あとがきの方にて重大なお知らせ(別名、言い訳ともいいます)がございますので、ぜひご一読お願いします。
それでは、本篇をどうぞ
あれから数日ほど経過した。
色々と状況は進展していた。
まず、Pastel*PalettesのメンバーとMoonlight Gloryの関係は良好であるということだ。
まあ、どうでもいいことだがこの良好な関係を維持しておくのもいいかもしれない。
そもそも、敵を作り出していいことなんてあまりないし。
そして、肝心の彼女達の演奏のレベルだが、比較的によくなっていっている。
まだ課題は多いが、それでも練習を始めた当初に比べれば比べ物にならないほどの進歩のはずだ。
だが、演奏レベルの向上と引き換えに、新たな問題が生じているわけだが。
「一樹、こんなところにいたのか」
「なんだ、啓介か」
この日の練習も終わり、休憩スペースでお茶を飲んでいると、休憩スペースに啓介がやってくる。
「おいおい、なんだとはひどいな。やっぱり一樹も、美少女が来るほうがいいっていうのか?」
「いや、静かに休んでいたいだけなんだけど」
どうして啓介は休憩スペース=美少女との歓談の場という公式に結びつけるのだろう。
「パスパレ、最近いい感じじゃん」
「まあね、個人個人ではだけど」
僕の横に移動して水(無料)を飲みながら話題を変える啓介に、僕は含みのある言い方で返す。
「それって前から言っていたやつか?」
僕は無言でうなづく。
啓介たちには前から何度もそのことを言い続けている。
個人での練習ではそれほど感じない違和感が、全体で演奏をしたりすると思いっきり出てくる。
音がばらばらというような、ちぐはぐ感が。
それが妙な違和感となっている。
「しかし、一樹が理由がわからないというのは厄介だよな」
「いや、理由はわかっているんだ。ただ、原因を断定することができない」
そう、理由など一目瞭然だ。
おそらく、メンバーの誰かが、他の人とは違うことを考えているためだろう。
バンドとはいえ、やっているのは人だ。
ゆえに、考えが違っていたりするのは当然のこと。
だが、あまりにも違いすぎれば確実に音に出ていく。
音楽というのはそういう意味でも難しく、奥が深いものなのだ。
(間違いなく、元凶はあの人だ。でも確証がない)
僕にはその元凶が誰なのかがわかっている。
だが、それは僕の思い込みであり、確たる証拠があるわけではない。
そのために注意することもできずに悶々としていたのだ。
「まあ、あまり思いつめないで、気を楽にしろよ」
「そうだね」
こういう時に啓介の気楽さに救われるような気がするのだが、それを口にしては負けなような気がする。
それはともかくとして、僕はお茶を飲み終え容器をゴミ箱に捨てると休憩スペースを後にする。
今日は特にやることもないため、このまま帰ることにした。
少し先にあるT字路に差し掛かったところで、僕は足を止める。
「おい、どうしたんだ?」
いきなり歩くのを止める僕に、不思議そうな表情を浮かべる啓介に対して、僕は静かにするようにジェスチャーで告げ、曲がり角まで移動する。
そして、僕は曲がり角からこっそりとそれを覗き見る。
「あれって、白鷺さんとスタッフじゃん。何かを話しているみたいだな」
「……」
そこにいたのは、通路で立ち話をしている白鷺さんとスタッフの姿だった。
話している位置が近かったこと、白鷺さんからは死角になっていることが幸いして、辛うじてではあるが話の内容も聞こえてきた。
「先日のライブの中傷記事を取り下げるように、各媒体と交渉していただきたいと思いまして」
聞こえてきた話の内容は、パスパレのアテフリアテレコがバレた一件の記事を取り下げるように要求するものだった。
「あのような中傷記事が出ている限り、Pastel*Palettesは二度とステージには上がれないかと思いまして」
「………へえ、仲間のために、必死に動くなんていい人だなー」
白鷺さんの言葉に、啓介が感心したようにつぶやく。
僕はそれには何も言わずに静かに様子をうかがう。
「そちらに関しては、我々スタッフのほうでも対応しておりますが、難しい状況でして」
(まあ、取り下げでもした瞬間に心象が悪くなるから、あまりしないほうがいいんだけどね)
悪いことではあるけども、すべての不祥事を公開している企業と隠ぺいするような企業のどちらが印象がいいのかなど、聞くまでもないことだ。
