月光校庭のエクスカリバーのラストになります。
「………………」
駒王学園の屋上にて、銀髪の青年が校庭を見下ろしていた。
彼の名はヴァーリ・ルシファー。半悪魔にして神滅具"
彼はグレゴリからの使いであり、コカビエルとフリード・セルゼンを連れ戻す使命を負っていたのだが、到着した時には既にコカビエルは最期の戦争の最中であった。
コカビエルと遠からず似たような存在であったヴァーリは、命令を無視してここから一部始終を見ていた。
見届けた後、仕方なく、フリード・セルゼンの回収と当代の赤龍帝への挨拶でも済ませてから帰ろうとも考えたが、突如始まった現在校庭で行われている光景に目を奪われ、邪魔にならない場所でこうして眺めているのである。
そして、ヴァーリはポツリと呟いた。
「スゴい……!」
あまりに見ることに夢中になり、そうとしか感想を上げられなかったのである。
ヴァーリはまるで子供のように目を輝かせながらたったひとりの聖剣使いが、ヒーラーを含む10人を相手取る光景を眺めた。
『ああ……全てを知っている訳でないが、あれは間違いなく――』
間の手を入れた白龍皇の光翼に宿るドラゴン――アルビオンは確信して呟いた。
『"歴代最強のエクスカリバーの使い手"だろうな……』
アルビオンもまた、ヴァーリと同じように見入っていたのである。
◆◇◆◇◆◇
六本のエクスカリバーが一つとなり、ほとんど本来の姿を取り戻し、炎を灯したエクスカリバーを振るう愛宕葵は左腕は全く動かず、左胸に致命傷を受けているため、動きがやや鈍い。
その上、彼を中心にオリジナルのジャンヌ・ダルク――白いジャンヌ、クローンのジャンヌ・ダルク――黒いジャンヌ、フリード・セルゼン、木場祐斗、ゼノヴィアを前衛に他の者が遠距離攻撃や回復支援を行っており、彼が10人を相手取っている形だ。
にも関わらず、その全てを圧倒していた。
「らぁぁぁ!」
モラルタを持つフリードは葵に向かって叩きつけるように振るう。その剣筋は粗暴ながら確かな技量により裏付けされたものであり、一太刀で全てを倒し、一撃で人間を両断するとされているモラルタとしては非常に正しい使い方であった。
しかし、モラルタは葵ではなく風を斬る。
フリードが当て損ねたのではない。攻撃の直前から攻撃直後の極短時間の間だけ、
その違いは戦いにおいてあまりにも致命的であった。
結果、フリードは紙一重のところで葵が身体を反らして避けたと錯覚し、エクスカリバーの能力を使用した事すら悟られていない。
そして、この能力は攻撃にも使われる。
攻撃失敗から即座に葵から飛び退いたフリードへ、カウンターとして振られたエクスカリバー。それは切っ先までの長さを考え、フリードへ後数cmだけ足りないため、完全に避けれたように見えた。
しかし、短期間で鍛えられたフリードの危険察知能力が警鐘を鳴らし、フリードは飛び退きながらモラルタを盾のように構える。
「ぐぉぉぉ!!!?」
次の瞬間、フリードにはエクスカリバーを振り抜いた体勢の葵が数十cm瞬間移動したように見え、縦に構えたモラルタのど真ん中をエクスカリバーが襲った。夢幻の聖剣による幻覚で本来の位置より手前に見せていたのだろう。
更に直撃と共に
「そこですっ!」
間髪入れず、槍を向けた白いジャンヌが葵の真後ろから接近して薙いだ。
葵は
「ッ!? まず――」
そう言おうとした白いジャンヌはジャラリと金属音がしたことと、腕に当たる冷たい感触に気が付き、言葉を止めた。
次に現れたエクスカリバーは鎖の形状をしており、槍と白いジャンヌの片腕に巻き付いていたのである。
避けた瞬間に
白いジャンヌは鎖になっているエクスカリバーに引き寄せられた。力業だけではない。何故か葵は鎖の使い方を白いジャンヌより遥かに熟知していたのである。
そうして引き寄せられた白いジャンヌの目の前には、振りかぶった葵の鎖を握り締めた拳があり――。
「何捕まってんのよ馬鹿!」
