波打ち際のオルタちゃん   作:ちゅーに菌

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今回は超優秀なドラリンガルを用意しているのでティアマトさんの言葉がわかる親切仕様となっております。やったぜ。

というか、作者のあっちの人魚さんが不親切過ぎ―げふんげふん。


釣りと海

 

 

 

 

「で? なんなのよコイツ?」

 

 なんとか家に上げてくれたジャンヌは俺が家に連れてきた今日の釣果を指差した。

 

『………………』

 

 ソファーに座らせたら無言で天井の隅を見つめながらじっとしている彼女――ティアマトさんである。

 

「……とりあえずアンタが"神器"で釣り上げたってことでいいのね?」

 

「うん、そう」

 

 とりあえずジャンヌには一旦待って貰い、ティアマトさんに向き合った。ティアマトさんはジャンヌとの会話で思うところがあったのか、不思議そうにこちらを見ている。

 

『Aaaa――?』

 

「え? "神器"が何か?」

 

 ティアマトさんから質問があったので、俺は自分の神器を起動し、手から細い糸を精製した。何処かの蜘蛛男のようではなく、もっと自然にしゅるしゅると伸びる感じである。

 

 神器とは信仰によってそのものの実力が左右される神々の中において、最大の力を誇っていた聖書の神が人間、あるいは人間の血を引く者に導入したシステムであり、神器を宿した者は不思議、あるいは周りから外れた能力を発現することが可能となる。

 

 まあ、要するに極一部の人間に宿る人智を超越した凄い物体のことと捉えても概ね間違いではない。未知の力を持つ異常物体とかも神器だしな。

 

 そして、俺に宿っている物は"巨人の釣り糸(ミズガルズオルム・ビックフィッシャー)"という神器だ。

 

 北欧神話において、変装した雷神トールが巨人ヒュミルと共に海に出て終末の大龍(ミズガルズオルム)を釣ろうとし、海上まで釣り上げたミズガルズオルムをハンマーで殺そうとしたが、結局怖じ気づいた巨人ヒュミルが糸を切ってしまい海中に没するという逸話がある。この神器はその伝承の糸そのものだという。

 

 武具や道具の類いではなく、釣るという概念そのものを具現化し、糸の形に見せているだけのものであり、保有者の心そのものが折れぬ限りは決して切れることがない。 更に釣るという概念そのものを水面に垂らしているため、平行世界、異世界、異宇宙など全ての水にまつわる概念を持つものに対して全くランダムに釣りは垂らされている。故に何が釣れても特に不思議はない。

 

 要は何でも釣れるスゲー糸なのである。ロッドは別売りである。

 

 そのため、たまにこのように人型の生き物などが釣れることもしばしばある。

 

『Aaaaa――』

 

「そう、これで君を釣ってしまったんだ」

 

 人魚とかは割りとよく釣れ、ティアマトさんは人魚っぽくはあるが、形状的に人魚ではない。神様だということはティアマトさんから聞いたが、それ以外はいったいなんなんだろうか?

 

『Aaaaa――Aaaa――』

 

「え? ドラゴン? そりゃスゴい」

 

 なんだ、神様な上にドラゴンだったのか。これは今年一番の大物かも知れないなぁ……。

 

『Aaaaa! Aaaaa――』

 

「はへー……その上、恐竜が歩いていた時代より前から生きていたと……」

 

 それはものスゴく歳上の方なんだなぁ……。

 

「ねえ、待って……ちょっと待ちなさい」

 

 ジャンヌが何故か目頭を押さえながら俺の肩を掴んで振り向かせてきた。

 

「言葉がわかるの?」

 

「え? わかんないの?」

 

「わかんないわよ!」

 

 あら、てっきりティアマトさんは日本語で話してると思っていたが、そうではなかったようだ。とするとティアマトさんは一応、動物のカテゴリーに入るのだろうか。

 

