一応閲覧注意
「ではではー。どきっ年季入りすぎ??神様だらけの親族会議を行いたいと思いまーす。」
ドンドンパフパフという効果音がしんと静まり返った空間にやけに大きく響き渡った。
空気の重い神々をそのままに進行役である知恵の神トト神が更に平坦な声で議題を挙げた。
「まず最初に現在最も重要な議題ですがー……ええと、下エジプトで話題になっているらしいジャッカル……?まあいいやジャッカルっぽい何かとイシス女神の信者の件ですが……」
「意義あり!!あれは断じてジャッカルなどではありません!訂正を求めます!!」
「じゃーなんだつーんですか。別にジャッカルじゃないのはわかりますが他に形容できるものが無いんですよ。私嫌ですよ、形容し難き者とか言うの。なんかあれっぽくて。もうジャッカル(仮)でいいじゃないですか。」
言われて抗議したアヌビス神が黙り込む。
残念ながらエジプトにはコヨーテがいなかったため例え知恵を司る神でもすぐにはわからないらしかった。
単純に多方面からの相談事が多すぎてもうめんどくさくなっているのかもしれないが。
「好きにさせとけばいいじゃねーか。鼻高々になったとこで叩きゃもう悪さしようとする気も起きねーだろ。」
ニヒルな笑みを浮かべながらセト神が何処か投げやりに言ってみせる。
一部の神はそんな彼の様子を見て怪訝そうに眉を寄せるがそれに対応するトト神は何処までも冷静だった。
「ふむ……分かりました。では貴方の聖域は割譲という事で、そうですねー具体的にはオンボス辺りとかどうでしょう。あ、民の方は安心してください。貴方の名を出せば一発なので、ハイこれ契約書。」
「なんでだあああああっ!?」
「若かりし頃の貴方みたいにならないとも限らないでしょう?ですから保証人は必要という事で、前金というか、担保というか……取り敢えずはよ出せや。」
まさかこのような形で自分に返ってくるとは思っていなかったセト神はちらりと俯いて両手で顔を覆っている女神……イシス女神の方を見やるとわざとらしく話をイシス女神に移そうと試みた。
「そ、そう言えばよー、イシスんとこの自慢の信者……ほら、あのーなんだっけ。「イシスネフェルト」そう!そいつに楔になってもらったらいいんじゃねーか!な?」
「……。」
対するイシス女神はというとぼそりと少女の名前を呟いた後はそのまま沈黙を貫いており、その表情をうかがい知ることはできなかった。ただし、何かしらの変化はあったようでカタカタと震えている。
古参の神たちはこれで大体は察した「あ、これ触れちゃいけない案件だ。」と……しかし、なんだかんだあって激闘を繰り広げたりとかしていた(要は立ち位置がだいぶ違った)セト神はそれに気づかず、イシス女神に言っても無駄だと思ったのか今度はラー神に同意を求めようとする。
すると、他の神々が止めようとするよりも早くバンっという音とともにテーブルをぶっ叩いたイシス女神が肩で息をしながらぎょろりと目だけをセト神へと動かしてシッカとかの神を捕捉した。
「私だってねえ……。」
髪は衝撃故なのか気性故なのか振り乱され、これでもかとかっぴらかれた目は充血し、元がかなりの美女のためもあってか般若もかくやとも言うべき恐ろしい形相がそこにはあった。
思わずセト神だけでなく彼女の夫であるオシリスや息子であるホルスまでもがたじろぐ。
「わたしだってっ私の信者じゃなければあああっというかあのこじゃなければそうしてたわよおおお!!!」
「っひ」
言って猛禽を思わせる迅速さでセト神へと飛び掛かる。
そのままマウントをとったかと思うと拳を硬く握りしめ、グーでたこ殴りにし始めた。
「おらっおらっ私のっ愛し子をっあのっよくわかんねー野郎のっ伴侶にっだと!?もうっ一遍言ってやがれ!このくっされがアアアアア!!」
おらあああっといってその言葉の節目節目にセト神の顔に拳がめり込む。
粗方相手を殴った彼女は何を思ったのか何処からともなく自身のウアス杖を取り出した。
それを一片の躊躇もなくビクンッビクンッと痙攣しているセト神に向かって振りかぶる。
その先を察したらしき夫と息子二人掛かりで羽交い絞めにされ杖を奪われた彼女はそれでもまだ足りないようで届かない両腕をそれでもブンブンと振りまわしている。
まって、その役割は少なくとも貴方ではなくセクメト神あたりでは?
