波打ち際のオルタちゃん   作:ちゅーに菌

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どうもちゅーに菌or病魔です


鶏と聖剣

 

 

 

 俺は戦争が好きだ。

 

 理由なんてなかった。空を覆う程の数の天使に悪魔、そして堕天使。それらが怒号を上げながら組み合い、斬り合い、撃ち合いながら最後には地へと堕ちて行く。

 

 そこには慈悲も、容赦も、神も何もない。そんな時間を過ごす事が堪らなく好きだった。

 

 皆、そうだった。何せ俺たちは"堕天使"。狂い堕ちた天使なのだから最初から皆壊れていたのだ。

 

 万を越える天使を相手に殿を務めて笑いながら消えた仲間がいた。

 

 四大魔王を相手にし、刺し違えて消えた仲間がいた。

 

 少数で天界に侵入し、熾天使を後一歩まで追い詰めながらも呆気なく消えた仲間がいた。

 

 ソイツらはきっと……俺よりもずっと強かった。そして、皆自由に生き、理不尽に死んでいった。

 

 その結果だろう。

 

 戦争が終わり、気付けばグレゴリには俺のような堕天使は誰一人として残っては居なかった。

 

 

 

 俺はただ、死に場所を得られなかっただけだ。

 

 

 

 仲間たちと違って、満足の出来る死に場所を求め過ぎたが故に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっちまったな……」

 

 教会の聖剣使いが学園に来た次の休日。

 

 俺はいつもの防波堤で釣糸を垂らしながら昨日のことを考えていた。

 

 いつもそうだ。カッとなると頭が真っ赤になり、気づいたら感情の赴くままに行動して焼くか殺してまう。仮に本人(かぐやちゃん)が復讐なんて望んでいなかったとしてもだ。

 

 親父譲りと言えばそれまでだが、誉められた質ではないことは誰よりも俺が自覚している筈なのにな。

 

『Aaaaa――』

 

 俺の右隣にいるティアマトさんが何故か俺の頭をナデナデしてくるため、妙な気分である。

 

『こけー』

 

 俺の左隣にいる"ゾーくん"も俺を激励してくれている。

 

『こけー、くわー』

 

 更にゾーくんに"悩み事なんてオメェらしくねぇぞ"ともっともなことを言われてしまったな。

 

 いや、全くその通りだ。

 

『Aaaaa……?』

 

 ティアマトさんはゾーくんに視線を向けて疑問符を上げた。

 

「あれ? ティアマトさんはゾーくんと会うの初めてですか?」

 

『Aaa』

 

 どうやら初めてだったらしい。俺の家の者は皆、ゾーくんのことを知っているので自然と知っているものだと思い込んでいた。

 

 俺はゾーくんに目を向けながら口を開いた。

 

「ゾーくんは俺の"使い魔"なんですよ」

 

 それは黄金色の身体に赤い鶏冠をした尾羽の長い雄鶏だった。今は元の大きさよりも遥かに小さく、10m程の大きさになっており、鳥類特有の座り方で隣に座っているので大変可愛らしい。

 

 ちなみにゾーくんの背中は絶好の昼寝スポットだ。もっふもふの上に温かく、呼吸に合わせてゆっくりと少しだけ上下するので揺りかごなんて目ではない。まあ、流石に今はそんな気分じゃないのでしないがな。

 

『こけー』

 

『Aaaaa――?』

 

『こけ?』

 

『Aaaaa――Aaaa――』

 

『くわー』

 

 二人は自己紹介を終えた。ティアマトさんは原初の女神だというのだからゾーくんもビックリだ。ちなみにゾーくんのフルネームは"ヴィゾーヴニル"という時計メーカーみたいな響きのとてもカッコいい名前である。

 

「ゾーくんはユグドラシルの一番高いところの枝に住んでいるんですよ。後、"魔剣レーヴァティン"以外じゃ殺せないんですって」

 

『こけー』

 

 "そのレーヴァティンはオメェが持ってるけどな"とゾーくんは言った。

 