 一応、父親から教わったというか、父親譲りで俺は一部の動物と自然に話せたりするのである。魚とか虫は構造や思考が単純過ぎて逆にわからないので、釣りをしても滅多に声を聞くことはない。そのため、釣りをしても良心が痛んだりはしない。寧ろ、寄ってくる海鳥とか猫がちょーだいちょーだいと話し掛けてきてアレに感じる。

 

「じゃあ、ティアマトさんの話を翻訳するよ」

 

 そうジャンヌに言ってからティアマトさんにもその主旨を伝えると、ティアマトさんは目を輝かせ、ジャンヌに向き合ったので俺は聞こえた言葉をそのまま声に出す。

 

『Aaaaa――Aaaaa――』

 

「こんばんはジャンヌさん。私、ティアマトと申します」

 

『Aaaaaaaaaaaaa――Aaaaaaaaa――』

 

「虚数の海で長い間途方にくれていたところを葵さんに文字通り釣り上げられ、夕陽の射す明るい防波堤で沢山のお話を聞いて貰いました」

 

『Aaaaa――Aaaaaaaaa――Aaaaaaa――』

 

「葵さんは半分だけ人間のようでしたが、とても温かい方で私の悩みや怨嗟を親身になって聞いていただき、とても嬉しくて楽しい時間でした」

 

『Aa――Aaaaaaa――Aaaaaaa――Aaaaaaa――』

 

「それで、どうやらここは私の居た世界とは違う世界なようで、それならばこれまでのことはすっぱりと諦め、新しい道を歩もうかと思います」

 

 そこまで言い終えてティアマトさんは口を閉じた。沢山話したようなのでお茶を渡すと受け取って飲んでくれた。どうやら食べ物は同じようなものを食べれるようだ。

 

「と、いうことらしい。そういうわけでこのまま防波堤に置いておくのも忍びないので、家に連れてきた」

 

「どいういうことなの……」

 

 ことの次第は全て話したのだが、ジャンヌは頭を抱えてしまった。ふむ、話の伝え方が悪かっただろうか? わからないことは何でも聞いて欲しいものである。

 

「そうじゃなくて……あー、もういいわ……うん、わかった、わかったわ。わかんないけど、わかったわ。要するに同居人が増えるのね」

 

「おうさ」

 

『Aaaaa――』

 

 その通り、物分かりがよくて助かる。

 

 

 

 

 その後、10分ほどティアマトさんのお話を聞いた。

 

 それによればティアマトさんはあのバビロニア神話で有名な原初の海の女神ことティアマトさんらしい。超有名人もとい超有名神である。

 

 そして、ティアマトさんは神の座は譲ろうとしたのにマルドゥークというDQNのクソガキにフルボッコにされた挙げ句、幽閉同然だったんだとか。

 

「やっぱ神ってクソだわ」

 

 ジャンヌや、君が主に聖書の神を嫌っているのは知っているが、それティアマトさんも神だから気をつけような。

 

 逆にこちらの世界のことも少し話した。ちょっと前まで聖書の神率いる天使と堕天使と悪魔の三つ巴の戦いが当たり前のように行われている世界だとか。そのわりに他の神話体系は普通に存在しているとか。天界、現世、冥界、冥府にこの世界は大きく分けると別れており、行き方さえ知っていればそこまで苦もなく行き来出来るといった触りのような話である。

 

「とりあえず今はこの辺までね。はぁ……じゃあ、とりあえずご飯にするから支度手伝いなさい。これだけじゃ足りないでしょ?」

 

「手伝わせていただきます」

 

 そして、少し料理を手伝い食事の時間になったのだが……。

 

 

『Aaaaa――』

 

「ん? ご飯のおかわりか」

 

『Aaaaa――』

 

「はいはい、おかわりね」

 

『Aaaaa――』

 

「よく食べるなー」

 

『Aaaaa――』

 

「え、まだ食べるんですか?」

 

『Aaaaa――』

 

「ほえー……」

 

『Aaaaa――』

 

「わぁい」

 

 

