BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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不穏な感じでの第73話となります。


第73話 新たな方針

「こちらが、グループに関する資料になります」

「失礼します」

 

倉田さんの依頼に、茫然としているところを畳みかけるようにして、僕たちに資料を配布していく。

それは、これから立ち上げるアイドルバンドなるもののコンセプトのようなものだった。

僕たちは、倉田さんの説明に合わせて読み進めていく。

グループ名には、Pastel Palettesと明記されており、その横には略称として『パスパレ』と書かれていた。

コンセプトとしては、歌って踊るアイドルという要素にガールズバンドの要素を(強引に)くっつけたもののようだ。

最近、『ガールズバンド』というものが注目を集め始めている。

最初に注目されたのは数十年ほど前に、どこかの女子高生たちが結成したバンドによってと言われているが、真偽のほうは定かではないそうだ。

 

「続いてメンバーですが……」

 

倉田さんの言葉に倣って、さらに下のほうを見ると、そこにはメンバーの名前とパートが記されていた。

 

(……ものすごく知っている名前があるんだけど)

 

そのメンバーを見た瞬間、僕は頭を抱えたくなった。

バンドにとって華でもあり顔ともいえるボーカルは、丸山 彩と記されていた。

経歴もご丁寧に簡単に書いてあり、それによれば彼女はこの事務所に所属するアイドル研究生らしい。

この事務所はそういった養成学校のようなものがあるらしく、研究生という形で事務所に所属している人がいるらしい。

とはいえ、3年経過してもデビューの機会がなければ卒業ということで、事務所から名前が消されるので、一種の仮所属のようなものだろうか?

 

(アイドルとか、興味ないからわかんないや)

 

尤も、わからなくても問題はなさそうなので、放っておくことにした。

 

(ギターが……日菜さんか)

 

オーディションに受かったと言っていたがまさかこの事務所だったとは、変な因果で結ばれているようだ。

しかも、とんでもない爆弾でもあるPastel*Palettesのメンバーになるところが特に。

 

(キーボードは若宮 イヴ。モデルか)

 

特に面識もないので、その下を見た。

 

(ベースは……白鷺さんか)

 

またもや知っている人だ。

元子役で、現在は若手女優として活躍している有名人だ。

その時、中井さんから視線を感じた僕は、資料から視線を外す。

 

「中井さん、何か?」

「え? あ、ううん。何でもないよ」

 

慌てて答える中井さんに、そう?と相槌を打ち資料に視線を向ける。

視線の理由など分かっている。

 

(大方、彼女が”役者”であることを気にしてるんだろうね)

 

僕の役者嫌いを知る中井さんらしいと思う。

確かに役者は嫌いだが、彼女は花音さんの友人でもあり僕の友人でもある。

さすがにそんな人を職業を理由に敵視するほど、僕は馬鹿ではない。

 

(まあ、向こうが何もしなければ、だけどね)

 

そんなことを考えながら読んでいると、ドラムの項目だけが空白になっているのが気になった。

 

「失礼。ドラムのパートのみ空白になっているのはどうしてでしょうか?」

「ドラムは叩くふりが難しいので、ちゃんと叩ける人を探している最中です。ライブまでには確定させたいと思っ

ています」

 

僕の疑問を代弁するように疑問を投げかけてくれた森本さんに、倉田さんは表情を変えることなく説明する。

 

(それにしても、ここまでツッコミどころ満載とは……もはや清々しい気分だ)

 

アテフリアテレコ然り、メンバーも然り。

 

(さて、どうするか……)

 

正直言って、普通のバンドやアイドル……むろんアイドルバンドであれば、何の問題もない。

一番の問題なのは、演奏しているふりと口パクのほうだ。

僕たちバンドにとって、その行為はわざわざ見に来てくれている人たちを裏切る、最低の行為だと認識している。

アイドルグループであれば、それでもまだ許せたし、スルーしただろう。

だが、彼女たちは”アイドルバンド”だ。

演奏が下手だとかならまだいいが、アテフリアテレコとなればわけが違う。

 

『あのグループがアテフリアテレコだったら、Moonlight Gloryもそれをやっているに違いない』

 

もしこんな風に思われでもしたら、僕達は万事休すだ。

だからこそ、そう思われることは絶対に避けなければいけない。

 

(とはいえ、どうすればいいか……)

 

僕は必死に考える。

この計画を止めることは、僕たちにはできない。

それだけの力がないのだ。

ならば、策を練るしかない。

 

(ふむ……見えたかもしれない)

 

