Fate/Ifs Order   作:ジャッジ

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新宿幻霊事件IF「新宿のキャスター(前編)」

 魔術王ゲーティアが引き起こした人理焼却から数ヶ月。人理継続機関「カルデア」は新たに発見された特異点を排除するためマスターを派遣した。

 

※※※

 

 これまで様々な特異点を渡り歩いてきたカルデアのマスターこと藤丸立香だが、どれだけ待っても一向に朝が来ないのは始めてのことだった。かつて訪れた特異点のロンドンでも日を見ることは出来なかったが、新宿の空は晴れているのにも関わらず、朝日が昇らないどころか天候も変わらない。光彩とはまた違った不気味さを感じる空だった。

「いつまでボーッと突っ立ってんのよ立香。流れ星でも見つけた?」

 自分の名前を呼ばれて振り返ると黒い剣を携えた黒い少女、ジャンヌ・オルタが立っていた。周りにはオートマタの残骸が無数に転がっている。

「いやいや、なんか朝が来ないのも不思議だなぁって」

「ふぅん。敵襲の後なのに随分とヨユーじゃない。緊張感が足りないんじゃなくって?」

「そ、そうかな。終わってちょっと気が緩んじゃってたかも」

「ほんと、アンタの能天気さには呆れるわ。今から何をするのかわかってるの?」

「えっと、新しいサーヴァントに会いに行くんだよね」

「あら、ちゃんとわかってるじゃない。そうよ、バーサーカーがいなくなってからこの歌舞伎町を拠点にしているサーヴァントに接触する。それがあの胡散臭いオヤジの指示でしょ」

 かつて、歌舞伎町を拠点にしていたファントム・ジ・オペラがいなくなった後も多くのコロラトゥーラが町を闊歩している。新宿のアーチャーことモリアーティによると、新宿にいるサーヴァントの一人がアジトをここに変えたのだと言う。

 男性のサーヴァントでクラスはキャスター、真名は不明。彼は以前よりモリアーティに協力していたらしく、アサシンを攻略するためには彼の力が必要だと言っていた。

 そこでアサシン暗殺の準備を整えるため二手に分かれることになった。アルトリア・オルタとモリアーティ、そしてホームズは必要になる服を調達しに、その間、ジャンヌ・オルタと立香は彼のサーヴァントに接触することになっていた。モリアーティからキャスターがいそうな場所をピックアップしてもらい、二人はそこを中心に探索していた。

「付近にコロラトゥーラの反応はありません。お疲れさまでした、先輩」

「ありがとうマシュ。そっちからキャスターの居場所はわからない?」

「ちょっと待っててくださいね。……すみません、こちらからは探知できません」

「そっか。ありがとう」

「いえ、こちらこそお役に立てず申し訳ありません」

 マシュは目を伏せて言った。

 立香はマシュの現状を心配していた。人理焼却を防ぐために戦っていた時とは違い、今の彼女に戦う力はあまり残されていない。特異点が発生してからというもの、笑う頻度は目でわかるほど減っていき謝罪する回数も増えていた。前にダ・ヴィンチが「共に戦えなくなったことが原因だ」と言っていた通り、今のマシュは守れないことへの申し訳なさを胸に抱えているような、そんな気配を感じられた。また以前のように笑って欲しい。立香はずっとそれを願い続けていた。

「ちょっと! いつまでそこに突っ立てるつもりなの。さっさと付いてきなさい!」

「う、うん! じゃあマシュ、そのまま探索を続けて。こっちでも探してみるよ」

「了解です。マスター」

 そう言って立香は通信を切り、ジャンヌの元に駆け寄った。

「ったく。シールダーの陰気がアンタにも移ったみたいね」

 ジャンヌは明後日の方向を見ながら立香に話しかけた。というのも、立香の顔はとても暗く沈んだ表情をしていたからだ。彼女自身も遠目にマシュの表情を見ていたが、今の立香はマシュと同じような表情をしていた。

