戦姫絶唱シンフォギアパンドラ -In the midst of disaster- 作:ナメクジ次郎
「ったはー! 疲れたー!」
「お疲れ様です。冷たいもの、どうぞ」
「ありがとー! 今日は何?」
「今日は黒豆茶ですよ」
「ま、また黒いんだ……」
何度目かもわからないやりとり、響さんが特訓をしている間、私も力になろうと司令の家に通ってサポートをしていた。
それとついでに、あんまりにも体力が無かったから軽い走り込みも……。
「重音くん、すまないがこちらにも貰えないだろうか」
「あっ、はいはーい、すいません気が回らなくて」
「いや、こうして我々のサポートしてくれるだけでも、ありがたい限りだ」
なんというかこう、部活とかは全然やってこなかったけど、いいなぁ。こういうの。
放課後に集まって一緒に汗を流す、青春って感じがする。
まあ一個下の同僚と、筋骨隆々の大人と私だから、そこまで爽やかって感じでもないんだけど、カンフー映画の特訓だし。
「そういえば重音くん、明日の特訓には来なくてもいいぞ」
「えっ……私クビですか!?」
「いや、そういう訳じゃない。明日は響くんが二課にて保管されている聖遺物、デュランダルの護送をしなくてはならなくてな。」
「あっ、なるほど。私まだシンフォギア持ってないですもんね……」
そう、保管状況や破損具合、それと形状とか諸々の理由で、了子さんがパンドラの箱を加工するのに少し遅れているらしい。
デキる女を自称してあれだけ自信満々だったのに、あの人もそういう事ってあるんだと思った。
現状ほぼあの人が独占してる技術らしいから、私が想像つかないほど大変なんだろうけど。ちょっと焦りはある、その為に二課に入ったのに、ずっとお茶とかお弁当作ってるし。
今私にできることをやるにしても、ちょっと物足りない。
「明日そういう事があるなら、響さんにお弁当作りますね!」
「えぇっ!? いいの!?」
「はい、司令! 台所借りますね」
「それは構わないが……」
それを聞いて、私はこのやたら広い家の台所に向かう。
ここ数日特訓に一緒に参加していたから場所は完全に把握してるし、なんなら冷蔵庫の中身も把握……というか私が買ってきた食材も入っている。
響さんはごはんが好きだし、それを中心にするとして。おかずは……。
などと思案しながら歩く私の足取りは、どんどん軽くなっていった。
「いやー、重音ちゃん。初めて会った時が信じられないくらい明るくなりましたね師匠」
「うむ……トレーニングの効果もあると思うが、あれが彼女の元々の性質なのだろう」
◆◆◆◆◆◆◆
それから少し経った。デュランダルの護送は失敗に終わり、再び二課での預かりとなったらしい。
私にできることと言えば結局、シンフォギアがないままだから励ます事や少しでも元気が出るように、栄養のあるものを渡す事だけ。
それもなにかこう、洗った状態のお弁当箱を返しに来た響さんが凄い気まずそうにしてたし、失敗だったかもしれない。
「はぁ……なんか、ちょっとお疲れ気味なのかな」
まだ明るい空の下、帰路につく。
今日は学校の設立記念日だったから午前中に理事長とかの話があって終わり。
それにしてもこういう記念日って普通休みにすると思うんだけど、フィクションとかであるみたいに。
ああいう場はどうも、静かだし何もできないし、嫌な考えばっかり浮かんでくるから苦手だ。特に今日みたいに考え事が多い日は。
「甘いものでも買って気分転換でも……あれ、こんなとこにお店あったっけ」
とぼとぼと歩いていると、何やら見慣れない……大判焼きの店が出ていた。
大判焼き、うん、いい。今日はなんというか餡子の気分だし。
そう思って財布を取り出そうとしたところで、携帯電話の着信が……緒川さんから?
「はい、大槻です」
「重音さん、午後の予定は空いていますか?」
「えっ、はい。今日は午前で学校が終ったので暇になりましたけど……」
「よかった……それなら頼みたいことがあるんですよ」
「頼みたい事、ですか」
「はい、翼さんが本日目を覚ましたので。お見舞いを頼みたくて」
「わ、私でいいんですか? 響さんとか、それに緒川さん自身が行けばいいんじゃ……」
「ボクは今ちょっと手が離せないんですよ、それに響さんにはまた後から行ってもらいますから。すみませんが、お願いできますか」
「え、ええと……はい、行かせていただきます」
「そう気を張らなくてもいいんですよ、翼さんもきっと喜びますから」
「そうだと……嬉しいです」
ずっと入院して意識が戻らない状態だったって聞くし、実は初めて二課に来た時以降会ってないし、少し気まずいような気もするけど。頼まれたのならやっぱり行った方がいいよね。
いやでもやっぱり、トップアーティストの病室に一人で行くなんて絶対緊張しちゃうし。
「……緒川さん」
「はい、なんでしょう」
そういえば、行くんだったら今目の前にあるこれを買っていっていいかもしれない。だとすれば、これは大きな問題が立ちはだかってくる。
だから失敗はないように、これだけは確認しておかないといけない。大事な大事な話だ。
「翼さんはこしあん派でしょうか、つぶあん派でしょうか。それとも、もしかして白とかうぐいすですか!?」
そう、大事なのは。中身だよね。
◆◆◆◆◆◆◆
色々緒川さんから聞いた後、翼さんの分だけじゃなくて二課の皆用の大判焼きを買ってからリディアンのすぐ近く……というよりも併設されている医療施設の中、翼さんの病室があるフロアの休憩室に居た。
