ナイトウルフの剥ぎ取りを行うと、手に入ったのはもふもふの毛皮と鋭い牙の二つだけだった。牙に関しては、直接殴り殺した一体は粉々に砕けていたため剥ぎ取れなかったが、まあ仕方ないと諦める。
「くぅ~ん!」
「こらコンちゃん!血が付いちゃうでしょ!? 遊んじゃめっ!」
若干返り血で染まってしまった毛皮で遊んでいるコンにエイミーがお姉さんぶって叱っている。その光景を視界に収めつつ、もふもふの毛皮と鋭い牙を、Pipboyから取り出した背嚢に突っ込み、ついでとばかりにゴブリン達の戦利品も突っ込んでおく。背嚢自体は畳んで仕舞ってあったと言えばそれで済むし、Pipboyの亜空間収納機能を見せる危険性を減らすためだ。
それよりも、コンを叱り終ったエイミーが好奇心で目を爛々と輝かせてこちらを見ている。それに少し嫌な予感がするも、仕方なく話しかけた。
「…どうしたエイミー。何か言いたいことでもあるのか?」
「す、すごいですカルマさん! 魔導騎士だったんですね!」
「魔導騎士?」
「そうです! 見たことの無い杖から無属性魔法でナイトウルフを倒したじゃないですか!」
ほら、とオルペイレンスを指差しながら、エイミーはまるで御伽噺に出てくる主人公を見つけたように喜びはしゃいでいる。
喜んでいるエイミーには悪いが、魔法、というファンタジーな言葉が出てきたことにカルマは頭を痛くしていた。まあ、世界を超えた、と仮定している以上、漫画のような魔法があってもおかしくは無いが…。
「〔Speach98%〕……ああ、こう見えて俺は魔導騎士なんだ。驚いたか?〔嘘〕」
「〔Speach成功〕すごいすごいすごい!! ねえ騎士様! なら他に魔法が使えないんですか?」
「〔Speach65%〕………ごめんな、今は魔法を使いたくないんだ。他の魔物と遭遇したら危ないだろ? それより、エイミーは魔法は使えないのか?〔嘘〕」
「〔Speach成功〕ぶぅ~。でも、それならしょうがないか~。 ボク、魔法はこんなしかできないよ?」
とエイミーは言うと、視線を立てた人差し指の指先に定め、力を込めるような声を出す。何が起こるのか、と見ていると、ポッと小さな火が人差し指から少し離れたところに灯ったのだ。それに軽く驚きつつも、これが魔法か、と観察していく。
「ボクは適性がなくて、生活魔法しか使えないんですよ…」
どこか暗い笑顔でそう答えながら、次は水を生み出しコンが遊んでいたふわふわの毛皮にかけ洗っている。確かにこの程度の火力と水量なら火種や洗濯程度にしか使えず、生活魔法と言うものが文字通り本当に生活にしか役に立たないものなのだとわかる。
「そうか。〔Speach30%〕まあ、魔法は使い続けていくうちに強くなることもある。気長に訓練するんだ」
「〔Speach失敗〕ぶぅ~!いい加減なこといわないでくださいよ!! 魔法は才能に左右される難しい物なんですよ!? ……下手な慰めは返って迷惑です」
エイミーにとってトラウマというか、逆鱗というか、そのような部分を刺激してしまったようだ。かなりむくれてしまった。
「あぁ…すまない。実を言うと、魔法を余り詳しく知らなかったんだ。俺のはまあ、特殊でな。使えば使うほど上達していったんだ。 これでもやるから、気を悪くしないでくれ」
「ぶぅー。ほ、本当は、食べ物なんかで誤魔化せないんだから!」
Pipboyからシュガーボムを取り出し、無理矢理エイミーに押し付ける。文句を言っているが目はシュガーボムに釘付けだ。
そして箱から取り出したシュガーボムの甘味と口内爆発にエイミーが目を白黒させているのを眺めつつ、今更ながら自分の軽挙に内心で歯噛みしていた。そう、今までウェイストランドの道具を使いすぎていたことにだ。今のところ、ここでは銃は見かけていない。エイミーの言動からするに、銃を見るのだって初めてのようだ。
以前だって、マザーシップから持ち帰ったエイリアンの武器を誤って……そう、誤ってモイラに売り物の商品と一緒に見られてしまい、自分も連れて行けととんでもない勢いで迫られたのだ。
結局、モイラをマザーシップに連れて行く羽目になり、そこで運悪く最初に出会ったサムライのトシローを見て大興奮し、危うくカタナでみじん切りにされかかり、戦時中の兵士(エリオット)と子供(サリー)を見ては「遺伝子サンプルを……」と空の注射器片手に怖い笑顔で迫ってサリーを泣かせエリオットが冷却グレネードを投げてきてモイラ共々凍り漬けにされたりと……危うく、自分まで出入り禁止を言い渡されるところだった。
と、そんな恐怖体験が頭をよぎり、経験則からこんなところで銃を乱用すれば、要らぬ迷惑を被る可能性だって否定できない。幸い、どうやら魔術という技術?でごまかせそうなのが救いであるが、ここは詳しく情報を収集しなければ同じ過ちを繰り返しかねない、とカルマはエイミーとその両親から可能な限り情報を仕入れることにしたのだった。