「別に、あの女が戦えなくなったのはアンタのせいじゃないでしょ」

「確かにそうだけど。心配でさ」

「アンタね、それがシールダーの気持ちを追いつめているってまだわかんないの? そんなに心配だったらこんな町、さっさと見切りをつけてカルデアに帰りなさいな」

「それは出来ないよ。あまりにも無責任だ」

「そう。だったら一刻も早く特異点を排除してカルデアに戻ることね。それが、アイツを安心させるのに一番手っ取り早い方法じゃないの?」

 実際、ジャンヌの言うとおりだった。悩んでいる立香の顔を見て、マシュはさらに気を落とし、それを見た立香がさらに悩みを募らせていく。知らず知らずのうちに負のスパイラルが生まれてしまっていたのだ。

 もちろん、ジャンヌがそんなことなど知っている訳でもない。しかし、何気ない一言が立香の心を動かした。

「……ありがと、ジャンヌ」

「別に。私にまで陰気が移るのがイヤだっただけですから」

「そう言って、本当は心配してくれてる癖に」

「は、はぁ!? アンタ、本当に焼かれたいみたいね!」

「ごめんなさーい!」

 マシュのことが心配だったが、ジャンヌに言われた通り、立香は心を入れ替えて歌舞伎町探索に戻った。「一刻も早く特異点を排除してカルデアに戻ることがマシュを笑顔にすることだ」という言葉を胸に刻んで。

 

*****

 

 ジャンヌと立香は歌舞伎町の探索を続けていた。しかし、ピックアップされた場所を探してもキャスターに関する情報は一切手に入らなかった。いつまで経っても見つからないことにジャンヌはイライラを募らせていた。

「ったく! キャスターってのはどこにいるのよ、てかホントにいるんでしょうね。これでもしアーチャーに担がれただけだったら本当にアイツ燃やすわよ!」

「ま、まだ探すところはあるよ。あっ、次のポイントはここだよ」

 立香が指さしたのは一つの小さな映画館だった。実在の歌舞伎町にこんな建物があったかは彼女も覚えていない。

「マシュ、この建物からサーヴァントの反応は出てる?」

「いえ、確認できません。おそらくここもハズレと思われます」

「そっか。でもとりあえず、中も見ておこう」

 立香は映画館の扉を開けた。場内に明かりは無く、辺りは暗闇に包まれていた。ここもハズレかと思い、立香は外へ出ようとする。すると、突然ジャンヌが立香の手首をガッと掴んだ。

「どこに行くつもり? いるわよここに」

「えっ、本当!? マシュ、ジャンヌの言ってたこと聞いてた?」

「はい。少々お待ちください……。た、確かに反応があります! さっきまでこんな反応なかったのに」

「おそらく魔力感知を妨害する何らかの結界が張られていたんだろう。どういうタイプのかはわからないけど、ここにサーヴァントがいるのは確実だ。こうなればもうこちらのものさ。

 マシュの報告の後にカルデアの臨時所長、レオナルド・ダ・ヴィンチが割り込んできた。彼女もまたキャスターのサーヴァントであり、魔術的なことには造詣が深い。通信機越しにタイピングの音が響きわたる。しばらくすると劇場の見取り図が送られてきた。その中に一つだけ、赤くマーキングされている場所があった。

「この赤いところ、ここにサーヴァントの反応が出た。君たちから見て右から三番目の劇場だ。中を探してみてくれ」

 彼女に言われた通り、立香は示された劇場のドアを開けた。場内には高原が存在せず何も見えない。サーヴァントがいたとしても、こう暗いと生身の人間だと認識するのも難しいだろう。しかし、それはサーヴァントに会ったことのない一般人であるならばの話である。

