波打ち際のオルタちゃん   作:ちゅーに菌

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どうもちゅーに菌or病魔です。

前回からなんとなくわかると思いますが、とあるキャラをきれいにしております。


烈火

 

 

 

「何故、休戦協定を結ぼうとしない?」

 

 俺はある日、アザゼルにそう問い掛けた。返事より先に帰ってきたのはとても驚いた様子だった。

 

 柄ではないことは俺が一番わかっている。しかし、俺はどうしても知りたかった。

 

 戦争屋が消え、腑抜け切った思想家の堕天使だけが残るこのグレゴリで、今さら協定を結ばない理由があるとは思えなかったからだ。

 

 もっともそれをアザゼルに伝えれる程、俺は口が上手くはない。良くも悪くも戦争だけが取り柄なのだから。

 

「……それは――」

 

 アザゼルは重い口を開いた。

 

 残った堕天使たちは反対派が少なからずいるからだという。根からの戦争屋ではなく、元より戦争に消極的な連中の中でそのような対立が起きていたことに驚いた。

 

 そして、同時に確信する。

 

 ソイツらは今さらながら死んでいった仲間たちの責を感じているのだろう。煮え切らないことに内心では協定を望みながらも、屍を積み重ね過ぎた結果、その上に築かれる和平に後ろ暗さを感じているのだ。

 

 反吐が出る話だ。俺のような奴らは……誰一人として誰かの為に戦ったような存在ではなかったというのに。

 

「何か切っ掛けがあればな……」

 

 アザゼルは溜め息を吐きながら誰に伝えるわけでもなく小さくそう呟く。

 

 偶々それを耳にした俺はほくそ笑んだ。なんだ、そんなことか。全く理解に苦しむよ。簡単なことではないか。

 

 そのまま踵を返した俺をアザゼルは目を丸くして眺め、部屋から出る直前に声を掛けてくる。"何処かへ行くのか?"と。

 

 俺は振り向き、呆れ顔を作って溜め息を漏らす。

 

「お前は昔から温いなアザゼル」

 

 それだけ言ってアザゼルの執務室を後にした。きっと、アザゼルと顔を会わせることは二度とないだろう。

 

 そう思うと少しだけ後ろ髪を引かれるのは、俺もまた腑抜けてしまったからだろうな。

 

「クククッ……そんなもの……一言、俺に命じればいいものを」

 

 その呟きは誰に聞かれることもなく吐かれ、そのまま俺はグレゴリを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリードと交戦した深夜。葵とジャンヌ以外のオカルト研究部とジャンヌさんとゼノヴィアは結界の張られた駒王学園の内部にいた。

 

 あの後、フリードを追ったジャンヌさんたちは拠点を発見した。そこには木場の仇のバルパー・ガリレイの姿もあったそうだ。

 

 そのまま突撃して交戦したところ如何にジャンヌさんと言えども、聖書の堕天使コカビエルと、前よりも遥かに強くなったフリードを相手にするのはキツかったらしい。イリナが傷を負ったことを皮切りに状況が傾き、ゼノヴィアも負傷はないが、破壊の聖剣を落としたことで、イリナをジャンヌさんが背負う形で撤退した。

 

 結果的に破壊の聖剣と、擬態の聖剣は奪われてしまった。

 

 それから深夜にもう一度、今度は負傷しているイリナ以外の全員で攻撃を仕掛けようと考えていたところ、集まっていた俺の家にコカビエルがやって来て駒王学園に来いと誘われ、今に至る。

 

 "戦争をしよう"とコカビエルが言っていたのが、嫌に印象に残った。

 

「――っ!?」

 

 俺はあまりに異様な光景に言葉を失った。他の者も皆同じようだ。唯一、ジャンヌさんだけが驚いた様子を見せていない。

 

 校庭の中央には()()の聖剣エクスカリバーが神々しい光を発しながら、宙に浮いている。それを中心に怪しい魔方陣が校庭全体に描かれていた。

 

 魔方陣の中心には初老の男――バルパー・ガリレイの姿があり、その隣にはフリードの姿がある。更に空中にはコカビエルが立ったまま浮いており、面白そうな様子でエクスカリバーを眺めていた。

 

 

 そして何よりも――。

 

 

 バルパー・ガリレイとフリードの向かい側に"葵とジャンヌ"の姿があったのだ。

 

「なん……で……?」

 

 意味がわからなかった。何故、葵がそんなところにいるんだ。

 