黒いジャンヌが剣を盾にして葵の拳を受け止めた。
「ぐぅぅ!?」
しかし、葵の拳は破壊の聖剣を遥かに凌駕する想像を絶する威力であり、剣ごと黒いジャンヌの身体を意とも容易く吹き飛ばし、地に足を付けたまま10m以上後退させた。
「ジャンヌ様! 今助けます!」
その僅かな時間に接近したゼノヴィアが己の本来の聖剣――デュランダルを振りかざし、白いジャンヌに巻き付くエクスカリバーへ振り下ろした。
しかし、即座にエクスカリバーを剣へと戻し、葵はデュランダルを受ける。
「化け物過ぎる……!?」
ゼノヴィアが感じたのは毛布を棒で叩いたような、まるで手応えのない感触であった。葵はデュランダルの破壊力を技量のみで全て受け流し、足元に落とされたデュランダルは地面にクレーターを刻んだ。
更に天閃の聖剣で加速している葵は受け流した直後に動作を回し蹴りに繋げ、ゼノヴィアを襲った。卓越した格闘技術と天閃の聖剣により武道の域を超越したそれを避ける術はゼノヴィアにない。
痛撃を受けることを確信したゼノヴィアだったが、その予測は外れた。
「うっ……!」
「ジャンヌ様!?」
解放された白いジャンヌが抱き締めるようにゼノヴィアを庇い、その身を盾にしたのである。
しかし、一切の容赦を見せない葵は眉ひとつ動かさない。そのまま横蹴りを放ち、抱えられたゼノヴィアごと校庭外まで蹴り飛ばした。
更に葵は別の方向に身体を向ける。
「うぉぉぉ!!!!」
ブースターで地面ギリギリの位置を飛びながら一直線に向かって来た者は赤龍帝の鎧を纏った兵藤一誠だった。
それを確認した葵は擬態の聖剣により、エクスカリバーの形態を右腕全体を覆うガントレットに変更し、拳を握り締めた。
次の瞬間、葵に殴りかかった一誠。しかし、避けられると踏んで、それを見越して行動しようとしていた一誠は驚き戸惑う。
葵は避けずに一誠の拳を身体で受け止めたのである。
一誠の拳は葵の頬に当たっており、口の中を切ったのか葵はそのまま唾と共に血を吐き捨てたが、それだけであった。
愛宕葵という存在の戦闘能力は余りにも恵まれた肉体から来ている要素が強い。それ故に赤龍帝の禁手による一撃ですら現状ではこの程度である。コカビエルの一撃が何れ程凄まじいものであったのかが伺えた。
一誠が当たったことに呆けていると、凄まじい力で葵に足を踏まれ、逃げることが出来なくなったことに気がつく。
「一発は……」
そして、目の前には口を開きながら白銀のガントレットを引き絞る葵がいる。
「しまっ――」
「一発だ」
次の言葉を吐く前に一誠の腹部に天閃の聖剣により加速されたエクスカリバーのガントレットが激突する。
更に葵は衝突の瞬間に破壊の聖剣によって更に威力と衝撃を底上げしており、赤龍帝の鎧を砕きながら一誠の身体をくの字に折り曲げ、現在駒王学園を覆う結界まで一誠を殴り飛ばした。
搭城小猫と、アーシア・アルジェントは衝突時の凄まじい轟音と、人体が飛んでいたとは思えない速度で結界に打ち付けられた一誠に顔を青くしながら回収しに一目散に走って行った。
「イッセー!? よくもッ!」
リアス・グレモリーから滅びの力による巨大な魔弾が放たれる。
それは一直線に葵へと向かい――即座に剣へと姿を変えたエクスカリバーによって意とも容易く両断された。
「いきますわ!」
更に葵の頭上に姫島朱乃が魔法の雷を落とす。それもただの雷ではなく、己の光力が混ざる雷光であり、戦闘が始まってから今まで魔力を集中させて作られた極大なものであった。
しかし、葵は支配の聖剣の能力を発動し、雷光そのものを操った。
それにより、ねじ曲げられた雷光はエクスカリバーの周囲を渦巻くように纏われた。さながら雷光の
「あ……彼の剣に私の雷光が……」
「なんでちょっと嬉しそうなのよ朱乃!?」
「アンタらふざけてんじゃないわよ!」
復帰した黒いジャンヌが声を荒げながら葵に襲い掛かる。
「ぐっ……」