 ジャンヌは3杯目ぐらいから目を丸くし、俺は6杯目ぐらいから変な笑いが出た。

 

 うちは夜に炊いて、弁当を含めた明日の昼ぐらいまでのお米を全部炊いてしまうのだが、その全てを軽く平らげてしまったようである。

 

「ねぇ……」

 

 ジャンヌは俺に問い掛ける。食費の方は気にすることはない。何故か俺の親父がやたらに持っているので、どうあがいても一般的な高校生が使い切れそうにない額を与えられているので特に問題はない。

 

「いや、そっちもあるけどそっちじゃなくて……」

 

「ああ、買い物か……週2ぐらい頻度が増えそうだな」

 

「そうよね……」

 

 ジャンヌと俺はちょっぴり複雑な気分になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Aa――――』

 

 食後、すぐにティアマトさんは食休みのためか、リビングで湯飲みに両手を添えてぽけーっとし始めた。高齢者は食事でも疲れるため、食休みは欠かせないそうなのでそのままにしておこう。

 

 とりあえず、現在はジャンヌとふたりでキッチンに立ち、洗い物をしている。

 

 しかし、ジャンヌは本当によく出来た同居人で助かるなぁ……家事も料理もうまいし、気立てもいいし、ちょっと口は悪いが、嫁の貰い手には困らないだろうな。というか俺が欲しいぐらいだ。

 

「よ、嫁っ!? だ、誰がアンタのとこなんて私は……!」

 

「はははは……」

 

 いやー……そんな顔を真っ赤にしてまで面と向かって言われると流石にちょっぴり傷つくというかなんというか……。

 

「………………」

 

「…………あのジャンヌさんや。どうして私は足を踏まれているんでしょうか?」

 

「……ふんッ」

 

 そう吐き捨てると踏んでいた足を退けてリビングから出て行った。多分、風呂でも湯を張りに行ったのだろう。

 

 うーん、何か怒らせるようなことを言ってしまっだろうか。人間関係というのは無自覚にそういうことをしてしあるからなあ。

 

『………………』

 

 すると何故かティアマトさんがこっちを見ており、目が合うと口を開いた。無表情に見えるのだが、心なしかどことなく、にやにやしているように感じたのは錯覚だろうか。

 

『Aaaaa――』

 

「いやいやいや、ジャンヌを俺が押し倒したら警察のご用になりますって」

 

『Aaaaaaa――?』

 

「後で必要なのは産婦人科って……」

 

 いやー……強姦した上で当てるとか流石にクソ過ぎてちょっと……。

 

「止まれ海竜、止まりなさい」

 

 ティアマトさんと話していると、スゴい早足でジャンヌが戻ってきた。

 

「そうねそうよ彼女はお風呂道具の使い方とか、お風呂の入り方とか知らないかも知れないから教えてくるわね行くわよ行きましょう」

 

『Aa――Aa――』

 

 ものすごく早口なジャンヌに連れられてティアマトさんはお風呂へと連れて行かれた。ティアマトさんの最後の言葉はあーれーである。

 

「ふむ……」

 

 なんだかわからないが、ジャンヌは怒っている様子ではなかったのでよかった。後、ティアマトさんにも積極的で何よりである。

 

「ロッド片付けるか」

 

 そういえば家に帰ってから庭側に立て掛けておいたままだったことを思い出し、外に出ることにした。

 

 まあ、なんだ。個人的には賑やかなのはいいことであろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Aaaaa――』

 

「みー」

 

 昨日は土曜日だったので翌日の日曜日。いつもの防波堤でライフワークの釣りに勤しんでいた。いつもなら基本的にひとりなのだが、今日はいつもとは違い左隣にティアマトさんが座っていた。

 

 無表情で海を眺めるティアマトさんのお膝に何処から飛んで来たウミネコが警戒することもなく乗りながら時々に鳴いており大変愛くるしい。

 

