廃墟となった街に建つ一つのビル。外観は今にも崩れ落ちそうなほど酷く、普通なら入ることすら憚られるそんなビルは、中まで酷い有様だった。人が住まなくなって一体どれ程の年月が過ぎたのだろうか?壁には赤黒い染みが幾つもあり、床はゴミや何かが書かれていた紙が散らばり、埃等で汚れきっている。空気だってガスのようなものまで漂っている始末。そんな、一般人だったら絶対に寄り付きたくないビルの中に、一人の青年が息を殺してバケモノに近づいていた。
「気付くな……気付くな……!」
ソロソロ、ソロソロとしゃがみ、足音を消し、ゆっくりと目の前のバケモノに近づいていく。ジリジリという自分が立てる足音が大きく聞こえ、気付かれやしないかと冷や汗が流れる。
「っ!?」
一瞬、バケモノがこっちを振り向いた。気付かれたか!?と思った瞬間、バケモノは視線を今殺したばかりであろう獲物に向ける。その幸運に感謝し、どっとかいた冷や汗を拭うこともせず、青年はまたゆっくりと近づいていく。
そして銃の射程圏内に入り、背負っていた銃…ザ・テリブルショットガンを構える。片膝をつきつつ、姿勢を安定させ、時折移動するバケモノに照準をずらしながらじーっとタイミングを計る。そして…
「今だ!!」
ガシャンっ! という薬莢を排出する独特な音と弾丸が発射される音が同時に響き渡る。撃たれたバケモノは、突然の攻撃に驚いたのか、一発で大半のHPを減らしていた。立て続けに、ガシャン、ガシャンとショットガンの弾をぶち込んで行く。弾倉の半分を使い切ったところで、こちらに気付き攻撃をしようとしていたバケモノは、武器を構えた姿勢のままドウ、と地面に倒れ伏した。
「よっしゃ、オーバーロード討伐成功!! しかもミニニュークまでゲットだぜ!!」
コントローラー片手に、画面に向かって奇…喜声をあげる青年。画面には、緑色をした皮膚に二メートル以上の巨体を持つバケモノ、スーパーミュータントの死体が映っていた。
スーパーミュータントの中でも、Broken Steelと呼ばれる追加パッケージによって新たに登場した最強最悪の敵の一角、オーバーロードと呼ばれる上位種で、攻撃力はスーパーミュータント1、耐久力は二番目という凄まじいバケモノなのである。
ウキウキと今回の戦利品を仕分け始める青年はゲームに夢中で、外が騒がしいことに全く気付けていない。そしてようやく、窓がガタガタと大きな音を立て始めたことで外に異変が起こっていることに気付けたのだ。
「なんだ、いった……いぃ!? なんでこんな嵐みたいな天気になってんだ!?」
カーテンを捲ると、そこには強風に加え猛烈な雨まで伴った曇り空が広がっていた。良く見れば、チカチカと雲の間で光りが見えることから、おそらく雷も落ちてくる可能性が高いだろう。
「っと、マジで雷が落ちたらヤバイな。停電にでもなってセーブデータが消えたりしたら…」
次の瞬間。ドガシャーン、という音と共に雷が青年の家を直撃した。
「ぎゃーーーーーー!?何だなんだ何なんだよ一体!?」
幸運なことに、雷の威力は然程高くなく青年の体には傷一つ付いていない。が、電子機器は致命的だった。まず、ノートパソコンは一番被害が酷く、雷の直撃で異常な電気が充電中だった本体に流れ込み、ショート。薄い黒煙まで上がっていた。そして二番目に大きな被害だが……。
「くっそ……落雷とかついてない……って、あぁ!? PS3のデータ!!」
PS3も落雷により電源が落ちていた。だがこちらは見た目的には何の問題も無い様に思われるが、パソコン同様許容範囲を超えた電流が流れたはず。まず、ゲーム本体のデータ類に被害が出ている可能性が高い。
青年は慌ててPS3を起動させようとスイッチを押すも、ブレーカーが落ちたのかうんともすんとも言わない。青年は部屋を飛び出し一回にあるブレーカーを上げ、そのまま部屋まで帰ってくる。見れば、奇跡的にもPS3の電源ランプは付いていた。そのことに安堵し、電源スイッチを押しテレビもつける。
PS3の起動がやけに遅く感じられ、無意識に足を貧乏揺すりしてしまい、意味も無くコントローラーのボタンを連打してしまう。そして……
「orz……」
