ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

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おれは しょうきに もどった!


13撃目 休日

 

 

 

 

 

 日曜日。時刻は朝の8時を回り、もうじき半に差し掛かった頃、先の協定会議でやり過ぎとも取れる活躍をした“自称ヒーロー”アオヤマがその眠りから覚醒させる。

 

「ふわぁ~あ、……ねむ」

 

欠伸をかみ殺し、目尻に涙を滲ませ、平日よりも遅めの起床を果たしたアオヤマはそのまま洗面台へと移り、顔を洗い歯を磨く。その平日と変わらない日常と同じ行動をしている内にアオヤマの視線はある方向へと向けられる。

 

「そっか、今日は日曜だったか」

 

カレンダー。日々の日程が刻まれているタイムテーブル表に書かれたある項目を見て、アオヤマはいつもよりも早く朝食を済ませる。

 

週に一度の日課。この日、アオヤマは自ら初心に返り、行動に移すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某県某所。人里から離れ、山の奥深くにある洞窟。奈落とも錯覚するべき薄暗い場所で、複数の存在が会話していた。

 

「聞いたか? 最近新たに入った白龍皇の話」

 

「あぁ、聞いた。何でも『覇龍』を使ったのにも関わらず、人間一人相手に完敗したらしい」

 

「マジかよ!? だって今回の白龍皇を持った奴って歴代の中でも最強って噂されてるんだろ?」

 

「己の力に慢心したのか。それとも白龍皇は噂ほど大した力がなかったのか。何れにせよ、その人間には警戒が必要だな。で? その人間の名は?」

 

ボソボソと語り合う複数の存在。彼等が属する組織の名は『禍の団』。

 

先日、カテレア率いる旧魔王派が属する大規模なテロ集団である。

 

その拠点の一つであるこの洞窟内部で囁かれているある噂。伝説の二天龍の一角、白龍皇が一人の人間に打ち負けたという話だ。

 

無論、最初は誰もその話に耳を傾けなかった。何せ話題となっている白龍皇はその昔、三大勢力相手に逆ギレ気味に暴れまわった天龍なのだ。

 

中でも今代の白龍皇を宿した者は悪魔と人間のハーフでありながら絶大な魔力と力を秘めた……謂わばエリートとも呼ばれる存在。その出生から幼少時代に苛烈な生き方を強いられた男だが、そんな生き方をしてきたが故に、その実力を飛躍的に伸ばし、遂には周囲から歴代の中でも最強とも呼ばれている。

 

そんな白龍皇が人間相手に負けたと噂されらば、誰だって疑うのは必然とも言えた。

 

だが、そんな噂が事実なのだと認識したのはその白龍皇が現在治療されているからだ。

 

しかも瀕死の重症。頬が大きく腫れ上がったのを見た時、否応なしに誰もが事実だと認めざるを得なかった。

 

白龍皇が負けた。その事実は組織内部に瞬く間に広まり、各派閥に大きな影響を与えているのかは想像するに差ほど難しくない。

 

いつしか白龍皇────ヴァーリは面と向かっては言われていないものの、裏では人間如きに敗北した情けない奴と陰口を叩かれるようになった。

 

「なーんか、ヤな感じ。ドイツもコイツも口だけの小物っぽいにゃ」

 

そんな洞窟内で、凡そ薄暗さとは似つかわしくない明るい女性の声がワザとらしく響き渡らせる。

 

 洞窟内部の更に奥。主に治療として使われるその空間にその女性はいた。

 

ピコピコと猫耳を動かし、ユラユラと尻尾を揺らし、着崩れた黒い浴衣を羽織ったその女性は治療の際に使われる寝台に腰掛け、一人ごちる。

 

女性のその一言に洞窟内の誰もが反応するが、女性が周囲を一瞥すると、剣呑な多数の視線が一気に沈静化される。

 

一人の女性に怯えとも取れる態度を取る構成員達だが、それも仕方のない事。何せこの女性は嘗てSS級の賞金首として裏世界に名を馳せたはぐれ悪魔なのだから。

 

一斉に視線を外す他の構成員達に女性は軽く舌打ちを打つ。そんな苛立ちを募らせる彼女の下に新たに複数の男女が近付いてきた。

 