「まあ、確かに持ってるけどさ……」

 

 俺は異空間を開き、その中から"赤紫色の剣身に黒い柄と模様が特徴的な剣――魔剣レーヴァティン"を抜き出す。

 

 出しただけで辺りの空気が変わり、殺伐としたものとなった。周囲にいたティアマトさんとゾーくんを除くあらゆる生き物がレーヴァティンから逃げるように大移動を開始して、魚や鳥は兎も角、波消しブロックの隙間にいた大量のフナムシが一斉に逃げる様はあんまり気持ちのよい光景ではない。

 

「なんでこう使わないモノばっかり増えていくのかな……」

 

 親父がことあるごとに世界中の武具やら宝具やらをプレゼントしてくる兼ね合いで、伝説の剣なんて腐るほど持っているのである。元々、拳が武器なのになんでなんだろうな。

 

 まあ、レーヴァティンに関して言えばゾーくんに尾羽で引き換えれるということを聞き、折角ならと俺が貰って来たので全面的に俺が悪い。なので捨てることも出来ない。

 

『こけー』

 

 ゾーくん曰く、"宝ってのは持つべき者のところに勝手に集まるもんさ"だそうである。集まったって仕方がないから嬉しくないのだがな……。

 

 ちなみにある一定以上になると剣は意思を持つため、レーヴァティンも例に漏れず意思を持つのだが、魚を捌くと何が不服なのか身をズタズタにした上で不味くしやがるので刺身包丁には使えない。咎人の剣を見習いなさい全く。

 

「さて……」

 

 会話をして少し気分が落ち着いたので頭を整理しよう。

 

 まずゼノヴィアという名前の教会の聖剣使い。教会の聖剣使いという大きな括りでジャンヌの復讐対象のひとつだ。まあ、それだけならばあわよくば殺したい程度のものだ。ジャンヌと直接関わりがあるわけでもないしな。

 

 問題は紫藤イリナという名の聖剣使い。彼の父親の紫藤トウジはかぐやちゃんの両親を一度殺したのだ。にも関わらずこの学園に来れたのはやはり何も知らないからであろう。 実に俺の嫌いな盲信者らしい。

 

 いや、もしかしたら知っていたのかもしれない。その上で部室でのあの態度を取れていたのなら、心の底から悪魔というものを蔑んでいたのだろう。

 

 どちらにしても殺意が沸く。何故お前はのうのうと生きていられるんだ。

 

 ああ……やはりあの時、殺しておけば――。

 

『Aaaa――』

 

『こけー!』

 

「はぁ……」

 

 そこまで考えたところで背中を擦り始めたティアマトさんと、雄叫びを上げて叱ってきたゾーくんに意識を向けて思考を止めた。これ以上考えれば俺は再び紫藤イリナの前に赴くことになるだろう。もし後者だったのならば、何を仕出かすは自分でも容易に予想出来る。

 

 …………誰でもないかぐやちゃん自身が喜ばないのならばこれ以上考える意味もない。

 

 それよりも明らかにエクスカリバーに対して憎悪を抱いていた木場くんのことを思い返した。

 

 彼のことはあまり知らないが、それでもジャンヌと似たような経歴なことはなんとなくわかる。幸いにもと言うべきか、彼の憎悪が向いているのは教会ではなく、エクスカリバーそのものに感じた。

 

 あまり、自分から他人の暗い過去に首を突っ込む気はないが、俺もそのエクスカリバーの内一本を保有してしまっている。だったら既に乗り掛かった船ではないだろうか。

 

「そうだな……」

 

『Aaa――Aaa――』

 

『くわっ、くわっ』

 

 何故かティアマトさんとゾーくんもウンウンと頷いている。

 

 俺は携帯の電話帳を開き、オカルト研究部に入部した時に交換した宛先の中から"木場くん"と書かれたものを選択して電話を掛けた。

 

