BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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第60話 お披露目ライブ

ついに、この日を迎えた。

 

「うー。すごく緊張してくるな」

「少しは落ち着け。副リーダーだろうが」

 

先ほどから、せわしなく部屋を歩き回る啓介に田中君が窘める。

啓介が落ち着かない理由もわからなくもない。

今僕たちがいるのは、ライブ会場の楽屋だ。

そう、今日が僕のデビューの日なのだ。

 

「そういえば、一樹は眼鏡はかけないのか?」

「うん。Moonlight Gloryとして活動する時はメガネっは外しておくつもり」

 

いつもつけている眼鏡はあくまでも伊達だ。

あえてつけておく必要がないが、いつもの自分とは違うという感じがするので、ある種のスイッチのような役割になりつつあった。

 

「お~、もう有名人になった時のことを考えているのか。流石、作戦参謀。抜かりはないなー」

 

(変装用じゃなくて気持ちの切り替えのためなんだけど……まあ、いっか)

 

田中君の疑問に答えると、感心した様子で啓介が口を開いた。

説明するのも面倒なので、そのまま放置することにした。

 

「すみません、入ってもいいですか?」

「は、はい!」

 

ドアをノックして声をかけられた啓介は、声を上ずらせながら返事をすると、ドアが開きマネージャーである相原さんが姿を見せる。

 

「まずは、デビューおめでとうございますと言ったほうがいいですね。今日のステージについていくつかお伝え致します」

 

ドアを閉めながら、相原さんはそう切り出すと、連絡事項を伝え始める。

 

「今回のライブはジョイントライブです。来場者数は約200人ほどです。持ち時間の関係で、演奏できるのは一曲のみとなります。演奏終了後は現地解散になります」

「わかりました」

 

ジョイントライブという形式上、僕たちの音楽を聴きたいから来るという人はあまりいないだろう。

スタッフの人たちがオフィシャルサイトを公開したりなど尽力してくれたらしいが、それを期待するのは危険すぎる。

だからこそ、僕たちの今日のライブの成否のカギは、他のバンドの演奏を聴くために来た観客たちを、いかにこちらの演奏で惹きこむのかだ。

 

「では、衣装のほうに着替えて準備をお願いします。順番になりましたら、またお声がけしますので」

 

それだけを告げて、相原さんは僕たちに一礼すると楽屋を後にする。

 

「衣装って、どんなんだろう?」

「わかんない。でも、曲のイメージに合ったものを用意するって言ってたから……たぶん」

 

僕は、あえて見ないようにしていたクローゼットのほうに視線を向けると、手前まで歩み寄る。

 

「それじゃ、行くぞ」

 

全員で取っ手をつかんだ僕たちはたがいに目配せをすると、

 

『せーの!』

 

同時にクローゼットのドアを開いた。

中に入っていた三着の衣装を手に取る。

 

「黒のタキシード……」

 

なんとなく僕たちにぴったりな衣装だった。

 

「後は、これを首にかければいいかな」

 

そういって僕が手渡したのは、少し遠い場所にある、ショッピングモールの雑貨店で購入したアクセサリーだ。

形状はバンド名を盛り込んだ三日月だ。

満月にしたかったが、それだとただの玉になるので、三日月にしている。

男子は金色の首飾り、女子は銀色の髪飾りにしてある。

 

「おぉー、なんかカッコよくね?」

「「………」」

 

自分のステージ衣装を鏡で見ながら自画自賛する啓介に、僕たちは言葉を失う。

 

「二人も、そう思うだろ?」

 

啓介にそう聞かれた僕たちが答える言葉はある意味決まっていた。

 

「「……口を開かなければ」」

「なんでだよ! チクショー!」

 

啓介の雄たけびにも近いツッコミの声が楽屋に響き渡る。

 

(うん。いつも通りだ)

 

啓介の表情には、緊張の色など微塵もない。

最高のコンディションと言っても過言ではない。

 

「皆さん、そろそろ移動をお願いします」

「わかりました! みんな、行こうっ」

 

そろそろ僕たちの出番になったのか、ドアをノックしながら相原さんが声をかけるので、それに返事をしながら啓介は、僕たちにそう促した。

 

「おう!」

「わかった」

 

そして、僕たちは楽屋を後にして、ステージに向かう。

ステージの袖には、すでに中井さんたちの姿があった。

 

「やあ、一樹たちも来たんだね」

「衣装……どう、かな?」

 

こちらを見つけるや否や、軽い感じに声をかけてくる森本さんと、少し恥ずかしげな中井さんという何とも対照的な感じの二人の姿があった。

中井さんたちの衣装は僕たちと同じタキシードだが、ズボンではなくスカートであることと、ところどころに黄色の線が入っているところが僕たちとは違っていた。

 

「うん、よく似合ってるよ」

 

二人が見つけている髪飾りもまたいい感じになっていた。

 

「おう。自信持てって」

「ありがとう、二人とも」

 

嬉しそうに微笑みながらお礼を言う中井さんに、僕たちは無言で頷く。

 

「それじゃ、初ライブ。頑張ろうぜ!」

『おー!』

 

田中君の掛け声に、僕たちは声をそろえて、気合を入れた。

 

『それでは、続いてのバンドは『Moonlight Glory』の皆さんの登場です!』

 

その時、司会の人の声が聞こえた。

 

(絶対に成功させるんだ!)