 釣った時は全裸に近かったティアマトさんの服装は、背丈が1cmぐらいジャンヌよりティアマトさんが高かっただけで体型はほとんど変わらなかったので、ジャンヌのものを借りて黒いポロシャツにジーパンというラフな格好であるが、わりとよく似合っているような気がする。

 

「あっついわねぇ……」

 

 次に右隣を見れば同じく付いて来てたジャンヌが座っており、今年の4月から神あつい(ゴッドホット)な気温にげんなりした様子であった。彼女は雪のように真っ白い肌をしており、肌が弱いので基本的に気温が高いとあまり付いてこないのだが、今日は珍しいものである。

 

 そして、ジャンヌの方はといえば何故か水着を着ていた。季節的にちょっと早い。

 

 クロス・ホルター・ビキニ……のような黒を基調として赤で回りを囲ったようなデザインのものであり、似た配色の丈の短い上着付きである。

 

 暑すぎるし、この防波堤に人なんて来ないので着てきたそうである。俺が見たことのないジャンヌの水着だ。

 

「それで? 何か私に言うことはないのかしら?」

 

「ああ、カッコいい水着だね。ジャンヌにとっても似合っているし、可愛いよ」

 

「――――――!」

 

 そういうとジャンヌは何やら呆気にとられたような顔になり、目を大きく見開いた。それからおれからプイッと目を反らす。

 

「フフン。とっ……トーゼンでしょ?」

 

 そういうと俺からそっぽを向き、黙って持ってきた漫画を読み始めた。ちなみにジャンヌの趣味は漫画やゲームである。

 

『Aa――Aa――』

 

 何がひゅーひゅーなんですかねティアマトさん。口笛吹けてませんよ。

 

 しかし、空は雲ひとつない快晴のため、スキンケアはしているとしてもジャンヌの肌にはあまりよくないよなあ。

 

 俺はそう思って"鴉のような一対の自分の翼"を出して片翼でジャンヌの頭上を覆った。

 

「なによ……」

 

「必要かなって思って」

 

「余計なお世話ね……まあ、一応ありがとう」

 

『………………(つんつん)』

 

 すると何故か左隣のティアマトさんが肩つついてきたのでそちらを見た。

 

「みー」

 

 ティアマトさんに両手で下から持たれて俺の肩の高さまで掲げられたウミネコと目があった。可愛いがお話にならないので預かって俺の膝に乗せておく。

 

「どうしたの?」

 

『Aaaaa――』

 

 そういいながらティアマトさんは自身の頭上をちょんちょんと指差す。

 

「あ、はい。自分も覆えと」

 

『Aaa――』

 

 もう片方の翼でティアマトさんの頭上を覆っていると、竿が振動して少し引かれたため、神器の糸を急速に縮めつつ、先端は枝分かれさせて獲物を糸で絡め取った。

 

 そして、海面まで引っ張り上げたところで竿を立てて飛び出した魚を手でキャッチする。

 

「鮎か」

 

「せめて純粋な海水魚を釣りなさいよ!?」

 

 ジャンヌの疑問はもっともなのだが、何が釣れるのかは俺ですら全くわからないので仕方ない。ある意味、ポンコツな神器な気もしないでもないが、まあこれはこれでいいんじゃないかな。

 

 その後、暫くはツキが来たようで5分おきにぐらいの間隔でポンポンと何かしらが釣れた。最大30cmぐらいの小ぶりな魚だけであったが釣れるだけ儲けものである。

 

「いつも思うんだけどアンタのソレって本当に釣りなの……?」

 

「いいかい、ジャンヌ。釣りとは本来日々の糧を得るための行為なんだ」

 

 そして、釣りを行う道具も人それぞれ。例えば子供がやるザリガニ釣りなんかは凧糸にサキイカをつけただけでも釣りだし、固定式の最新の大型電動リールに電気ショッカーをつけてマグロを狙ったって釣りは釣りなのである。つまり海や川を傷付けない限りは竿と糸があれば釣りなのだ。

 

「そうだけど……納得いかないわ」

 

