ジュワリ
何かの焼ける音がする。
次いで何か有機物の焼ける匂い……。
途端にまだ夢見心地な脳裏に在りし日の食卓が思い出された。
あの日は確かネフェルティティがステーキを出してくれたんだったか……。
でも個人的にはあの時一緒に出た煮しめの方が美味しかったなあ……いやステーキも美味しかったんだけど。
ああ、ネフェルティティ、ネフェルティティ……。
叶う事ならもう一度ネフェルティティの料理が食べたい。
そんなことを思考していると鈍くなっていた痛覚が戻ってきたのかシャレにならない痛みが背面を襲う。
思わず悲鳴を上げて力を込めて形態を変容させた。
「っ!?!!!?……たかだが術式の末端の分際で……おのれぇっ」
***
「ちょっ!え!?これ……。」
鬼気迫る勢いで管制室で指示を出していたロマニ・アーキマンが席を立ちあがり、計器の画面を食い入るように見つめる。
と、他への状況確認作業を取るよりも先にレイシフト先への連絡装置へと接続し直した。
「も、もしもし!立香君!マシュ!聞こえるかい!?」
機械越しとは思えないほどクリアな音声で「は、はい。」と向こう側から慌てたような返答があった。
「さっきから映像がショートしていてそっちの様子はよくわからないんだが、その、計器の方にちょっとおかしな数値が記録されているんだけど……そっちで何かこう……あまり考えたくはないが聖杯みたいなものがあったりとかしないかな?」
『聖杯……ですか。すみません。それは見つかりませんでした。ですが、あの、先程まで一緒に行動していたフォウさんの様な黒い……あれは犬なのでしょうか、狐なのでしょうか何と言ったらいいのか私にはわかりませんが、その方が所長とともにレフ教授の手によってカルデアスに接触しまして……。』
「か、カルデアスに接触!?そ、それで……。」
『は、はい。接触とほぼ同時に何やらサーヴァント召喚時と同じ輝きが広がったかと思うとその姿は褐色肌の少年に変わっていたのです。《ドガッバギッ「グっこ、こんなこぎゃぶっ!?」ベギャッ》……。』
偶然なのか、はたまたは故意になのかマシュが報告すると同時に回復した映像では丁度大変見目麗しい青年の手で事の元凶(今のところ)とされる男、レフ・ライノールが吹っ飛ばされるところであった。
そうして計器の様子を見て「ああ……。」と力なく目元を覆って天を仰いだ格好になったロマニは深呼吸をして、精一杯落ち着きを取り戻してから、画面へと目を向ける。
「……落ち着いて聞いてくれ。マシュ、立香君。今君たちの目の前にいる彼。動物の様な外見に擬態していた彼はおそらくサーヴァントでも神霊でもない。いったいどんな理屈でそこに在るのかはわからないけれど、彼は正真正銘現代を生きる神だ。」
驚きの声は上がらなかった。
代わりに管制室の何処か複数個所からはボールペンの落ちる音が聞こえ、画面を挟んだ向こう側ではうんうんと何処か嬉しそうに頷く神の化身と思しきサーヴァント2名と曖昧な表情でその戦闘へと目を向ける2人の姿があった。
***
「フハハハハッ。そらそらそらぁっどうした?まだ終わりではあるまい?」
「ぎゃっぎっいぎゃああっ」
一方特異点Fの方では先程の犬だと思われる青年とレフ教授()との戦闘が繰り広げられていた。
……というか先程から青年の拳が人体の急所とも言うべき個所にクリーンヒットしてばかり、レフ教授自体はえずいて吐き、悲鳴を上げてばかり。
ずっと青年のターンである。最早どちらが悪役なのかわからない。
この繰り返しの行為に飽きてきたのか、青年は止めと言わんばかりにレフ教授をカルデアスのところまで引き摺り飛躍。後、レフ教授の髪を乱暴につかみ上げると……その側頭部をカルデアスに押し付けた。
「ばあああああああっ!?」