 数回のコールの後、木場くんが電話に出る。その声は何処か寂しげで覇気がなく思い詰めたように感じる。

 

 俺は単刀直入に用件を話すことにした。

 

「もしよければなんだが……君の過去について教えてくれないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は今、部長には秘密で聖剣を破壊するため、小猫ちゃんと会長眷属の匙、それとかぐやちゃんと木場の4人に、ゼノヴィアとイリナを合わせた6人でファミレスにいた。

 

 呼べる人がいなかったからダメ元でかぐやちゃんを呼んでみたんだが、まさか来てくれるとは思わなかった。後、"一人の知り合い"にも声を掛けたら来てくれるそうなので驚きだ。

 

 葵とジャンヌは流石にちょっと呼ぶ勇気がなかったな……。

 

 ちなみにかぐやちゃんはあのカミングアウトの後、何かの力になれるかも知れないという部長の進言でオカルト研究部に入部することになった。今は同じ部員だ。

 

「イッセーくんその……どうして愛宕さんは私を殺そうとしてきたの……?」

 

 ファミレスのメニューを平らげた後、イリナはとても気まずそうな様子でそう聞いてきた。

 

 正直、俺もジャンヌから大まかにきいただけだからよくは知らないので、どう言おうかと考えていると少し困り顔のかぐやちゃんがポツリと呟いた。

 

「あはは……イリナさんのお父さんに"八重垣"という名前について聞いてみるといいですよ。忘れていなければきっと……ね」

 

 そう笑顔で言うかぐやちゃんだあったが、葵と一年ダチの俺にはわかる。あれは絶対笑ってる時の目じゃない……。

 

「ンッ、それでもう一人の知り合いというのは誰なんだ?」

 

 その場の空気が悪くなったのを感じていると、ゼノヴィアが咳払いをして話題を変えたので俺もそれに続く。

 

「ああ! 本当に知り合いなんだけど――」

 

 

「お待たせしました」

 

 

 俺が話始めた瞬間、非常に聞き覚えのある声をとても優しげな声色で投げ掛けられてそちらを向いた。

 

「まさか……」

 

「ウソっ!?」

 

「………………」

 

 ゼノヴィアとイリナと木場も驚いた様子で目を見開いている。

 

「こんにちは皆さん。"ジャンヌ・ダルク"と申します」

 

 それはジャンヌのお姉さんの"ジャンヌさん"だった。

 

 とても人当たりのいい笑みを浮かべているとてつもなく美人のジャンヌさんは見ているこっちが浄化されそうだ。ちなみにまだ人間だった頃に葵の家に遊びに行った時に偶々いて、葵の友達なら何かあった時頼って欲しいとメアドを交換したんだ。

 

 ジャンヌさんは溜め息を吐き、少し眉を潜めながら口を開く。

 

「用件はイッセーくんから聞きました。教会保有のエクスカリバーが堕天使コガビエルよって奪われ、プロテスタントとカトリック教会のあなた方が捨て石として寄越された。正教会は残ったエクスカリバーの守備を固め、我関せずを貫いている……と」

 

 それだけいうと再びジャンヌさんは笑顔に戻る。しかし、その笑みはどこか凄味があり、その場の全員がたじろぐ程だった。

 

「すみません……少し天界を通して全ての教会の方にお話をしてから来ましたので遅れてしまいました」

 

 何故かその"お話"という言葉にとても冷たいものを感じるんですけどなんでだろう……。

 

「由々しきことです。今のような時代だからこそ、真の和平を望むのなら教会と教会どころか、悪魔や堕天使の方々とも分け隔てなく手を取り合うべきだというのに……」

 

「じゃ、ジャンヌ様それはあまりに……」

 

「プライドや(わだかま)りで誰かが救えるのならば私もそうしましょう。それでかの者たちを野放しにした結果、罪もない誰かが犠牲になった時にどうするのです。仕方がなかったと、その都度思うのですか? 逃げ込んだ場所が悪魔の領地だからと、そこに住まう無辜の民だからと理由をつけて……それこそ私には出来ません。私がやれることをするだけです」

