、この調子で本番頼むぞ」
武田さんの激励に僕は、
「はい。お任せください」
愛想のいい笑みを浮かべて、応じるのであった。
本章もそろそろ終盤です。