戦姫絶唱シンフォギアパンドラ -In the midst of disaster- 作:ナメクジ次郎
窓10の強制再起動で書いてた内容ほとんど飛んでしまって心が折れてました
胸に浮かんだ歌を歌いながら、じりじりと後方に下がる、冷静になってみると姿が変わったからと言ってなんになるのだろう。
人類の脅威が今目の前に居る事実は変わらない、つまり触れられたら死んでしまうのでは? そう判断したからだ。
近づいてくるノイズが一瞬立ち止まる、これは……本当に神様が助けてくれたのだろうか。どうせならこのまま逃げられるまで止まっていてくれると嬉しい。
しかしそんな私の期待を裏切り、あろうことかノイズはまるで槍のように細長い姿と変わり、すさまじい速度でこちらへ向かってきた。
「ひっ、ひいぃッ!」
飛んできたノイズに怯えて咄嗟に後ろに飛ぶ、するとなんということだろうか、今まで感じたことのないほどのスピードと共に体が動き、そして。
数百メートルは先にあったであろう電柱に背中から激突し勢いが収まる、痛みは……ない。
先ほど自分の居た場所に目を向けると数体のノイズがそこに突き刺さっており、今度はまた別のノイズが私に向かって、既に飛んできていた。
「あっ……ダメ!」
無駄だと思いながらも、目を閉じて身を守ろうとして咄嗟に両手を前に突き出す、死んだかも……。
しかし、何かが激突した感触も無ければ痛みもない、もしかしてノイズに殺されるのはこんな安らかな死に方なのだろうか。
そう思いながら閉じた目を開けると、私の手に触れたノイズが炭化し、消滅していた。
「はは……なにこれ、ほんとに変身ヒーローみたいじゃない……」
今のが偶然じゃないと、なんとなく理解できた、つまり今の自分はノイズと戦える。
弱い人の為、正義の為と言っていた父がどうにもできなかったそれと、戦う力がある。
それならば答えは決まっている、今度はしっかりと目を開いて、たくさん居るノイズと対峙する。
……いや、改めてちゃんと見ると、多くない?
「この数は無理! 絶対無理!」
奥から奥からぞろぞろとノイズが迫ってくる、これはもしかしたら逃げの一手を打った方が無難じゃないだろうか。
そう思い踵を返して逃げようとしたところで……。
「そこを動かないで、死ぬわよ!」
と、上空から声が聞こえた。
その指示に従い立ち止まって、声のした方を見る。
……そこには天女が居た。いや、あれは。
「風鳴……翼?」
月の光に照らされて輝く綺麗な青い髪、スレンダーながらも美しい体、そして良く通る声。
日本を代表するトップアーティストだ、私もよく目にするし曲も聴く、見間違えるはずがない。
それでも何故歌手である彼女が、今の私のような変身スーツを着て戦っているのか?
頭に浮かんだそんな疑問の答えが出る前に……。
頭上から無数の剣が降り注ぎ、目の前に集まっていたノイズを一掃していく。
「ひぃっ!」
そのうちの一本が目の前に落ちてきて、情けない声を出して尻もちをついてしまう。
やばい、腰抜けちゃって立てない。
しかも変身が解けてしまったみたいで、光が弾けて元の制服姿に戻ってしまった。
こういうの、特撮で見る時にどうなってるんだろうと思ってたけど、現実でも服はそのままなんだ……。
「……そこのあなた」
「ひゃ、ひゃいっ!」
見事な着地を決めた風鳴翼が、私に声をかける。
「あなたは、何者? 何故シンフォギアを纏っていたの」
「わ、私は大槻重音十五歳……この辺りの高校に通ってて……趣味は、じゃなくて、シンフォ……ギア?」
シンフォギア、聞いたこともない名前だ。
多分、私がさっき纏っていた変身スーツみたいなのがそれなんだと思うけど、なんかカッコイイ名前だ。
やっぱり日曜朝に見てる番組みたいな……。
「何も知らないでそれを纏っていたというの? まさか、そんなはずが」
「そ、それが……ノイズに襲われた時にお父さんから貰ったお守りに祈ったら歌が浮かんできて、その通りに歌ったらこんな姿になりまして……」
「叔父様も、櫻井女史さえも知らない聖遺物。それがどうしてシンフォギアという形で……」
「え、ええと、翼さん? 私、折角助かったんですから、家に帰りたいんですけど……」
何やら考え事をしている様子で独り言を喋っているみたいだけど、この隙に逃げる、なんていう事はできそうにない。
それはもう、威圧感が凄い、明らかに歴戦のそれだ、いや私はそういうの全然わからないんだけども、何故かそう思えた。
「あなたを、このまま帰すわけにはいかなくなりました」
「で、ですよねー」
「特異災害対策機動部二課まで、同行願います」
「に、二課……? ってあれ!? いつの間にか私、黒服の人達に囲まれてませんか! 同行っていうか強制連行ですよね!」
気づいたら周囲を制服を着た屈強な人たちに四方八方を囲まれ、逃げ道が無くなってしまっている。
「突然ですみません、あなたの身柄を、拘束させていただきます」
「えっ……」
その声に何か反応を返す間もなく、腕への重み、そして視界が遮られる。
これってもしかして、拘束具……?
さっきの優しそうな声の人がつけたんだろうけど、早業過ぎませんか!?
「どうしてこうなるの!?」
誘導されるがままに車に乗せられ、走り出したようだ。
私このままどうなっちゃうの!?
◆◆◆◆◆◆◆
しばらく車に揺られて、その後少し歩いて、長い事エレベーターに乗せられて、そうしてたどり着いた、よくわからない場所。
地下の施設という事はわかるんだけど、それしかわからない。
ずっとされていた目隠しを取られてから感じた眩しさに目を細めていると突然。
パンッ!という音と火薬の匂い、もしかしてハメられた!? 同行というのは嘘で秘密を知った私を処理する為にここへ!