「オイオイ黒歌。何が気に入らないのか知らないけどよ。あんまし気配を立たせるな……外まで出てたぞ」

 

一人の男性が坤を肩に担ぎ、説教とも呼べる口調に黒歌と呼ばれる女性の耳がシュンと下にうなだれる。

 

「うっ、そ、そりゃ悪かったにゃ。けど仕方ないにゃん。ここの奴らヴァーリの陰口を叩くだけで何も行動に移そうとしないんだもん」

 

「まぁ、口だけの奴に何か言われるのは確かに癪に障る。けど今はそれは置いとけ」

 

「置いとけって……まさか、ヴァーリを倒した奴の居場所が分かったの!?」

 

「そこから先は私がお答えしましょう」

 

男、美候の背後から現れる男性。その隣に魔法使いを連想させるトンガリ帽子を被った少女が寝台から飛び下りる黒歌の前に出る。

 

「アーサー、それにルフェイまで……二人ともここにいるって事は……」

 

「ええ、北の神族達との一戦は暫くは保留。白龍皇が瀕死だと聞いてどうやら上の方も少しドタバタあったようです」

 

黒歌の問いにアーサーと呼ばれた金髪の男は淡々と答える。“上”の連中の動向は興味ないが、ここで死にかけた男を戦場に立たせないだけ少しは頭の回る連中なのかもしれない。

 

それを聞かされた黒歌はホッと胸を撫で下ろす。折角コッチが疲弊してまで治癒に当たったのだ。それなのにすぐに死地に向かわせるとあっては骨折り損の草臥れ儲けである。

 

「……話が逸れました。それで、例の男に付いてですが」

 

「待ってくれ」

 

「ヴァーリ!?」

 

「その話、俺にも聞かせてくれ」

 

話が逸れたと本題に入ろうとするアーサーを今まで寝台で寝ていたヴァーリが目を覚まし、話しの間に割って入る。

 

「大丈夫なのですか? 幾ら治癒されたとはいえ、アナタはまだ万全では……」

 

「話しを聞くだけだ。残念だが寝たままの姿勢だが……それに、俺だけ彼の所在について遅れて聞かされるのは我慢鳴らない」

 

「ふっ、意地っ張りな」

 

「ドラゴンだからな。これくらい意地は張る」

 

是が非でも彼等の取ってきた情報が聞きたいヴァーリに美候とアーサーは揃って顔を見合わせ、呆れたように肩を竦める。

 

「だが、さっきも言ったように当分動けそうにない。ダメージもそうだが……何より、アルビオンが怯えているんだ」

 

「白龍皇が……怯えている?」

 

「嘘にゃん?」

 

ヴァーリの告白に今度はアーサーと黒歌が揃って目を見開く。二人の疑問にヴァーリはそうだと頷き。

 

「あれからな、アルビオンがずっと啜り泣いているんだ。ハゲ怖い。ハゲ怖いと。その影響か俺も電球を見る度背筋が寒くなる時がある」

 

そういって天井を向くヴァーリ。彼の視線の先には簡易の電球が吊らされており、それが揺らぐ度に眉をキュッと寄せている。

 

重傷だ。瀕死になった所為か軽い錯乱状態となっているヴァーリにアーサーはこのまま話していいか少し悩むが。

 

「────では、話しましょう。アナタを一撃で倒した相手、アオヤマなる人間の事を」

 

これは、ヴァーリと白龍皇が超えるべき壁。そう判断したアーサーはアオヤマなる人物の事を淡々と語りだしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「93……94……95」

 

 アパートの一室。布団を押入にしまい、片付いた部屋の中で、息苦しそうに数を数えるアオヤマの姿があった。

 

「96……97……98」

 

フローリングの床にポタポタと雫が滴り落ちる。体から湯気を立ち上らせているアオヤマは汗だくになりながらも腕立て伏せを続けている。

 

「99……100。おし、筋トレ終わり」

 

目標の回数をこなし、汗塗れとなったアオヤマは腕を拭って備え付きの風呂場に入りシャワーを浴びて汗を流す。その際、昨日呼び出された三大勢力の協定会議での出来事を思い出した。

 

