BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

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今回で、Roselia編おわりです。


第87話 格の違いと挑戦と

ライブ会場に移動した友希那たちは、Moonlight Gloryのライブが始まるのを待っていた。

 

「湊さん、先ほどのは」

「ええ。間違いなく見下してたわ」

 

紗夜の問いかけに答える友希那は、悔しさに手を力いっぱい握りこんでいた。

 

「え!? そうだったんですか?!」

「あはは、あこは純粋なんだね」

 

全く気付かなかったのか、驚いている様子のあこに、リサは苦笑する。

 

「そういえば、二人ってMoonlight Gloryの演奏聞いたことあるの?」

「「いいえ(ないわ)」」

 

リサの問いかけに、二人は首を横に振って応える。

この二名は、Moonlight Gloryのことは知ってはいたものの、その演奏を聞いたことは一度もなかったのだ。

だからこそ、この二人は知らないのだ。

一樹らが結成したバンド『Moonlight Glory』の本当の恐ろしさを。

 

(でも、例え演奏がうまかったとしても、あんなふうに言うなんて)

 

リサは先ほどの一樹の言い方に、モヤモヤし続けていた。

確かに、喧嘩を売ったのはこちら側だ。

だからとはいえ、あのような言い方をしていいものなのだろうかと、リサは一人で考え続けていたのだ。

 

「お待たせしました。サプライズゲストで、『Moonlight Glory』の皆さんです!」

 

司会の人の紹介とともに、一樹たちがステージ上に上がる。

それとともに、会場からは歓声が溢れかえる。

それはRoseliaの時とは比べ物にならないほどだった。

 

「皆さん、こんにちはっ」

『こんにちはっ! Moonlight Gloryです!』

 

(すごい、もう会場の人たちの心をつかんでる)

 

明美のあいさつに、会場中が挨拶で返す光景に、リサは声が出なかった。

 

「ありがとー! 今日は、一曲だけ皆さんにこの曲をお届けします。どうぞ、ひと時の間、お楽しみください!」

 

明美のMCが終わったのが合図だったのか、演奏が始まった。

 

『っ!?』

 

その瞬間、友希那たちはすさまじい衝撃を受ける。

 

(なにこれっ。音にどんどんと引き寄せられていくっ)

(この感じ、あの時と同じっ)

 

一樹たちの演奏に体が引っ張られていくような感覚に戸惑うリサと、その感覚を体験したことを思い出す友希那。

反応は様々だったが、全員が衝撃を受けていたのは同じだった。

 

(これが、トップクラスと呼ばれているバンドの演奏なの……っ)

 

会場内の熱はすべて彼らに奪い取られ、Moonlight Gloryの独壇場となったのであった。

 

 

 

 

★ ★ ★ ★ ★ ★

 

 

 

ステージが終わり、審査結果が発表になる前に、スタッフの人にステージに挙げてもらったお礼を告げて帰ることにした。

ただ単にRoseliaのメンバーに嫌がらせをする目的で来ているため、審査結果に興味もないのだ。

 

「今日もいい演奏ができたね」

「ああ。ライブ前の練習としてみれば、結果は上々だな」

 

僕たちのライブ(ついでにPastel*Palettesのデビューライブ)まで残り数日。」

本来であれば、セットリストの曲をまんべんなく練習して本番に備えるべきところだが、今日のライブを自分たちの実力を測る前哨戦のようなものだと思えば、十分な意味がある。

結果としては、このまま本番に挑んでも問題ないというのを確認できた。

 

「待て」

 

先頭を歩いていた田中君が、後ろを歩く僕たちに止まるように指示を出す。

何事だと思えば、前のほうでRoseliaのメンバーたちが立ちはだかるように待ち伏せていた。

表情からは何を言いたいのかをうかがい知ることができないので、どうしたものかと思っていたところに、紗夜さんと湊さんが一歩前に出る。

 

「この間は失礼なことを言ってしまいすみませんでした」

 

紗夜さんが、頭を下げて謝罪の言葉を口にしてきたのだ。

僕たちは驚きながらお互いに顔を見合わせる。

 

(どうやらさっきの演奏で理解してくれたみたい)

 

続いて、口を開いたのは湊さんだ。

 

「私も、この間は少々言いすぎてしまったわ。ごめんなさい」

 

(ん?)

