「オルタ! お姉ちゃんにただいまのキスしましょう!」
「ふざけんじゃないわよ!? 離せ怪力女!」
現在、久し振りに家に帰ってきたことにより、感極まっていつものより数倍グイグイ迫るジャンヌさんがジャンヌを力で押さえ込んでおり、完全にマウントを取られていた。これが姉妹愛か……。
「くけけけけ」
リースの言うとおり笑うしかないなあ……それにしても口開けて前から見るイルカって歯がスゴくて怖い。
「おかえり、マモル」
「ただいま、オーフィスさん」
そんなことを考えているとオーフィスさんがトコトコ歩いて挨拶して来たのでこちらも返した。
そういえばオーフィスさんの咬合力はリースより遥かに高いんだよな。ドラゴンだし。
「オーフィスさん、ちょっと口開けてみて?」
「ん…………」
オーフィスさんは特に疑問に思う様子もなく口を開けた。そこにはリースと比べるべくもない、可愛らしい八重歯が並んでいた。力は何百倍かもしれないがこれでは全然怖くないなあ。
「甘い」
見せてくれたお礼にべっこう飴を口に入れるとオーフィスさんはコロコロ転がしながら小並感を呟いた。ちなみにオーフィスさんは飴を噛まずに消えるまでなめているいい子である。
「あ、あのカラスさん……その方は?」
するとジャンヌちゃんから質問があり、何やらそわそわとしている。同年代か年下っぽいからだろうか。
とりあえずジャンヌさんとジャンヌ置いておいて、先にジャンヌちゃんと話そう。多分、ジャンヌならまだ5分ぐらい持つと思うので大丈夫だろう。
ちなみにジャンヌと、ジャンヌさんと、ジャンヌちゃんは血は100%繋がった姉妹である。
真面目かつ簡単に説明すると、ジャンヌさんが英雄ジャンヌ・ダルクの魂を受け継ぐ者であり、ジャンヌはジャンヌさんのクローンであり、ジャンヌちゃんはジャンヌのクローンなのだ。そして、三人は数奇な運命の下、こうして我が家に集まっているのである。
ジャンヌさんが俺を含めてこの中で一番年上で、教会――もとい天界陣営に就職したので、普段はこの家を開けており、たまに帰ってきてはこうしてジャンヌに抱き着く。ジャンヌちゃんは社会勉強も兼ねてジャンヌさんと一緒に天界陣営へと着いて行っているのだ。
ちなみに俺はジャンヌちゃんからカラスさん等と呼ばれている。
まあ、その辺りは単純に俺の種族が――。
「あ、あの……」
「――ああ! 悪い悪い考え事してた」
思考しているうちにジャンヌちゃんを忘れていた。これは失敬、失敬。
「彼女はオーフィスさん。ほら、あの
「ん……我、オーフィス」
何故かジャンヌちゃんに向けて荒ぶる鷹のポーズをしながら自己紹介をするオーフィスさん、無論相変わらずの死んだ魚の目と無表情である。他人事のようだが、随分ユーモラスにもなったものだな。
「そうなんですか! オーフィ……ス……さん――?」
するとジャンヌちゃんは言葉が尻すぼみになっていき、やがて目を見開いた。
「えぇぇぇぇぇぇ!!!?」
ついでに絶叫する。俺とオーフィスさんは目を丸くして、目を見合わせてから絶叫の理由を考え、思い当たらなかったので同時に首を傾げた。
「あれ? オーフィスさんじゃないですか? どうして家に?」
するとジャンヌに物理的に絡んでいた本物の聖処女が話に入ってきた。心なしかつやつやである。
ふと、気になったのでジャンヌに目をやる。
「………………姉だったわ……」
なんだか、目に光がないままうわ言のように姉と呟きながら床に倒れ伏して、平常時の数倍真っ白なジャンヌがいた。
まあ、いつもこんな感じになるのですぐに再生するだろう。
「し、知ってるんですか私!?」
「ええ、もちろんです! だって私がこの家に居た頃、マモルさんの釣りに行くとたまに釣れましたから」
「我、大漁」
「ええ……ええ……?」
ジャンヌちゃんは困惑と言わんばかりに表情を歪めた。