『Aaaaa――』

 

 原初の海の女神様から漁じゃんという鋭い意見を頂いたが、ジャンヌには聞こえていないので問題ない。

 

 というかよく見たらティアマトさんは俺の左隣から消えており、魚を入れた生け簀の前でしゃがんでいた。

 

『………………(じー)』

 

「みー」

 

 それよりティアマトさんはさっきから生け簀の中身の釣った魚が気になるらしく、いつの間にかティアマトさんの頭の上に移動したウミネコと魚を眺めている。朝ごはんなら沢山食べさせたのだが、そういう問題ではないのだろうか。

 

「…………食べる?」

 

『Aaa――!』

 

「みゃー!」

 

 ティアマトさんは力強く頷き、ウミネコはちょっと声の質の違う返事をした。ウミネコにまであげる気はなかったのだが、この状態であげないなも可哀想なので一番小ぶりな奴を掴み取ってあげるとモシャモシャ呑み込んでいた。

 

 さて、次にティアマトさんである。海水の生け簀のそこで長いこといたからかぐったりしている最初に釣り上げた鮎を取り出すと、持ってきた竹串を口からさして少し波打つように尻尾まで貫いてお店でよく見掛けるあの状態にした。

 

 それから手に()を灯し、火加減を調整しながらじっくりと鮎を焼く。そして、焼き上がったものをティアマトさんに渡すと美味しそうにハグハグ食べていた。うんうん、可愛い。

 

 するとジャンヌが漫画から顔を上げて、なんともいない表情でこちらを見ていたことに気づいた。

 

「ジャンヌも食べたい?」

 

「ち、違うわよ! ()()()でもあるまいし!」

 

 ふむ、違うらしい。ジャンヌも()()()()()()程ではないが、よく食べる気がするのだが、いわぬが花というものだろうか。

 

 ちなみにジャンヌの言うアイツという人物はジャンヌの姉……なのだろうか? まあ、姉なるものである。

 

「そうじゃなくて……アンタの炎ってそういう使い方していいものなのかと思っただけよ」

 

「ははは、そんなことか」

 

 俺は片手の人差し指を立てて、そこにライターのように小さな炎を作った。炎は防波堤の塩風に晒されても消えるどころか揺らぐことすらなく、怪しく揺らめいている。

 

 翼の方は父親がその種族だからだが、炎の方は父親が性質として持っていたものが俺に遺伝していたものだ。確かに、魚を焼くには些か強火過ぎるかも知れないなぁ……。

 

「でもなぁ……」

 

 金なんて尻拭く紙にもなりはしないと、とある世紀末な漫画の冒頭でヒャッハーが言っているように、どんなありがたいものも用途がなければゴミに等しくなってしまうのである。だったら適当にでも使った方がいいだろう。

 

 それにそもそも俺の炎なんて使うことがなければそれでいいのだ。平和が一番なのである。

 

「アンタのノーテンキなところ変わらないわねぇ……」

 

 それだけいうとジャンヌは再び漫画に戻った。ちなみにジャンヌが読んでいるのは幽遊白書である。霊丸とか好きそう。

 

 そんなこんなで日が傾くまで釣りを楽しんだ。

 

 下らないことを好きなだけ出来る。そんなに日々がいつまでも続けばきっと幸せだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休日が終わり、登校日の朝。ジャンヌより早く起きた俺はリビングで奇妙な光景を目にした。

 

『………………』

 

 それは我が家に加わった角のお姉さんことティアマトさんだったのだが、彼女が何故かテレビ台の前で座って何かを見つめていたのである。

 

 しかし、テレビはついていない。そのため、ただでさえ人外なビジュアルのティアマトさんが、朝ひとりで黙りながらテレビ台の前で正座して何かを見つめ続けるというちょっぴりホラーな光景が出来ている。

 

 あれかな? 猫が天井の隅を見つめるようなものかな?