悲鳴とともに何やら肉の焼けるいい匂いと煙が上がる。
立香とマシュは思わず顔を逸らした。
ある程度焼けたことを確認した青年はそのままレフ教授から手を放して落下させた後、倒れ切るより先に粗末になった髪を掴んでニコニコと美しく微笑みながら言った。
「それで?何か言い残すことはあるか?」
「が、あ゛……き、貴様なぞおべええっ」
どうやら答えが気にくわなかったらしくその辺にあった泥水……?なのだろうかいろいろと混ぜっているのか緑がかったヘドロの様な様相の水溜まりに思い切りその頭を叩きつける。ある程度沈めてバタつく様を鑑賞したのち、まるで見計らったかのように勢いがなくなってきたタイミングで再度その頭を持ち上げた。
「それで?言い残すことはあるか?」
「ひゅー……わ、私が誰かわk」
また、水溜まりに押し込まれた。
そして、繰り返すこと7回。
「それで、言い残すことはあるか?」
「ず、ずびばぜんでじだ……ゴホッ」
「うむ、解ればよろしい。顔も見飽きた故帰っていいぞ。」
爽快なまでに言い切ってズルズルとマンホールらしきところにまで教授を引き摺って行くとおもむろに手を宙で振る。そうするとひとりでに蓋が開いて、下水道が開いた。
「ちょっま!?」などと教授は抗議の声を上げていたが、これも青年が丁寧に「大丈夫だ。今小生は機嫌がいい。故に傷は回復させておく。」「ん?何故そこなのか?ああ、転移門をあの下水の3Kmほど下流に設置したからだが……意味?特にないな。ハハッ」そんなことをまるで談笑するかのように笑いながら話、とうとうマンホールへとたどり着く。
「さてではどこぞの言葉通りお前は小生にしたことを、小生はお前を罰したことを水に流そうではないか。そうすればお前もどこぞの魔王になった高校生の如くどこぞへとたどり着くかもしれんぞ?」
地表が熱せられた故か匂いが上がってきているらしく、はっきり言って臭い。
そこに乱暴に教授を投げ入れた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ」という悲痛な断末魔に「達者でなあーフハハハハっ」という軽快な高笑いが響く。と今度こそ蓋は閉じてしまった。
余りの所業に呆然としたマスターはぽつりとつぶやいた。
「神様ってか、ヤーさん…?」
そんなマスターの袖を引っ張ってデミサーヴァントの少女が更に一言。
「というか、あのような方を、知らなかったとはいえフェイトに掛けてしまった私たちはいったいどうなるのでしょうか……。」
その言葉に今まで会話に入ってこなかった所長とマスターは「あ……。」と顔を見合わせて、今度こそ、三人とも半泣きになった。
と、カタカタと震えて俯く彼らの前にあの青年が降り立つ。
何をされるのかとまるで枝肉にされる牛にでもなったかのような心地で次の行動を待った。
ポンと立香の頭に暖かな手が置かれた。
「何をしょげている。少しは喜ばんか。」
「へ?」
「まあ、貴様にされたことは腹が立つことばかりであった。特に小生の妻の遺品を持っていたことはな。これは返してもらおう」
言って、リードと首輪代わりの紐を取られる。
「だが、小生の妻と小生を引き合わせたことで帳消しにしてやる。よかったな。命を永らえたぞ、マスター?」
「へ?あ、え?」
ではなと言いたいことだけを言って手を振りながら他のサーヴァントのところにまたあの犬の姿になって寄っていく姿を呆然と見送る。
ガクガクと膝が笑って、座り込む。
「は、はは。とりあえず、命拾い、ね……はは。」
駆け寄ってくる後輩と所長を前に目を閉じた。
こうしてウェウェさんは鯖()としてカルデアにいつくのでしたー。
次回はそんなこんなでフレンド関係の噺を準備してます。
あ、もちろん、エジプトも続けるよ。