ジャンヌさんは家に居た頃はその場で俺が魚焼くのを食べる目的でしょっちゅう釣りに着いてきたからなあ。
「待て……! 知らないわよ私そんなのッ……! アンタ……ソイツの釣りに着いて行ってたの!?」
「あ……これオルタにはナイショだったんでした!」
やっちまったと言わんばかりにコツンと自分の頭を小突きながら片目を瞑り、舌を出す聖処女さま。これだけで今までの奇行が全てチャラになって、お釣りが来るぐらい可愛いのだから美人ってズルいと思うの。
ちなみにオルタとは
「でも大丈夫ですよオルタ」
ジャンヌさんは腰に手を当てながら温かい瞳をしながら、最近になって掛け始めた眼鏡を直した。
「あなたの未来の旦那さんを私が盗るわけないじゃないですか」
「――――――!」
「おっ! 姉妹喧嘩ですか、受けて立ちますよ!」
「だぁぁ――まぁぁ――れぇぇぇ!!」
ジャンヌは声にならない声をあげながら顔を真っ赤にしつつ、実際に身体から黒い炎を噴き上げながら、ジャンヌさんに飛び掛かった。
HAHAHA。まー、好きでもない奴の旦那さんにさせられたらそりゃあ怒るわな。
『Aaaaa……?』
「いや、本気で言ってるのも何も普通年頃の女の子はそう反応するじゃないですか」
夢なんて見ません、見ませんとも。
『Aaa……』
ティアマトさんに小さく溜め息を吐かれた。解せぬ。
ちなみに例えるのならジャンヌさんはみず・かくとうタイプで、ジャンヌはほのお・あくタイプなのでどちらが勝つかは言うまでもない。
◇◆◇◆◇◆
「はぁ……やっぱりオルタの料理は美味しいですねぇ……」
「ケッ……!」
姉妹喧嘩が終わった後、我々はやや遅めのランチを取っていた。ジャンヌさんが頬に手をやり舌鼓を打つ度に、ジャンヌが舌打ちをするという妙な光景が広がっている。
元々よく食べるジャンヌさんがおり、その向かいにティアマトさんとオーフィスさんがいることで面白いように食材が溶けていき、台所に立つジャンヌと俺はてんてこ舞いである。
ちなみにジャンヌさんも料理は出来るが、ジャンヌと比べられるような腕ではない、俗に普通という程度である。まあ、とても凝り性で、なんでもとことんまでやりたがるのがジャンヌの性格だ。その辺りがジャンヌさんとの大きな違いと言えよう。
「あの……何かお手伝いしなくていいでしょうか?」
カウンター越しにジャンヌさんの隣に座ってランチを取っているジャンヌちゃんが申し訳なさそうにそんなことを呟いてきた。
「いいのいいの、好きでやってるからね」
「そうね、気づいたらまた海産物が家に増えてますものね」
そう言いながらジャンヌは俺の足を踏みつつ笑顔に青筋を立ててこちらを見て来た。
わぁ……怒ってらっしゃるぅ……。
「ヲー」
そんなやり取りをしていると、帽子がなくエプロン姿のヲ級ちゃんが空のお盆を持ってキッチンに入って来た。配膳の仕事を買って出てくれているのである。
ちなみにあの触手帽子はお家でのマナーとして玄関の帽子掛けに吊るしてある。掛けてみると触手部分が地面に触れていたので蝶々結びにしてあるのだが、無くすと困るぐらい大事な物らしいのでそのままも忍びないし、ヲ級ちゃんの帽子の置き台とか作らなきゃな。
「ありがと。次はこれね」
「ヲー!」
ジャンヌはヲ級ちゃんのお盆に追加の料理を乗せ、ポンポンと頭を撫でてからヲ級ちゃんを送り出した。
いやー……俺が言えた義理では確実に無いのだが――。
「逞しいなぁ……ジャンヌ」
「誰のせいよ誰の!」
いや、ホントすみませんマジで。
◇◆◇◆◇◆
ジャンヌさんとジャンヌちゃんが家に戻ってから最初の登校日の昼食時。俺とジャンヌはいつも通のように学校におり、イッセーとアルジェントさんと共に屋上で食事をしていた。
ジャンヌさんによればジャンヌちゃんと共に暫く家に滞在するとのことである。リースはジャンヌさんとセットなのでノーカウント。