 

僕は自分にそう強く言いながら、会場に響き渡る拍手の音の中、ステージに出るのであった。

 

 

★ ★ ★ ★

 

 

その日、ライブに参加したのは6つのバンド。

すでに4つのバンドの演奏を終えていて残すのは2つのバンドだった。

いずれも演奏のレベルが高く、観客たちを盛り上げさせていた。

 

「次って、あのバンドじゃない?」

「『Moonlight Glory』でしょ! どんな演奏するんだろ」

 

中でも、注目されていたのは一樹たちのバンドである”Moonlight Glory”だ。

一樹の予想に反して、事務所のスタッフの行っていた公式ホームページの開設などは効力を十分に発揮していた。

尤も理由は『現役高校生たちが結成した実力派バンド、爆誕』という一文によるものだったが。

 

『それでは、続いてのバンドは『Moonlight Glory』の皆さんの登場です!』

 

視界のその言葉に、会場中に拍手の音が響き渡る。

それと共に、静かにステージ上がった一樹たちは、それぞれの楽器の置かれた場所まで向かう。

 

『皆さんこんにちは! 私たちは『Moonlight Glory』です! メンバーを紹介します!』

 

MCを始める明美をよそに、それぞれは演奏準備を進めていた。

 

『まずは、ベース。中井裕美っ』

 

明美の紹介を合図に、裕美は軽くベースの弦を弾くのと同時に重低音の音色が奏でられる。

 

「続いて、ドラム! 田中聡志」

 

聡が刻むドラムのビートに、会場にいた誰もが”おぉ”と歓声を上げる。

スティック回しまでしながら奏でられた音色は圧巻の一言に尽きるのだ。

 

「次に、キーボード! 佐久間啓介!」

 

紹介された啓介は、軽快にキーボードを弾いていく。

 

「そして、ギター! 美竹一樹!」

 

その次の瞬間、会場内に雷が落ちた。

 

『おおおっ!』

 

一樹が演奏したのは、複雑なコードを用いた速弾きだった。

だが、その音色は聞く者すべてを圧倒させたのだ。

そしてこの私が! ギターボーカルの森本明美!

対する明美は軽く音色を奏でるだけに留める。

 

「それじゃ、盛り上がってきたところで一曲聴いてください! 『vampire』!」

「1,2,3,4!」

 

聡志のリズムコールとともに、啓介のキーボードの音色が始まる。

次の瞬間、一樹がギターの弦をスライドさせ音が勢いよく爆発する。

一樹の素早いストロークに重低音を聞かせるベースと的確なリズムを奏でる力強いドラムが、曲の勢いを増させていく。

 

「かっこいい!」

「あのギター、今のところ余裕に弾いてたぞっ。しかもボーカルもいいぞ!」

 

会場内は、彼らの演奏に飲み込まれていた。

妖艶な明美のボーカルもまた、力強くも怪しげな感じの曲調を醸し出させる。

所々で合いの手を打つように、明美もギターの音色を奏でる。

そしてサビに入った瞬間、再び音は盛り上がりを見せる。

間奏に入り2番に入っていく。

やがて、間奏に入る。

 

「おい、ボーカルがギターを構えたぞ」

「何をするんだろう?」

 

観客たちは、彼らの一挙手一投足に注目していた。

その瞬間、明美は速弾きを始めたのだ。

そこからかけて行くように明美と一樹の二人のギターの音色が混ざり合っていく。

感想が終わると、キーボードとボーカル以外の音が消え、不気味な静寂に包まれる中、ドラムとベースの音が加わり、そしてギターの音色が加わったところで再び錆になる。

そして最後の部分は明美の速弾きと、一樹の子素早いストロークによって曲は終焉を迎える。

しばしの静寂の後、一つ、二つと拍手の音がし始め、それは会場内に伝わっていった。

 

『どうも、ありがとー!』

 

明美のその言葉に呼応するように、拍手の音はさらに勢いを増す。

その拍手の音とともに、一樹たちはステージを下りるのであった。

 

 

この日、『Moonlight Glory』のライブは一瞬にして広まっていき、大成功を収めることになるのであった。




今回出てきた楽曲名は実際に実在する曲ですが、作曲者(アーティスト)は架空の物です。
正しくは下記の通りとなります。

『vampire』 アーティスト:電気式華憐音楽集団
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