もうタグに毎日投稿とでもつけたほうがいいのかと思いますが、絶対にどこかで途切れそうなのでやめることに(苦笑)
ということで、第6話始まります。
セミの鳴き声の響くこの季節。
もう少しで学生たちの天国でもある”夏休み”が訪れようとしている。
「えっとここでこうなるからして、こうなって……」
僕たちは5人そろって僕の家でテスト勉強を行っていた。
その理由を話すのは、今から少し前に遡る必要がある。
「おっす、来たぜ」
「待ってたよ」
今から数時間前のこと、田中君たちはいつもの練習のために僕の家に来ていた。
「ごめんね、おばさんたちいないのに押しかけて」
「気にしないで」
いつまでも暑いところに立たせているのも申し訳ないので、とりあえず全員に上がってもらう。
「それで、新曲のほうができたって聞いたが、どんな感じになったんだ」
「はい、どうぞ」
リビングに入ったところで、僕は田中君に少し前に完成した新曲のデータが入っている携帯音楽プレーヤーを手渡す。
「ほぉ。なかなかじゃねえか」
「俺も俺も……おー、かっこいい」
「本当だ」
イヤホンをさして曲を聴く田中君に啓介と森本さんはそれぞれ感想を口にする。
どうやら反応はいいようだ。
「楽曲名は……『Devil Went Down to Georgia』か」
それは、前のフェスで披露した曲より難易度を上げつつ、僕と森本さんとでギターを交互に弾き合う要素を取り入れたものだった。
「こりゃまた練習をしないとな」
「そうだね。一応8月の中旬にちょうどいいライブのオファーがあったからそこを目指したい」
まだ返事は保留だが、今月の終わりごろになれば返事が出せるだろう。
先方も来月の初めまでは待ってくれると言ってくれてるし。
「んじゃ、今日は軽く流しで練習しつつ、テストが終わったら本格的に――「あ゛……」――おい啓介、今のはどういう意味だ?」
田中君が今後の予定をまとめ上げた時の”テスト”という単語に、啓介が声を漏らす。
「あ、いや~」
「てめぇ、まさかとは思うがテストのことを忘れてたなんて言わねえよな?」
「あの……」
「しかも、勉強すらあしてないとかも言わねえよな? あん?」
どんどん真っ青になっていく啓介の表情が言葉よりも雄弁に答えを物語っていた。
すると、田中君は肩を震わせる。
(あ、これはいつものあれだ)
そう思った瞬間、僕たちは示し合わせたように耳をふさいだ。
「さっさと勉強道具を持ってこいっ!!」
「はぃぃ! ただいまぁ!!」
耳をふさいでいてもはっきりと聞こえる二人の声に、僕たちは顔を見合わせながら苦笑するのであった。
それから数十分後、勉強道具を一式持ってきた啓介とともに、僕たちは試験勉強をすることになり今に至る。
時間を見ればすでに勉強を始めて2時間が経とうとしていた。
「はい、お茶」
「悪いな」
「サンキュー」
「いただくよ」
「いただきます」
とりあえず、少し休憩をと思い、全員によく冷えた麦茶が入ったコップを手渡す。
田中君に啓介、森本さんに中井さんたちはそれを受け取ると、口をつける。
「にしても、まさか俺たちがバンドをやるなんてな」
「そうね。今にしても不思議ね」
僕の意図を読み取ったのか、田中君はぽつりとつぶやく。
「俺たちってそれぞれ楽器をやってたもんな」
「確かに。僕がギター、中井さんはベース、啓介はピアノ、田中君はドラムに、森本さんは歌とギターだったっけ」
僕たちは物心がついた時からずっと一緒だった。
そして、全員が楽器をすでに弾ける状態になっていた。
きっと忘れているだけで、いろいろと大変な練習をしてきているのかもしれない。
「バンドを組みたいって言いだしたのは一樹だったよな」
「うん。あの時に見たライブのビデオを見てね」
この話も皆には何度も話している内容だ。
それは僕たちが小学生の時のことだ。
「これは何だろう?」
たまたまリビングのテーブルの上に置いてあった一本のビデオテープを、興味本位で再生した僕が見たのは、あるバンドのライブ映像だった。
