召喚したら犬が応じた件
「おーい。そろそろレイシフトはじまるぞー。手元の菓子とか隠せよー。」
「うーい」
「あーとうとうかー」
そんな緩い掛け声とともにガサガサと比較的下っ端のカルデア職員たちが身支度やら自身の担当場所を粗方綺麗にしていく。もちろん飲みかけの栄養ドリンクやらカロリーメイトやらもだ。
「血統書付きの魔術師連中は大体潔癖だもんね」
「あれ?おかしいな。俺たちも魔術師なんだけど?」
「こここれただけでもめっけもんでしょ。」
そんなことを愚痴りながら始まったレイシフト。
そこで仕組まれた爆発が起こる。
そしてそこにはやはりというか各種機材も無事ではない。
そんな中でサーヴァント召喚システムフェイトを担当していた機材の一部。
そのテーブルには何故か栄養ドリンクの雫が滴り落ちていた。
バチチッと混乱を極める管制室に不自然な電子音が響いた。
***
「ウ゛うぅぅっ」
「あ、こら!そっちじゃないぞ!!」
言ってぐいっと立花は即席のリードを目一杯引っ張る。
「キャンっ」と言ってそれに繋がれた黒い犬が引き摺られるように立花の元に寄ってきた。
「ふう、これじゃあ合流どころじゃないよ……。」
はあっと立花が溜息を吐く。
先程からこのやり取りを繰り返すこと既に10回を超えており、恐らくまだ3メートルも進めていないのではないかと思うと気が重くなった。
とそこにじゃりっと自分ではない誰かの靴が地面を踏みしめる音が聞こえる。
「先輩!所長ー先輩がいらっしゃいましたー!」
そう言って後方へと手を振るマシュにやっと立花は一息ついた心地になったのだった。
スタスタと隣を歩く所長が「ところで……。」と立花の隣を渋々と言った態で歩く犬を見た。
「その犬。サーヴァントよね。」
こころなし、その顔は引き攣っていた。
冷や汗も尋常ではない。
「え?サーヴァント?違いますよーきっと召喚陣に入っちゃったバカい、もが!?」
最後まで言い切る前に所長に口を塞がれた立花は忙しなく両腕をバタつかせるが、それでも所長はその手を離すことなく立花に耳打ちする。
「いい、藤丸立花。貴方がサーヴァントにどんなイメージを抱いているかはこの際聞かないわ。けど、恐らくあの犬は並大抵のサーヴァントじゃない。気付かなかったの?今まで私たちの周りを徘徊していた敵たちがいなくなったのを、
「敵?そんなの……。」
「ええ、そうね。貴方はあれと一緒だったんだもの。出会ってすらいないと、そう思うわよね。けど、私とマシュは違う。少なくとも私は、あの子がいなければとっくにスケルトンたちの餌食だったわよ。悔しいことにね。」
ギリッと所長が指を噛んだ。
「というかなんでサーヴァントに首輪なんてつけてるの!?そもそもサーヴァントが大人しく繋がれるような紐なんてどこで……。」
「え、や、だって一応犬ですし……あ、紐の方はばあちゃんが昔エジプトの知り合いから貰ったらしい帯紐です。なんでも王家の誰かが使ってた装身具の一部とか……まあ、眉唾物なんですけどね。」
出会い頭に牙剥かれてほんと怖かったんですよ……とその時を思い出して少し半泣きになった立花に今度はマシュがそれとなく唇に人差し指を宛てて静かになるよう促す。
「■■■■■!」
まるでその声量だけで木でも薙ぎ倒せるんじゃないかと思わせるほどの轟音が辺りに響き渡った。
それとともに立花たちより遥かに重い何かがどしんどしんと地面を踏んでゆく。
丁度立花たちが瓦礫の陰で息をひそめているそのすぐ横を冬木で行われた聖杯戦争のバーサーカー……ヘラクレスが通り過ぎていった。
確かに過ぎ去ったことを確認した一同が息を吐く。
「……さっきのみたいな奴が、あと6体も……。」
「どうやら私の認識も甘かったみたい。立花、サーヴァントをせめてもう一体、いいえ2体召喚するわよ。」
ちらりと犬の方を見遣って所長が言った。
***
「ワンワンワンっ!!」
ウウウウウっと唸る犬を召喚陣の内側にセット(この言い方でいいのかは不明だが)してみんなが一斉に頷くと立花はそのサークルの中に呼び符を投げ入れた。
サークルは虹色の光に包まれ、そうして光が止む……ことはなく、尚も回転し続けている。
あれ?と思う一同を置いてきぼりにして、乱暴に何かが吐き出された。
「「!?」」
ドシャっとその場に倒れ込んだのは見目麗しい10代後半くらいの少女二人だった。
「っ……随分と乱暴な召喚で……いいえ、まあいいでしょう。僕はイシスネフェルト。クラスはアルターエゴ。ええと、此処に黒髪金眼の、なんか妙に犬っぽい男は来ていませんか?」
「いったたたた……酷い目に遭いました。あ、お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。私はラムセス二世の子が一人メルトアトゥムと申します。クラスはルーラー。何やら懐かしい気配がするのですが……?」
少女がそれぞれ室内を見渡していると続いて「ギャンッ」という鳴き声とともに回転の中から吐き出されてきた毛玉が一匹。それをキャッチした立花を見て少女たちは目を見開いて固まった。
「首輪に、黒焦げ……いったい誰がこんなひどいこと……。」
黒髪のまるで陽だまりの様な少女が瞳に涙を溜めて言う。
「……仇は取ります。だから、それまでゆっくり休んでください。」
もう一方の怜悧な美貌の少女は言葉は少々硬質ながらもその手で優しく毛玉の毛並みを梳く。
そんな二人の様子に冷や汗を流す立花。マシュとオルガマリーはどうすることもできず見守るのみだ。
「「さあ、行きましょう。マスター。」」
そういった二人の目は、恐ろしいほど澄んでいた。
犬の正体は……もうお分かりですよね?