 

「おはよう、ティアマトさん」

 

『………………』

 

 横から覗き込んで声を掛けてもそのまま見つめているので何かと思い、視線を辿ると、ティアマトさんはついていないテレビを見ていたのではなく、テレビ台に置いてある20cmぐらいの"こけし"を眺めていたということがわかった。

 

「これ?」

 

『――――!』

 

 面白そうなのでテレビ台からこけしをひょいと持ち上げ、ティアマトさんのお膝に置いた。

 

『Aaa――?』

 

 するとティアマトさんはこけしを手に取り、回してみたり逆さにしたりしながら隅々まで見つめ、こけしを観察していた。

 

 そして、こけしの首にティアマトさんが何気なく手を掛けると――。

 

『――――!?(きゅぽっ)』

 

 小気味良い音と共にこけしの頭部が胴体から外れ、ちょっとティアマトさんが驚いた。

 

『………………(かちっ)』

 

 驚いたのもつかの間、すぐにティアマトさんが頭を身体に差し込むと、軽い音と共にこけしは合体した。

 

『………………』

 

 ティアマトさんはそのままこけしを少しじっと見つめた後、また頭に手を掛けた。

 

『…………(きゅぽっ)』

 

 またひっこ抜いた。

 

『…………(かちっ)』

 

 と思えば戻した。

 

『…………(きゅぽっ)』

 

 抜いた。

 

『…………(かちっ)』

 

 戻した。

 

『…………(きゅぽっ)』

 

 抜く。

 

『……(かちっ)』

 

 刺す。

 

 そうして一頻りやった後、ティアマトさんはこちらに振り向く。

 

『Aaaaa――――……』

 

「さいですか」

 

 その場で身体をぷるぷると震わせ、無表情ながら嬉しそうな声色でティアマトさんはそう溢した。

 

 どうやら東北の温泉地の土産は、メソポタミアの女神様にも好評らしい。流石日本製だなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『Aaaaa――(きゅぽっ)』

 

「ダムキナ」

 

『Aaaaa……(きゅぽっ)』

 

「マルドゥーク」

 

『Aaaaa――(きゅぽっ)』

 

「アヌ」

 

 私が起きると彼とティアマトが部屋の明かりもつけずにテレビの前で座りながら何かをしていた。彼はティアマトの言葉を訳しているみたい。

 

 意味わかんないんですけどなにこれ黒ミサ……?

 

「何やってんのよアンタたち……」

 

 私はとりあえず呆れながら部屋の明かりをつけた。すると私に気づいた彼が私の方に来る。

 

「おはよう、ジャンヌ」

 

「ああ、おはようござ……じゃないわよ、朝から何してるのよ?」

 

 一瞬彼に流されそうになったが、耐えて私は問い掛ける。すると彼は首を傾げながら自分でもよくわかっていないという表情で呟いた。

 

「ストレス発散……?」

 

「アンタってストレスあるの?」

 

「いや、俺じゃなくてティアマトさんの…………ん? 今のちょっと酷くない?」

 

 彼のことは置いておいてティアマトの近くに行くと、彼女は彼がなんとなく集めているこけしのひとつで、首が取れる奴から頭を取っては戻してをゆっくりと繰り返していた。

 

「…………メソポタミアの流行かしら……?」

 

「なにそれこわい」

 

『Aaaaa……(きゅぽっ)』

 

 しかし、なんて言ってるかわかんないわね。むしろなんで葵はわかるのよ。声の大きさもリズムもトーンもほとんど一緒じゃない。

 

「なんて言ってるのよ?」

 

「えーとだな……」

 

 彼はティアマトがこけしに首を入れるのを待ち、ティアマトが首を抜くと口を開いた。

 

『Aaaaa……(きゅぽっ)』

 

「マルドゥーク」

 

『Aaaaa――(きゅぽっ)』

 

「エンリル」

 

『Aaaaa――(きゅぽっ)』

 

「エア」

 

『Aaaaa……(きゅぽっ)』

 

「マルドゥーク」

 