 驚き戸惑う俺たちを葵は一別するとバルパー・ガリレイに向かって話し掛けた。

 

「おい、後どれぐらい掛かる?」

 

「10分は欲しいところだ……まさか、喪失したとも言われていた支配の聖剣まで揃うとは考えていなくてな。支配の聖剣の性質が中々に難解で術式を馴染ませるまで5分程時間が――」

 

「ああ、焦れったい……もう、ご到着だ。そんなに待ってられるか……退け」

 

 葵は中央に浮いていた支配の聖剣の柄を掴む。そして、支配の聖剣に炎を纏わせ、それを中心に他のエクスカリバーに繋がるように炎の線が伸びた。

 

 そして、支配の聖剣に吸いつけられるように全ての剣身が密着して融解すると、目を覆うほどの光が辺りを覆った。

 

 それが終わると葵の手には一本の聖剣エクスカリバーが握られていた。

 

「どうだ?」

 

「おお……素晴らしい……完璧だ」

 

「そりゃ、良かった」

 

 葵は聖剣エクスカリバーの出来をバルパー・ガリレイに見せてから肩に担いだ。

 

「術式の方はどうなった?」

 

「ああ、今の光で下の術式は完成した。後、20分もしないうちにこの街は崩壊するだろう。解除するにはコカビエルを倒すしかない」

 

「なんですって……!?」

 

 とんでもなく衝撃的な発言に部長は声を上げる。俺も叫びたい気持ちでいっぱいだった。でも、それ以上に葵とジャンヌが敵側にいることが衝撃でそれどころではない。

 

「いやー、葵の旦那良かったっスねぇ」

 

「ああ、そうだフリード。あんなに相手をさせて悪かったな。ジャンヌさんまで来るとは誤算だった」

 

「いやいやいやいやいやいや! あんなのアレに比べたら全然――」

 

 妙にフリードと親しげな様子の葵は異空間を出し、そこから一本の剣を引き出した。

 

 それは赤い剣身をしたやや大きめの剣だった。

 

「お前の剣も一本になっちゃったからな。迷惑料も兼ねてこれをやるよ。バイト代だと思ってくれればいい」

 

 そう言いながら葵はその剣をポカンとしているフリードに手渡した。

 

「"モラルタ"だ。ケルト神話に登場するフィアナ騎士団の1人・ディルムッド・オディナの剣だな。流石に六本も合わさったこのエクスカリバー程ではないだろうが、それでも天閃の聖剣よりは確実に良い剣だぞ。どちらかというと破壊の聖剣寄りの性質だが、何よりあんなに簡単にバキバキ折れない」

 

「…………………………マジで?」

 

 唖然とした表情で剣と葵を交互に見るフリード。するとモラルタが薄く発光し、フリードにその光が宿るような現象が起きた。

 

「お、よかったな。モラルタに認められたぞ。フリードに是非とも振られたいそうだ」

 

「マジか!? よっしゃぁぁぁ! 一生ついて行きますぜ旦那!」

 

 あ、あれ……? なんか葵いつもと変わらなくないか……?

 

「バルパー・ガリレイ!」

 

 そんな中、木場がバルパー・ガリレイに向かって叫んだ。

 

 そして、木場が聖剣計画の生き残りだということを話すと、バルパー・ガリレイは勝手に自身のことを話始めた。

 

 それによれば木場のかつての仲間たちはバルパー・ガリレイの欲望のままに聖剣因子を抽出するためだけに殺されたのだ。

 

 更に煽るように因子の結晶を木場に投げ付けた。その際、フリードに因子をふたつ使ったといっていたが、フリードも葵もジャンヌも黙ったまま返答することはなかった。

 

 そして、奇跡が起きる。因子の結晶から木場の仲間たちの魂が溢れ、聖歌を歌ったんだ。そして、仲間たちの優しい言葉と共に木場に仲間たちの力が宿り、禁手(バランスブレイカー)に至った。

 

 そして、覚悟を決めた木場の手には魔剣と聖剣が一体の剣――"聖覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)"が握られていた。

 

 その一部始終を眺めていた葵はボツリと呟く。

 

「さて……じゃあ、行ってくれフリード、ジャンヌ」

 

「了解しやしたぁ!」

 

「はいはい、わかりましたよ」

 

 その言葉と共にフリードとジャンヌがこちらに向かってくる。よく見ればジャンヌはレーティングゲームの時と同じようなフル武装だった。

 