「では、私をPastel*Palettesから脱退させてほしいのですが」
「なっ!?」
「………」
白鷺さんの言葉に、驚きを隠せずに声を上げる啓介とは対照的に、僕は予想していたので驚きよりもむしろ”やっぱりか”という思いと、怒りしか感じない。
「お止めはしませんが、千聖さんに対する中傷はしばらく続いてしまう……いえ、むしろ悪化する可能性もあります」
「悪化……というと」
止めはしないと言いながらもスタッフは必死に止めようとしているような口ぶりに、白鷺さんの表情が険しくなる。
「我々はPastel*Palettesのスタッフですので、Pastel*Palettesのメンバーを守ることができます。ですが、そうでない方は守ることはできません」
スタッフの言葉は残酷でもあり、筋の通ったものだ。
自分が所属するグループのスタッフでない限り、関係のない人の面倒を見るような人など、よほどのお人よしぐらいしかいないだろう。
「……では、今は中傷に耐え、バンドも続けろと?」
「今回の件は我々も大変心苦しいんです。バンドとして挽回できるよう、我々も苦心していることをご理解ください」
ただそれだけを告げて、どこからか仕事の電話が入ったのか、その場を立ち去るスタッフを見届ける白鷺さんの表情は、浮かないものだった。
(あれは日菜さん………見つかると厄介だし、ここは撤退するか)
「啓介、移動しよう」
「……ああ」
白鷺さんたちに見つかりでもすれば、嘘をつかなければいけない。
啓介の様子を見ると、それができるような状況であることは一目瞭然なので、僕は気づかれるよりも早くその場を離れることにする。
尤も、啓介だけじゃなくて僕もだけど。
結局僕たちは、休憩スペースに戻っていた。
というより、そこ意外に落ち着ける場所がなかっただけなんだけど。
啓介は休憩スペース内にあるベンチに腰掛けると俯いていた。
「一樹、俺は夢を見てるんじゃないよな? 幻聴を聞いてるんじゃないよな?」
「ああ。あれはすべて現実だ」
白鷺さんの言葉がよほどショックだったのか、その声は弱々しかったが、僕は正直に答える。
「まさか、白鷺さんがあんな人だったなんて」
「だけど、それも最善の一手というのも事実だよ」
芸能界というのは足の引っ張り合いの、醜いレースのようなものだと前にどこかで聞いたことがある。
だからこそ、常に最善の選択をし時には仲間をも見捨てたり踏み台にすることも平気で行う。
「だからってッ……だからって、仲間を裏切るなんて、許されないだろ!」
非常に大きな声で叫びかけた啓介は、はっとして周囲を見渡すと声を抑えて言い直す。
「その通りだ。
音楽は芸能界と違う。
特にバンドはお互いに信頼し合うことこそが、バンド内の演奏技術の向上に大きく貢献してくれるのだ。
その点では、今のままではPastel*Palettesの演奏は向上する兆しが見えない可能性も見えてくるのだ。
(とりあえず、啓介の口は塞いでおこう)
もし、啓介の口からこの一件がパスパレのメンバーに伝わりでもしたら、すべてがおしまいだ。
「とにかく、啓介。今見たものは他言無用……いい?」
「…………」
啓介は僕のくぎを刺すようにかけた言葉に、無言で頷くことで答える。
(そろそろ、僕も動く必要があるか)
あまり、話したくはないのだが背に腹は代えられない。
僕は覚悟を決めた。
……少し意識が遠のきそうになったけど。
改めまして、この度は長い間お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
原因としましては、話の展開に悩んだりアイデアが尽きてしまったといったものではなく、単純に執筆時間が減ってしまったことにあります。
この状況を受けまして、本作を投稿して3か月ほど続いておりました、毎日投稿ですが今回で終了とさせていただきたいと思います。
これまでは、何とか維持してきましたが、最近はそれすらも難しくなり、作品のクオリティにも深刻な影響を与え始めました。
これからは不定期投稿となりますが、次回の投稿日はあらすじの方にて追記という形でお知らせしていく所存です。
ただし、あくまで目安になりますので、その通りに投稿できない場合もございます。
読者の皆様には、大変ご迷惑をおかけしますが、ご了承のほうをお願いします。