これで今年最後の投稿になりそうです。
それでは、本篇をどうぞ!
「昨日さ、友達で――」
「私は北海道に―――」
翌日、大型連休も終わりいつも通りの日々が始まるこの日、教室内では、それを惜しむ者たちの会話でもちきりだった。
まあ、思い出話みたいなもんだけど。
「………」
僕はと言えば、そういったことをするほど充実した(まあ、ある意味では充実してるけど)連休でもないうえに、話す相手もいなので、読書に明け暮れることにした。
(とうとう何も言ってこなかったな)
今朝、いつものようにみんなで学園に向かう中、誰一人として先日の白鷺さんの一件に関して、話題を振ってくることはなかった。
僕のアクションを待っているのか、気を使っているのかはわからないが、ありがたい気持ちと、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
とはいえ、今日中にけりをつけなければ喝が飛んでくるのは間違いない。
いうなれば、猶予期間のようなものだろう。
(まあ、謝罪はするからいいんだけど……)
「美竹君に、ヒナ。おはよー」
「……おはよう、今井さん」
「あ、リサちーおはよー」
薄々声をかけてくるかなと思っていたら、やはり話しかけてきたので、僕は読んでいた本を閉じながら挨拶を返す。
「美竹君は相変わらずテンション低いなー。五月病になったりする?」
「いや、いつものことだし。というより五月病になるわけないでしょ」
ただ目立たないようにしているだけなので、五月病に間違えられるのは少しだけショックでもある。
まあ、最近は目立ち始める要素が多いのであきらめかけていたりするが。
「そういえば、友希那が美竹君に練習を見てほしいって言ってるんだけど」
「全力でお断りします」
いつもの会話でさりげなく練習のコーチをお願いしてくるあたり、恐ろしささえ感じる。
「もうあの時のことは終わりしたんだよね?」
「それとこれとは話が別。それ以上でも以下でもない」
これ以上は話すことはないと締めくくる。
ぶっちゃけ練習を見てもいいとは思うが、まだ身の回りの問題を片付けないことには考えることもできない。
「むぅ……それじゃ、この連休中何をしてたの?」
「何って……練習?」
軽く頬を膨らませながら聞いてくる今井さんに答える。
「疑問形で聞かれてもねえ……それに今の間、ちょっと怪しいな~。どれどれお姉さんにすべて話してみなさい」
だが、正確にはパスパレの練習を見ていたのだが、それを話してしまうと、色々とややこしいうえに機密情報漏洩と言われても嫌なのでぼかしたのだが、間を開けたことで今井さんの興味を思いっきり引いてしまったようだ。
まるで肉食動物を彷彿とさせるような勢いでニヤリと笑みを浮かべながら食い下がってくる今井さんだが、
「いや、僕と今井さんは同い年だから」
「……美竹君って、ノリが悪いって言われない?」
ツッコミを入れたら、先ほどまでのそれは何だったのか、呆れたような表情を浮かべながら言われてしまった。
「……ノーコメント」
よく言われているがゆえに、僕は逃げることを選ぶ。
そんなどうでもいいやり取りをしていると、横から視線のようなものを感じた。
「じ~~~」
その視線には怒りや妬みなどといった悪意は感じられないので、放っておいてもいいのだが
「じ~~~~」
思いっきり口から擬音を発していれば、嫌でも気にせざるを得ない。
「日菜さん、いったい何をしてるの?」
そんな謎の視線を送り続ける日菜さんに、疑問を投げかけると日菜さんは
「観察だよ」
とだけ答えて再びこちらを見続けていた。
……ご丁寧に”じ~~”という擬音付きで。
「「………」」
そんな日菜さんの謎の行動に、僕たちはお互い顔を見合わせる。
その時、”何かあったの?”と言わんばかりの表情で見てきたので、僕は”知らない”と返すのであった。
「それじゃ、少し休憩だ」
放課後、事務所のレッスンスタジオでいつものように練習をしていた僕たちは、田中君の号令で休憩となった。
(よし、行くか)
それぞれが集まって休憩をとっている中、僕は自分を奮い立たせる。
そして向かうのは、ペットボトル飲料を口にしている白鷺さんたちのところだ。
僕が近づいているのを知ったパスパレのメンバーと、啓介たちの間に緊張感のようなものが走っているのを感じた。
「白鷺さん」
「な、何かしら?」
名前を呼んだだけなのに、軽く後ずさられたことがちょっとだけショックだったが、それだけのことをしたのだから、当然だと自分に言い聞かせる。
今重要なのはそのようなことではない。
僕は、全員が僕の動きを見ている中、口を開く。
「この間は怖い思いをさせて悪かった。どのような理由があっても、僕のしたことは男として……人としてあるまじき行為だった。本当に、申し訳ない」
僕は深々と白鷺さんに頭を下げて謝った。
そのままの体制で、僕は白鷺さんのリアクションを待つ。
正直言って、ビンタの一発や二発は覚悟していた。
「えっと……頭を上げてくれないかしら? 私の方こそ、あの時は言いすぎてしまったわ。ごめんなさい」
白鷺さんのリアクションは、意外にも謝罪の受け入れだった。
「これで一件落着、ですねっ」
そんな僕たちの様子を見ていた若宮さんは、うれしそうな表情で声を上げる。
「そうね。これで一件落着、ね」
若宮さんの言葉がきっかけで、レッスンスタジオ内の雰囲気は和やかなものへと変わる。
(何だろう。この胸騒ぎは……)
僕が謝罪をしたことで、僕に対する反感は最小限に食い止められた。
だが、どうもすっきりとしない。
心の中がモヤモヤとしているのだ。
僕はこの一件が、まだ終わっていないのではないかと思わずにはいられなかった。
「それじゃ、これで練習を――「ちょっといい?」――……どうぞ」
後半の全員での練習を終え、解散しようとしたところで、田中君の言葉を遮るように森本さんが口を開いたのだ。
(今まで自分から割り込むようなことはしなかったのに……どうしたんだろう?)
僕は、一歩前に出た森本さんの様子を見守る。
「さっきの演奏の時、彩ちゃんの歌声は前よりも良くなってたわ。この調子で頑張ってね」
「あ、ありがとうございます」
森本さんは普段、それほど称賛の声を上げるような人ではない。
本人曰く、どのように言えばいいのかが分からないからとのことだが、そんな彼女が声をあげるほどに、丸山さんの腕前は上達していたようだ。
丸山さんも、褒められたことがうれしいようで、満面の笑みでお礼の言葉を口にしていた。
「確かに、全員の演奏技術は飛躍的に向上している。よって次回の練習は全体での演奏に重きを置いたメニューにしたいと思う。私からは以上」
森本さんに続く形で、僕は今後の練習メニューについてさわりを話す。
個人練習をしているらしく、そのことを考慮すればこの急激な上達も頷ける。
(とはいえ、それもここまでだけど)
僕の中では、ここから先が躓くポイントであると予想がついていた。
問題はそれをどのように克服するかだが、こればかりは現状詰んでいる状態と言っても過言ではない。
(皆と話さないとね)
これに関しては僕が一因にもなっているので、ちゃんと啓介たちに説明する必要がある。
僕は、解散したら啓介たちをミーティングルームに向かうように言おうと、考えながら次回の練習日を伝えている田中君の言葉を聞くのであった。
今年一年ありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。