画面には、無残にも虫食いだらけのセーブデータの状態が表示されていた。今まで遊びつくしたゲームの殆どのセーブデータが、一瞬にして天へと旅立ったのだ。そして、その中にはもちろんFallout3も含まれていた。
「……もう寝よ……明日の昼まで寝よ……」
まだ昼間だというのに、青年は不貞寝を決め込んだ。ゴソゴソとベッドに潜り込むと、PS3の電源を落としそのまま眠るのだった。
しかし、青年は知らなかった。嵐のような天気になったのは青年の家の周りだけであり、それを認識できた人は青年以外居なかったこと。
そして雷が、とある異世界で行われた召還の儀式の余波であったことを……。
鬱蒼と木が生い茂る森の中。いつもなら動物たちの鳴き声でうるさい森が、今は風に揺らされる木の葉の音しか聞こえない。
この異常な静けさの原因は、不自然に折れた木々と、その先にできた小さなクレーターだった。掘り返された土はまだ湿り気を帯びており、クレーターの淵からは薄い煙が上がっている。そしてその中心には、西洋の鎧のような、メカニカルなデザインの甲冑を着た人物が倒れていた。
甲冑とヘルメットのせいで性別はわからないが、胸が上下しているところから、どうやら生きているようだ。
ピクリ。
「うぅ……」
ヘルメットの奥からくぐもった男性の声が聞こえ、次いで腕、足と何度か揺れ、やがてちゃんと動くか確認するような動きに変わり、男はようやく胴体を起きあがらせた。
頭を振りつつ、周囲に視線を巡らしている。
「ここは………何で外にいるんだ? それに、これは……木か!?こんなに葉っぱをつけて……ここはオアシスなのか? でも俺は確か……」
男が今までのことを思い返そうとしていると、突然木の茂みがガサガサと音を立てた。
男は慌てて立ち上がり、音がした方向に向けてPip-Boy3000から取り出したクサンロング・アサルトライフルを構える。例えどんな敵が出てこようとも、大型化されたバナナマガジン一つ分も叩き込めば、大抵の生物は死に絶えるからだ。……デスクローという例外は除いてだが。
一瞬、茂みの向こうにいるのがデスクローかもしれない、という最悪の考えが頭をよぎるが、すぐに気合を入れ直し茂みを睨む。段々とガサガサという音が大きくなっていき、そして…。
「クォ~ン」
「……は?」
現れたのは、黄色のふさふさとした毛を持ち、尖った耳を持つ小さな動物……ウェストランドでは既に絶滅し、生息していないはずの狐と呼ばれる動物だった。
「〔Animal Friend〕…………(ナデナデ)」
「クゥン、クゥン」
「……」
とりあえず、危険はなさそうだと判断した男は、こちらに近寄り甘えてくる狐を撫でつつ、はてコイツは喰えるのだろうか? と危ない思考が少しだけあったが、ひとまず状況整理のためこの場を離れようと決めた。
あたりに目印になるような廃墟も無いし、ウェストランドなら大抵の場所から見えたワシントン記念碑すら見えない。しかも回りは森ということから、オアシス、もしくはオアシス近くの山か、と検討をつけているが…正直怪しいとも考えていた。
第一、オアシス周辺にこのような山は存在していないからだ。していたとしても、そのことをオアシスの住人から聞き逃すなどありえない、という自信もあり、だがそれ以外に可能性も無いのでそういう前提で動くことにしたのだ。
「で、だ。お前、俺と一緒についてくるか?」
「クゥ? クゥ、クォン!」
狐は「もちろん!」と言ってるように鳴いた。その姿に、旅の始まりの頃スーパーミュータント・マスターから男を庇って死んだドッグミートのことを思い出し、ヘルメットをしているせいで狐には見えないが男の瞳が少し優しげになる。
「よし、じゃあ行こう」
「クォーン!」
男と狐。少し寂しい二人旅が始まった。
歩き始めて一時間。ようやく森から抜け出した男の目の前には、有り得ない光景が映っていた。そこは、辺り一面が緑色の草で覆われた小高い丘のような場所で、遠くを見ればこのような光景が延々と続いていたからだ。
「バカ……な! こんな風景、核戦争前の風景じゃないか…!」