 立香は場内に入った瞬間、空気が変わったのを感じとった。これは以前より彼女が言っていることであるのだが、英霊たちは独特の空気を身にまとっているのだという。

「ああ、間違いなくいるわね。アンタも感じてるわよね」

 立香はうなずくことで肯定した。

「おやおや、こんな夜更けにどちら様でしょうか? すでに本日の閉館時間を過ぎていますが」

 場内に若い男の声が響きわたる。すぐさまジャンヌは現代風の服装からいつもの戦闘装束に着替え、立香も魔術礼装「魔術協会制服」を起動させていた。

「強大な魔力反応を感知、この反応はキャスターのサーヴァントです!」

「暗くてよく見えない。そっちからくわしい相手の場所を特定できる? あと、ここの間取りもスキャンしてくれるとありがたいんだけどな」

「任せてください。……、発見しました。先ほどお渡しした地図に場所を表示します」

 マシュの報告が終わったと同時に地図がアップデートされ、立香たちがいる場所の細かな地図へと切り替わった。同時にキャスターの詳しい場所も表示される。

 地図に表示されている通りならば声の主は場内の最奥、スクリーンの前に陣取っていることになっていた。

「あなたがキャスターのサーヴァントなの?」

 立香は手でメガホンを作り、できるだけ大きな声で問いかけた。すると「なるほど」と一言あった後、「では私がキャスターだとして、あなたはどういった目的があって来たのでしょうか?」と逆に問いが帰ってきた。

「あなたにアサシンを倒すための作戦を手伝ってほしいの。新宿のアーチャーがあなたの力が必要だって言われたから」

「へえ。では、あなたたちはアーチャーの仲間ということでよろしいですね」

「そ、そうだけど?」

「わかりました。では、お引き取り願いましょう。僕たちは彼に協力する気は全くありませんし理由もありません」

 立香は驚いていた。その様子を見ていたジャンヌが噛み付くように反論する。

「ちょっと待ちなさいよ。アンタ、一度はアーチャーに協力したんでしょ!?」

「確かに一度は協力しました。ですが少し前、彼が雇用している色黒の傭兵に古い隠れ家を追われたばかりでしてね。だからこの歌舞伎町に拠点を移したんです。ですので、お引き取りください」

 キャスターは淡々とした様子で答えた。彼の会話に出てきた色黒の傭兵に立香は心当たりがあった。エミヤ・オルタ。かつて対峙した反転した抑止の守護者が確かそんな風貌をしていたことを思い出していた。そして、彼はこの魔都に巣くう悪の親玉に雇われている。

ーもしかしたら、キャスターはモリアーティに裏切られたと思っているのかも。

 そう考えたのには理由がある。現在、この新宿特異点では二人のモリアーティが確認されているからだ。その理由はホームズ曰く、善と悪に分かれたからだという。

 このままでは協力してもらえないどころか敵を増やしてしまう可能性も考えられる。そこで立香はこの新宿で起きていることの真実をキャスターに伝えることにした。善と悪に分かれたモリアーティ、切り離された特異点、バレルタワーの正体と使用法、それから幻霊について。

「そんなこと簡単に信用できるとでも? ああでも、あなたたちがアーチャーの仲間なら生かして返すわけにもいきませんね。この隠れ家を知られた訳ですから」

 全てを聞いたあとのキャスターは吐き捨てるように言った。

「今の話を本気で信じると思ったの!? 私だってまだ半信半疑だってのに!」

「じゃ、ジャンヌさん落ち着いてください! ともかく、キャスター戦闘態勢に入りました!」

「ううん。ここでキャスターと敵対するのは避けたかったんだけどね。だが、こうなった以上は仕方がない。少々手荒いけど、ちゃんとこちらの話を聞いてもらえる状況を作ろうじゃないか」

 ダ・ヴィンチは落ち着いた様子で答えた。

 特異点にいるサーヴァントは千差万別で、素直に話を聞いてくれる者もいればそうでない者たちも多い。そういう時、カルデアはいつも武力で鎮圧し、それから話を聞いてもらうという手法を取っている。