片手が使えない葵に対して槍と剣による手数で攻め立てる黒いジャンヌだったが、己の剣の師だというだけはあり、どれだけ攻めようとも一歩も引く気配も、崩れる様子もない。
更にエクスカリバーに渦巻く雷光が邪魔して思うように攻められなかった。
「チッ――ああ!?」
形勢不利と判断し、葵から飛び退く黒いジャンヌ。
しかし、葵は支配の聖剣を用い、距離を取る最中の黒いジャンヌに目掛けて全ての雷光を解き放った。雷光が直撃した黒いジャンヌは身を強張らせながら地面に崩れ落ちる。
「少しぐらいよそ見してて欲しいです……ねっ!」
次の瞬間、雷光を放った葵は防御体勢を取って空にエクスカリバーを構えると、そこに目掛けて5mを超える大斧のような形を取っている魔法剣が激しくぶつかる。
その柄を握るのは一学年下の八重垣かぐやである。彼女は支配の聖剣による支配を懸念して、大量の魔法剣の展開は行わず、一撃に掛けた魔法剣による攻撃に出ているのだった。
当然というべきか、葵はその魔法剣すら受け流し、かぐやの攻撃によってエクスカリバーが傷付いた様子はない。
かぐやは即座に魔法剣を大斧から二本の刀の形状に変更し、葵と打ち合うが、ここまでの打ち合いから考えても手数で押し切れる相手ではないことは明白である。
「僕もまぜて貰うよ……!」
しかし、聖魔剣を持つ木場裕斗が加わったことで形勢が変わった。手数に加えて速度に特化した剣士を片手だけで相手にすることに無理が生じ始めたのである。
防戦一方でやや押し始めた二人はこのまま押し切れるのではないかという期待が生まれた。
しかし、それで終わる聖剣エクスカリバーではない。
葵は二人の刃が緩む一瞬のタイミングで擬態の聖剣によって、エクスカリバーを長柄の両端に刃のついた武器――両刃剣のように変えた。
戦において武器による優位性は語るべくもない。
「得物が……!?」
「速い……!」
それによってそれまでのような力は減ったが、単純に攻撃の手数と速度が段違いに上がる。その猛攻は凄まじく、即座に二人を圧倒し、最後に一文字に凪ぎ払われた。
二人はそれをガードしたが、十数m弾き飛ばされる。
だが、二人が葵と打ち合っていた時間は他の者に復帰するだけの時間を与え、二人の周囲に比較的軽傷の者が集まる。
それと同じように葵もまた聖剣エクスカリバーを剣へと戻し、こちらの動きを伺っていた。
「ふふっ……ここまで実力に開きがあると返って笑えてしまうな」
「手負いだというのに……本当に先輩は化け物ですねぇ……」
ゼノヴィアはそう言って笑う。己のデュランダルがこれほどまで心許なく感じる相手もそうはいないであろう。
かぐやも呆れた様子でそう語る。
「遠いな……エクスカリバー」
木場はそう呟いた。
それはエクスカリバーに対してか、それを歴代の使い手を遥かに超越した技量を持って振るう葵に対してか、恐らくは両方に向けてだろう。
「そうでもないわよ……」
ぶっきらぼうに吐かれた黒いジャンヌの呟きに木場を含め、そこにいる皆の視線が集中した。
「葵のエクスカリバーを見て」
その言葉に全員が視線を向けると、葵は聖剣エクスカリバーを眺めながら薄ら寒い感覚を覚える殺気を放っている。
そして、聖剣エクスカリバーを見れば、纏っている炎によって見えにくくはなっていたが、確かに剣身には小さな亀裂や、皹が走っている状態であった。
「剣を造るのって無茶苦茶難しいし、時間を掛けなきゃならないのよ。六本の名高い聖剣を即席で一本に纏めるなんて芸当、例え鍛冶の神の側面が強くたって無理が生じるに決まってるわ」
「でも葵さんは一度もエクスカリバーでマトモに攻撃を受けてはいませんよ?」
一部始終を見ていた白いジャンヌはそう話す。
葵は聖剣エクスカリバーで受ける剣はほぼ全て受け流していたにも関わらず、あそこまでエクスカリバーがダメージを受けていること自体が不思議に感じたのだろう。