慌ててしゃがみ込み、偽物であってくれ、という願いを込めて地面を殴る。すると、そこから感じられるのは柔らかい土の感触に、全く経験の無い草の柔らかさ。そして潰れた草から滲み出る青い汁…。
男はガクガクと震える手でヘルメットに手を掛け、ゆっくりと外していく。父親譲りの色素の薄い金髪に少し吊り目気味な目、小さな鼻。一見すれば少女とも見れる可憐な顔がそこにあった。
そして深く息を吸い込み……脱力した。ウェイストランドではありえない、美味しいと感じられる空気。Vaultの金属臭い空気とも、ウェイストランドの土煙や黒煙、放射能で汚染された空気とも違う、緑の香りがする清浄な空気。呆けながらも、何度も何度も深呼吸を繰り返す。そして天を仰ぎ見て……。
「そっか…。ここが、天国なんだな……」
あははは、と乾いた笑い声をあげながら、膝を付く青年の姿が、空が夕闇に染まるまで続いていた。
夜。狂ったような笑いから復活した青年は、心配そうに見上げてくる狐を抱きかかえて大丈夫だ、大丈夫だよ、と狐に語りかけ……その時点でまだ青年は復活しきれていなかったが、森を離れていくうちにだんだんと復活していき、野宿の準備ができるまでは回復していた。そして、ここがウェイストランドではなく、全く別の場所であることも、無理矢理だが理解した。エイリアンなどというわけが分からない存在が居たのだ。この程度、認めるだけなら何の問題も無い。…生き方の模索、という現実を直視しなければ、だが。
そして野営の準備だが、やることは少ない。寝袋もマットも無いので、寝転がるのに邪魔な石や枝を掃除して、そこらへんに転がっている手ごろな石で囲いを作り、森で拾っておいた枯れ木にヘビーインシネーターで(乱暴だが)火をつけ、適当に狩ったリスのような生き物を串に刺して焼いているだけだ。
良い具合に焼きあがっていくリス?の串焼きを眺めながら、ふと思い出したようにPipboyを起動した。持っている持ち物の確認のためだ。そして青年は、目を覚ましたとき以上の驚きに見舞われるのだった。
「なっ、何だこれは!? 壊れたのか!?」
映し出されたPipboyのアイテム画面には、無数の……本来なら容量オーバーで動けなくなっている筈の量の荷物が入っていることを表示されていたからだ。そして極めつけは……。
「重量制限が……無限? というかこれ、俺がメガトンの自宅で保管してたアイテム全部じゃないか……?」
そう、修理用のCNDが低いものから、修理を完璧にこなしたCNDマックスの物まで、全てが揃っていた。中には、重量の問題から探索の際には置いていかなければいけなかったユニーク武器まで揃っている始末。もう、笑っていいのか呆れていいのか青年にはよく分からなかった。
「……ま、いいか。これなら余程のことが無い限り死ぬことは無いだろ。それに、父さんも死んで、浄化プロジェクトも完遂した今…あそこ(ウェイストランド)に未練なんか無いし……」
ふとそこで、これまで旅をしてきた仲間達のことが青年の頭をよぎった。フォークスにカロン、ライリーレンジャーの皆、Brother foot of steel……もう会えない、と考えても、不思議と悲しいとは思えなかった。Vaultから半ば逃げ出すようにウェイストランドに出て、それからは流されるように、色々なことを経験したからなのかもしれない。
時に人を殺し、救い、裏切られたこともあった。小さな子供を助けるために、奴隷商人達を皆殺しにしたこともあった。グールは死ぬべきだと言ったあるタワーの管理者にグールを認めさせ、共に暮らせるようにした……結局、住人はグール以外いなくなってしまったが。
良心に従い酷い目を見たことも数え切れないほどあった。だからだろうか、壊れてしまったと感じられるのは。
状況に流され、自分で決められず悲惨な結果になったことがあったからか。自分を守るために、他者の命を奪うことが普通のウェストランドに居たからか。…それとも、唯一の肉親である父さんが殺されてしまったからか。だが青年には、もうどうでもいいことだった。
「だって、今を生きることが大切だから……」
変わらない丸い月を眺めながら、リス?の串焼きを狐と二人で分けようとした……その瞬間。
「グルルルルルル……!!」
「っ! 敵か……」