 それに俺達は警戒を強め、戦闘体勢を取る。

 

 そんな最中、ジャンヌさんだけが深い溜め息を吐き、肩を竦めてから口を開いた。

 

「お姉ちゃん……騙すようなことはあんまり好きじゃないんですよ?」

 

 その言葉の直後、こちらまで後数mというところまで来ていたフリードとジャンヌは足を止め、踵を返して葵とバルパー・ガリレイの方へと向いた。

 

「残念だけど俺っちは葵の旦那についてくし、ジャンヌの姉御は旦那のものなんで、悪魔くんたちと戦う理由はもう無いんですわ」

 

「ば、馬鹿!? な、何言ってんのよアンタ!?」

 

「は……? 何をして――」

 

 次の瞬間、バルパー・ガリレイの腹からエクスカリバーの切っ先が生えた。

 

「なっ!? あ……が……何を!?」

 

「んー? 大好きだったエクスカリバーをその身に受けれて幸福だろ?」

 

 そのまま葵はエクスカリバーにバルパー・ガリレイを突き刺したまま天に掲げるように持ち上げた。

 

 そして、更にエクスカリバーの剣身が輝き始め、それを見たバルパー・ガリレイの表情が真っ青に変わる。

 

「や、やめて――」

 

「その言葉……木場の仲間たちを殺す前に言うんだったな」

 

 次の瞬間、エクスカリバーの剣身がバルパー・ガリレイの体内で枝分かれし、全身のあらゆる箇所を貫き、樹のようになった。到底マトモに直視出来るような光景ではない。

 

 しかし、急所は全て外しているようでバルパー・ガリレイの息はある。

 

「ゴミのように死ね」

 

 葵その言葉の直後、エクスカリバーはイリナがしていたように紐のような大きさまで縮む。それに従ってバルパー・ガリレイは地面に落ち、空いた穴全てから血が吹き出した。

 

「あ……あぁ……助け…………へ……」

 

 それがバルパー・ガリレイの最期の言葉だった。すぐにバルパー・ガリレイは言葉を話せなくなり、小刻みに震えるだけになった後、やがて動かなくなった。失血死したのだろう。

 

 葵はそれを終始つまらなそうに眺めていた。

 

「ククッ……哀れなものだな」

 

 コカビエルはバルパー・ガリレイに対してそんな感想を述べていた。

 

「コカビエル」

 

「なんだ?」

 

 葵はコカビエルに声を掛けた。そして、エクスカリバーを突きつけながら言葉を吐く。

 

「お前は次だ」

 

「ああ、俺は何でも構わんよ」 

 

 コカビエルは嬉しそうにそう返す。葵はエクスカリバーを肩に担いでコカビエルへと向き合った。

 

「しかし、聖魔剣か……聖書の神が死したことで新たな力が生まれるとはな。皮肉なものだ」

 

「なんだと……?」

 

 ゼノヴィアがコカビエルが呟いた内容に反応した。

 

 聖書の神の死だって……?

 

「奇妙だとは思わんか? 聖と魔は水と油だ。本来混ざり合うことはまず有り得ない。もし、それが混ざったのだとしたら、原則そのものが歪められたからと考えるのが自然だろう」

 

 コカビエルは薄く笑いを浮かべながら口を開く。

 

「死んだのだよ。四大魔王や、グレゴリの幹部のように、聖書の神もまたな」

 

 それはとんでもない事実だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 コカビエルは聖書の神の死について話ながら今の状況について考えていた。

 

(ひとりぐらい魔王か熾天使が出てくると思っていたのだがな……)

 

 結果は若い者たちばかりであり、望んだような相手ではない。動かないことで、それ程までに他の陣営は和平を望んでいるのかと考え、コカビエルは何とも言えない気分になる。

 

「無責任なモノだ。バルパー・ガリレイを見てもわかるように、これだけ教会に狂気をばら蒔いておきながら、己は死んでいる。ククッ……聖書の神の底も知れるというものだ」

 

 そのうちに聖書の神の死についての話は終わり、辺りを見渡すと、その場の大多数が衝撃を受けている様子であり、特に教会の聖剣使いと、グレモリー眷属の僧侶の動揺は見て取れる程であった。

 

「それがどうした?」

 

 間違いなく聖書の神の死を知っているであろうジャンヌ・ダルクの転生体が何か言ってくるのではないかと考えていると、意外にも口を開いた者はコカビエル自身も含めてこの中で最大の戦闘能力を持ち、教会を明らかに嫌った様子の"愛宕葵"であった。