「俺、別に嘘言ってる訳じゃねぇんだけどなぁ……」

 

アザゼルやヴァーリに指摘され、此方は正直に話したというのにまさかの罵声コール。真面目に話しただけなのに嘘吐き呼ばわりされた時は流石にショックを受けたが、まぁこういう扱いは今に始まった事ではない為、アオヤマは気にしない事にした。

 

 やがて汗を流し終えたアオヤマは予備のジャージに着替え、昼食の用意を始める。本日の昼食はスパゲッティだ。

 

「これ食って少し食休みをしたらランニングに行くか。今日は最寄りのスーパーで安売りしているみたいだし、買い物も済ませておくか」

 

そう言ってアオヤマは出来上がったスパゲッティにミートソースをかけて本日の日程を確認する。

 

今日は週に一度の運動の日。即ち、アオヤマのトレーニングの日である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 冥界。地上の世界とは隔絶された通常の人間は関わる事のない異次元の世界。裏の住人達が住まい様々な人外達が蠢く……まさに魔の世界。

 

そんな世界に一際巨大な城が立っていたいっそ塔とも呼べるその巨大な建物の中では、冥界を統べる四人の現魔王が一堂に介し、それぞれ真剣な面持ちで円卓の席に座っている。

 

「それでぇ? そのアオヤマという人間の処遇ぅを決める為にワザワザ僕達を呼んだのぉ?」

 

「済まないファルビウム。だがこれは重大な案件なんだ。そこにある資料にある通り、今後彼の処遇次第で世界は大きく動く事になる」

 

欠伸を噛み締め、心底ダルそうにテーブルに突っ伏しているファルビウムと呼ばれる魔王に同じ魔王であるサーゼクスが真剣な眼差しで応える。

 

「お前がそこまで言わせるとはな。この目で見たわけでないから判断は出来ないが……そのアオヤマという男、白龍皇を一撃で倒したという噂は本当らしいな」

 

「嘘じゃないわアジュカ。私も目の前で見たもの。白龍皇の“半減する力”をマトモに受けても尚、彼は平然としていたわ」

 

アジュカと呼ばれる魔王に唯一の女性魔王でるセラフォルーが応えた。普段は魔女っ子としての態度を頑なに崩さない彼女がサーゼクス同様真剣な表情でいる事に、アジュカもファルビウムもそれが真実であり事実である事を確信する。

 

ダルそうに突っ伏していたファルビウムは渋々ながらも起き上がり、アジュカも腕を組んでサーゼクスとセラフォルーに向き直る。

 

赤龍帝と対を成す白龍皇の半減の力。それは極めれば悪魔を凡人に変え、神を地に堕とす強大な力。それを真っ正面から受け、それで尚伝説のドラゴンを退けた。普通なら冗談だろと笑い飛ばす所だが、ルシファーとして語るサーゼクスがそれは違うと目で語っている。

 

冥界の存続に関わる事態。その可能性すら危ぶまれる状況なのだと察した二人はここにきて漸く話しを聞く姿勢を取った。

 

サーゼクスの側に控えていたグレイフィアが四人にそれぞれ紅茶を差し出す。静かに、且つ的確な仕事をこなす彼女の仕草はその一つ一つが洗練されたモノ。

 

ファルビウムはグレイフィアから差し出された紅茶を一口飲みながらサーゼクスに問う。

 

「……それで、サーゼクスはどう思うんだい? そのアオヤマという人間は僕達にとって脅威になるのかな?」

 

静かな口調ではあるが、そこに隠された感情を察したサーゼクスは首を横に振る。

 

ファルビウムは冥界の軍事を統括する立場にある魔王。普段は眷属たる下僕達に任せてはいるが、万が一の事態に備え、いつでも軍を動かせる用意はしている。

 

無論、彼も人間一人相手に悪魔の軍を使うつもりはない。確認という意味合いも込めて訊ねた質問だったが、サーゼクスのその返事に取り敢えず納得する。

 

「まず最初に言っておく。彼は基本的に好戦的な性格ではない。寧ろ性格や行動理念を考察すれば、彼はより人間らしい人間だ。……ただ」

 

