蘭にアドバイス(と呼んでいいのかは微妙だけど)をしてから数日が経過したある日、僕はバンドの練習がないためリビングで生け花の練習をしていた。
(まあ、こんなもんかな)
最後の花を活けたところで、僕は出来上がった作品を改めて見直す。
(……うん力強さと、スピード感のようなものがちゃんと出てる)
ようやく生け花のほうも本調子に戻ってきていた。
最近はいろいろあって、少し調子が悪かっただけに、感慨深いものである。
僕はいつものように、スマホで写真を撮る。
これで、新曲のアイデアは保存完了だ。
「これで何曲くらいのアイデアになるんだろう」
ふと、そんなことが気になった僕は、スマホのアルバムを見て見る。
『アイデア』というグループにまとめられた写真の総数は軽く4桁にまで及んでいた。
その中で区分けされた『没曲』が6割ほどを占めているのが、あれではあるが。
しかも、次から次に曲のアイデアが出てくるのだから質が悪い。
(そういう意味ではPastel*Palettesの存在はある意味ありがたいのかも?)
Pastel*Palettesであれば、6割を占める没曲を有効に活用してくれる可能性が高い。
やはり、考えた曲は世の中に出したいというのが本音だ。
そういう意味では、彼女たちの存在は膨らみ続ける没曲の問題解決への一筋の光なのかもしれない。
(デビューソングもすでに向こうに渡してるしね)
楽曲名は中井さん考案の『しゅわりん☆どり~みん』で決定した。
ちなみに、他の案で上がった曲名は『きゅぴりんちょ』、『パレット祭り』、『るんるんるん』などが出たが、すべて速攻で没になった。
どれが誰の考案なのかはあえて触れないでおきたい。
特に最後のは色々な意味で恥ずかしすぎる。
何せ、理由が『”るん”という口癖の人がいるから』というものだ。
さすがに恥ずかしすぎだし言ったほうもそうだが、聞いたほうも微妙な雰囲気になってしまった。
「一樹、また撮影でもしていたのか」
「はい、義父さん。後で見返したいので」
僕は義父さんに答えながら、撮影を終えたスマホをポケットにしまう。
義父さんにはまだ、この本当の意味は気づかれていないようだ。
「一樹、この前蘭からチケットを渡されたんだ。何でもガル……何とかっていうライブのな」
義父さんに見せてもらったチケットは、蘭達が出演しようとしているライブイベントの『ガルジャム』だった。
(そうか、そういう風に伝えることを選んだのか)
そのチケットだけで、蘭のとった行動がなんとなくわかった。
「一樹の分もあるんだが、何分こういったところは初めてでな、できれば一緒に来てくれないか?」
「もちろん」
妹たちのバンドの演奏だ。
義父さんに頼まれなくても見に行くつもりだった。
こうして僕は義父さんと一緒に蘭の出るライブに行くことになった。
それから数日後。
ついにガルジャムの開催日となった。
(本当は明後日にライブがあるから練習しないといけないんだけど。まあたまにはいいか)
田中君からは文句を言われそうだが、今日は僕にとって初めて蘭達のバンドの演奏を聞くのだ。
これくらいは許してもらえるはずだ。
ライブハウス内に入り、受付の人にチケットを渡しライブ会場に入る。
「一樹、どのへんで聞くのがいいんだ? やはり最前列か」
「最前列は激しい動きをする人が比較的に多くなるから、音をゆっくりと楽しみたいときは……あの辺がおすすめ」
ライブをしていると、最前列の観客で頭を勢いよく振り回す人の姿をよく見かける。
そういう曲調にしているからというのもあるけど、しっかりと曲を聞きたい人にはあまり適さない場所なので、僕は会場の真ん中あたりの端のほうで演奏を聞くことにした。
それから義父さんから色々な質問(和服で来たが良かったのかなどなど)に答えていると、会場の照明が落とされる。
「照明が消えたな」
「ライブが始まるんだよ。蘭達が出るのは………少し後だね」
そして始まった演奏は技術的にはかなりのレベルだった。
だが、やはり僕の心には響かない。
そんなバンドの演奏がしばらく続き、いよいよ次が蘭達のバンド『Afterglow』の番になる。
「義父さん、次だよ」
「……ああ」
義父さんはすでにステージのほうにしか意識を向けていないようだった。
父さんなりにしっかりと自分の娘の出した答えを見ているのかもしれない。
「Afterglowです。まずは一曲聴いてください」
蘭のMCで始まったその演奏は、圧巻の一言に尽きる。
(すごいな)
技術ではこのイベントに参加しているどのバンドよりも優れているとは言えない。
だが、彼女たちの奏でる音が、蘭の歌が僕たちに熱く語りかけてくるようだった。
(練習の時よりも格段に腕が上がっている。流石としか言いようがないな)
このバンドもまた僕たちのバンドのさらなる成長のためのヒントになるかもしれない。
それから数曲ほど彼女たちの演奏は続いた。
「へぇ、『Afterglow』っていうんだー」
「ボーカルの子、すっごくいいじゃん」
観客の評価も上々だ。
すでに会場内は『Afterglow』一色だった。
「次が最後です。あたしが道に迷ったとき、いつも4人が一緒にいてくれた。あたしはもう迷わない……自分から逃げたりしない」
(……蘭)
そのMCはそれまでの経緯を知る僕たちからすれば、一種の決意表明のようにも感じられた。
ふと、隣に立っている父さんのほうを見てみる。
「……」
義父さんは真剣な面持ちで、蘭達を見ていた。
「それでは聴いてください」
そして最後の曲の演奏が始まった。
その曲事態が蘭が変わろうとしていることを語りかけているような印象だった。
(これもこれでいいかな)
彼女たちは王道のロックバンドのような感じだろう。
だが、彼女たちの演奏には思いを相手に音で伝える力が強く感じた。
それはきっと、どの歌詞も彼女たち自身の言葉……いうなれば等身大の歌詞だからなのかもしれない。
(今度、皆に聞かせよう)
きっといい刺激になるはずだと思いながら、僕は彼女たちの演奏を聞くのであった。
その後、ライブが終わった後に『蘭に言いたいことがあるので、楽屋に行きたい』と言って楽屋に向かった義父さんは、そこで蘭にバンドを続けることを許したらしい。
蘭が感動の涙を流していたというのがモカさんからの情報だ。
本当なのかどうかが疑問だが、蘭に聞いたら怒られそうなので、謎のままにしておくことにした。
「待たせてすまない。帰ろうか」
「うん」
義父さんと別れた場所で待つ僕のもとに戻ってきた義父さんと一緒に、僕は岐路につく。
「一樹」
そこで、義父さんは僕にこう聞いてきた。
「一樹も、あんなふうなことをしているのか?」
「んー、まあ大まかには」
本当はちょっぴり違うのだが、基本的には同じなので、そう答えておいた。
「次のライブ、私も見に行ってもかまわないかな?」
「……いつでもいいですよ」
蘭達のおかげで、僕たちのバンドの方にも興味が出てきたようだが、家族に演奏を聞かれるのはある意味恥ずかしいものなんだなと、今初めてそれを知ることになった。
ふと空を見る。
夕焼けの空は、どことなく『Afterglow』の今後を応援しているような気がした。
こうして蘭達の一連の騒動はきれいに解決した。
僕のしたことなど、皆無に等しいけれども、ほっと胸をなでおろしていた。
今回でAfterglowの話はひとまず終わります。
次回はRoseliaの話で、一番最後の大台に向かっていく予定です。