「結局、夜になっちゃったか」
「それでも全然片付かないもんねー」
日通り話し合いとファンレターの処理を終えたころには、すでに6時を回っていた。
念のためにと、義父さんには遅れることは連絡済みだ。
「私たちはまだいいとしても、一樹のは3箱ぐらいあるわよね。同情するわ」
「……僕は喜ぶべき?」
僕の問いかけに、”さあ?”と相槌を打つ森本さんに、僕は心の中で一つため息を吐く。
ライブを来ないファンが増えることで、ファンレターも届くようになった。
その中には各メンバーに宛てられたものもある。
それが僕のだけやたらと多い。
しかも文章も、”演奏がいいです”といった内容の物ばかりだし。
(届いたファンレターは必ず全部返事を書くというのが僕たちの流儀とはいえ、さすがに多すぎ)
一人一人のファンを大事にするという理由で決めた方針が、このような形で影響を与えていた。
「いいじゃないか、一樹なんて。俺なんて段ボールの半分なんだぞ」
そんな僕に、恨めしそうな視線を送る啓介の言葉には嫉妬のようなものが混じっていた。
(まあ、理由は分からなくもないけどね)
ファンレター=人気という図式が成り立つのであれば、このバンド内で最も人気があるのが僕ということになる。
とはいえ
「勘違いしないで。僕たちは5人そろってMoonlight Gloryだよ。美竹一樹だけでMoonlight Gloryにはならない。啓介だって田中君だっていなくてもいいメンバーはここにはいない」
「一樹……そうだな! 俺たちはバンド、だもんな」
啓介から嫉妬の色はなくなっていた。
(啓介が人気になれるようにするための作戦……考えておこうかな)
いつもの雰囲気に戻った啓介をしり目に、僕は心の中でそう考えていた時だった。
「お疲れ様です」
「――れ様です。―――聖さん」
「ん?」
僕の後ろのほうから、女性の者と思われる声と、男性のものと思われる声が聞こえた。
女性の声にどこか聞き覚えがあるような気がした僕は、後ろを振り返る。
T字路になっている通路を横切る形で歩いていく人物の姿が一瞬ではあるが見えた。
(まさか……な)
本当に一瞬で、僕がはっきりと見たのは横切った人物の髪の毛くらいだ。
それでも、僕の知る人物の姿を彷彿とさせるのに十分だった。
「どうかしたの?」
「あ、いや。何でもない」
(芸能人だって言ったけど、まさかいるわけないよね)
きっと僕の考えすぎだろう。
テレビに出演が決まったので、少し浮かれているんだと結論付け、僕は立ち止まっている僕を不思議そうに見ている中井さんに言うと、再び歩き出すのであった。
「一樹、25日の予定はどうだ?」
「25日……大丈夫だよ。何も予定はないから」
ちょうどクリスマスの日であるその日には、何も予定は入れていないはずだ。
「ならよかった。その日はクリスマスパーティーでも開こうと思ってね、ちゃんと門限に帰るように」
「わかった」
義父さんに返事をしながら、ふと考えたのが”家元の人がクリスマスを祝ってもいいのかな?”ということだったが、細かく考えすぎるのもあれだと思い考えることをやめることにした。
「蘭も、わかったな」
「……うん」
最近蘭と義父さんの関係がぎくしゃくしている。
夏にも感じていたが、今はそれが顕著だ。
(来年の春、大丈夫かな)
来年になれば蘭もいよいよ高校生。
高校生になったら、義父さんは僕と同じように華道の勉強をさせるはずだ。
その時のことを考えると、不安でしょうがない。
(兄として、何ができるんだろう?)
例えば、僕が蘭の分家業のほうに力を入れるというのも手だとは思ったが、正統な後継者である蘭が華道の後継者の立場から解放される可能性が少ないため、すぐに却下となった。
(結局のところ、何もできないんだよね)
何を言っても逆効果になりかねないこの状況で、僕にできるのはただ見守ることでしかなかった。
(いっそのこと、思いっきりぶつかってくれればいいのに)
そうすれば、僕も間に入って仲裁がしやすくなるし。
悪魔のささやきのような気もするが、僕の中で蘭のことはいったん放置(もちろんちゃんと見守りはする)という結論に至った。
だが、今日の夕飯のおかずである肉じゃがの味は、全く分からなかった。
「……よし。これでいいかな」
夕食とお風呂を終えて自室に入った僕は、音楽番組の収録の際に演奏する楽曲のスコアを仕上げていた。
各楽器ごとにうまく採譜できたので、明日から練習を始められるだろう。
(収録まであと数日。突貫工事にもなるけど、ちゃんと仕上げよう)
今になって気づいたが、一回通しで演奏しそのあともう一度演奏をし直せば、大体は人に聞かせてもいいものに完成している。
だが、”大体”なので、完ぺきではない。
人に聞かせるのであれば”最高で完ぺき”な演奏をしなければいけない。
だからこそ、僕たちは何度も練習をするのかもしれない。
そんな時、スマホにRAINのメッセージが届いたことを告げる音が鳴り響く。
「あれ? 日菜さんからだ」
相手は日菜さんだった。
とりあえず、僕は文面を読んでいることにした。
『いきなりごめんね? 実は24日にクリスマスパーティーをやることになってね、お父さんたちが一君が良ければ一緒にやらないかって言ってるんだけど?』
「……クリスマスパーティー?」
どうやら氷川家で開かれるクリスマスパーティーへの誘いだったようだ。
「いや、他人なのに参加したらまずくない? 氷川家のパーティーに、他人の僕が参加なんてしたら」
『なんで? とってもるんっ♪てくるのに』
断りを入れようとすると日菜さんから聞き返されてしまった。
『あたしもおねーちゃんも賛成だって』
「………それじゃ、お言葉に甘えて」
日菜さんの一言がトドメとなり、僕は氷川家のクリスマスパーティーに参加することになった。
『やったー! とってもるんっ♪てくるね』
「はしゃがないで」
日菜さんがどれほどうれしいのかは、文面を見ていれば何となく想像がつく。
「それで当時は何時にどこに行けばいいの?」
僕は話がそれる前に、日菜さんに集合場所と時間を聞く。
そうしないと、集合場所などを聞くことなく当日を迎える可能性があるからだ。
普通はないんだけど、日菜さんの場合はそれがありかねないのだ。
『えっとね、あたしの家に18時ごろに来てほしいって』
返信に少し時間がかかったと思えば、どうやらおじさんたちに確認していたようだ。
「わかった。当日を楽しみにしてるよ」
『うん♪ 楽しみにしてて』
とりあえず、それで24日の件の話は終わりとなった。
そのあと、日菜さんと他愛のない話(星や部活など)をしつつ、もう寝るという日菜さんのメッセージでお開きとなった。
(僕も寝るか)
いつも寝る時間より少し遅いくらいの時間に、僕もまた眠りに着くのであった。
(そういえば、24日って番組の収録日じゃん)
そんなことを思い出しながら。
プロフィールの更新はもう少々お待ちいただけると幸いです。
そろそろ毎日更新ができなくなる日が来そうで怖い今日この頃です。