今回のメインはあの人です。
それでは、どうぞ!
氷川家でのクリスマスパーティーの翌日。
僕は自室であることを調べていた。
「アロマオイルって、いろいろな使い方があるのか」
それは先日、日菜さんからもらったアロマオイルの使い方だ。
せっかく貰ったんだ、使わないで飾っておくのも気が引けるので、試しに使おうと思いその方法を調べていたのだ。
(というより、日菜さんのことだから絶対聞いてくる)
予感ではなく確信しているあたり、何とも言えないが。
「アロマオイルを楽しむための道具とかもあるのか」
コットンやらデュザーやら横文字のものが目につくが、そのようなものを買うのは少し抵抗があった。
ましてや、お風呂の浴槽に入れるのは特に。
家族が使うのにそんなことをしたらお説教間違いなしだ。
「あ、ティッシュとかに垂らすだけでもいいのか」
一番下のほうではあるが、簡単な使い方が乗っていたので、僕はそれを実行に移してみることにした。
ティッシュを何枚かとり、それを棚に敷いていく。
そしてそこに日菜さんのオリジナルアロマオイルを2滴垂らした。
「これで良しと」
それからしばらく様子を見ることにした。
「あ、いいにおい」
我ながら、もっと言う言葉がないのかと思うが、本当にそう感じたのだからしょうがないだろう。
おフランスとか絶対に僕には似合わない単語だし。
「えっと、ローズマリーは集中力を高める効果がある……本当かな?」
もし本当に香りだけで、そのような効果が出るのであれば、世界から集中力がないという人はいなくなるはずだが。
半信半疑ではあるが、そのまま置いておくことにした。
「なんだろう……」
それからしばらくの時間が経過したときだった。
立ち上がろうとした僕は、体がふらついていた。
(ちょっと集中しすぎたかな)
そう思いながらも、状況が状況なだけに僕はまさかと思いアロマオイルについてもう一度調べなおす。
「ん? 注意点?」
それは僕が見落としていた項目だった。
そして、そこには必ず一定時間ごとに換気をするようにと記されていた。
(体がふらついた原因はこれか)
どうやら、このアロマオイルというのは注意事項を守らないと危険なことになる場合があるようだ。
僕は急いで窓を全開にして喚起することにした。
それと同時に、僕自身も部屋の外に出ることにした。
「なんでこっちのほうの空気が心地よく感じるんだろう」
部屋から出たときの空気に、僕は思わずそうぼやく。
(とりあえず、しばらくはここにいるか)
そう考えていた時だった。
「うるさいな! もう父さんと話すことないからっ」
(ん?)
突然リビングのほうから聞こえてきた蘭の怒鳴り声に、僕は何事だと想いリビングのほうに向かう。
「待ちなさい、蘭!」
義父さんの呼び止める声とともに、玄関のドアが閉まる音が聞こえる。
おそらく蘭が家を飛び出したのだろう。
「一樹」
「……義母さん」
玄関の前まで移動してきた僕に、悲しそうな表情で声をかけてくる義母さんの言いたいことが、僕にはわかったような気がした。
「ちょっと、蘭を探してくる」
「頼むわね」
義母さんの言いたいことをくみ取った僕に、母さんはうれしそうでもあり、申し訳なさげな表情でお礼を言ってくるので、
「僕は、蘭の兄だから」
と、僕は返すと部屋にスマホを取りに行ってそのまま家を後にした。
「探すとはいっても、どこを探せばいいんだ」
外に出たはいいものの、僕は早速壁にぶち当たっていた。
僕は蘭が行きそうな場所に心当たりがなかったのだ。
(電話でもかけてみるか)
とりあえず、電話でもすればいいかと思い携帯を取り出すと、蘭の番号に電話をかける。
しばらく鳴らしても出る様子もなく、やがて留守番電話になってしまった。
「それじゃ、まずはあそこに行くか」
僕が知る中で唯一の手掛かりである『羽沢珈琲店』に向かうことにした。
「あ、一樹さん。いらっしゃいませー」
喫茶店に入ると、今日もお店の鉄ぢをしているつぐが笑顔で出迎えてくれた。
「いきなりで悪いんだけど、蘭こっちに来た?」
「え? 蘭ちゃんは来てませんけど、どうかしたんですか?」
「ちょっと家を飛び出していったから探してるんだけど。蘭が行きそうな場所に心当たりとかないかな?」
心配そうに聞いてくるつぐに、僕は義父さんとの喧嘩の部分をぼかした。
「……一樹さん、もしよければみんなに電話して一緒に探すのを手伝いますよ? 多分手分けしたほうがすぐに見つかると思いますし」
「そうだな……」
つぐの提案はとてもありがたいものだ。
僕一人で探すのも限界がある。
ここは人海戦術でいったほうが懸命だ。
(でも、それでいいのか?)