 

「ジャンヌ様……」

 

 それにしても誰だろうこの聖女みたいな人は……? 俺の知っているジャンヌさんは冬には芋ジャージ、夏にはほぼ水着で家を彷徨いて、ジャンヌか葵に食べ物をせびっている人なんだけど……。

 

「それにしても――」

 

 ジャンヌさんはゼノヴィアとイリナが平らげた空になっているお皿を眺め、唇に指を当てながらとても寂しそうな瞳で唇を震わせた。

 

「私の分はないんですか……?」

 

 あ、この人ジャンヌさんだ。俺は安心感さえ抱いた。

 

 

 

 

 

「ああ……幸せです」

 

 尚、俺たちの財布がジャンヌさんによってすっからかんにされたのは言うまでもない。物理的に高くついたな! くそう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全然いないな……」

 

「いませんねぇ……」

 

 ファミレスのやり取りから数日後の放課後。俺たちは公園で途方にくれていた。合いの手を入れくれたかぐやちゃんも困り顔だ。

 

 というのも何故か最近になってパッタリと教会の人間を襲う行為が止んでしまったからだ。

 

「不思議ですね。まるで動きを見せません」

 

 ジャンヌさんがいるためかその後ろにゼノヴィアとイリナもいるため7人で作戦を練っているところなのだが、相手が動かない以上はどうすることも出来なかった。

 

「本拠地さえわかればすぐにでも殴り込みに行くのですが……」

 

「ジャンヌさん……?」

 

「ジャンヌ様……?」

 

 気のせいかも知れないが、ジャンヌさんってスゴく脳筋なのかも知れない。

 

「おや? 葵さんですね」

 

 するとジャンヌさんのスマホに電話が入ってそれに出た。どうやら相手は葵のようだ。

 

 葵の名を聞いたイリナが少し怖がったような様子をしていた。葵怒ると本当に怖いもんな……。

 

「大切なお話ですか? わかりました。少し席を外しますね」

 

 それだけ言ってジャンヌさんは公園の外れまで向かう。

 

 勿論、誰もそれを止めず、今後どうするかについて話し合っている時にそれは起こった。

 

 

 

「やっほー、悪魔クンたち」

 

 

 

 聞き覚えのある声に視線を向けると、そこには神父服を来た白い頭の野郎――フリードがそこにいた。

 

「いやー、何分娑婆の空気は久し振りでしてねぇ……真っ先に悪魔クンたちに会いに来たよ!」

 

 そう言いながら獰猛な笑みを浮かべてエクスカリバーの切っ先を俺たちに向けて構えるフリード。

 

 それに俺たちは反応し、思い思いに神器を出現させたり、聖剣を解放して対応した。

 

「フリード・セルゼン。反逆の徒め。神の名の元、断罪してくれる!」

 

「ハッ! 神にすがらなきゃ俺っちひとり殺せねぇってか!」

 

 真っ先にフリードに殺到したゼノヴィアが破壊の聖剣を振るう。それだけで終わるんじゃないかと思うぐらい二人の攻撃は正確だった。

 

「遅せぇ!」

 

「な……!?」

 

 だが、フリードはそれを何倍も上回っていた。

 

 まるで"葵のように"の破壊の聖剣を片手で持ったエクスカリバーで受け流し、逆に鋭い蹴りがゼノヴィアの脇腹に入る。

 

 ゼノヴィアは一旦引き、イリナが擬態の聖剣でフリードと打ち合ったが、数秒と持たず身を引いてフリードから離れた。

 

「強い……なにこれ……エクスカリバーの力も使ってないのに!?」

 

「ぐっ……何故はぐれ神父がこれほどまで……」

 

「そりゃそうよ! だってさ――」

 

 フリードは大きく溜め息を吐き、落ち着いた口調で呟いた。

 

「師が……"イカれた化け物共"だったからな……」

 

