BanG Dream!~隣の天才~   作:TRcrant

9 / 302
毎度失礼します。

今回の第9話は、ある意味この章でのキーワードだったりもします。



第9話 目覚め

あれからどれほど経ったのだろうか。

一樹は何とか一命を取り留めた。

集中治療室から一般病棟に移動させられた一樹は、容体も安定しているとのこと。

あとは意識のほうが戻ればいいのだが、一樹の意識が戻らない。

一週間、二週間経っても、一樹は眠り続けている。

一樹のおじさんたちの葬儀は、父さんたちが代理で行った。

それは一樹が両親の最期を見ることができなくなったことを示していた。

一樹の顔に付けられていた無数のガーゼは取られ、怪我一つない様子だった。

まるで事故にあって生死の境をさまよっていたのがうそのようだった。

俺たちは毎日毎日お見合いに行った。

もちろん、ほかの人も来ていた。

書店街にあるパン屋の娘さん、あと名前も知らない水色の髪の少女。

彼女はなぜか疲れ果てていた様子だったが、その理由は後に中井さん経由で知った。

”迷った”らしい。

他にも緑色の髪の少女……何気に女の人ばかりな気がするが気にしてはいけない。

みんな心配そうにしており、一樹のことを心配してくれるのが俺たちだけでないのが、変な話ではあるが嬉しかった。

だが、そんなみんなのお見舞いがあっても、一樹が目を覚ますことなく気が付けば9月になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日も、お見舞い行くだろ?」

「当然だ」

 

始業式だけであるため、この日は午前中で学校は終わった。

俺は病院に行くつもりだったが、それは聡志たちも同じようだった。

そして、今日もお見舞いに向かおうとしたときのことだった。

 

「あれ、電話だ」

 

突然俺のスマホが着信を告げたのだ。

しかも、相手は母さんだ。

 

(そういえば、母さん今日はお見舞いに行くって)

 

まさか、啓介の容態が急変したのかと思い、俺は慌てて電話に出た。

 

『啓介! 一樹君の意識が戻ったわよ!!』

「っ!!」

 

興奮した様子の母さんのその言葉は、俺にとってはこれ以上ないほどにビッグニュースだった。

 

「おい、どうしたんだよ?」

「まさか、一樹の容体がっ」

 

俺の様子の変化を悪い方向にとらえた二人が慌てた様子で俺を揺さぶるが、それを振りほどくと

 

「一樹の意識が戻ったぞ!」

 

と、二人にもビッグニュースを伝えるのであった。

 

 

 

 

 

「一樹っ!」

「ぁ……みんな」

 

病室に駆け込んだ俺を出迎えたのは、ベッドに横たわっている一樹だった。

少しだけ声に覇気がないが、それでも一樹は口を開いた。

 

「良かった……本当に良かった」

 

涙ぐんで一樹の意識が戻ったことを喜ぶ中井さんに、一樹は力なく笑う。

 

「こんな姿で、ごめんね。まだ絶対安静みたいで」

「別に謝んなくていいから、横になってろ」

 

謝ってくるところが一樹らしい。

 

「それに、ライブも……ごめん」

「それもいいって。ライブなんて、生きていれば数えきれないほどできるだろ」

 

森本さんの言葉に、一樹もそうだなとつぶやいた。

そこで一樹は何かを思い出した様子で、俺たちのほうに視線を向ける。

 

「なあ啓介。一つ聞きたいんだ」

「おう、何でも聞いてくれ。今だったら女子のスリーサイズでも何でも教えてやるっ」

 

場の空気を明るくしようとした俺のジョークも、病室の温度をすさまじく下げるだけだった。

ものすごく視線が痛い。

 

「母さんたちは?」

「っ……」

 

そんなものも、一樹の言葉で吹っ飛んでしまった。

言えない。

言えるはずがない。

今意識が戻ったばかりの一樹には、この真実は重過ぎる。

 