そんな疑問が脳裏をよぎる。
これは家族の問題だ。
それなのに、何もできずに他人に頼りっぱなしというのが兄としてのあるべき姿なのかと思ってしまった。
「いや、いいよ。心当たりのある場所だけで十分」
だからこそ、僕はそう答える。
「でも……」
「ここで人を頼ったら、兄失格になりそうだしね」
食い下がるつぐに、僕は苦笑しながら言った。
「……わかりました。でしたら―――」
しばらくの沈黙ののちに、つぐは笑みを浮かべながら僕に蘭が行きそうな場所を教えてくれた。
「頑張ってくださいね! 一樹さん」
「ありがとう!」
ちょうどお客さんの波が途切れた時間帯だったのが幸いし、僕はスムーズに情報を手にすることができた。
僕は、つぐの声援を受けながら欄を探すべく走り出すのであった。
「もう夕方か」
時刻は夕方。
あれからいろいろな場所を探してみたものの蘭の姿はどこにもなかった。
家に電話をしてみたが、蘭はまだ帰ってきていないらしい。
「……自分だったら、こういう時、どこに行くだろう?」
そこで、僕はやみくもに探すのではなく自分に当てはめて考えてみることにした。
そのほうがまだましなようにも思えたからだ。
とはいえ、こういった状況になったことなど一度もないので、まったく考えが浮かばないがもし自分が逃げ込むとすれば、行きそうな場所としてあるところが思い浮かんだ。
僕はすぐにその場所に向かって走り出す。
そこは僕たちの家から一番近い場所にある公園だった。
去年の夏の時に、一度自分も公園に逃げ込んでいたので、もしかしたらそこにいるのではないかと思ったのだ。
そして、その考えは的中することになる。
(いた)
公園のブランコに腰かけている赤いメッシュの入った黒髪は、見間違うことなく蘭だ。
「蘭」
僕ははやる気持ちを抑えて、蘭の前まで歩み寄ると、静かに呼びかけた。
「……兄さん」
僕の呼びかけに返事をする蘭の声には、どこか元気がなかった。
「家に帰ろう。もう寒くなるよ」
僕は静かにそう呼びかける。
だが、蘭は首を横に振るだけだった。
「私のことなんかほっといてよ」
「妹のことを、放っておけるわけないでしょ」
明らかな拒絶の言葉にも、僕はひるまない。
ここで引いてしまえば兄以前に男としても失格だ。
僕の言葉を受けて、蘭はうつむいていた顔を僕のほうにむける。
その表情はまるで迷子の子供のような印象を感じた。
「妹妹って! 兄さんは養子だから、関係ないでしょっ!」
自分の発言に、蘭はしまったといわんばかりに目を見開かせると、こちらから視線をそらしてしまう。
(ずいぶん痛いとこをついてくる)
いつもならさすがにへこんでいそうな言葉でも、僕は全く悲しみなどは感じなかった。
それよりも、蘭が僕に思いをぶつけてきてくれたことが嬉しく思ってさえいた。
「そうだね。確かに養子の僕には関係ないかもしれない」
養子というのは紛れもない事実。
そこは自分でもちゃんと受け入れているし理解しているつもりだ。
「ごめん」
「謝ることなんてないよ。事実だから。でも、これだけは言わせて」
僕はある言葉を蘭に告げる。
「僕は君がどんなに嫌がっても、兄だって言い続ける」
「っ!?」
僕のその言葉に蘭が息をのむ。
「何があったかは聞かない。だけど、もし僕の力が必要ならいつでも頼ってもいいんだよ。僕は、いつでも蘭の味方だ」
「兄さん……っ」
「っと!?」
僕のその言葉がきっかけだったのか、蘭はいきなりブランコから立ち上がると僕のほうに抱き着いてきた。
「……っ……」
そして聞こえてくる嗚咽に、僕は何も言わずに蘭の背中をさすることにした。
それから少しして、落ち着いたのか蘭は僕から離れた。
「その……いきなりごめん」
「いや、大丈夫だよ」
恥ずかしさからか、頬を赤くしてこちらに視線を合わせようともしない蘭に、僕はどこかほほえましい光景に思えた。
「ありがと。とても、うれしかったよ」
その言葉を聞けただけでも、僕のこれまで走った苦労は報われた。
「その、ここでのことは誰にも言わないで」
「もちろん」
蘭の頼みを、僕は二つ返事で答える。
僕とて、妹との会話のことを説明する気もないし。
誰かに聴かれてもぼかして言うつもりだ。
「それじゃ、家に帰ろうか。今日はクリスマスパーティーだからね」
「うんっ」
僕の差し出した手に、蘭はどこか嬉しそうに頷くと、その手を取った。
こうして僕と蘭は手をつないで自宅に帰っていく。
今日のこの出来事は、僕と蘭がある意味本当の兄妹になったきっかけになるのではと感じられたのであった。
ちなみに、その日の晩に義父さんから渡されたクリスマスプレゼントだが『植物百科事典』だった。
義父さん曰く、「一樹はまず花言葉を意識しなさい」とのことだった。
確かに、活けるときには感覚でやってはいたので、恥ずかしさをこらえながら、僕は本を受け取るのであった。
第7章、完
ということで、第7章は完結しました。
気づけばもう70話に行きそうな感じなのに、まだ原作に入っていないという(汗)
そんなわけで、次章予告を。
―――
2月14日、バレンタインデー。
その日まさに男女にとっては勝負の日といっても過言ではない。
そして、勝負は幕を開けようとしていた。
次章、第8章『バレンタイン狂騒曲』