 何故かその目は焦点が合っておらず虚ろで、明らかにこの前とは様子も実力もまるで違うフリードに面食らう。

 

「くっ……くそっ! 伸びろ、ラインよ!」

 

 匙の手元から黒く細い触手らしきものか伸び、フリード目掛けて飛んでいったのを見て意識を戻した。

 

「ああん……?」

 

「なに……!?」

 

 しかし、フリードはエクスカリバーの切っ先を少し光らせて、匙の触手を当たる前にプツリと断ち切っていた。

 

 そして、フリードの姿がブレて気がつけば匙の目の前に立っていた。

 

「匙!?」

 

「おいたが過ぎると死んじゃうよーん?」

 

 そう言いながらエクスカリバーを匙に振りかぶるフリード。

 

(間に合わねぇ……!?)

 

そう感じた次の瞬間、フリードはその場から飛び退いた。

 

 その直後、フリードのいた場所に魔力で造られた無数の剣が突き刺さり、剣山のようになった。匙は腰を抜かして後ろに倒れる。

 

「今のを避けますか……」

 

 声の方向を見ると、そこには困り顔を浮かべたかぐやちゃんがいた。

 

 しかし、いつもと明らかに違うところは"数百本はあるのではないかという無数の魔力で造られた剣が周囲に浮いている"ことだ。

 

「不服ながら剣士としては一流ですね」

 

 そう言いながらかぐやちゃんは指を動かすと、匙の目の前に刺さっていた剣が全て地面から抜けて宙を舞い、フリードへと殺到した。

 

「チッ!? なんだこりゃ!?」

 

「私の悪魔としての魔法の形。"魔法剣(ルーン・ブレード)"です」

 

 その言葉と共にかぐやちゃんの周囲にある全ての魔法剣がフリードへと向かい、横殴りの雨ように襲いかかった。

 

「素手で剣を振るうだけが剣術ではないのですよ?」

 

「へっ……いいね! 上等じゃねぇか! 天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)!」

 

 次の瞬間、フリードのエクスカリバー――天閃の聖剣が輝き、それまでよりも更に速い速度でフリードが動き、次々と魔法剣を破壊して行った。

 

 しかし、かぐやちゃんも無尽蔵なのかと思うような速度で魔法剣を増産して飛ばしているため拮抗している。

 

「先輩、行って下さい」

 

「ああ……!」

 

 そんな剣の嵐の中、木場がフリードへ突撃する。かぐやちゃんの魔法剣は綺麗に木場だけを避けてフリードへと向かう。

 

「私たちも行くぞ!」

 

「ええ!」

 

 復帰したゼノヴィアとイリナも魔法剣の中に入ったが、やっぱり魔法剣は二人を避けてフリードだけを攻撃していた。

 

 魔法の才能がからっきしな俺はわからないが、途方もないぐらい高度な魔法なんだろうな……。

 

「はぁぁぁぁ!」

 

「舐めんなよッ! こんなもん生温いんだよッ!」

 

 フリードは魔法剣の処理をしながら木場とゼノヴィアとイリナを相手取り始めた。既に目で追えないレベルの速度でフリードは常に動き続けており、どうやって対処しているのか見ていても全くわからない。

 

 俺と子猫ちゃんは味方を巻き込まずに攻撃を行えなかったり、邪魔になる可能性があったりするため、拳と神器を構えながらことの成り行きを眺めていた。匙は触手を何度も投げているが当たる様子はなかった。

 

「…………いったい何れ程の地獄を潜り抜ければあれほどの域まで達するというのですか……?」

 

 今も魔法剣を造りながら飛ばし続けているかぐやちゃんはそんな言葉を漏らす。

 

 やれることを思い付き、かぐやちゃんの魔法剣を倍加してみたが、フリードはそれでも全く鈍らずに交戦を繰り広げていた。

 

 フリードひとりに俺たち全員で悪戦苦闘している矢先、魔法剣の嵐の中にもう一人の人物が疾風のように入り込み、手にしていた剣を振るう。

 

