ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

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み、ミルたん成分が足りない。

く、くるちい(末期)


12撃目 強さの訳

 

 

 

 堕天使、天使、悪魔、三つの勢力が和平を結ぶ為に開かれた協定会議。その会議場として選ばれた深夜の駒王学園は異様な空気に包まれていた。

 

突然襲いかかってきた謎の集団。カテレア=レヴィアタンが率いる旧魔王派の一段は、旧校舎に置いてきたオカルト研究部の最後の部員を使って一部の力を持つもの以外の時を止め、これを利用して三大勢力の会議に強襲。

 

それは、前魔王の血を引く旧魔王派────カテレアを主犯とした犯行。それに加え、伝説の二天龍の一角、白龍皇の神器をその身に宿したヴァーリもが鞍替えし、一時は危機的状況に追い込まれていた。

 

そう、“一時”はだ。そんな混沌と化した戦場だが、一人の人間が前に出た時、状況は劇的に変わった。

 

底知れぬ力に怯えすら見せるヴァーリ。そんなヴァーリの畏れが伝染し、カテレアを含めた旧魔王派だけでなく、協定会議に集まった全ての種族が、たった一人の人間の行動を凝視していた。

 

戦場をたった一人の人間が支配しているという事実を、どれだけの者達が正しく認識できている事だろう。しかし、彼等にとってそんな事実はどうでも良かった。

 

人間────アオヤマが語る強さの秘訣。天龍すら怯ませるその力の秘密にどの勢力も彼の言葉に耳を傾けるのだった。

 

しかしそんな中、一人危機感を覚える男がいた。堕天使の総督アザゼル。彼にはアオヤマの強さの秘訣を危機と感じるだけの理由があった。

 

(ダメだ! もしアイツの強さの秘密をコイツ等に話せば、その裏に隠れる連中の格好の餌になっちまう! 混沌の集団『禍の団(カオスブリゲード)』に!)

 

『禍の団』その集団がカテレア達旧魔王派を引き込み、ヴァーリをもその列に加えた者達。そんな奴らが手っ取り早く力を得られる方法を得たら、現在の世界情勢に異を唱える者がこぞってアオヤマの力の研究と開発に勤しむ事だろう。

 

天龍を退けた時点で充分にその力の脅威は理解できた。故に、その力の会得方法を無闇に振り撒く訳にはいかない。

 

アザゼルはアオヤマを止めようと前に出る。……が、それをカテレアが立ちふさがり、アザゼルの行く手を遮ってしまう。

 

「チッ、邪魔すんじゃねぇよスカタン!」

 

「そうはさせないわ。コカビエルを一撃で倒し、二天龍すら怯ませる彼の力、その秘密がタダで聞けるなんて、聞かない手は……ないじゃない!」

 

そう言ってカテレアは自身の手に極大の魔力を収束して放つ。

 

アザゼルは腕を横に凪いで弾くが、その表情はフルフェイスのマスクの上からでも分かるほどに苦々しいモノに変わっていた。

 

「この力の爆発的な上がり方、先程の蛇を呑み込んだ事と良い……やはりアイツがお前等の首領か!!」

 

「手を組んだと言って欲しいわね。我々の目的はあくまで現魔王達の打倒。無限龍の力は利用しているに過ぎん!」

 

「その力にビッタリ寄生している奴がよく言うぜ!」

 

ぶつかり合う二つの巨大な力。大気を震わせる程の力のぶつかり合い。アザゼルは他の面子にも手伝わせたい心算だったが、セラフォルーやサーゼクス、ミカエルも止められた朱乃達を守るのにそれどころではなかった。

 

このままではアオヤマの秘密が筒抜けになってしまう。全く危機感のない本人を前に、アザゼルは酷く憤慨していた。

 

(クソッタレ! こんな事になるんだったらあんな事言うんじゃなかった!)

 

後悔するのは先日アオヤマの自宅にお邪魔した際に何気なく放った一言。

 

『お前の強さの秘密、いつか聞かせて貰うぜ』

 

もし自分の言った事が原因だとしたら、今後自分にかかる負担は大変という処の話ではない。

 

(嘘でも何でもいい! だからマトモに話さないでくれよ!)