 

湊さんのい方に、少し引っ掛かりを覚えるが、とりあえず二人とも謝罪をしてきたというのは非常に大きい。

 

(これで、嫌がらせは終了かな)

 

このライブには嫌がらせとともに、彼女たちに謝罪をさせるという裏の目的もあったので、それを考えると十分だ。

 

「啓介、お前はどうする?」

「俺は……言い方を間違えて彼女たちに不愉快な思いをさせた自分にも席があるので、謝ってもらえただけで十分」

 

田中君は啓介に確認を取るが、そもそも啓介自身は懲らしめようという気はもともとなかったのだから、納得する以前の話だ。

 

「そういうわけだから、これで手打ち……すべて水に流すということで構わねえか?」

 

それを受けて田中君が持ち出した案に、彼女たちも頷く。

これで、今回の問題は解決となった。

……”一応”は

 

「でも、一つだけ言わせてくれないかしら?」

「友希那?」

 

突然話を切り出す湊さんに、え?と言わんばかりの表情で名前を呼ぶ今井さんをしり目に、田中君は先を促す。

 

「私たちは、常に全力で音楽には取り組むべきだと思っているわ。だからこそ、あなたたちのあの時の演奏は、見ている人たちを裏切る最低な行為じゃないかしら?」

「はぁ………一樹、バトンタッチだ」

 

謝ったそばからまるで喧嘩を吹っ掛けるような批判に、とうとう田中君はあきれてしまったようでこちらに丸投げされた。

 

「私たちが、オーディエンスを馬鹿にしていると? それは聞き捨てならないな」

 

彼女たちのもとまで歩み寄った僕は、湊さんたちに視線を巡らせる。

 

「私たちの演奏はオーディエンスの人たちに満足をしてもらえるようにすることを目標にしている。楽器を変えている時もそれは変わらない。それを理解できずに、めったなことを言うものではないと思うが?」

 

僕と視線が合った黒上の少女は体を震わせてドラムの人の背後に隠れたのは、少しだけ傷ついた。

 

「ただ、どうしても僕たちが間違えているというのであれば、音でそれを証明して見せろ」

「音で……ですか?」

 

僕の口から出た言葉に、紗夜さんが首を軽くかしげながら聞き返す。

 

「FUTURE WORLD FES.で優勝を取れるくらいのレベルにでもなったら、対バンでもなんでも受けて立とうじゃないか」

「あ、また巻き込まれた」

 

後ろのほうで田中君の突っ込みが聞こえるが、無視することにした。

 

「……いいわ。受けて立ちましょう」

「ええ、必ず私たちが正しいというのを証明して見せます」

「まあ、気長に待ってるよ」

 

湊さんたちが受けて立ったことで、この話は決着がついた。

なんか僕の後ろと湊さんたちの後ろのほうで待ったがかけられているが、どうやっても無駄だろう。

 

「そうだったな、一樹ってそういう性格だったよな……帰るぞ」

 

田中君のその言葉は、今日の中で一番心に突き刺さる言葉だった。

 

(確かに一騎打ちとかそういう系は好きだけど、ため息交じりに言わないで)

 

心の中でそう突っ込みながら、一番後ろの仲居さんに続く形で、彼女たちの横を通ろうとしたところで

 

「あ、そうだ。紗夜さん」

 

僕は言わなければいけないことを思い出し、足を止めて後ろのほうに振り替えるりながら紗夜さんを呼ぶ。

 

「この間の件だけど」

「っ! あの時は、色々なことが重なっていて――「ああ、いや別に責めるとかじゃないから」――そう、ですか?」

 

この間氷川家での一件で怒るとでも思ったのか、謝ろうとする彼女の言葉を遮って否定する。

そう、僕は別に謝ってほしいわけではない。

 

「むしろ、出過ぎた真似をしてしまい申し訳ないとさえ思っている。この通り、許してほしい」

「か、一樹さん!? 頭を上げてくださいっ あれは、私が――「ただ」――え?」

 

頭を下げて謝罪の言葉を口にする僕に、慌てた様子でそれを止める紗夜さんの言葉を再び遮ると、僕は顔を上げて

 

「理由はわからないけど、恨むのは自由だ。好きなだけ恨めばいい。でも、だからと言って家族に僕のあることないことを吹き込むのは、少しばかり卑怯というか、ひどくないか?」

「え? それってどういう意味ですか?」

「……まあいいや。それじゃ、皆さんさようなら」

 

何を言われているのか理解できない様子の紗夜さんをしり目に、僕は彼女たちに一礼すると、少し先のほうで立ち止まっていたみんなのもとに歩いていき、そのままその場を立ち去るのであった。




次回で、本章は最終回となっります。

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