(でも、一樹は真実を求めている。なんて伝えれば)

 

見ると母さんも、俺たちから視線をそらしていた。

 

「そっか……駄目だったんだ」

「……一樹」

 

俺の様子だけで、答えを悟った一樹は静かにつぶやいた。

 

「大丈夫だよ、僕は……大丈夫だから」

 

それはまるで自分に言い聞かせているようにも感じられた。

俺はとても無力だった。

 

 

 

 

 

「一樹君、明日も来るからね」

「別にいいけど……無理しないでね」

 

窓から夕陽が差し込む夕暮れ時、明日は学校があるため、俺たちは病室を後にしようとしたが、中井さんに心配そうに声を掛けられながら、俺たちは病室を後にする。

 

「なあ、俺たちにできることはねえのか?」

「ないな」

 

バッサリと切り捨てられた。

 

「今の一樹はとても不安定だ。そんな状態のあいつに下手なことをすれば、今度も心が壊れる。何かをしようとするのであれば、慎重にするべきだ」

 

聡志の言葉は、いつも以上に重みがあった。

 

「だけど、このまま見ているだけなんて」

「だったら、一樹が退院したら、できるだけ家にいようよ」

「そうだね、そうすればさみしさもまぎれるかもしれないし」

 

森本さんと中井さんの提案が俺たちにできることだった。

 

「よし、これからはあいつの家で勉強とかするか」

「そうだな。よーし、俺はゲーム機を―――」

『あんたはもっと勉強をしなさい!!』

 

この日、俺は幼馴染三人に一斉に突っ込まれるという体験をすることになるのであった。

 

 

 

 

 

「父さん。一生の頼みがあるんだ」

 

その日の夜、俺は思い切って父さんに直談判してみることにした。

 

「言ってみろ」

「一樹を養子にもらってほしいんだっ」

 

俺にできることは、それくらいだ。

一樹が一人でさみしいのであれば、ここで引き取ればいい。

そうすれば両親もいるし、俺もいる。

さみしい思いはしないで済む。

 

「それはだめだ」

「だったら引き取る――「それもだめだ」――どうしてだよ!」

 

父さんにすべてを否定された俺は、父さんに詰め寄った。

 

「父さんは一樹が一人で寂しくてもいいっていうのかよ!!」

「……啓介。寂しさとは、どういうときに感じる?」

「え……」

 

それは、思いもよらない問いかけだった。

それが何なのかと言いたかったが、父さんの表情は俺が今まで見たものよりも真剣そのものだった。

 

「一人でいるとき……」

「一人とは、すなわち孤独。”孤独とは森の中ではなく、人の中にある”。この言葉をよく頭に刻むんだ」

 

話はこれで終わりだといわんばかりに、父さんは俺の脇をすり抜けるようにしてリビングを後にする。

俺は、その父さんの背をただ見ることしかできなかった。

 

(俺は結局……見てることしかできないのかよっ!)

 

自分の無力さが、とても悔しかった。

聡志は仲間のことをよく見て、冷静に判断をしているし、中井さんもオドオドしているように見えて皆のことを第一に考えている優しさがある。

森本さんだってそうだ。

 

(じゃあ俺は? 俺は何なんだ?)

 

俺はただふざけて場の空気を、明るくしているように思いこんでいるだけ。

実際のところは何もしていない。

だからこそ、今この時に何かをしたいのだ。

一樹のために、みんなのために。

だが、俺はこの時もう少し父さんの言葉の真意をくみ取るべきだった。

父さんが言わんとすることを。

そうすれば、あのような悲劇は起こらなかったかもしれない。

でも、この時の俺は一樹のために何かをしたいという自己満足のような思いがいっぱいで、そのことに気づいたのは、すべてが終わった時。

何もかもが手遅れで、取り返しがつかない状態になった時だった。

それが分かるのはまだまだ先のことだ。




連日投稿が、いつまで続くかわからないですが、できるところまで頑張りたいと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。