 

そんなアザゼルの祈りにも似た内心の叫びとは裏腹に、アオヤマは静かに語りだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まず最初に、『継続は力なり』という日本の諺をお前等に送りたい」

 

アザゼルとカテレアが戦っている一方、アオヤマとヴァーリが対峙している空間はいっそ異質とも呼べる程に静かだった。

 

二人を囲んだ魔王一派の面々も、静かに語るアオヤマの言葉に従うように静かに静聴する。

 

「何故なら、俺は三年間あるトレーニングを続けただけでここまでの強さを手に入れる事が出来たからだ。ヴァーリ、見た目からしてお前はまだ若い。恐らくこのトレーニングをやり遂げる頃にはお前は俺などとっくに超えている事だろう」

 

『っ!?!?!?』

 

アオヤマの何気ない一言に誰もが驚愕の表情となった。─────当然だ。たった三年間トレーニングしただけで天龍を退ける程の力を得たのだ。その驚きは当然とも言える。

 

魔術的要素もなく、神器の力でもなく、特別な手段を使わずに単なるトレーニングのみ。

 

恐らく、それは自分達では想像も出来ない程に斜め上且つ熾烈を極める内容なのだろう。

 

木場もゼノヴィアも、リアスも淡々と語るアオヤマに息を呑んだ。

 

「続けるんだ。どんなに辛くても、どんなに苦しくても、その意志がきっとお前達の糧になる。俺が積んだトレーニング、その内容は────」

 

ゴクリ。誰かの唾を呑み込む音が聞こえた。まるで敵である旧魔王派にすら励ますような口振りに、いつしかその場の全員がやり遂げて見せると一種の連帯のように心が重なった。

 

そして─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「腕立て伏せ100回。腹筋100回。スクワット100回。背筋100回。そしてトドメにランニング10キロ。これを毎日やる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

───────時が、止まった。

 

「但し、食事は毎回三食必ず食べろ。忙しいなら朝はバナナとか簡単且つ消化の良いものが好ましい。極めつけは精神を鍛えるために全ての四季においての暖房、冷房を禁止する事だ。無論、扇風機もそうだ。だがウチワまでならギリギリ良しとする!」

 

自信満々に説明する目の前の男に誰もが思った。『何を言っているのだろう?』と。

 

「最初は特に辛かった。余りにも辛すぎて一日くらい休もうとさえ思った。しかし強いヒーローになる為、俺はどんなに苦しくても、時には血反吐をぶちまけてもトレーニングを毎日続けた」

 

投げ出したくなった。逃げ出したくなった。足が悲鳴を上げて動かなくなってもスクワットをやり続け、腕からプチプチと変な音を立てても腕立てを断行し、お腹がピクピク痙攣しても半ベソ掻きながら腹筋を続けた。

 

辛かった。今思い出しても辛い毎日だったと、アオヤマは時の止まったヴァーリ達に語る。

 

「そしてそんな日々を続けて一年とちょっとが経った頃、俺の肉体に変化が生じていた」

 

 

 

 

 

『俺はハゲていた。そして強くなっていた』

 

 

 

 

 

「要するに、頭がハゲる程に死に物狂いで自分を鍛え上げるのだ。それが強くなる唯一の方法なのだと、俺はこの時悟った。────神器だの何だのと遊んでいるお前等では決して辿り着けない境地。“自分で変わる”これこそが人間の意志であり、最大の武器なんだ!」

 

全て言い切った後、アオヤマは満足そうに腕を組んでドヤ顔で何度も頷く。我ながら上手く言えた。そう確信しながら辺りを見渡す。

 

誰もが言葉を失っている。どうやらみんな感激して何も言えないのだろう。そう思うと何やらこそばゆい。アオヤマは腕を組んで次ぎに来るであろう歓声に胸を躍らせる。

 

そして、一拍。間の空いた空気の後にアオヤマが耳にしたのは──────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふっざけんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』

 

「え?」

 

その場の全員が一致団結してのブーイングの嵐だった。

 

確かに斜め上だ。斜め上過ぎて全員の度肝を完全にぶち抜いた。……悪い意味で。

 

まさかのブーイングにアオヤマは戸惑いの表情を隠せない。だが、そんなアオヤマの心境などお構いなしに彼方此方からブーイングの雨が降り注げられる。

 

「そんな理由で強くなった!? 世の中舐め過ぎるのも大概にしろ!」

 

「しかも大して辛くねぇよ! 俺なんて、俺なんてその倍以上のトレーニングを部長の下で必死こいて特訓して、それなのに、それなのに……!! う、うぅ……」

 

「しっかりしてイッセー! 大丈夫、アナタは絶対強くなるわ。だって、私の兵士なのだもの。アオヤマ君、世の中には言って良い冗談と悪い冗談があるのよ!」

 

 いつの間にか戻っていたのか、アオヤマの背後には金髪のオカッパ美少女を連れたイッセー達が憤慨の様子でアオヤマを睨んでいた。

 