というところまで想像した辺りで痛みを感じない事に気づく、そしてようやく慣れて良く見えるようになった風景は。
赤いライオンと美女……そう形容してしまうような二人と、黒服の皆さんが居た。
「ようこそ! 人類守護の砦、特異災害対策機動部二課へ!」
「えぇ……」
目隠しまでされた意味はなんだったんだろうか……というか、秘密の組織にしてはノリが軽くありませんか二課。
「もう、弦十郎さん。この子引いちゃってるわよ? 響ちゃんみたいな子にはいいけど、相手を選ばなきゃ……きっとシリアスなやつ、期待してたんじゃない?」
「まあ、その、はい……秘密を知ったから排除ーとか、私の持ってるコレを解析するために人体実験ーとか、思ってました……」
「人体実験の方は……あなたの態度次第じゃ、ほんとにやっちゃうかもしれないけれど」
「やっぱりするんですか!?」
「了子くん、あまり脅すようなことは止してくれ」
「は~い」
人体実験、本当にされてしまう可能性があるなんて……改造人間まっしぐらじゃないですか。
「君にここへ来てもらったのは他でもない、協力を要請したいことがあるからだ」
「協力……ですか、こう、やっぱりさっきの変身みたいなのが、ノイズに対する対抗手段で……みたいなやつですか?」
「その通りだ、やけに物分かりがいいな……」
「こういうの、ドラマとかじゃ定番ですから……」
「そ・れ・と、あなたの持ってるその聖遺物。私たち日本政府が把握できていない未知の存在なの。だからその解析も、ね?」
「聖遺物……? このお守りが……?」
「ああ、すまない、そこの説明もしなければいけないな」
……その後、二人から様々な説明を受けた。
まず一つが聖遺物、それは古くからの伝承に語られた伝説の武器、道具、そんなものが現代に残ったものらしい。
そしてシンフォギア、特定振幅の波動、つまるところの歌により、失われた聖遺物の力を引き出して身に纏うもので、美女の方の人、櫻井了子さんが開発したらしい。
お父さんが残したお守りは、ギリシャ神話に登場するパンドラの箱であるという事が、私の胸に浮かんだその歌で判明した。災害復興支援で行った先で貰ったと聞いていたけど、それが本物だったということらしい。
「大体の話はわかりました……それで協力というのは、あの力を使ってノイズと戦う事ですか?」
「それもあるが、まずは君の持つ聖遺物の解析からだ。今は君の私物だが、こうなってしまった以上は日本政府へ所有権を譲渡してもらわなけりゃならない」
所有権の譲渡……これが、私の物じゃなくなるのか。
糸が通されたそれを、両手で握る。しばしのお別れか……。
「君のお父さんの形見という事は聞いたが、これは俺の一存だけで決められることじゃない、だから……」
「いいですよ、お渡しします」
「本当にいいのか?」
「いいんです、お父さんならきっと、ノイズに苦しめられてる人を助ける為なら、そうしなさいって言うと思いますし、それに……お父さんが、ノイズ相手に無力じゃなかったって言えるなら、私も嬉しいです」
私の記憶にある父は、優しくて、大きくて、だからいつもノイズの被害に心を痛めていた。
だから……これでよかったよね?
「そうか、なら俺たちも、悪いようにする訳にはいかないな!」
心強い笑みを浮かべながら……ライオンの方の人、弦十郎さんがそう言った。
「それじゃ、お話も纏まったところで……重音ちゃんに、脱いでもらいましょっか」
「……ふぇ?」
その後、めちゃくちゃ脱がされて体の色んなところをチェックされてしまった。
シンフォギアを使ったことによる体調の変化、後遺症の有無などを診る為らしいけど、急すぎるし、普通に恥ずかしかった……。
そうして一通り検査が終わった後にまた目隠しをされて家に連れて帰られたけど、その時、誰かとすれ違った気がした。
でも、もういいや……疲れたし早く寝よう。
◆◆◆◆◆◆◆
特異災害対策機動部二課の聖遺物研究施設、そこに櫻井了子と風鳴弦十郎の二人が、神妙な面持ちで立っていた。
「了子くん、彼女の持っていた聖遺物の事だが、何かわかったことは」
「そうね……あの子の言っていた通り、パンドラの箱で間違いないでしょうし、身辺や家系を調査してもそれらしきものに当たらないみたいだから、本当に偶然入手したものみたい」
「そうか……それにしても、まさか了子くんの手を加えずともシンフォギアとして纏える聖遺物とは……」
「あら、それに関しては既に仮説が立っているわよ?」
「本当か!」
「ええ……パンドラの箱は伝承ではいくつもの厄災と一つの希望が入った箱。残念ながらこれにはもう何も入っていないみたいだけれど、その性質は残っているわ」
「つまり……聖遺物が彼女を中にしまい込んだ、という訳か」
「そういう事になるわね、あくまで仮説の域を出ていないけど、いい線行ってると思わない?」
「しかしそれでは……まるで彼女が」
「厄災のようじゃないか、って言いたいんでしょう? 多分彼女じゃなくても、適合する人間なら誰だって、このまま纏えると思うわよ?」
一呼吸置き、彼女はこう続ける。
「響ちゃんにも言ったけど、人類は呪われているもの。あの箱に入る条件は満たしているはずよ」
「了子くん……」
「まっ、それでも不安要素の塊だし、政府からの要請もあるだろうから、シンフォギアの形に加工はしちゃうけど」
「そうだな……重音くんには事後承諾になってしまうが……」
「所有権を譲渡したのは彼女ですもの、納得してくれるわよ」
そうして、二課の夜は更けていく。