そのバンドの名前は、『PROMINENCE』
数十年前のバンドで一音のみで聴いた者の心を魅了する演奏をすることで有名なバンドだった。
何よりも有名なのが、全員がドラムやキーボードなどすべての楽器を引くことができるオールラウンダータイプであること。
素性は一切わからず、ある日突然解散したそのバンドは今でも”伝説のバンド”として知る人ぞ知る存在なのだ。
でも、当時そのようなことを知らない僕は、その映像を見た瞬間、言葉にはできない衝撃を感じた。
(すごいすごいっ)
出だしの一音で、僕はそのバンドの音しか聞こえなくなった。
まるで、真っ暗な世界の中で、目の前で彼らが演奏をしているかのように、彼らの音に包まれた。
気が付けばバンドの演奏は終わっており、違うバンドの演奏が流れている。
「僕も……あんな演奏をしたい」
「ならばすればいいじゃないか」
いつの間に来ていたのか、父さんは僕の目線に合わせると
「よし。それじゃ、明日彼らに聞いていい返事をもらえたらバンドを結成しようか」
「うん!」
僕の返事に、父さんは満足そうに頷くと
「名前は……彼らを超えることができるように『HYPER-PROMINENCE』でどうだ」
と、提案してきた。
翌日、遊びに来た啓介たちにこの話をしたところ、二つ返事で賛成された。
これが、僕たちのバンドが結成するきっかけだった。
「あと少しで、一樹の目標に行けるんだ。啓介、赤点なんか取って足を引っ張るんじゃねえぞ」
「う゛……プレッシャーをかけないでくれ」
「アハハ……」
ちゃっかりとテストの話につなげるあたり、田中君も鬼だなと僕は苦笑するしかなかった。
「俺も一樹のようになりたいなぁ」
「それは無理だよ」
「ええ、無理だね」
「無理だな」
啓介のボヤキに一斉に否定される。
「みんなで否定しなくてもわかってるよっ! 畜生!」
やけを起こしたように突っ込みながらテスト勉強を再開させる啓介は、どこか燃え上がっていた。
「一樹って確か学年一位を三年間キープしてたよな」
「うん。ついでに小学校でもトップだったと思う」
全教科で平均98点以上取れる人がいればトップの座から落ちることになるが、そんな人なかなかいないだろう。
「百点満点をたくさん取ったら、カンニングを疑われて再テストになったりするからあんまりいいことでもないんだけど」
あの時の先生の目はまるで泥棒を見るような鋭い目つきだった。
まあ、そんなことを何度も繰り返していたら、最後のほうは天才って持ち上げるようになったけど。
「啓介、俺頑張るからな。それが、俺たちのバンドを伝説のバンドにする目的に必要だもんな」
「うん、そうだね。その通りだ」
啓介が赤点でも取ってしまえば、補習があるため、8月のライブの参加は絶望的になる。
だからこそ、こうしてせっついているわけなんだけど。
「だから、頼むから俺を無視して話をしてないで、勉強を教えてくれ~」
「はいはい。教えるから騒がない」
今にも泣きだしそうに懇願する啓介の様子に苦笑しながら、僕は啓介のテスト勉強に付き合う。
(伝説、か)
そんな中、僕は内心で考えていた。
(僕がやりたいことって、本当に……これなのかな)
それはかすかな疑問だ。
だが、新曲を作っている時から違和感があった。
この曲は自分たちの楽曲のはずなのに、自分たちのものではない。
そんな矛盾する違和感を。
「一樹?」
「え、なに?」
考え込みすぎていたのか、啓介は不思議そうにこちらを見ていた。
「いや、この問題を教えてほしいんだけど」
「ああ。そこはだな―――」
(ま、いっか)
啓介に聞かれた箇所を教えながら、僕はその考え自体を止めた。
このまま走り続ければ、この違和感の正体が見えると信じて。
結局この日はテスト勉強でつぶれることになったが、それもいい夏の思い出である。
今回出てきた楽曲名は実際に実在する曲ですが、作曲者(アーティスト)は架空の物です。
正しくは下記の通りとなります。
『Devil Went Down to Georgia』ゲーム”Guitar Hero 3”