「たぶん、無理が剣に祟ってる。エクスカリバーの能力を使用する度にひび割れるのね。それにアイツ、"聖剣使いとして"戦うって言っていましたもの。剣を直すのは鍛冶屋か、錬金術師の仕事。だから戦いながら直すのもしてないわ」
「つまり彼は……」
「身体も剣も……最初から
その言葉に木場は絶句した。今の今まで誰にも理解されず、何故そこまで他者のために捧げれるのだろうか。
「在り方は間違ってても、アイツは紛れもなく聖人の子なのよ。そういう生き方しか出来ない奴なのよ……」
「木場」
葵の言葉に木場はそちらを向く。
そこにた葵はいつも通りのように見えるが、体力の消耗によって既に肩で息をしていることがわかる。
「これが最後だ」
その言葉の後、葵は校庭の隅まで飛び退く。
そして、その場で聖剣エクスカリバーを空へと掲げると能力を発動し、剣身を光らせると同時に、葵の神気と法力がエクスカリバーへと集められていくことがわかった。
「あれはまさか……」
それを見たゼノヴィアは顔を真っ青にしながら口を開いた。
「……エクスカリバーの初代の使い手であるアーサー王はエクスカリバーから光線を放って蛮族を凪ぎ払ったと聞く。それが来るのでは……?」
「来るわねアレ。擬態で剣の内部機構を変えて、破壊で剣に集めた力を増幅させ、支配と天閃で撃ち出すってところかしら?」
「アレは私の"
受け止めます」
すると白いジャンヌが前に出る。
「
その姿は黒いジャンヌと同じようなデザインをした白銀の鎧を着て、槍と剣を持つ姿に変わっていた。
「主の御業をここに」
そして、白いジャンヌは旗のついた槍を地に突き刺し、全てを護るがの如く立ち塞がる。
その次の瞬間、葵の聖剣エクスカリバーから神々しいまでの光りと炎で出来た極大の光線が白いジャンヌを襲った。
「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ! "
直前に発動した白いジャンヌの亜種禁手はエクスカリバーの光線を受け止め、上空へと逸らし、駒王学園に張られた結界を意とも容易く貫通した。
しかし、エクスカリバーの奔流はまるで衰えを見せず、それどころか徐々に増幅しているような気配さえあった。
「木場! 今よ! 行きなさい!」
「ああ!」
木場は黒いジャンヌに後押しされ、光線を放つ葵に向かう。
そして、新しい聖魔剣を造り出し、葵の頭上へと振り下ろした。
葵は即座にエクスカリバーの照射を止め、異様な反応速度で木場の聖魔剣を受け流そうと動く。
しかし、それは叶わなかった。
「氷属性の聖魔剣か……」
過去に葵に対して行い、正面から打ち破られた方法と同じ事を木場は行って来たのだ。結果として葵の聖剣エクスカリバーは木場の聖魔剣に縛り付けられた。
一度見た剣は通じないとばかりに平常時の葵ならば対応出来た筈だが、ここまで消耗し切った彼にはそれを止める手立ては最早ない。
葵は観念したように呟きながらも、せめてもの意地としてエクスカリバーを握る力を強めた。
「うぉぉぉぉ!!!!」
木場は有らん限りの力を込め、葵は一切引かずに聖剣エクスカリバーを構える。
エクスカリバーは軋み、音を立て、溢れ落ち、そして――。
崩れ落ちた。
残光のように辺りを鈍く照らす聖剣エクスカリバーの破片は幻想的で、誰もが夢見た伝説の剣に相応しい結末を見せる。
そんな中、木場は憑き物が取れたような安堵の表情を浮かべていた。
それを見た葵はエクスカリバーの柄を地に落とし、薄く笑みを浮かべる。
「おめでとう。じゃあ、"
次の瞬間、葵と木場を囲むように温かな炎が包み込む。
数秒後、 炎が晴れるとそこには嬉しそうに笑う葵、驚愕の表情に目を見開く木場、そして――。
"沢山の小さな子供たち"が木場に寄り添うように眠っていた。
「ヒヒヒ――! 君らは身勝手に命を奪われたんだ――なら理不尽に与えられたっていいだろう?」
それだけ呟くと葵はそっと目を閉じ、そのままゆっくりと地へ崩れ落ちた。