そして最初の襲撃から1時間。たまにエイミーから来る質問口撃をのらりくらりとかわしつつ、ゴブリンやナイトウルフが数匹ほど襲ってきたのを撃退していく。最初の群れと違って多くて2体しか現れなかったため、殆ど一瞬で戦闘は終わり順調に歩き続けていた。
その間、銃の使用を抑えるために中国軍将校の剣で何体か切り結んだが、問題なく対処でき、エイミーの理想の騎士像である剣も上手に使える、という条件を満たしたせいか、余計にキラキラとした目でこちらを見てくるのでやりづらいことこの上なかったが。
そして、冒頭に戻るわけである。カルマの実力の高さに安心感を抱いたのか、エイミーは緊張もなくなりもう怖いもの無しといった感じだ。
そしてエイミーはPipboyを指差し、「カルマさんの魔術もそうですけど、その魔道具も随分と変わってますね」と質問してきたのだ。
「魔道具?」
また新しい言葉に眉を顰める。
「? カルマさん、魔道具を知らないんですか?」
「〔Speech 95%〕……いや、こいつは父さんから貰ったものなんだ。詳しく聞く前に死んじゃったから、魔道具だったなんて知らなかったんだ〔嘘〕」
「ご、ごめんなさい!変なこと聞いちゃって…… あ、そうだ!お詫びに魔道具について簡単に説明しますね? ボクも詳しいわけじゃないけど、少しぐらいなら…」
「それじゃ、お願いしようか」
エイミー曰く、魔道具(Pipboyを勘違いしている)は魔術師と呼ばれる、杖や剣、果ては台所用品にまで魔術陣を描き、魔道具にする職業を生業とした者たちが作る物の事で、良く勘違いされ易いのだが、魔術師は攻撃能力がほぼ皆無であり、戦闘ができるのは魔導師である、らしい。
エイミーは魔道具が魔術師によって作ること以外よくは知らないが、一般にも流通しているものの値が張るもので、持っている人は少ないとの事。エイミーの両親も魔獣除けの結界を張る魔道具を持っているが、それはもう高い値段だと話していたのを聞いたそうだ。
そしてPipboyのライト機能だが、貴族という上流階級(金持ち)の者が家の財力を見せつけるために用意する、館のシャンデリアに使われる魔道具が発する光量とほぼ遜色ない効果を、この大きさで発揮している…らしい。それで高い魔道具を…と言っていたのか、とカルマは納得した。
その話を聞き、これは本格的に情報を集めないと危険だ、とますます危機感をつのらせるのだった。
そうして歩いていくこと更に一時間。前方から松明の火らしき物が二つ見え始め、こちらに気付いたのか近づいてくる。念のため右手に剣、左手に10mmピストルを隠し持ちながら待っていると、ようやく互いの顔を視認できるようになった。
長い金髪を一つに纏めた、旅人らしい機能性を重視した服装の女性と、剣を構えレザーアーマーのような防具を着た緑色の髪をざっくばらんに切り揃えた男性の二人組みだった。
「っ!? お前は何者だ! 鎧……しかも紋章付きを着ているということは騎士なのだろう? どこの国の騎士だ!」
男性は剣を構えながら所属を問う。残念ながらカルマは騎士ではなく、国の名前など一つも知らない。さてどう返そうかと考えていると、怪しいと判断したのか男性が前に出て剣を構え、女性は後ろに下がり腰から杖を抜き構えた。
いきなり戦闘体勢を取られたことに呆れたが、こちらも剣とピストルを持っていたことに今気付く。そのせいか、と己の失態に舌打ちしつつ、10mmピストルの銃口を後方の女性に向ける。エイミーが言っていた攻撃魔法とやらが飛んでくる可能性が一番高いからだ。
どちらも口を開かず固まっている。一触即発とはこれのことか、と考えていると、今までコンを抱きしめ少し後ろをついてきていたエイミーがばっと飛び出した。
「「「エイミー!?」」」
三人の声が重なり、思わず見詰め合う。そしてそんな大人たちを無視して、エイミーは男性と女性に駆け寄り…
「お父さん、お母さーん!」
抱きついた。
「娘の恩人とは知らず剣を向けてしまうとは、本当に申し訳ない!!」
そこからは早かった。エイミーがカルマを命の恩人だと言うと、勘違いしてこちらを襲ってきたエイミーの両親は揃って頭を下げてきた。
エイミーのお陰で無意味な戦闘は避けられ、今はエイミー達の荷馬車の近くに張られたテントで話している。焚き火を囲みながら、差し出された熱い飲み物を受け取ったところだ。
「いや、お互い警戒していたのだから仕方ない。それに所属のない騎士と間違われる格好をしていたこちらにも非があるし、この件は水に流さないか?」