 そうと決まれば立香の対応も早い。戦闘用礼装「魔術協会制服」を展開した。ジャンヌも炎が灯った剣を抜き、準備万端といった様子だった。

「とはいえ、僕は戦闘が得意じゃなくってさ。君たちには僕の下部たちの相手をしてもらおうかな」

 キャスターがそう告げるとマップ上に魔獣の反応が現れ始めた。数は五体、ジャンヌと立香を取り囲むように並んでいた。

「何が何体いようと関係ないわ。全部燃やしてやるんだから!」

「おっと、この劇場を燃やされるのはちょっと困ります。だから、場所を変えさせてもらいますよ」

 キャスターはそう言うとパチンと指を鳴らす。すると、突然周りの風景が変化し始めた。いつの間にか二人は明るい日光に照らされた荒れた城跡に立っていた。

「どうなってんのコレ、固有結界とかそんな感じ?」

「ううん。たぶんキャスターの陣地作成で作り上げたものだと思う。もしくは幻影を見せられているかのどっちか」

「どちらにしても関係ないわ。あのキャスターを倒せば済むことなんですから!」

 ジャンヌは不気味な笑みを浮かべながら背後の壁に向かって火炎の斬撃を一閃、攻撃を受けた城壁は大きく音をたてながら崩れ去った。同時にその後ろから緑色の魔獣も倒れてきた。

「ふん。ざっとこんなもんよ。てか何よあの魔獣、デザイン壊滅的じゃない?」

 倒した魔獣の骸を眺めてジャンヌは言った。魔獣は植物のような形をしていた。ちょうど食虫植物のウツボカズラのような形をしているが、白色で牙を持っていた。第七特異点を始め、数多くの魔獣を見てきた立香だがこのような形をした魔獣は初めてだった。

「ダ・ヴィンチちゃん、こんな魔獣見たことある?」

 魔獣の弱点や対策たててもらうため、倒した一体の姿をカメラで写してカルデアに送った。

「いや、カルデアのデータバンクに該当するものはなかったし、私自身そのような植物を見るのは初めてだよ。新種の魔獣として登録しておくよ」

「対策ってなにかあるかな?」

「聞くだけ無駄だと思うわよ。今さら解析したり考えたりしている時間はなさそうだし。それに、こいつらを倒す方法なんて一つしかないでしょ」

 立香が尋ねると、ダ・ヴィンチが応答するよりも早くジャンヌが反応した。

「もう見つけられたんですか? で、ではジャンヌさん。この場合の対処法とは?」

「至極簡単なことよ。植物なんだから炎で焼けばいいじゃない。それが一番分かりやすくて効果的な攻略方法だわ!」

 ジャンヌは大きな胸を張り、今まで見たことのないようなドヤ顔をして応えた。瞬間、冷たい冷気が荒廃した城に吹き始めた。

「えーっと……。なんとも単純で分かりやすい対策だけど、相手が植物である以上、燃やすというのは効果はあると思うよ」

「ダ・ヴィンチもそういってるんだし、片っ端から燃やしていくわよ! だからぼさっとしてないで、さっさと敵の位置を教えなさい!」

「は、はい! マシュ、魔獣の正確な位置情報をお願い!」

「了解です。全力でお二人をサポートします」

 二人は地図上に表示されたマーカーを追って城跡を駆け回った。敵が喚びだした魔獣は様々なタイプがあった。サソリような尾を持ったタイプやスピノサウルスのような背鰭を持ったタイプ、翼を持つ空飛ぶタイプの魔獣もいた。これらは全て強力な牙を持ち植物の構造を持っていた。