青年の腕に嵌り神経に接続されたPipboyが脳内に警告音を鳴らし、狐が威嚇するように唸る。Pipboyの簡易レーダーを見ると、敵性を示す赤いコンパスが六つ、森側からこちらに向かってきていた。
「チッ、後をつけられたか。おい、おま……そういえば名前決めてなかったか。終わったら付けてやるから大人しくしてろ」
「クゥ!? クォンクォン!!」
抗議するように鳴き声を上げる狐に、青年は睨みを利かせる。途端に狐は大人しくなり、小さく震え始めた。
「いいか、これはお前のために言ってるんだ。まだ戦えるか分からないお前を連れて行くよりも俺一人で行ったほうが勝ち目がある。わかるか?」
「……クォン」
「よし。まあ、戻ったら飯の続きだ。先にあのリスでも喰ってろ。喰い終わる頃にはこっちも終わってる」
ごしごしと、パワーアーマー越しの手で頭を撫でられ、少し痛そうに狐は首を振ったが、納得したのか大人しく焚き火に戻り、リス?の串焼きを一心不乱に喰らい始めた。
その仕草に青年は少しだけ笑うと、Pipboyから対複数戦で一番良く愛用していた武器、ユージーンを取り出し、敵が居る方向に向け歩き出した。
「なんだあれは……小さいスーパーミュータントか?」
『グガァァァァァ!!!!』
青年が敵の集団を視界に入れると、そこに居たのは子供サイズのスーパーミュータント?だった。緑色の肌に申し訳程度につけている錆びたアーマー、銃を持っている個体は居ないが、遠くに遠距離武器らしき物を持った個体がダーツを大きくしたような物を射掛けてきた。
「……遅い」
銃弾ほどの速度も無く、力が足りないのかフラフラと揺れているダーツなど当たるわけも無く、横に体をずらすだけで外れた。初めはスーパーミュータントの亜種かと思い警戒していたが、攻撃パターンは棍棒を振る、大型のダーツを射掛けてくる、の二パターンだけ。これなら銃弾も無駄だろうと武器を中国軍将校の剣に変えようかと考え始めたとき、それは来た。
今まで動かなかった最後の個体が、杖らしきものをこちらに振り下ろすと……そこから火球が現れこちらに飛んで来たのだ。
「なッ!?」
すぐさま火球の射線上から逃れる。火球はそのまま青年が立っていた地面に直撃し、そこで小規模な爆発を起こし燃え広がった。
(ヘビーインシネーター!?だが、あれは単なる木の杖にしか見えない! なんなんだあれは!?)
青年が動かないのを、火球に恐れ戦いていると勘違いした小さいスーパーミュータント達はキシャシャシャシャと気色悪い笑い声を上げながらゆっくりと青年に向かって歩き始めた。その姿は、これから目の前の獲物をどう料理しようか、と考えているのが丸わかりな行動だった。が、それはあまりにも無防備な行動で、青年を怒らせるには充分だった。
「……くたばれ、バケモノ」
ブォォォン、という重低音が響き渡ると、青年は今まで使わなかったミニガン…ユージーンをゴブリン達に向けて使用した。複数の銃身が回転しながら大量の銃弾をばら撒く。5mmと小さ目の弾丸は、それでもゴブリン達の体を紙かなにかのように容易く切り裂き、貫通し、当たらなかった弾は地面を穿ち土埃を舞わせる。
ユージーンを横に薙ぎ払うように撃ち続け、二往復したところで射撃を中断し、弾倉を交換する。まだ半分以上残っていたが、念のためにだ。が、その行動は杞憂に終わった。
土埃が晴れると、そこには殆ど原型を留めていないゴブリン達の亡骸があった。
「……大した驚異でもない、か。この程度で殲滅できるならサブマシンガンか、ピストルでも十分だったな」
消費した弾薬を思い、敵の脅威度を測り間違えた失敗に後悔しつつも剥ぎ取りに移る。ユージーンを仕舞い、念のため中国軍将校の剣に持ち替えてから一番手近な個体にPipboyを合わせる。
「ミニスーパーミュータント?……これがこいつ等の種族名か? 」
Pipboyに表示された名前はミニスーパーミュータント。所持品は棍棒に弓矢(あの大きなダーツは矢というらしい)、銅貨が数枚、それから腰布に耳とあった。
「腰布はまだしも…耳? 何でこんなものが」
ウェストランドなら悪人の証として買い取ってくれたが、ここにも似たような輩でも居るのだろうか?