 

「貴方の信じる神が狂気でないのならそれは良い事だろう。長き歴史の中、人の狂気が神の狂気だ」

 

「ほう……?」

 

 コカビエルの言葉を肯定した葵に対して、コカビエルは小さく声を上げる。

 

「歴史的な善行でさえ、後世で悪行と言われる事もある。十字軍遠征も当時は紛れもなく正義であった。しかし、現在では悪行だ。時代とは残酷であり、それは神のせいではない。人と国、そして時代のせいだ」

 

 葵は言葉を区切り、語りかけるような様子でまた言葉を紡ぐ。

 

「故に神は人の狂気であると同時に、神とは人の善意にある。それを否定した時、人の善意を否定し、神をも否定する。神の死とはそれそのものだ」

 

 葵から吐かれる言葉をコカビエルだけでなく、ゼノヴィアやアーシア、そして教会を憎悪していた木場やフリードすらも聞き入っていた。

 

「生も死も、悪魔も堕天使も"人であった"のならば関係はない。神とは人の善意。人が罪を犯す事は仕方がない故に全ての原罪は神の子が背負った。そして、迷える子羊を憐れみ、また憐れむようにとも伝えた。それは幾世を経て尚、数多の者達の心の拠り所となっている」

 

 話を聞いていた姫島朱乃は自分でも気づかないうちにうっすらと涙を浮かべていた。

 

「さて、問おう。コカビエル」

 

 話を終えた葵はコカビエルを見つめ、こう問い掛けた。

 

「今の答えのどこに神が物質として生きている必要がある?」

 

 故に葵はこう言いたいのだろう。神が不在であろうとも人々の心の中にこそ神が宿り、その信仰は最初から完結したモノであった……と。

 

「大層な御託を、クリスチャンなのかお前は……?」

 

 コカビエルは問いには答えず、呆れた様子でそう問い掛けた。しかし、その表情には面白い者を見たような様子が見え隠れしている。

 

「いや、母親が聖女マルタなだけだ。神と人との物語。そして、その精神を嫌というほど聞かされて生きて来たからな」

 

「フフ……くわばらくわばら。想像しただけで気が滅入りそうだ」

 

「大丈夫、気が滅入る前に拳が飛んで来る。飽きはしなかったよ」

 

 会話をしながら葵は翼を広げ、空へと浮き上がり、コカビエルと同じ高さで静止した。

 

 そして、異空間を出して何故かエクスカリバーを収納したかと思うと、代わりに"ソレ"を引きずり出した。

 

「なんだそれは……?」

 

 それを一目見てコカビエルは唖然としながら全身に伝わる震えを感じた。見れば葵以外の者達も一様に似たような状態だと思われる。

 

 それは余り飾り気のない無骨な剣だった。

 

 しかし、それが纏う剣から放たれているとは到底思えない重圧と、途方もない程の殺気。そして、長年の直勘から絶対に相手をしてはならないと本能的に感じていた。

 

「これは"咎人の剣"だ。本気で相手をしてやる」

 

「ああ、そうか……それは楽しみだ!」

 

 それに対してコカビエルが感じたのは歓喜であった。

 

(ククッ……ここが俺の死に場所か)

 

 自身の生涯最期の相手には、葵は役不足な程だったからだ。四大魔王や熾天使より当たりを引けたのではないかとコカビエルはほくそ笑んだ。

 

 そして、次の瞬間、葵の全身が炎に包まれる。あまりにも強過ぎる業火のためか、葵の存在そのものが変質したのか、その姿はまるで翼が生えた人型の生きた炎そのものである。

 

 唯一、咎人の剣だけが炎を受けずにそのままの姿で葵に握られており、返って異彩を放っていた。

 

 

焦熱地獄(しょうねつじごく)

 

 

 ポツリと呟かれたその声は自体は葵のものだが、魂に直接語り掛けられるようであり、耳を塞ごうとも聞こえる奇妙なものと化していた。

 

 焦熱地獄は常に極熱で焼かれ焦げる状態に陥る中で、更に様々な責を受ける地獄だ。

 

 焦熱地獄の炎の熱さは、他の地獄の炎が雪のように冷たく感じられる程だという。仮に焦熱地獄の火を地上に持って来た場合、地上の全てが一瞬で焼き尽くされるほどの破滅的な炎だと言えば、その炎がいかに末恐ろしいのかは容易に読み取れるであろう。