特にイッセーはアオヤマのトレーニングの内容に思う所があるのか、ガチ泣きで地面に伏せ、それを主であるリアスと金髪オカッパが慰めている。

 

「は、ハハ、アオヤマ君は中々愉快な人だなぁ。こんな状況でそんな事言えるなんて、私にはとても真似できないよ」

 

「さ、サーゼクス様、落ち着いて」

 

「もう! こんな時にそんな冗談かますなんて、アオヤマ君てばホントお馬鹿さん! ソーナちゃんとの関係を改めさせなければならないらしいわね」

 

「あぁ、主よ。あの少年の魂をお救い下さい。……あ、神様いないんだった」

 

「み、ミカエル様! お気を確かに!」

 

 サーゼクスは笑顔の裏に額に青筋を浮かべ、セラフォルーは最後の辺りにドスを利かせ、ミカエルに至っては軽く錯乱している。

 

アオヤマの告白によってより混沌と化した戦場、色々な意味で衝撃を与えたアオヤマは一人訳が分からないといった様子でポカンとしている。

 

「つーか、お前さんの力はどう考えても鍛えただけで得られるような代物じゃねぇだろ!? 俺達はなぁ、そこん所が知りたいんだよ!」

 

先程まで聞かされるのは反対だったアザゼルだが、アオヤマの話にそれ処ではなくなり、他の面々と同様に酷く憤慨した様子でアオヤマに問う。

 

カテレアはというと、アオヤマの衝撃的な内容に未だに意識を混乱の中から回復出来ないでいる。

 

いい加減本当の事を話せ。そう言ってくるアザゼルに────。

 

「んなこと言われても、他になーんもねぇぞ?」

 

アオヤマはただそれだけしか言えなかった。

 

「我、目覚めるは────」

〈消し飛ぶよっ!〉〈消し飛ぶねっ!〉

 

 

「ん?」

 

そんな混沌と化した戦場に重い言霊が響き渡る。振り返ればヴァーリが何やら小さく呪文の様な言葉を紡ぎ出していた。

 

次いで聞こえてくるヴァーリのモノでない声、その声色と口調からは様々な年代の怨念が呪詛を唱えているようにも聞こえた。

 

「覇の理に全てを奪われし、二天龍なり───」

〈夢が終わるっ!〉〈幻が始まるっ!〉

 

「ヴァーリ! ここで『覇龍(ジャガーノート・ドライヴ)』を使う気か!?」

 

「あ? ジャガー? ピューと吹くの?」

 

険しい声音で叫ぶアザゼルに周囲がどよめく。が、やはりアオヤマだけは理解できず、見当違いの感想を口にする。

 

「無限を妬み、夢幻を想う────」

〈全部だっ!〉〈そう、全てを捧げろっ!〉

 

「我、白き龍の覇道を極め────」

 

『覇を纏うか。良いだろう。この男は少々調子に乗りすぎた。我が天龍の力、見せ付けてやろうではないか! ヴァーリ!』

 

「「「汝を無垢の極限へと誘おう────ッ!」」」

 

『Juggernaut Drive!!!』

 

校庭全体を眩く照らす大出力の光が鎧を纏うヴァーリの全身から溢れ出す。なんか最後辺り別の声が聞こえた気がしたが、誰も何も言わないからアオヤマもスルーする事にする。

 

そして、やがて光は収まり、辺りが静寂に包まれた時。

 

白き人型の龍が、顕現されていた。

 

「あれ? ヴァーリ、お前いつの間に着替えを?」

 

「……アオヤマ」

 

「ん?」

 

「アンタの戯れ言は兎も角、アンタは俺の全身全霊で以て倒す。この『覇龍』でな!」

 

瞬間、アオヤマの顔面に龍の一撃が加えられる。吹き飛ばされたアオヤマは校舎をぶち抜き、塀を越え、空高く打ち上げられていく。

 

「まだまだぁ!!」

 

音もなく接近したヴァーリがアオヤマの後ろに回り込み、蹴りを背中に叩き込む。

 

地面に叩き付けられ、校庭に大きなクレーターが出来上がり、アオヤマは仰向けになって大の字になっている。

 

そんな動かないアオヤマを、ヴァーリは更に追撃を仕掛ける。縦横無尽、狂気乱舞。暴力の嵐が支配する戦場で理解の追い付かないイッセーが呟く。

 

「な、何だよアイツ。あんな豹変しちまって、何がどうなってんだよ!?」

 