「はあ!」

 ジャンヌは炎を宿した剣で巨大なラフレシアの魔獣を突き刺した。刺し口から発火し、魔獣は奇声を挙げながら燃え尽きていった。

「お疲れさま、この付近にいる魔獣はこれで最後だよ。これで残っているのは……」

 立香は目の前に立つ崩壊寸前の塔を見つめた。そこの屋根の上に一人の少年が立っている。白いフード付きマントを羽織り紫色の制服を身につけている。彼は来ている服と同じ色の髪を触りながら二人の様子を眺めていた。そして彼女らに聞こえないくらい小さな声で「美しくない」と呟くと、目を細くして口を開く。

「あの傭兵並みにはやるようですね。いえ、短絡的で火力バカなところはそちらの方が上回っていると言えるでしょう」

 キャスターが言い終わった瞬間、彼が立っている場所に収束した炎が投げつけられた。寸前のところで回避し、瓦礫に飛び移りながら地面に降り立った。

「誰が、短絡的な火力バカですって。効率のいい倒し方と言って欲しいわね」

「分かりました。では短気で怒りっぽいという情報も付け加えておきましょう」

「……。決めたわ、燃やす。カチンと来たわ、別にこんな奴の手を借りなくても大丈夫でしょ。そうよねマスター」

「そ、それはマズいって。倒してきたなんて言ったらホームズたちだけじゃなくってアルトリアからも嫌みを言われるよ!」

 必死に止めようとする立香を振り切り、今にも切りかかりそうなジャンヌを見たキャスターは一瞬口角を上げた。そしてすぐにまた元の真顔に戻り、左手に持っていたカードを左腕に取り付けていた機械に読み込ませる。すると、大地に黒い穴が開き、先ほど倒したラフレシアの魔獣が中から姿を現した。続いて、新たにしっぽの先に禍々しい紫色の実を付けたトカゲが出現した。

「これで条件はそろいました。複数のモンスターが僕の手元にある時、この宝具は真価を発揮する。融合しろ、我が僕のモンスターたち!」

 キャスターの後ろに青と赤が混じり合った渦が現れ、その中に二体の魔獣が吸い込まれた。

「さあ、来い!」

 ガシャンとガラスが割れる音が鳴ると同時にさっきまで渦があった場所に一匹のドラゴンが出現した。体は他の魔獣たちと同く植物で構成されていた。

「次から次へと新しい魔獣を。アンタってそれしかできないわけ? こんなやつらに頼ってないで自分で戦おうって気にならない? 姑息ね、アンタ」

 ジャンヌはドラゴンを見つめながら嫌みったらしく罵った。膨大な量の魔力を持ちサーヴァントの中でも屈指の攻撃力を誇るジャンヌ・オルタだが、魔獣との連戦で大きく消耗していた。このことをキャスターや立香に悟られないよう大口をたたいていた。なんとかキャスター本人を戦闘に引きずり出せば、残った魔力を使って短期決戦を仕掛けることもできる。そう考えていた。

「それは君の主観だろう。僕はモンスターを召喚するのに特化したサーヴァントだ。人には人の得意分野があるように、サーヴァント毎に得意な戦い方があるのは当然だ。これこそが僕の王道、そんな見え透いた挑発で前に出ると思われたのなら、かなり心外だ」

 結果は最悪だった。半分しか魔力がない現状で、もしまた召喚魔獣による物量攻撃を仕掛けられたらひとたまりもない。

「さて、どうしようかしら?」

 声に出して問いかけるジャンヌ。自然と口から出ただけで他意はなかったのだが、一人だけ問いかけに応えてくれた者がいた。

「ねえ、ちょっと考えがあるんだけど」

 立香は強ばった声で考えを話し始めた。

 

*****

 