「そうか、そう言ってもらえると助かるよ。 おっと、紹介が遅れたな。俺はコンラッド・ベレスフォードという。元冒険者だ。そしてこっちが…」
「妻のヘレナ・ベレスフォードよ。さっきは本当にごめんなさい」
簡単な両者の自己紹介が終わり、先程まで大泣きしていたエイミーをあやしながら、ヘレナとも挨拶を交わす。
エイミー似の…いや、エイミーがヘレナにそっくりなのか。良く似ている親娘だな、と思った。エイミーと同じ金色の髪をゆったりと腰まで伸ばし、顔のパーツはエイミーを大人にしたようである。ただ唯一違うのは瞳の色で、こちらは深い蒼い色をしている。
「ところでカルマさん?今娘から聞いたのですけど、娘を助けた報酬として近場の町まで送って欲しい、との事でしたが……本当にそれだけでよろしいですか? 僅かですが、お金も支払えますが…」
「金、か……確かに欲しいけど、それを取ったら今度はそちらが困るのでは?荷馬車を見た感じ、仕入れを終えたばかりみたいだし、だからこそ少ししか払えないのだろう? なら、別にいい。倒したゴブリン達が銅貨を幾ばくか持っていたから、それで充分だ」
「そうですか……わかりました。ですがこのご恩、街に着いた時に必ずお返しします。でないと、我らエルフ一族の誇りが許せないのです」
エルフ一族。また知らない単語が出てきたが、後回しでも大丈夫そうだ。ただ、エルフ族は受けた恩は必ず返すほど律儀なのだろう。
「…ところで、そろそろその兜を取らないのかい? 私達としては、娘の恩人の素顔を拝んでおきたいのだが」
「…ああ、すっかり忘れてた。外に居る時はいつも被っていたから、ついな」
そう言いながら、カルマはパワーヘルメットを脱いだ。が、その途端、コンラッドの目が驚きに見開かれた。何故、と疑問に思っていると、こちらが気分を害したと思ったコンラッドが慌てて弁解を始めた。
「ああ、すまない! 君は……人族だったのか。…それもこんなに若いとは…」
「あらあらまあまあ。私はてっきり、殆ど同い年だと思っていたわ」
「気にしなくていい。実際そんなに長生きしているわけではないから」
気にするなといい、渡された飲み物に口をつける。すると、今まで味わったことの無い鮮烈な味が口いっぱいに広がった。苦味と酸味が程よく出て、後味も悪くない。香りだってヘルメットを取ったお陰でよりはっきりと感じ取れる。
「美味いな…これは、コーヒーか?」
「ああ。こんな行商人でも出せる安物だが、気に入ってくれたかい?」
何時の間にか半分以下になっていたカップの中身を見て嬉しそうに笑ったコンラッドはポッドからコーヒーを注ぎ足してくれる。ありがとう、と言い、また口に含んだ。
「ところで、何故俺が人族だと驚いたんだ?」
「……何も知らないのかい? いや、君が差別主義者じゃないだけ…か」
「? まあ、俺は人外だろうがなんだろうが敵意さえ向けられなければ友好的だぞ?」
「…っははは! そうかそうか。君はおもしろいな。 こちらは会う人族の大半が我等のような異種族を快く思っていない奴らばかりでね、すっかり君のことを私達と同じエルフかそれに準する者だとばかり思っていたんだ」
コンラッドに異種族差別についてよく聞くと、何でもここエンシオの森があるグロリアーナ王国はそれほど差別は酷くないようだが、隣国の聖ヴェロニカ教国は酷いそうだ。何でも、教義に人族こそが神々によって祝福された存在であり、それ以外の者は神が悪戯に創り出した卑しい者、というモノがあるそうだ。まあ、堂々と差別すると公言しているのは教国だけで、それ以外のベゴーニャ帝国はグロリアーナ王国同様差別はあまりしていないようだ。
差別の酷さはそれぞれで、流石に見た瞬間に殺されることは無いが、石を投げつけられる、店から追い出される、と陰湿なものが多いらしい。
「そうか……そんな禄でもない宗教があるんだな」
「おいおい、禄でもないは言い過ぎだろう? 今言った異種族差別を助長するような教義を除けば、十分にまともな宗教なんだ。ただ、あそこは上層部が腐っていてね。異種族差別を利用して権力の掌握に夢中の腹黒い国なのさ。だからカルマさん、もし教国に行くとしたら気をつけたほうが良い。何があってもおかしくはないからね」
最後だけは、本当に心配するような顔で言われ、ついジェファーソン記念館で死んでしまった父親と姿が被ってしまった。Vaultでも、ウェイストランドでも、ここまで親身にしてくれる相手は居なかったからだろうか。それとも、コンラッドが父親と似ているからなのだろうか…。
「ああ、ありがとう。気をつけるよ」
本当に珍しいことだが、カルマは穏やかな顔でコンラッドにそう返したのだった。
かなり内容を追記、変更しました。申し訳ございません。