 

 そして、半神愛宕葵が纏う火之迦具土神の炎を見ればその表現が誇張も偽りもないことが伺える。

 

 

『あんた……始めから死ぬ気だったろ?』

 

 

 突然、そう呟かれた葵の声色はどこか寂しげで、憐れんでいるようなものであった。

 

 表情すら炎で覆われているため、見ることは叶わないが、きっと笑ってはいないことは明白である。

 

 

『炎を解放した俺と対峙した者は何であれ、生への渇望から多少なり怖がるものだ。炎は生き物が本能的に恐れるもの。ましてや俺の炎は地獄のソレよりも遥かに熱くおぞましい。これを見せつけられながらそんな目が出来る奴は、始めから死ぬ覚悟が出来ている奴だけだ』

 

「………………」

 

 

 それに対してコカビエルは答えない。一度、目を瞑り小さく息を漏らすと口を開いた。

 

 

「俺は戦争をしに来たんだ」

 

 

 そして、目を見開き、一切慈悲も容赦もない獰猛な笑みで笑って見せる。

 

 

「楽しもうじゃないか……」

 

『そうか……ヒヒヒ――』

 

 

 言葉はいらないといった様子のコカビエルに対し、葵はそれだけ呟きと小さく笑い声を上げた。

 

 その呟きの直後、葵の咎人の剣の剣身に炎が燃え移り全体を燃やす。

 

 

大焼処(だいしょうしょ)

 

 

 そして、葵は咎人の剣をゆっくりと持ち上げると、水平に構えて矢のように引き絞った。到底コカビエルに切っ先が届く距離には見えない。

 

 大焼処とは、"殺生をすることで天に転生することができる"という邪見を述べた者が落ちると言われている焦熱地獄の十六小地獄のひとつ。焦熱地獄の火の他に、後悔の炎が生じて文字通り内側から罪人を焼き焦がすという。

 

 それに対してコカビエルは一本のこれまでよりも細い光の槍を片手に形成して静止する。

 

 数秒か、数十秒か。二人は無言で向き合い、永遠のような時が流れる。風音のみが響く静寂の中、互いに動かず、ただ一撃を向ける。

 

 そして――。

 

 

 

 

『――――』

 

 

 

 

 先に動いたのは葵の方であった。

 

 小さな呼吸と共に突き出された咎人の剣は直線上の点の空間ごとコカビエルの胸を刺し貫く。咎人の剣が何れ程既存の魔剣・聖剣を逸脱した存在なのか、そこで初めて気づかされた事だろう。

 

 そして、ほぼ同時に引き裂かれた空間を辿るようにコカビエルの穴の空いた胸に炎が殺到し、内からコカビエルの身体を焼き焦がした。

 

 その攻撃は到底発生してからでは決して避けようもない神速の一撃であった。

 

 たったの一撃で勝敗は決した。

 

 コカビエルは数秒後には神炎に焼き尽くされて確実に消滅するであろう。

 

 だが、コカビエルは始めからそのように攻撃を予測し、既に反撃の一手を行っていた。

 

 自身の残る光力全てを一本の光の槍に集中させ、それをカウンターとして放ったのである。その光の槍は細く鋭く研ぎ澄まされたものであり、コカビエルの生涯最高の一撃に足るものであった。

 

 しかし、コカビエルは落胆する。

 

(届かんか……)

 

 葵はコカビエルが放った光の槍を異常なまでの反応速度で見抜いており、自身に殺到する光の槍に咎人の剣を持っていない方の手を伸ばしていた。

 

 確実に掴まれる。コカビエルの生涯最高の一撃も葵にとってはその程度のものなのだろう。

 

 しかし、奇妙なことに突然、葵の腕が止まる。

 

 そして、葵の手は開かれたまま掌を光の槍の軌道上に向けて置き、そのまま静止したのだ。

 

(お前……!)