疑問に思いながらも、重量制限が無くなったPipboyにどんどん放り込んでおく。途中、謎の肉の表示もでたが、それだけは流石にスルーした。
「さて、こいつが最後か」
今回の戦闘で一番驚かされた存在…ヘビーインシネーターもどきを使ってきたゴブリンだ。念のためにと10㎜ピストルで頭を数発撃ち抜いてから剥ぎ取りを始める。
「腰布、耳は同じで……名前がミニスーパーミュータント・ファイア? やっぱりユニーク個体か上位種だったか。それにこの樫の杖…装備効果がINT+1……もはや何がなんだか…」
剥ぎ取れた装備品は、ひとまずは一つに修理し、棍棒はそのほとんどがユージーンの直撃があったのかCNDが0を示していた。仕方なく互換性があった、比較的CNDが残っていた樫の杖の修理に充てる。単純な構造故、二本も使えばCNDはマックスになった。弓矢も同じで、棍棒と同じくCNDをマックスにし、余った分は使おうにも小さ過ぎ、威力も低すぎるため換金物と考えることにした。
「っと。戦闘より剥ぎ取りの方に時間を喰われたか」
置いて来た狐のことを思いだし、少しだけ笑うとその場を後にし…
ガサガサガサ!
ようとし、ゴブリン達が出てきた茂みからまたしても物音がした。だが、Pipboyのレーダーに映るのは敵性を示す赤ではなく害意を持たないものを示す白。とりあえず危険は無さそうだと判断し、茂みに近づく。ガサガサと葉っぱをかき分けると、そこには両手両足を蔦のようなもので縛られ、口には汚れた布を巻き付けられたさらさらの短い金髪の少女が翡翠色の綺麗な瞳に涙を浮かべこちらを見上げていた。
「っ! ~~~~~!!」
口が塞がれていてくぐもった声しか聞こえないが、助けを求めているようだ。襲いかかれる可能性が無いとも限らないため、一先ず口を塞いでいる布だけを外す。
すると、いままで髪の毛で隠れていた耳の部分から、ピョンと尖った耳が現れた。そのことに軽く驚いたが、ヘルメットのお陰で少女にそのことが伝わることは無かった。
「ぷはっ! はぁ~、助かったぁ……。ありがとうございます、騎士様!!」
「……騎士? あぁ、このパワーアーマーのせいか」
「……あのぉ、できれば、この蔦も切ってほしいのですが……」
ぶつぶつ小声で呟いている青年に、躊躇いがちに、少女は身動きが取れないことをアピールするようにゴソゴソと動きながらそう言った。
敵意はなさそうだと判断し、コンバットナイフで蔦を切っていく。数秒で全て切り終わり、少女を立たせるため手を差し出す。少女は躊躇いもなくその手を握り、立ち上がった。
少女は青年の半分ほどの身長に、動物の皮で作られたものでなく、オアシスの住人が着ていたような草で編んで服を身に纏っている。
「ふぅ…。騎士様、本当にありがとう! あいつ等(ゴブリン)に連れ去られたら最後、どんなことになっていたか……」
「〔Chiled At Heart〕…そうか、キミが無事でよかったよ。ところで、キミはどこから来たんだい?」
「ボク? ボクは……父さんと母さんが行商人をしてるんだ。それで今日、お手伝いで一緒に来てたんだけど、ゴブリン達に襲われちゃって………お父さん……お母さん……っ」
少女はずっと我慢していた限界が来たのか、青年に助けられ安堵したのか、今までの明るい雰囲気が無くなり急に泣き出してしまった。
似たような状況だな、と、昔グレイディッチで助けた少年のことを思い出した。あの時は親が死んでしまい、少年の親代わりを探すのに苦労した。が、今回は親が死んだとは限らない。なるべくこの少女から情報を集め、早い内に両親の元に帰そう、と青年は決意した。
なんだかんだいって、青年の根っこにある善人に意識はかわらなかったようだ。
「……そうか。それは辛いことを思い出させちゃったね。ところで、襲われた場所はどこだい?近くなら送っていくけど…」
「ぐすっ……ち、近くです…。ちょうど野営の準備をしようとしたところを襲われちゃって…。それで、薪を拾ってた私だけがゴブリンにさらわれちゃったんです」
少女の話を詳しく聞くと、ここから馬車で一日と半日で着く場所に町があり、そこを拠点として各地に散らばる村々を相手に交易をしているとの事だ。
その話を聞いて、青年はしめた、と思った。少女の両親のキャラバンについていけば、取り合えず集落には辿り着けると分かったからだ。
「近くか。目印とかはわかるか? わかるなら、俺が送っていこう」
「え、ほんとうに!?」
