ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

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一応補足。主人公は神器など持ってません。


9撃目 魔王

 

 

 

 オカルト研究部。部室は新校舎から少し離れた位置にある旧校舎で、二大お姉さまの一角であるリアス=グレモリーが部長を務めており、兵藤一誠を始めとした個性的な面々で構成された……一見すれば少し変わった部。

 

しかしてその実態は悪魔である彼等の集合所。主であるリアスを筆頭にそれぞれ彼女の下僕悪魔が悪魔の糧となる人間の願い────所謂契約を交わすために設けられた場所である。

 

そんな悪魔の拠点とも呼べる部室に、一人の人間が招かれた。

 

アオヤマ。先の堕天使幹部、コカビエルの襲来で活躍し、リアス達の窮地を救った人間である。

 

そして、そんなアオヤマの前でにこやかに微笑みながら対面しているのは銀髪の女性メイドを側に控えさせた紅髪の魔王───サーゼクス=ルシファーである。

 

リアスの兄でもあるサーゼクス。そして人間であるアオヤマ。人間と悪魔、ヒーローと魔王。本来なら相容れない筈の二つの存在が呑気にお茶を飲んでいる風景は、何ともシュールなものである。

 

だが、アオヤマがなにか失礼な事を言うのではないかとサーゼクスの後ろに控えているリアスは気が気でない様子で二人の様子を眺めている。

 

 アオヤマは変わっている。誰に対しても思ったことをそのまま口にするその性格は時に人から疎まれた事もある。

 

別に相手の態度でどうこうするほど兄であるサーゼクスは器量は狭くない。が、それでも拙いことには変わりない。

 

どうか下手な事を言わないでほしい。そんな願いに似た思いを抱き、リアスは二人の様子をマジマジ見つめていた。

 

「…………で? 悪魔の親玉が一体俺に何の用?」

 

朱乃に用意されたお茶を頂き、落ち着いた所でアオヤマが訊ねる。そんな大胆不敵な態度に早速リアスが卒倒しかけていると……。

 

「いやなに、リアスから面白い人間がいると聞いてね。近い内にここで会議を開く予定だからその序でにどんな人間か見てみたくなってね。もしかして何か予定があったのかな? だとしたら悪かったよ」

 

「いや別に、特に今日は予定ないし暇だったから別に構わないけど」

 

にこやかに微笑みながら謝罪するサーゼクスに対し、気にするなと応えるアオヤマ。

 

だだの人間が魔王相手にいきなりフレンドリーな会話をしている光景に、リアスは自分の胃がキリキリ痛みだしたのを感じた。

 

チラリ、横にいる銀髪のメイドに視線を向けると、その人は特に動じた様子もなく、目を瞑って静かにサーゼクスの後ろで佇んでいる。

 

「もしかして、それだけの理由で俺を呼び出したの?」

 

「いや、それだけじゃない。君は妹がコカビエルと戦っていた時、助けてくれたそうじゃないか。そのお礼と聞きたい事があってね」

 

「聞きたい事? 神器って奴の事なら俺そんなの持ってないぞ。つーか、アザゼルに聞かれるまでそんなもの知らなかったし」

 

サラリと堕天使の総督を呼び捨てにするアオヤマにリアス達の表情が強ばる。既に堕天使がアオヤマに接触している。

 

その事実にアオヤマとサーゼクス、メイドを除いた全員が動揺しているが。

 

「おや? アザゼルとはもう会ったのかい? なら、神器ってのはどういうものかは知っているのかい?」

 

「いんや? 聞く前に帰ったからな」

 

「全く、大事な話を放り投げるとは……まぁ、彼らしいと言えばらしいか。なら、僭越ながら神器の事について少し説明しよう」

 

そう言われ、サーゼクスの説明の下、ちょっとした神器教室がその場で開かれた。

 

 “神器” それは神が生み出したとされる世界に施されたシステム。その超常的な力は人間に多くの可能性と示し、数多の野望を抱かせてきた。

 

中でも神滅具と呼ばれる代物は極めれば神を倒し、魔王をも超えるとされている。

 

その他にも禁手化と呼ばれる現象や神滅具の数など色々な事を説明されたが、アオヤマは特に気にした様子もなく、「ふーん」と軽く聞き流すだけだった。

 

「とまぁ、大雑把になってしまってたけど神器に付いての説明は大体こんなものだよ」

 

「成る程、大体わかった。そんでその神器って実際持ってる奴っているのか?」

 

「勿論さ、事実ここには神器を所有する者が少なくとも四人いる」

 

「マジで? え? この面子に?」

 

そこで初めて関心を持ったアオヤマがオカルト研究部の面々を見渡す。するとサーゼクスはリアスの方に顔を向けて少し会話をすると 、リアスはどうぞと頷き、サーゼクスもありがとうと礼を返す。

 

「なら、紹介させて貰うとしよう。木場君、宜しいかな?」

 

「はい」

 

そう言って一歩前に出てくるのはオカルト研究部のイケメン担当、木場裕斗。

 

彼が手を掲げると、掌から一本の剣が出現する。そのマジックみたいな光景にアオヤマも「おお」と驚きの声を漏らしている。

 