「ぐうぅ……!?」

 

 するとその一閃で魔法剣の嵐の中からフリードが弾き飛ばされた。天閃の聖剣でガードはしていたようだが、それでも十数m吹き飛ばされた様子を見るにとんでもない力だったようだ。

 

「遅れて申し訳ありません」

 

 フリードを吹き飛ばした人物はジャンヌさんだった。ジャンヌとは違い、銀色を基調にした剣を持っている。

 

「チッ!? "オリジナル"か……流石に分が悪いな」

 

「待ちなさい!」

 

「待てと言われて待つものがありますかぁ!」

 

 それだけ言ってフリードは逃げ出す。即座にジャンヌさんが追い、その後に木場とゼノヴィアとイリナも続く。

 

 直ぐに四人は消えて俺と子猫ちゃんと匙、それから意外にもかぐやちゃんが残され、戦闘体勢を解いて息を整えた。

 

「かぐやちゃんは行かなかったのか?」

 

「私は他の方のような使命も目的もありませんから。聖剣は欲しいですけど……それよりその……」

 

 魔法剣を一瞬で全て消しながらそう呟くかぐやちゃん。その瞳は何故か不安げで掌で俺の背後を指していた。

 

「後ろを見た方が……」

 

 その言葉に従って後ろを振り向く。

 

 するとそこには青筋を浮かべた部長と会長の姿があり、俺たちは顔を青くした。

 

 

 

 






~葵くんの使い魔~

ゾーくん
 ユグドラシルのもっとも高い枝に止まってユグドラシルを明るく照らしている黄金色をした巨大雄鶏"ヴィゾーヴニル"の愛称。葵の友人であり使い魔。たまに葵の元に遊びに来る。アホみたいな話なのだが、この鶏は下手な神話の生物やドラゴンが足元にも及ばない程強く、また魔剣レーヴァティン以外では殺すことが不可能な真の不死者――もとい不死鶏である。



~葵くんの所有物~

レーヴァティン
 ヴィゾーヴニルの尾羽を巨人スルトの妻であるシンモラに渡せば引き換えに入手出来る伝説の魔剣。しかし、ヴィゾーヴニルを唯一殺せる武器はヴィゾーヴニルの尾羽から造られたレーヴァティンのみのため、堂々巡りの謎かけを解かなければ入手不可能。そのため、長年解かれることはなかったのだが、数年前に葵がシンモラにヴィゾーヴニルの尾羽を渡し、レーヴァティンの所有者となった。その上、ヴィゾーヴニルを使い魔にするという北欧神話体系を震撼させることをやってのけた。
 葵が取った方法は子供でも思い付くような単純なこと。ヴィゾーヴニルと暫く一緒に過ごし、友達となってヴィゾーヴニルの話を聞き、ヴィゾーヴニルの欲しいものと引き換えに尾羽を少し貰うという、とてもほんわかした方法であった。
 ちなみに尾羽と交換したモノは"日本の卵用鶏の配合飼料"。食べたヴィゾーヴニル感想は"俺よりよっぽど上等なもの食ってるじゃねーか"だったらしい。また、使い魔になった理由はいつでも葵の元に転移出来るようになるからである。決して日本の卵用鶏の配合飼料の味を覚えたからではないとヴィゾーヴニル自身は否定している。
 そもそも葵が思い立った動機は小学6年生の夏休みの自由研究。でっかい鶏というだけで興味を引かれ、ヴィゾーヴニルの観察を夏休みの自由研究にしたところ、提出前にジャンヌに差し止められ、無難なモノを出すことになった。
 ちなみに魔剣レーヴァティンの性格を例えると"無気力で面倒くさがり、非常にクールで他人と絡むことを嫌がり、奔放で孤高に見えるが、根は意外と寂しがり屋。また、我がままを装っていながら他人のことを慮っていたり等、本心を表に出さないシャイな一面もある。なによりも基本的にはいい子"とのこと(葵談)

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