 

 コカビエルは驚愕する。

 

 そして、その結果――。

 

『ヒヒ……ヒ……!』

 

 コカビエルの光の槍は葵の掌を貫通し、更に左胸に光の槍が深く突き刺さった。綺麗に貫通しており、背中まで抜けている。

 

(全く……優しい奴め……)

 

 きっと葵なりの手向けなのだろう。炎そのものなのだから誰よりも情熱的であり、誰であれ他者の内に秘めたものを勝手に読み取って拾ってしまう。きっとそういうおセンチな奴なんだとコカビエルは笑った。

 

 そして、自身がこれまで歩んだ道を思い返し、死んでいった仲間やグレゴリにいる仲間の顔を思い浮かべ、そう悪くない生涯だったと考えながら瞳を閉じる。

 

 そのまま、誰に聞かれる訳でもなくコカビエルはポツリと口を開いた。

 

 

 

「まあ……それなりに……楽しめたよ」

 

 

 

 その呟きを最期に、コカビエルという存在は跡形もなくこの世界から焼却された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一撃でコカビエルを葬り去った葵は纏っていた炎を消し、咎人の剣を異空間に収納してからゆっくりと地面に降り立った。

 

「かはっ……ヒヒヒ――!」

 

 そして、体勢を崩して膝を突く。何せ掌に光の槍が突き刺さり、左胸を貫通しているのである。通常の生物ならば即死レベルの致命傷なのは想像に難しくない。

 

 しかし、葵は半神。死の定義がやや違うのだろう。

 

「な、何やってんの葵!? アンタなんで"止めなかった"のよ!?」

 

「ヒヒヒ――悪いなジャンヌ……なんだか止めてはいけないような気がしたんだ」

 

 葵は駆け寄ってきたジャンヌにそう言いながら掌から光の槍を抜き、左胸に突き刺さる光の槍を引き抜く。

 

 抜き去ると同時にコカビエルの光の槍はほどけるように空へと溶けて行き、それを葵はどこか寂しそうな眼差しで眺めていた。

 

「なら早く! いつもみたいに"再生"させなさい! 本当に死ぬわよ!?」

 

「悪いがそれも出来ない相談だ。死ぬ気もないし、治しもしない。俺にはまだ……やることが残ってる」

 

 そう言うと葵は立ち上がる。

 

 しかし、光の槍をダメージと、手に空いた穴により神経系がやられたためか、葵の片腕はだらりと垂らされ、ピクリとも動いていなかった。

 

「木場ァ!」

 

 葵は吠えるように声を上げた。それに反応した木場は葵に向き合う。

 

「お前の復讐はまだ終わってない……そうだろう?」

 

「…………ああ」

 

 実際、その通りだった。バルパー・ガリレイ以前に木場は聖剣エクスカリバーの破壊に人生全てを掛ける所存だったのだ。

 

 今と昔の仲間たちの呼び掛けもあり、今ならばその執念を曲げることは出来るとはいえ、ポッカリと胸に空いたものが生まれたのも事実だった。復讐とは所詮そんなものであろう。

 

「だったら――」

 

 葵は異空間から再び聖剣エクスカリバーを抜き出し、切っ先を木場へと向けた。

 

「これを破壊してみろ。"お前の仲間たち"と共に」

 

「――――っ!!!?」

 

 その驚きと、握り締められた聖魔剣を見るだけで答えは自ずと出ていた。

 

「ジャンヌ! フリード! お前らも木場に加勢しろ!」

 

 葵は笑顔を見せながらエクスカリバーの剣身に炎を灯すと、いつものように奇妙な笑い声を上げた。

 

 

 

「"聖剣使いとして"全身全霊を捧げる……"全員"まとめて掛かって来い……」

 

 

 

 その言葉を皮切りに木場と葵は同時に駆け出し、葵のエクスカリバーと聖魔剣がぶつかり合った。

 

 

 

 








(3巻の)ラスボス系主人公葵くん。


~武器紹介~
モラルタ
 ケルト神話に登場するフィアナ騎士団の1人・ディルムッド・オディナの剣。養父のドルイドから貰った物で物で、元は神マナナン・マクリルの持ち物であったとされる2本の神剣。
 名前の意味はそれぞれ大怒(モラルタ)小怒(ベガルタ)。モラルタの方が優れており、一太刀で全てを倒し、一撃で人間を両断するとされている。
 しかし、ベガルタは魔猪と戦った時に刀身が砕け、残った柄で頭蓋骨を砕くが、ディルムッドも相打ちとなって死亡した。そのため、このモラルタのみが残り、幾世を経て現在は葵の異空間に死蔵されていた。
 父親の太郎坊が伝説の武具や宝具を見つけては葵にプレゼントすることを繰り返しているため、葵の異空間にはかなりの数のとんでもない掘り出し物が眠っていたりする。しかし、父親は渡したモノはすぐに忘れ、葵も手入れ以外では特に気に掛けることもないため、誰かに言われるか、見つけられる、話題に上がる等をしなくては陽の目を見ることはまずない。


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