 キャスターは彼女の挑発を屁とも思っていなかった。むしろ、安すぎる挑発を虚栄ではないかと疑念を抱き、うっすらと笑みを浮かべる余裕さえあった。

 相手の二人は何かを相談しているようだったが、問題はなかった。既に魔力の底が見え始めているサーヴァントを倒すのは造作もないことだった。

「(ただ、気になることもいくつかありますがね……)」

 サーヴァントに話しかけているもう一人の少女、彼女はキャスターが作り出したエリアに来てから特にこれといった活躍を見せていない。共に行動しているため、特別強い魔術師であるのかと疑っていたが、行っているのは魔獣の位置を教えたり戦闘の指示を出したりしている程度、まるでサーヴァントを使役するマスターのように見えた。

「(……やっぱり、人類最後のマスター。もしも彼女がカルデアから来たマスターであり、この特異点を修復しにきたのだとしたら?)」

 立香からもたらされた情報は荒唐無稽なものだった。善と悪に分裂したアーチャー、惑星の破壊、人類史上最大の殺人事件、そして幻霊。どれもこれもキャスターが知らない情報ばかりで非常に嘘くさいと感じていた。普通なら一蹴する話だが、カルデアからの情報なら信用性は高い。信じてもいいかもしれないと、心が変わりつつあった。

「(だったら彼女が本当にカルデアのマスターなのか、確かめる必要がありますね)」

 キャスターは口を真一文字に結んでじっと二人を見つめていた。

「あら、難しい顔をしてどうしたのかしら。ひょっとしてもう手詰まり?」

「まだそんな大口を叩く余裕があるのですか。ですが、いいでしょう。リクエストを貰ったからには応えなければなりませんね」

 キャスターが淡々と告げると一枚のカードを前に掲げる。そして、カードから放たれた若紫色の閃光が辺りを包み込んだ。本来ならもう少し考えて使う手だが、今回は相手の実力を見るために最短の思考で行くと決めていた。

「目くらましっ!?」

「何よ、やっぱり姑息な手しか使わないんじゃない!」

 眼を覆いながらジャンヌは毒突き、手当たり次第に火炎弾を放った。キャスターは植物のドラゴンに飛び乗り、手足のように操りながら炎をかわしていく。

「いつもは逃げるために使うんだけど、今回はスペシャルサービスってことで。お代は、君の首一つで我慢してあげるよ」

 火炎弾を全てやり過ごしジャンヌたちの後ろに回り込んだキャスターはドラゴンから飛び降り、ジャンヌを捕まえるように指示を出した。巨大な腕でジャンヌを捕まえたドラゴンは天空高く飛び上がった。

「ちょっと! 離しなさいよ!」

「ふふふ、無様ですね。かつては竜の魔女と呼ばれていたあなたが竜種によって捕らえられるだなんて。さあ、やってしまいなさい」

 キャスターは不敵な笑みを浮かべながらドラゴンに指示を出した。ドラゴンは城跡を飛び回りながらジャンヌを遺跡に押し当てて引きずり回し、崩れかけた塔に叩きつけた。その間、一切の反撃がなかったのを見てキャスターの中で先の疑念が確信に変わった。ジャンヌは今までの魔獣戦で魔力のほとんどを使い果たしている。既に雌雄が決したとして、キャスターは最後の指示をドラゴンに出した。

「少々焦げ臭くて歯ごたえがないかもしれませんが、喰らいなさい」

 言葉通り、ドラゴンは叩きつけたジャンヌを大きな口の中に放り込んだ。その様子を見たキャスターは満足感に浸るのもそこそこに立香の方に向き直った。

 白い服に青いスカート姿の立香はキリッとした表情と鋭い眼光でキャスターを見つめていた。頭の中に「ただ強がっているだけ」という考えも浮かんだが、すぐに却下した。目つきや表情、口の形。どれを取って見ても虚栄を張っているようには見えなかった。

「サーヴァントが喰われるところを見ておいてまだそのような顔をするのですか? 見たところ、上級どころか中級魔術が使えるかも怪しいくらいのあなたが僕に勝てるとでも?」