人間らしい人間。それは一言で言えば自らの欲望に忠実という事。己に利己的であり、自身の欲求を満たす為に行動する……ある意味、悪魔側に近しい存在の事。

 

なら一体何が問題なのだろうか? 奇妙な言い回しをするサーゼクスにファルビウムは眉を寄せ、アジュカは何となく察したのか、肩で溜息を吐いて額に手を置いている。

 

厄介な内容な気がする。次のサーゼクスの台詞にそんな勘を働かせるアジュカを余所に。

 

「─────彼は、ヒーローなんだ」

 

サーゼクスのその一言に、アジュカはやっぱりと肩を落とすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ、買い物も終わった事だし、今日の予定は取り敢えず全部こなしたな」

 

 買い物袋を片手に下げ、全てのトレーニングを終えたアオヤマは夕暮れの空を見上げながら帰路に付く。

 

10キロに及ぶランニングを終えた頃にはアオヤマは再び汗だくとなり、手にしたタオルで拭き取ると、心地良い風が火照った頬を優しく撫でていく。

 

今日は気分がいい。トレーニングも滞りなく終わったし、買い物帰りのスーパーでは安売りされていた旬の野菜と卵、それに切らしていたトイレットペーパーも無事に変えた。

 

明日も今日のように順調に進んで欲しいもの。しかし、そんな上機嫌なアオヤマの顔に少しばかりの影が落ちる。

 

「何だか今日は体が重かったし、やっぱり週に一度じゃ足りないのかな? それとも夜更かししたのが原因か?」

 

アオヤマ言う体の不調。それは先日白龍皇との戦いの際に受けた半減の力で間違いないが、そうとは知らぬアオヤマは夜更かしの所為だと納得し、自分に言い聞かせる事にした。

 

どのみち、ランニングを終える頃にはそんなダルさは消えている。寧ろ欲しい物が買えた事に嬉しくなり、アオヤマはいつもより少しテンション高めだ。

 

「今日は何にしようかな。久し振りに手の込んだ物を作ってみようかな」

 

卵も野菜も買えて、冷蔵庫には肉もある。それを全部使って何か豪華なものでも作ってみようかなとアオヤマは想像を膨らませながらアパートの階段を昇る。

 

「あ、アオヤマ君。お帰りなさいだにょ」

 

「あれ? ミルたんじゃん? 今日は不思議な魔法の探索はお終いなのか?」

 

 その際、隣人であるミルたんとばったりと出会う。普段休日の日は朝早くから出掛け、夜遅くに帰ってくるのが常としているミルたん。

 

そんなミルたんが今日は日が傾く頃に帰宅している。珍しい日があるものだとアオヤマは内心驚いていると。

 

「実は、アオヤマ君にお願いがあるにょ。いいかにょ?」

 

「何だよ改まって、別に大した用事でないなら構わねぇよ。あと体をくねらせないでくれるかな? 少し気持ち悪い」

 

クネクネと体を捩らせるミルたんにアオヤマは少し嗚咽を漏らしそうになる。幾ら仲の良い隣人だとしてもハッキリ物を言うのがアオヤマのスタンスである。

 

「アオヤマ君は学生さんで、もうすぐ夏休みにょよね?」

 

「ん? まぁ、な。今の所予定はないから夏の課題を終わらせたらヒーロー活動をボチボチと続けるつもりだけど?」

 

本来なら卒業後の進路について考えなければならないというのに、アオヤマはそこの所を深く考えないで応える。

 

言い切った後、ミルたんはその大きな両手でアオヤマの肩を掴み、ズズイっとその距離を近付ける。

 

「アオヤマ君っ!!」

 

「な、何だよ? つーか近けぇよ。暑苦しいよ」

 

「夏の宿題が終わったら、ミルたんと冥界に行ってほしいにょ!!」

 

ミルたんから求められる冥界への付き添い。ミルたんの真剣なお願いにアオヤマは少し悩む素振りを見せると……。

 

「俺、パスポート持ってないんだけど?」

 

やはり、見当違いな事に不安を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「成る程、つまり。あの男……アオヤマはその生まれから血筋まで調べた所、何の変哲もないただの人間という事か」

 