理由は近々、三陣営での話し合いの場が設けられる可能性が非常に高いらしく、それまでの間はジャンヌが直接行うようなこともないため、休暇なんだとか。くっそホワイトだな天界。
それを聞いたジャンヌは切れ気味であったが、この家はジャンヌさんの家でもあるので、ぶつぶついいながら受け入れていた。相変わらず良くできた娘である。
ちなみにテロリストの首領であるオーフィスさんについて天界には報告しないでいいのかなと聞いたところ――。
『………………? なんで報告する必要があるんですか?』
と、首を傾げながら、リビングのテレビでジャンヌとマリカーしているオーフィスさんを眺めてそう返して来たので大丈夫だろう。
まあ、知ってる者からしたらオーフィスさんは非常に温厚で、そこそこ好奇心のあるただのドラゴンだからなあ。ちなみに遂にジャンヌに勧められてゲームに手を付け始めたようである。
そんなことを考えていると隣にいるイッセーが口を開いた。
「なあマモル、ちょっといいか……?」
「ふむ、勿論いいぞ」
なんだか少し深刻そうな面持ちに見えたので、こちらも真剣に話を聞くことにした。イッセーの隣のアルジェントさんもふにゃふにゃした顔をキリリと整えて真面目そうである。
イッセーから聞いた話をまとめると、どうやらリアス・グレモリーさんと、フェニックス家のライザーさんとやらで非公式のレーティングゲームがあるらしい。
その経緯はフェニックス家の三男の方が、本来大学卒業後の予定だったリアス・グレモリーさんとの結婚を踏み倒して来たことがそもそもの原因らしい。
悪魔なら契約は守らないといけないだろと思うが、案外そうでもないのだろうか?
その過程で三男の方に半分は自爆と言えど、イッセーがクッソ煽られたりしており、どうやらその事が尾をひいているようである。
そして、明日から1週間、山籠りの修行くとのことである。
「なにそれ、スポ魂漫画の読み過ぎでしょう」
と、1日平均5~10冊は漫画読んでるジャンヌが申しております。
「へー」
俺は持っていた紙パックのバナナジュースを飲み干してから口を開いた。
しかし、酷いな色々と。何もかもなんだと思っているのだろうか。
「話を聞く限りフェアじゃないなあ……それじゃあ――」
「ちょっと、そんなことで怒んないの」
「え? マモル怒ってるのか……?」
俺の内心を読み取ったジャンヌに言葉を止められ、少しだけ頭が冷えた。
うん、そうだよな。
「いきなりフェニックス家をその人を燃やすのはよくないよなあ……」
「へ?」
「ホント、アンタは家族と友達想いですね」
そりゃ、そうだ。俺の友達が傷つけられたんだ。今、怒らずしていつ怒る。
無論、家族もそうだ。家族を傷つけられる以上に不愉快なことがどこにあるというのか。
そして、相手に思い知らせてやるしかないじゃないか。2度と家族や友達が傷つけられないように。それが友達だ。それこそが家族だ。そうだろう?
「お、おい……マモル?」
「ま、マモルさん……?」
「ハァ……無駄よ。こうなったらコイツは相手を燃やし尽くすまで絶対止まらないんだから」
そういうジャンヌの表情は諦め半分、これから起こることへの期待半分といった様子であった。
「イッセー、アルジェントさん。俺ちょっと――」
俺は手のひらで転がしていた空の紙パックに火を付け、跡形もなく燃やし尽くした。
「話し合いにフェニックス家行ってくるわ」
俺の放課後の予定が決まった瞬間であった。今日は釣りはお休みである。
※マモルくんはイッセーが悪魔になった経緯を知りません。まあ、相手が全滅しているのでマモルくんは納得するでしょう。
ジャンヌさんはファミパンですが、主人公はもっとアレです。というか武力を持たせてはいけないような人種です。まあ、主人公の父親はアレだからね。仕方ないね。
あ、GOD EATERのTSアラガミ憑依(転生)小説を書いたのでよかったらそちらもどうぞ。