「もちろん、そんなことはわかってるよ」

 依然として退こうとしない立香を見たキャスターは確信した。彼女は決して見栄を張るようなタイプではない。この自信は確固たる理由あってのものである、と。

 何かがあると確信を持った以上、手を拱いて見ていることは得策ではない。そう判断したキャスターは立香の行動、発する言葉の一つに全神経を集中させる。立香をじっと見つめていた時、彼女の服装が最初と変わっていることに気が付いた。最初は白いカットシャツに黒いスカート、戦闘が始まると今度は黒いマント、そして今は茶色の学生服を身にまとっている。こんな短期間に、しかも戦闘の途中で着替える必要性はない。

 キャスターが着替えの理由を詮索し始めた瞬間、背後で炎があがった。振り返ると召喚したドラゴンが業火で焼かれ悲鳴にも似た雄叫びをあげていた。

 燃えつきたドラゴンの骸の中からジャンヌ・オルタが這い出てきた。紅蓮の炎を身にまとい、不機嫌そうに顔をゆがませると立香に目を向けた。

「いやうん、ほんとゴメンね。まさか丸飲みされるなんて思ってなかったから」

「ったく、こんなの二度とゴメンだわ。後でたっぷりお礼を貰わなくちゃね」

 満足げに笑みを浮かべるとジャンヌは跳躍して立香の傍らに戻った。それをキャスターは忌々しいものを見る目で二人を見つめていた。

「なるほど。何もしないから傍観を決め込んでいると思っていましたが、既に手は打った後という事ですか」

「私の礼装はサーヴァントを助けることに重きを置いたものばかりなの。さっきまで着ていた魔術協会制服、サーヴァントの体力と魔力を回復させるのを目的よ。そしてこれはアニバーサリー・ブロンド、サーヴァントの攻撃力を上げることに特化してる」

 キャスターはため息をつき目を伏せた。何もしていないからと言って立香にノーマークになっていたことが原因だった。

「これは一本取られましたね。今回は僕の負けですよ、カルデアのマスターさん」

「えっ、気付いてたの?」

「この特異点にカルデアが来ている情報は既に掴んでいましたからね。そに、僕たちの知らない情報を得ているというのが最大の判断材料でした。あなた方なら特別な情報源をお持ちでしょうしね」

「待ってください。それが本当だとして、戦闘を続行したのでしょうか?」

 目に見えない誰かからの声を受けて、キャスターは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をした。

「あっ、申し遅れました。私はマシュ・キリエライト。カルデアの職員でマスター、藤丸立香の後輩です」

「ああ、よろしく。話を戻すけど、君たちを試したかったんだ。君たちが本物かどうかも確かめたかったのもありますし、僕たちが力を貸してもいい存在であるかを見極めたかった。というのが最大の理由ですね」

「僕たち、というのはあなたとは別のサーヴァントがこの劇場にいあるということでしょうか」

「ええ、僕を含めて四人います。ですが、それぞれが独立したサーヴァントではありません。僕たちは四人で一人のサーヴァントなのです」

 キャスターがそう告げると立香たちは全員目を丸くしていた。後に知ることだが、サーヴァントの中には二人一組で召喚される者もいるものの、四人一組で召喚された者はカルデアの例にはなく、初めてのことだったという。

 そのことを知らないキャスターは不思議そうに彼女らを眺めていた。

「さて、実力もわかったことですし、あなた達を本当の新宿のキャスターのところへご案内したいと思いますが、いらっしゃいますか?」

「もちろん!」

 立香の元気のいい返事に、キャスターはほほえみを浮かべる。結界を解除してもともといた劇場に戻ると、キャスターの仲間たちがいる奥の控え室へと案内した。

 




はい、今回はここまでです。読んでいただきありがとうございます。
一応オリジナルのサーヴァントなんですけどクロスオーバーってことで「他の作品のこのキャラをサーヴァントにしてみたら」という短絡的発想で作ったのではい。かなり設定はガバガバですね。
ステータスとかは後編で載せようかと思ってます。
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