残念ながら両名がそろっているこの空間でそう突っ込めるモノは誰一人としていなかった。
「……イシスよ。」
「あ゛?」
事態を収拾しようと見兼ねたラー神がイシス女神へと声を掛ける。
と、どこぞのヤンキーか何かの様な返しが返ってきて流石の主神も慄いた。
「い、イシスよ。我が娘よ。何故あの娘に肩入れするのか。この父に教えてはくれぬか?」
「はい!もちろんでございます!お父様!!」
先程とは別人の様に、しかし、テンションはいつもの六割増しくらいで愛し子である少女について語りだす。
曰くどの魔術が得意で直々に指南したとか、複雑な家庭事情で自分の名を使うことを特別に許したとか。
止まらない、止められない。
「あのような敬慮な子は他に観ません。少々他の人間と価値観にずれがあるようですが……ああ、本当にゆくゆくは私の神官になってほしかった……だというのに……。」
手にしたウアス杖がミシリと軋んだ。
いつの間にか杖を奪われていたホルスは驚愕の眼で母の手元と自身の手を交互に見る。
そのままあらん限りの力でセトを撲殺せんとその杖を振り上げた。それ殴打武器違う。
これを見ていられなくなったネフティス女神がすかさず止めに入る。
「ま、待ってください姉さま!!これでも!こんなだらしなくてどうしようもない人でもいいところもあるんです!!。」
そんなフォローにならないフォローをしながら前に歩み出る。
「た、例えばこんな案はどうでしょう。形だけセクメト神の化身に変えてもらって隙を見て惨殺するとか!」
「あら?いいの?そんなことしたら私、今度こそ止まらないわよ?」
いってベロリと自身の口周りを舐めるセクメト女神に周囲はナイナイと首を振った。
「で、でも!他の神の化身というのはいいですね。流石にこの星の神性がまとわりついているのなら、それも化身ならなおさら遠ざけたがるでしょうし。」
「というか私たちの誰かの力を使って殺したとして、本当にその程度で死ぬのか……?」
しんと再び静まり返る場にんんっというラー神の咳払いが響く。
「あー、ではトトよ。貴様から結果を発表せよ。」
「結果って何ですか。何一つ決まってないでしょ。イシス女神がバーサークしたのと襤褸雑巾が出来ただけでしょ。というかあんたが主神なんだからあんたが決定しろや。」
「ふむ……私は今耳が遠くてな。なんせもう夜だから。」
「まだ昼だぞ、クソ爺。」
「あんだって?」
「……はーいみなさーん。判決出ましたー。我らがラー神が皆さんの不安を取り除いてくださるそうでーす。具体的にはあの二人の後継人になって末永く見守っていくんだとかー。ハイかいさーん。「待て待て待て待て」……今度はなんですか。もう会議は終わったでしょ。おじいちゃん。」
「いや見守ってくってお前……そりゃないだろう。私にはただでさえラメセス二世というだな。」
「ほら、もう一人見守ってるんだから一人も二人も三人も一緒でしょう。はいじゃあ話は終わりという事で。」
「しゅうごーう!!まて、私が悪かった。ちゃんと指名するから!!じゃあセクメト……はヤバいし……ハトホル……もちょっと騒がしくなりそうだし……イシス……は元からあれだ「あ゛?」今回は遠慮してね。という訳でバステト。お前がしなさい。」
「えええええええ!?」
こうして不運にも巡り巡って役割が回ってきたバステトは耳と尻尾を垂らしながら渋々といった態で少女の夢枕に立ちに行ったのであった。
***
「……というわけでこれからは私が貴方付きの女神になります。」
「はあ。」
目の前で泣きながら説明する女神に対して何を思うでもない。
というかイシスネフェルトは何も考えられなかった。