 マルドゥーク多いわね。何の怨みが……いや、怨みしかないわね、間違いないわ。やっぱ神ってクソだわ。

 

 気のせいかしら? なんだか私にもマルドゥークだけ若干力を込めて言っているように思えてきたような……バカらしい、それどころじゃないわよ。

 

「はいはい、もう止めです。遅刻するのはイヤですし、そろそろ朝御飯にしま――」

 

『Aaaaa――!』

 

「はやっ!?」

 

 ご飯という言葉を聞いた瞬間にティアマトは着席していた。あ、でもこけしは持ったままなのね。そんなに気に入ったのかしら……。

 

「ハァ……」

 

「ジャンヌ、溜め息吐くと幸せが逃げるよ?」

 

「ただの呼吸よ呼吸。そんなことよりお箸とお茶でも出してなさい」

 

「はーい」

 

 言葉の真ん中を伸ばしながら簡単に返事をして彼はキッチンに向かって行った。

 

 へんなやつなんて釣りバカ(アンタ)姉を名乗る不審者(アイツ)で慣れたわよ全く……。

 

 

 

 




◆登場人物
愛宕(あたご)(まもる)
 本作の主人公。珍妙な神器を持つこと、父親が人間ではないこと、間違っても日本人には見えないこと以外は一見極普通の人間のハーフ。自身の神器を使って釣りを楽しむ毎日を送っている。
 身体能力が人間を止めているレベルで高く、黒い翼出せたり、炎とかも出せる。その上、かなりステゴロが強いが、本人があまり争いを好まないため、滅多に拳を解放することはない。
 性格は一言でいえばかなりマイペースで素直。ついでにあらゆることにあまり動じない。釣りは好きだが、そこそこディープなゲーマーでもあり、ジャンヌをそちら(オタク)側に引き摺り込んだ張本人でもある。

◎神器
"巨人の釣り糸(ミズガルズオルム・ビックフィッシャー)"
 北欧神話において、変装した雷神トールが巨人ヒュミルと共に海に出て終末の大龍(ミズガルズオルム)を釣ろうとし、海上まで釣り上げたミズガルズオルムをハンマーで殺そうとしたが、結局怖じ気づいた巨人ヒュミルが糸を切ってしまい海中に没するという逸話がある。この神器はその伝承の糸そのもの。
 武具や道具の類いではなく、釣るという概念そのものを具現化し、糸の形に見せているだけのものであり、保有者の心そのものが折れぬ限りは決して切れることがない。
 更に釣るという概念そのものを水面に垂らしているため、平行世界、異世界、異宇宙など全ての水にまつわる概念を持つものに対して全くランダムに釣りは垂らされている。故に何が釣れても特に不思議はない。加えていえば海で釣りをする意味もまったくない。

 要は何でも釣れるスゲー糸。ロッドは別売り。


◆ジャンヌ
 この小説のヒロイン兼相対的常識人。葵はジャンヌと呼ぶ。その昔、葵が釣り上げ、愛宕家に保護される。それからは葵の側で甲斐甲斐しく世話を焼いている少女。口調はキツいところがあり性格もひねくれているが、根は優しく家事万能で、割りと普通にオタク。自分の出生はあまり語りたがらない。


◇釣果(ジャンヌを除く)
◆ティアマト
 この小説のママ枠兼リヴァイアさん枠。原初の"海"の神。何故か葵には言葉がわかる。後、竜にもわかる。愛宕家のエンゲル係数をはね上げた女神さま。

※リヴァイアさん=波打ち際のむろみさんに出てくる小倉弁で話し、凄まじい数の属性(腹筋、褐色、たれ目、人外娘etc)を持つ人魚っぽいリヴァイアサン。世界創造に立ち会ったり、ムー大陸滅ぼしたりしてるお方。いわゆる無敵キャラ。

◆鮎
 キュウリウオ目に分類される、川や海などを回遊するお魚。春が旬。やはり塩焼きが旨い。
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