要するに、どれだけこちらへのダメージを小さくできるかが重要。

それならば、十分可能だ。

一か八かの賭けになるけど。

僕はバックの中に手を入れて、ある物を探すとそれを操作してバックの中に戻した。

 

「いかがでしょう? 引き受けていただけますか?」

「反対に決まってんだろうがっ。こんなバカげたことをやるなんて、正気の沙汰じゃ――――」

 

返答を求める倉田さんに、田中君が食って掛かる。

それが当然の反応だ。

中井さんや森本さんたちでさえ何も言わずとも目で訴えかけているほどだ。

そんな田中君の言葉を、僕は片手を上げて制する。

 

「失礼ですが、倉田さんはこちらに来てどれくらいですか?」

 

ここからが勝負だ。

 

「そうですね……今年で2年目になりますね」

「2年でこのような人選……コンセプトを立ち上げるとは、大変素晴らしかったです。このような素晴らしいもの

は初めて拝見しました」

まずは、相手を褒めて持ちあげることから始めた。

正直なところ、褒めているのかどうかわからないが、これで食いついたと思われればこっちのものだ。

 

「後輩のために協力するのもまた先輩の役目……わかりました。そういうことでしたらこの私、Moonlight Glory

作戦参謀の美竹一樹、喜んで全面的にご協力いたします」

 

「本当ですか! いやー、流石美竹さんです。話が早くて助かり――「ただ……」――はい?」

 

僕の返答に気をよくしたのか、嬉しそうに笑みを浮かべる倉田さんの言葉を遮って、僕は声のトーンを少しだけ落として話を続ける。

 

「リーダーの意見も一理あります。そこで、倉田さんに確約をしていただきたいんですよ。彼女たちのライブなど

の結果にこちらが被害を被らないという確約を」

「……」

 

僕の言葉に、倉田さんは神妙な面持ちでこちらを見る。

 

(ちょっと露骨すぎたか?)

 

もう少しオブラートに包むべきだったかと後悔したが、一度行ったことを取り消すのは不可能だ。

僕は、表情を変えることなく、倉田さんの返答を待つ。

 

「わかりました。お約束しましょう」

「では、これから作曲のほうに取り掛かります。大体一週間ほどお時間を頂ければできあがりますので、完成し次第お届けいたします」

「よろしくお願いいたします。お忙しい中、失礼いたしました」

 

とりあえず、話は終わったようで、倉田さんは一礼してミーティングルームを後にした。

 

「私も少々席を外しますので、しばしお待ちを」

 

それに続くように相原さんも部屋を後にする。

 

「で、一樹。どういうことか説明してもらおうか?」

「あんなめちゃくちゃなのに、どうして協力する? 友達がいるからか? ここはそんなに軽いのかよ!」

「ちょっと、聡志。そんな言い方はないでしょ!」

 

相原さんが部屋を出た瞬間、問い詰めてくる啓介と田中君に、僕のフォローをしようとする森本さんたちとで、一瞬で混沌と化してしまった。

 

「ちょっと静かにしてもらってもいい? ちゃんと説明するから」

 

とりえず、説明をしやすくするために皆には静かにしてもらうことにした。

 

「まず、これが日菜さんのためにという話だけど、Moonlight Gloryの作戦参謀の僕が、そのような私情だけで引

き受けるとでも思う?」

 

僕の問いかけに、みんなが押し黙るのを確認して、”まあ、それがないと言ったらうそになるけど”と付け加えて話を続ける。

 

「今から、Moonlight Gloryの新方針についてと、今後の計画を説明する。もちろん、何人たりともこれを言うことは厳禁。それだけは約束してほしい」

「……わかった」

「俺もだ」

「私も」

「私もね」

 

田中君に啓介、中井さんに森本さんが頷いたのを確認して、僕は口を開く。

 

「僕は『Pastel*Palettes』を『Moonlight Glory』の目的達成にあたっての最大のリスクであり、爆弾として認識し、これを排除するべく行動を始めようと思う」

「排除って……いくら何でもやりすぎだよ」

 

僕の口にした”排除”という単語に反応した中井さんが異を唱える。

 

「勘違いしないでほしいけど、言葉は物騒だけどそこまでひどいことはしない。単純に『Pastel*Palettes』という名のリスクをなくすこと。彼女たちをつぶすわけではない」

「そうなんだ」

「それで、一体どうするつもりなんだよ」

 

よかったと、胸をなでおろす中井さんをしり目に、啓介が続きを促してくる。

 

「彼女たちには、お披露目ライブを確実に失敗してもらう」

 

僕は、静かにそう告げるのであった。


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