女の話をしよう(略
「私の名前はイシスネフェルト……という事になっています。本名はネフェルティティ。」
さっきまでハイライトの入っていなかった瞳に光を戻した少女()がおもむろに口を開いた。やっと始まったまともな会話に俺はただうんうんと頷いて見せる。
余計なことを言って話が脱線何てごめんである。
「私はかのラムセス2世の花嫁……側室として王宮に上がりました。姉の代わりに。」
なるほど、だからあんなドロドロになる様な化粧と妙に上等で煌びやかな服を身に纏っていたわけだ。そうか、あの王子の花嫁()だったのか。
そこから少女、ネフェルティティが小刻みに震えながら言葉を更に重ねだした。
いつの間にか戻ったと思ったハイライトは消えているし、剣呑な雰囲気が漂いだしたんだが……。
「そ、そもそも……姉が、その……王宮に上がる3日前に置手紙を残して失踪してしまって……で、でもお……ひっ……私、思い出してしまったんですうっ……この先、このまま私が、妃になったらあ……っひっ、ヒッタイトとのことで…じ、自害、しなきゃっならなくうう、うえっ。」
お渡りはまだだけどそろそろ私に回ってきそうだし……とめそめそとネフェルティティが泣く。
あ、そうか。イシスネフェルトって確かオジマンディアスの第二妃の事か。
確か跡継ぎ産んだけどヒッタイトの王女の輿入れの件で自害せざる得なくなった人。
……だったような。あれ?あってる、よな?
「うんうんそれで?」
「わ、わたしぃ、し、死にたくないんでずうううっ。前だって二十歳手前で死んじゃうしいいいいっ。確かにったしかにオジマンディアスはかっこいいけど、かっこいいんだけどおおおっピッグアップには諭吉出すくらい課金したけどもおおおお、それとこれとは別問題なんですううううっ。」
うわああああああっとまた加減を知らない子どもの様にネフェルティティがしゃくりあげながら泣き出した。というかあれか、貴様俗に言う廃課金勢だったのか。俺の友達にもいたぞ、廃課金勢。事あるごとに爆死?だったか?したとか言ってたが。
確かFGOとかいうソーシャルゲームだったか?よくわからんけど。
「あーうん。わかった、取り敢えず死にたくないのとお前が廃課金勢なのは分かったから。」
というか君どうやってここ来たの?と聞くと素直に何でも願いを聞いてくれる何かの噂を聞いてきた。とのことだった。……別に願い事きいてるわけじゃなくて悩みとかの一方的な相談に乗ってるだけなんだけど、なんか酷い誤解されてね?
「それなのに、それなのにぃっ……犬がいると思ったらオジマンディアスのパチモンってどういう事なのオオオ!?喜べばいいのか泣けばいいのか怖がればいいのかもう訳わからないんだけどおおおおっ」
「俺の方が訳わからんわ、阿呆。」
混乱してたらよくわからない生臭い汁物のまされるし……と今度こそハイライトを失った目に戻ったネフェルティティがはあああっという溜息とともに黄昏ながら言う。
「初対面の男の人の前で嘔吐とか……もうお嫁にいけない……いや、もう形式だけなってるけども。」
うん、その件は悪かった。ごめんと心の中のどこかで言っておこう。
誰かに知ってほしかったんだあの味を、あわよくば外に出て広めてほしい。
あそこで出される料理は不味いって。
不味いって……あれ?
そうだよ。うまいご飯を食べる手段あるじゃん。
「……おい、ネフェルティティ。お前料理できるか?」
「?い、一応?前世は一人暮らしで自炊もしてたから……。」
「よし、じゃあお前今日から俺の料理番な?」
「え゛!?」
「その代わり此処にいれば王宮の奴は大概素通りするし、絶好の隠れ場所だと思うが。」
「ぐ、確かに、誰も入っていきたくなさそうだし……。」
「さらに言えばここには隠し通路があって自由に外と此処とを行き来することが可能だが?」
「で、でもこんな暗いところに年頃の男女が二人っていうのは……。」
「あっはっはっ。安心しろ、こう見えて俺は童貞ヘタレだし。生憎お前は俺の趣味に掠ってすらいない。手を出すようなことはまずないだろうさ。」
「」
かなり自虐入ったが、まあ仕方なし。
食べるという娯楽には替えることが出来ないものだ。
俺の中の何かがちょっとすり減った感じがしなくもないが。
「よ、よろしく。お願いします。」
おずおずとネフェルティティが手を差し出してくる。
俺はその手をしっかりと掴んで振り回した。
ヨッシャ、手下…んんっ料理人ゲットだぜ!!
「ええー…と食材の方は?」
「ん?現地調達。」
「は!?」
「?そのための隠し通路だろ?」
「ふぁ!?」
おまけ
十数年後の彼彼女。
「まあ、今思えば二人ともヤバい奴でしたよね。僕ら。」
「うむ。極限状態だったが故の奇跡の様なものだろう。」
「初対面で自分のこと童貞ヘタレっていう奴初めて会いましたよ。あのときから既に変態だったんですかね?」
「小生が変態だという事は置いておいてだ……そんな奴に何度も遭遇する方が逆にヤバいのではないか?」
「……それもそうですね。」
まあ、ちょいちょい触れてはいるんだけど、このヒロイン(ゲロイン)肝心の夫とは全く面識が無い。
これからお渡り()も抜け出したりするので、そもそも存在そのものが空気とそんな変わらない。
え?そんな奴いたの?みたいな。
因みに肝心のヒロインのねーちゃんは男と駆け落ちしたパターン。