『あれは、覇龍。力を解放した事で一時的に天龍の力を得ることが出来る。俺達にとって禁忌とも呼べる代物だ』

 

「ドライグ?」

 

同じ天龍の一角である赤龍帝、ドライグが籠手となった状態でイッセーの体から姿を現す。

 

『あぁなった以上、奴の力は生半可では止まらん。あの男……アオヤマと言ったか? バカな奴だ。ワザワザ龍の逆鱗を踏み抜くとはな。今の白龍皇は魔王や神すら倒せる程の力を持っているのだぞ』

 

神、そして魔王をも倒すと語るドライグにイッセーは戦慄する。先輩であるアオヤマの安否を気遣いながら、再び視線を戦場に戻す。

 

それは最早、戦いとは呼べないほどの一方的な展開だった。光よりも速く動き、隕石よりも重い白龍皇の攻撃をあんなにも受け、もうアオヤマは戦える状態ではないと誰もが確信する。

 

いや、寧ろそんな怪物相手に原型を留めている方がおかしいのだ。並の相手なら最初の一撃で粉々に砕かれている。

 

やはりアオヤマは凄い。だが、それ故に。

 

「アオヤマ先輩、逃げてください!」

 

イッセーはアオヤマに逃げるよう呼びかける。

 

『Divde!』

 

「!」

 

 白龍皇の体に埋め込まれた宝玉が輝くと、アオヤマの体に変化が訪れる。

 

白龍皇の能力は半減の力。触れたもののあらゆるモノを半減させるという、倍加の能力を持つ赤龍帝とは相反する代物。

 

力を半分にされたアオヤマ、それを境に白龍皇の攻撃は尚苛烈さを増していく。

 

『ヴァーリ、吸収したコイツの力は────』

 

「噴射口の加速として使わせて貰う。下手に吸収すれば俺の身がもたんからな!」

 

白龍皇────アルビオンの言葉をヴァーリは即座に応える。これだけ攻撃してもまだ息があるのだ。その生命力は軽く自分を上回るのだろうと、ヴァーリは理解する。

 

ならば、尚のこと手加減はしない。残り少ない時間を全てアオヤマを倒すことだけに集中する事にしたヴァーリは、その力の全てを惜しみなく吐き出させる。

 

『DivdeDivdeDivdeDivdeDivdeDivdeDivdeDivde!!』

 

 

瞬く間に激減していくアオヤマの力、その光景に何が起きてるのか理解出来ているアザゼル、サーゼクス、セラフォルー、ミカエル等は気の毒そうに目を伏せた。

 

もうアオヤマに勝ち目はない。どれだけ力が強かろうが、彼の力が及ぶ範囲はここまでが限界だ。

 

これが天龍、これが白龍皇。見せ付けられる力の具現に、その場の誰もが言葉を失う。

 

「これで、終わりだ! アオヤマァァァァァッ!!」

 

最後の一撃。ヴァーリはその手に強大な力を纏わせ、アオヤマに向かって振り抜こうとした。

 

止めろと、イッセーが叫ぶ。しかし、そんな叫びも虚しく、白龍皇の拳がアオヤマに届こうとした──────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えい」

 

「ぶっはぁぁぁぁぉぁぁぉぁぁっ!!!!????」

 

─────瞬間。白龍皇は……星になった。

 

「「「「────────んん?」」」」

 

突然吹っ飛んだ白龍皇に、全員の目は飛び出る程に見開いていた。

 

一撃。しかも唯の平手打ちで二天龍の一角が星になったなど、一体誰が予想できようか。

 

イッセーもリアスも、木場もゼノヴィアも、ドライグも、カテレアを含めた旧魔王派も、トップを含めた三大勢力全ても、目の前の光景に思考が追い付かず、完全にフリーズしていた。

 

そんな中、一人首をコキコキと鳴らしたアオヤマはアザゼル達に向き直ると。

 

「そうそう、さっきの答えだけどな。俺、別に誰かに付くつもりはねぇから」

 

それだけを言い残し、アオヤマは学園を去っていく。残された者達、特にアザゼルとカテレアと言うと。

 

「……取り敢えず、投降してくれる?」

 

「あ、はい」

 

素直にお縄に付いたカテレアを始め、多くの旧魔王派が投降した為、その後の事後処理はそんなに手間が掛からずに済み、三大勢力による和平も滞りなく完了した。

 

また、これを切欠にアオヤマの存在は世界中に知られる事になるが……それはまた後の話。

 

 




今回、色々やりすぎた。でも後悔していない。

あ、あとヴァーリ君はあの後美候さんに無事回収されており生きてます。

あとカテレアも

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