「けど、条件がある。俺を君たちが向かう町まで乗せていってほしい。見ての通り足が自前しかなくてね。できるなら馬車に乗りたいんだ」
「あ、そういうことなら大丈夫です!お父さんもお母さんもボクの恩人だって言えばのせてくれると思います! あと、まだ名前を言ってませんでしたね。ボクはエイミー。エイミー・べレスフォードっていいます!騎士様のお名前はなんていうんですか?」
「俺か? 俺はカルマ。Vault101から来た……旅人さ」
「旅人? 騎士様じゃないの?」
「ああ。この鎧は貰い物さ」
ふぅ~ん、とカルマの答えに納得したのか、名前の部分を何度も呟いたエイミーは、顔を上げるとニコッと笑い
「よろしくお願いします、カルマさん!」
そう返したのだった。
「ああ、短い間だがよろしく。〔Lady Killer〕あと、君の両親の元に行く前に、相棒を迎えに行っていいか?放置すると後が怖いんだ…」
「っ…は、はい。だいじょうぶれす…」
ヘルメットを脱ぎ、素顔を晒してエイミーに顔を近づけ耳元で囁く。すると頬を少し赤くしたエイミーが頷いたのを確認し、カルマは焚き火に向かって歩き出した。
カルマとエイミーが焚き火まで戻ると、そこにはきれいに半分だけ食べられたリス?の串焼きと、疲れたのかスゥスゥと可愛い寝息をたてて眠る狐の姿があった。
その姿にカルマは笑みを浮かべ、エイミーは…
「かわいいぃ~~!!」
「クォン!?」
狐…コンを力一杯抱きしめていた。抱きつかれたことで起きたのか、自身を力一杯抱きしめている謎の感覚に混乱して暴れまわるが、エイミーはそれを意にも介さず抱きしめ続け可愛い可愛いと連呼している。
流石にコンが不憫に見えてきたので、エイミーの首根っこを掴み持ち上げて、コンを救出した。するとコンは目に涙を貯めながら抱きついてきた。……これはこれでうざかった。
エイミーは地面に下ろされるとぶーぶーと文句を言ってきたが、コンが嫌がってると言って大人しくさせた。躾がしっかりとしているのか、嫌がってると知ると乱暴に触らなくなった。やさしくゆっくり撫でているとそのことに安心したのか、コンも恐る恐るエイミーに近づき、大丈夫と判断したのかエイミーの胸に飛び込みぺろぺろと顔をなめだした。
「アハハハハ! くすぐったいよぉ、コンちゃん!」
「クォン!」
すっかり仲良くなった二人を尻目に、コンに声を掛ける。
「おい、コン。今からエイミーの親を探しに行くぞ」
「くぉ?……クォン!!」
コン、という名前に初めは首を傾げたが、それが自分の名前だと気付くと嬉しそうに鳴き声を上げた。エイミーとも仲良くなったし、問題ないな、と判断し、ヘルメットを脱いで半分だけのリス?の串焼きに齧り付く。少し冷めてしまったが、まあ、食べられないことも無い。そして、もう一つ発見があった。放射能に汚染されていないのだ。
この発見に頬を緩めていると、隣からきゅるるるる、という音が聞こえた。エイミーのようだ。
見れば、顔を真っ赤に染めてコンを抱きながらそっぽを向いているが、視線はちろちろと串焼きに向かっている。
「ほら、腹が減ってるなら食べなよ」
仕方ないと肩をすくめ、串焼きをエイミーに差し出す。
「えぇ!?いい…んですか?」
驚いた顔をしたエイミーだったが、さっさと喰えと更に促すと、がつがつと食べ始めた。野営の準備をしていたところを攫われたということは、飯を食べていなかったのだろう。半分ほどの串焼きは瞬く間にエイミーの腹に収まった。
「えっと、ありがとうございます。大切なご飯まで分けてもらっちゃって…」
「いい。俺にはこれがあるからな」
そう言いつつPipboyから取り出したのは、イグアナの串焼き。こちらはもちろん、しっかり放射能に汚染されているようで、食べるたびにガイガーカウンターがガリガリと不愉快な音を立てる。
エイミーも、カルマが食べているのがトカゲに似た何かだと知ると顔を青褪めてコンに構いだした。意外と美味いのに、と心の中でカルマは残念がったのだった。
次回投稿は……頑張って来週になるかと。
追記…Pipboyのゴブリンの名前がミニスーパーミュータントになっていたのは、Pipboyに該当データが無く、外見の特徴とカルマの「小さい」スーパーミュータントという考えからミニスーパーミュータント、と表示していたのです。あとから正式名称が分かればそれに修正するという、ちょっとご都合主義なPipboyの命名法です。……実際、Pipboyってどうやって名称を表示していたのか分からなかったので、勝手に作った設定です。