「彼の持つ神器は『魔剣創造』。文字通り様々な魔剣を創り出す神器さ。確かこの間の戦闘で禁手にも至ったんだよね?」

 

「はい。ですが、まだ完全に使いこなしている訳ではないので……部長や皆の期待に応える為にももっと強くなりたいと思います」

 

そう言って会釈する裕斗は剣を消しながら後ろに戻ろうとするが、そこでアオヤマが何か思い付いたのか、手をポンと叩いて呼び止める。

 

「なぁ、木場君や。君の神器は剣を生み出すのが得意なんだよね?」

 

「え? まぁ得意というかそれに特化していると言うべきか……それが何か?」

 

「ならさ、刀とか包丁は作れない?」

 

「刀は分かりますけど……何故に包丁?」

 

「いやな、この間包丁を折っちまってさぁ、買い足しに行きたいけど手頃で安いのが手に入らなくて……無理かな?」

 

「あ、アハハ、が、頑張ってみます」

 

魔剣を作ると言っているのに何故包丁を作って欲しいと強請るのだろうか? そう言わず、善処するとだけ応えてくれた木場裕斗。彼は顔だけではなく性格もイケメンの様だ。

 

苦笑いを浮かべながら木場は戻り、今度は金髪の留学生、アーシア=アルジェントがアオヤマの側へと駆け寄ってくる。

 

「彼女の神器は『聖母の微笑』と呼ばれていてね。その力は治癒、対象となったモノを癒してくれる能力なんだ」

 

「マジで?」

 

「は、はい。そんな大したものではないんですけど……」

 

そう言って恐縮してしまうアーシア。だが、アオヤマはサーゼクスの説明に何を思いついたのか、座った手をカタカタと震わせながらその表情を真剣なものに変化させる。

 

コカビエルとの戦いにさえ見せなかった真剣な顔のアオヤマに、リアス達はどうしたんだと声を掛ける。

 

すると、俯いていたアオヤマはカブリを振ってアーシアに向き直り。

 

「アルジェントさん!」

 

「は、はい!?」

 

「折り入って、頼みがあるのだが……!」

 

「は、はい?」

 

「俺の髪を……復活させて欲しい!」

 

その一言に、オカルト研究部の部室は珍妙な空気に包まれ。

 

「この世界に、髪はいない」

 

と、小猫の割と洒落にならないギャグが場の空気に浸透していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか……もうダメなのか。俺の毛」

 

「ご、ごめんなさい。お役に立てなくて……」

 

達観した表情で天井を仰ぐアオヤマ。そんな黄昏たアオヤマに何度も謝りながらアーシアも元の位置に戻っていく。

 

アーシアの神器は確かに優秀だが、万能ではない。人間や天使、悪魔と種族は問わずに癒す事は出来るが、それでも死を覆す事は出来やしない。

 

要するにアオヤマの毛、つまりな毛根は……もう。

 

「さ、さて、気を取り直して次は一誠君。彼の神器は『赤龍帝の籠手』。先程説明した神滅具の一つに数えられている」

 

「ウッス! さぁアオヤマ先輩、そのやる気のない眼を大きく開いてよぉーく見てろよ! 来い! 神器(セイクリッド・ギア)!」

 

 勢いよく前に出て左手を翳すイッセー、その瞬間彼の左手が輝き出すと、その腕に赤い龍の鱗の様な籠手が顕現されていた。

 

「聞いて驚いて下さいよ! なんと俺の神器は伝説の二天龍の一角が宿っていて、その能力は十秒毎に倍加させる力があるんです!」

 

自慢気に語るイッセー。だが、彼が自慢するように赤龍帝の籠手は確かに驚異的な能力を持っている。

 

持ち主の力を倍加し、時にはその高めた力を別のモノに譲渡する事も可能で、それは木場の剣だったりアーシアの癒し、更にはリアスや朱乃、小猫といった仲間達の力を底上げする事もできる為、戦術に於いても多大な力を発揮できる。

 

近い将来、イッセーはこの眷属達の中でも中心的な役割を担う事になるだろう。

 

しかし、そんなイッセーに対し────。

 

「ふーん」

 

アオヤマは興味なさそうに呟いた。

 

「あ、あの……もっと他にコメントないんすか? ドラゴンですよ? ドラゴン」

 

「つってもなぁ、この間ドラゴン倒したばっかでどうも新鮮味がなくてなぁ……他になんかねぇの?」

 

「あ、ありましぇん……」

 

最後のトリだったのにこの始末。アオヤマの微妙な反応に心折られたイッセーはうなだれながらリアス達の所へ帰って行く。

 

そんな彼に苦笑いを浮かべながら見送り、サーゼクスは再びアオヤマの方へ向き直る。

 

「とまぁ神器に関してはこんな所だね。後一人は……まぁ、近い内に紹介するよ。今はまだ彼も色々あるだろうし」

 

「まぁ、神器って色々あるんだなって分かったからいいや」

 

元から神器など保有していないだけあって差ほど興味のないアオヤマ。相変わらず傲岸不遜な態度だが、それを指摘する者などいやしない。

 