今までずっと信心深く、それこそ妃騒動はあったもののそれも回避して、今まで信仰を貫き通してきたというのにこの仕打ちはなんなのだろう。
しかし、此処で事の間接的な要因になった相方のことを恨むとか、目の前の猫頭の女神に当たり散らそうとかしないあたり彼女はかなり冷静だったのだ。
彼女はその冷静な状態のままとんでもないことをしたためた羊皮紙をその場で作成。
女神に渡す。
「これ、主神に渡しておいてください。では、開始は今日の夜中辺りなのでよろしく。」
しかし、その書簡をその日のうちにラー神が読むことはなかった。
バステトが怖気づいて返ってきたものと勘違いして御所に入れなかったからである。
バステトは必死に訴えかけたがなかなか聞き入れてもらえず、結局書簡が渡ったのは三日後の昼。通りかかったセト神に訳を話して入れてもらったのだ。
その書簡を読んだラー神は「何でもっと早く伝えなかったのか。」とバステト神を咎めようとしたがトト神に「いや、あんたが話聞かなかったんだろ。」と言われついでに強く後ろから引っ叩かれて脳震盪を起こしたので泣き寝入りせざる得なかった。さらにこの後事情を聞いたイシス女神から吊るし上げにされたのは言うまでもない。
書簡にはこう書かれていた。
『もし今日の夜中までにこの結果を覆さなくばお前たちが
***
所変わってある寝室。
対面するようにベッドに座る男女が一組。
「大事な話があります。今日を持って僕はイシス女神の信者をクビになりました。」
「今日付けで僕はバステト神の化身になるそうです。」と真面目な顔で言う彼女にそもそも信仰は自由なのではとか思いながらウェウェコヨトルは適当に相槌を打つ。
一応書簡は送ったんですが……来ませんしねとイシスネフェルトが溜息を吐いた。
「という訳で。」
先程とは打って変わって美しい微笑を浮かべて彼女は言った。
と、同時にトンと軽く胸元を押されてそのままベッドに倒れる。
その時点で逃げていればよかったものを「あれ?」と思っただけでウェウェコヨトルは微動だにしなかった。
自身に馬乗りになった彼女は言う。
「僕と×××しましょう?」
「」
耳を塞ぎたくなった。
気付けば両腕は無事だが首と両足に鉄枷が嵌っていた。外れない。
「ああ、それはヒッタイトの神鉄を加工したものなのでちょっとやそっとじゃびくともしませんよ。」
「例え君が外宇宙の■■の類であっても、時間稼ぎぐらいなら、ね?」
耳元で甘い声が囁く。
「いいいいいやだがしかしだな。小生とそれをするという事は」
言い募る、言い募れ。
何としても彼女をこちら側に引き入れるわけにはいかないし、そうさせたくはないのだ。
「大丈夫。
その手にはヒッタイトの神鉄やらラピスラズリやらが織り込まれた凝った作りの紐が握られていた。
「ま、待て待て待てえええええああああああああっ」
「……それで、肝心の書簡とやらには何と書いたのだ。」
「んー?別に、豊葦原の中つ国の基盤を作ったヤンデレ女神染みた嘆願書を送っただけですよ?」
「......。」
それは嘆願書ではなく脅し文句の類いではないかと日本神話を知るウェウェコヨトルは思ったが心無し機嫌良さげな相方にまあいいかと全て赦すことにした。
その数年後、その村は野性味と異界の閃きをたたえた瞳の猫が闊歩する猫にまみれた村とかすのだが、それがエジプト世界を震撼させたかどうかはまた別の噺である。
ヒロインは猫への変身能力を習得した。
......バステトにしたのが裏目にでた神様勢。
因みに子供たちを集めると猫の集会染みてる。
*バステトは音楽の他に多産等も司る神様