 ベッドから未だ起きあがれずにいるヴァーリは、アーサーから告げられる報告に自嘲するかのように呟く

「はい。何度も調べてはみましたが、彼の父親、母親、祖父祖母、更には数世代まで遡って血筋を洗い直したのですが、彼が英雄、或いは神仏妖魔の類ではない事が確認されただけでした。……ヴァーリ、言いたくはありませんがアナタは正真正銘、ごく普通の人間に負けたのです」

 

アーサーから告げられるその一言にその場の空気が沈黙に包まれる。

 

白龍皇はその昔、三大勢力がまだ戦争していた頃、その三つの勢力を相手に逆ギレ気味で大暴れした天龍の一角だ。

 

遂には肉体を滅ぼされ、神器となった今はその代によって実力はマチマチとされてきたが、今代の白龍皇。つまりヴァーリは中でも抜きん出た才覚を持っていた。

 

いずれは世界の中でも十指に入る実力者になるだろう。そう噂されていた事もあった。しかし、そんな白龍皇がただの人間に負けた。

 

そんなバカなと、アーサーは半信半疑でヴァーリを倒したとされるアオヤマを調べた。が、どんなに調べても返ってくるのは凡人の二文字のみ。

 

大した血筋でもなく、英雄が肉親にいるわけでもない。どこにでもいる中流家庭で育ったのが、あのアオヤマという男の正体だ。

 

空気が重くなる。当然だ。この事実に誰よりも重く感じているのはヴァーリ自身に他ならない。

 

凡人に負けたと知られれば『禍の団』での立場も危うくなる。その事実を払拭するにはその原因たるアオヤマを叩く他ない。

 

「……潰すか?」

 

その事にいち早く察した美候が口を開く。突然物騒な事を口にする美候に黒歌とアーサー、そしてルフェイが反応する。

 

「……本気かにゃ?」

 

「そいつがどんなに強いかは知らないが……所詮は人間だ。消す手段なら幾らでもあるぜぃ」

 

暗殺。中でも毒殺は古来から要人の暗殺に何度も使用された手段である。

 

刺殺や暴力に頼った肉体を介する手段が無理でも、人間でしかないアオヤマには毒殺は最も有効な手段の一つに違いない。

 

事が荒立てる前に早いところケリを付けるのが一番。美候は目線だけで黒歌とアーサーをその様に伝えると。

 

「止めた方がいい。下手に彼に干渉すると、俺の二の舞になるぞ」

 

それをヴァーリが止める。動けない筈の体を無理に動かしながら上体を起こす彼に全員の視線が彼に向けられる。

 

「……いいのか? このままでは他の連中に言いように言われちまうぞ?」

 

「ガキじゃあるまいし、今時陰口程度に反応するかよ。それよりもアーサー、その報告、間違いじゃないんだな?」

 

「あぁ、間違いないよ」

 

「……ククク、そうか。俺は唯の人間に負けたのか。ならば丁度いい。今日から俺は何者でもない。ただのヴァーリとして戦うだけだ」

 

人間に負けたと言うのに、ショックを受ける所か逆に燃え上がる闘志を抱くヴァーリに、その場にいる誰もが寒気を感じた。

 

「前魔王とか旧魔王とか、ルシファーなんてどうでもいい。俺は、俺の目的を果たすまで奴を目標に強くなる。アルビオン。付いてきて貰うぞ」

 

『ハゲ怖いハゲ怖いハゲ怖いハゲ……え? なに?』

 

ヴァーリは立ち上がる。張り手の一撃で生死の境をさ迷った結果なのか、一皮むけたヴァーリに誰もが寒気を感じる程の頼もしさを感じた。

 

「連中に伝えろ。北の田舎神族共に喧嘩を売る手伝いをしてやるってな」

 

そう言ってヴァーリは治療室を後にする。白龍皇が目を覚ました事で周囲はざわつき始めていたが、本人は気にした様子もなく歩を進めてゆく。

 

その後ろ姿を呆然と見送りながら美候達は互いに顔を見合わせた後、肩を竦めて彼の後を追う。

 

白龍皇ヴァーリ。そのこの瞬間、彼はまた一つ強くなっていた。

 

 

 

 




美こうのコウの字が分からない。後読み方も。
誰か分かる人います?


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