「他に聞きたい事はあるかな? ないなら次は私から質問してもいいかな?」

 

「別に構わないけど……アンタの知りたい様な話なんて俺、持ってないぞ?」

 

「何、そんな難しい話ではないさ。─────アオヤマ君、君はヒーローを自称しているが……それは本当かな?」

 

「あ? まぁ趣味だけどな」

 

「なら、君にとって……私は滅するべき存在なのかな」

 

「「「っ!?」」」

 

静かに語るサーゼクスの一言に、オカルト研究部全員の心臓が跳ね上がる。

 

僅かに敵意を醸し出しながらそんな言葉を口にするサーゼクス。明らかに空気が重くなる部室内で誰かの唾を呑み込む音さえ聞こえる気がする。

 

サーゼクスは正真正銘の魔王。対するアオヤマも自称ながらもヒーローを生業としている。

 

肩書きだけなら敵対の関係。いっそこの場で戦うのも有り得る状況なのかもしれない。

 

一触即発の空気。今まで黙していた銀髪メイドもその眼をうっすらと開き、僅かに手を動かした。

 

止めなければ。張り詰めた空気の中、リアスは一歩前に出ようとすると。

 

「いんや? 別にそんな事思ってないけど?」

 

「ほう? ヒーローと名乗って置きながら悪を放置しておくのかい?」

 

「ならアンタはどうなんだよ。今からこの街の人間を襲う気なのかよ? それなら相手になるけど?」

 

 乱暴な口振りでサーゼクスに応える。その口調は強い意志の様なモノが宿っているようにも感じ、一瞬誰もが呆然とするが……。

 

ヤヴァイ。明らかに挑発的な物言いのアオヤマにリアスは自身の胃袋に穴が開いた様な気がした。

 

アオヤマの台詞に黙り込むサーゼクス。このまま戦闘開始か? と、危ぶまれた時。

 

「は、ハハハハハ! いやぁ済まない。あまりにも清々しい答えに思わず我を忘れてしまったよ。アオヤマ君。君、面白いね。悪魔にならない?」

 

「ならねぇよ。てか挑発のつもりなら止めとけ、俺はそんな安い挑発に乗るほどヤワじゃねぇよ」

 

「さっき、頭の事でイジられたらキレ掛けた癖に」

 

「あぁ?」

 

小声で何かを呟くイッセーにアオヤマの鋭い視線が射抜かれる。こと自身の頭に関しては過敏な程に反応するアオヤマである。

 

というか、サラリと悪魔に転生しないかと勧誘する辺りサーゼクスも大概である。

 

「今日は良い時間を得れて良かったよ。アオヤマ君、その調子で次の会議の時も宜しく頼む」

 

席から立ち上がり、握手を求めてくるサーゼクスにアオヤマも応じようとするが、聞き慣れない言葉に伸ばした手が止まる。

 

「次の会議? 何それ? 初耳なんだけど?」

 

「お兄様? 私も聞いておりませんが……どういう事ですか?」

 

リアスも聞いていないのか、戸惑った様子でサーゼクスに訊ねる。当の魔王様は相変わらずの微笑みを浮かべてリアス達に向き直り……。

 

「あぁそうそう。言い忘れてた。彼の話を聞いたミカエルやアザゼルも興味を抱いてね。次の三大勢力の会合の際には是非呼んでくれと頼まれてたんだよ」

 

あっさりとトンでまない事を口にする魔王に……。

 

「「「はぁぁぁぁぁっ!?」」」

 

当然、オカルト研究部の面々は驚愕し、愕然となる。

 

「どうだいアオヤマ君? 来てくれるかな?」

 

また、フランクに三大勢力の会議に誘ってくるサーゼクスに対し。

 

「まぁ、ここ数日は別に予定もないし……いいよ」

 

アオヤマもまた、友達の家に遊びに行くノリで参加を承諾したのだった。

 

世界が変わる三大勢力会議。そこで行われるのは平和への謡か、更なる混沌への呼び水か────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、いいのだな? 君を我々の組織に加入するという事で」

 

「強い奴と戦えるのなら、俺はどこだって構わないさ」

 

「成る程、さすがは白い龍。その大胆さは中々真似できんな」

 

「世辞はいい。それよりも今度の作戦、予定通り俺の邪魔はしてくれるなよ?」

 

「分かっている。……だが、一つ聞いても良いか?」

 

「何だ?」

 

「コタビの赤龍帝は歴代最弱と聞いている。そんな奴相手にお前が相手にするとは思えないが……やはり、龍の宿命か?」

 

「いいや、今度の俺の狙いは別の奴だ。……聞いた事はあるだろう? 素手で堕天使を殺したという人間の話を」

 

「ああ、だがそれは単なる噂話だろう? 堕天使の幹部を素手で殺すなど……有り得ん事だ。事実、どこの勢力も鼻で笑っているという話だぞ?」

 

「それを確かめに行くのさ」

 

 

白い龍があざ笑う。

 

悪魔、天使、堕天使、三つの種族の中で行われるその会議で

 

果たして人間は、どのような道を辿ることになるのだろう?

 

 

 




白い龍……一体何シングドラゴンなんだ?

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