いざ引き受けたのはいいけどやっぱり緊張する、いやでもここで緊張してたら病室になんて入れないし……。
意を決して休憩室から出る、確か病室は402号室。個室だし他の人に気を使わなくてもいいのが……。
「あっ……」
「大槻……? どうしたの? こんなところで」
「あっ、えっ、えと、お見舞いに来ました」
「そう……なら、屋上で話しましょうか」
「は、はい」
松葉杖をして歩く翼さんの後ろについていきながら、屋上へ向かう。
思っていたより元気そうだけど、やっぱり心配だ。
それから数分ほど歩いて、屋上に出た。まだ日も高い位置にあって眩しい。
「えと……翼さん、どうして屋上に?」
「あなたとは初日以外で会う事が無かったし、こうして語り合う事もなかったから。だからあなたの事を、あなた自身から聞きたかった」
「私の事、ですか」
「あなたのシンフォギアがまだ完成していない事も既に報告書を把握しているわ。だけど、そうして待っているうちに状況も変わってきているのはあなたも知っているでしょう?」
「ネフシュタンの鎧を纏った女の子、ですよね」
完全聖遺物「ネフシュタンの鎧」を纏った、少女の襲撃。翼さんが重傷を負った原因にもなった、ノイズではない私たちと敵対するもの。
「ノイズと戦う覚悟があるのは、あの日あなたから聞いている。けれど、このまま戦いに身を置こうというのなら」
「その少女と……それだけじゃなくて、この一件の裏から手を引いている他国の人とも戦う事になる。かもしれないんですよね」
「そう、そして人間と刃を交えるという事は、修羅の道へ入るという事」
「修羅の道……」
「それでもあなたは戦場に立てると、その道を進むと言えるのか。そうまでして戦う理由があるのか、それが聞きたい」
「私は……」
修羅の道、確かにそうだ。人間と人間が戦う、そうして生まれる憎しみと負の連鎖。
ならば私はどうすればいいのか? それはやはり、決まっているかもしれない。
きっとお父さんは、その連鎖を断ち切る為に世界を飛び出したんだと思う、それはつまり、どういう事?
その答えは出ないけど、戦う響さんを、そして人々を守るために必死な二課、そして一課の人達を、ここに来てから見てきたのだから。
お父さんがどうだった、じゃなくて、私の答え。
どうしてあの時、私はまだ戦えないのかと漏らしたのか。どうして響さんと並び立ちたいと思ったのか。
どうして、自分にできることを探したのか。
「私は……誰かを守るために戦っている人たちが思いや信念を持って、貫き通す為に戦っている事を知りました。きっとお父さんもそうだったんだと思います。そんな人たちに、守られていたんです。だから」
そう、だから、私が――
「だから私が、そんな人たちを守りたいと思いました。あの時みたいに見送るだけで、守られるだけで終わりたくない。響さんを、翼さんを、司令を、櫻井さんを、二課の人達も、一課の人達も! それに……」
「あの少女も」
「そうです。きっとその少女にも信念があって、目的があって、事情があるはずです。ノイズを操って、完全聖遺物を身に纏って、そこまでしなきゃいけない理由があるはずなんです。だからお互いに傷つけあう事があっても、その命は、心は守りたい」
理由なき悪意があるだなんて思いたくはない、だからその理由を理解して、和解して、そしてその信念を守りたい。
傲慢なのがわかっている、だけど。
「私はきっと、戦うんじゃなくて、守りたいんです。傲慢かもしれません、翼さんの質問に答えられていないかもしれません。でもこれが、今の私が戦場に立とうとする理由なんです」
「その道は、きっとあなたが想像するよりも過酷で、挫折に満ちた道のはず。それでも?」
「それでもです!」
「そう。ならば強くなりなさい、守るという事はただ傷つけるよりも強くならなければいけない。相手すらも守りたいというのなら。私や立花、そしてあの少女よりも強くなる他ないわ」
「はい……いきなり全部守れると思うほど傲慢じゃありません、少しずつでも、強くなります!」
そしたら、きっと天国のお父さんも報われるよね……?
「あなたの覚悟は伝わったわ。私の事すらも守れるほど強くなる事、期待している」
「はい!」
そうだ、私ができること、私がしたいこと、それをもっともっと多く、大きくする為に強くならなきゃ。
「……あ、そうだ、翼さんにこれ持ってきたんですよ。まあ二課の皆さんの分も買ったんですが、甘いもの食べて大丈夫ですよね?」
「ええ、まだ日が高い時間だし問題はないけれど」
「よかった、買ってすぐに来たからまだあったかいはずですよ! 緒川さんから好みまで聞いてきましたから美味しいうちにどうぞ」
「これは……御座候ね、好みという事は中身は」
「待ってください翼さん、今なんと言いました?」
「中身の話をしただけだと思うけれど」
「その前です」
「御座候、と呼んだだけじゃない」
「御座候……」
聞きなれない呼び方でつい聞き返してしまった。
そういえば大判焼きって呼び方がいっぱいあるんだ、思わず何か言ってしまうところだった。
それにしても御座候、御座候。
なんというか、似合ってるなぁ。
「そう見つめられると、食べにくいのだけれど」
「あ、ご、ごめんなさい」
先ほどまでの語らいはどこへやら、すっかりと和んだ空気が辺りを包んでいた。
後で二課の方でこれをどう呼ぶか聞いてみよう、そう思ったのだった。