ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

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ノリは修学旅行のソレ。


14撃目 そうだ。冥界行こう。

 

 

 

 

「ガスの元栓締めた。ゴミはまとめて出した。冷蔵庫には……何もないな」

 

 片付かれた部屋の中。アオヤマは麦わら帽子を被り、私服姿で部屋の隅々を点検していく。

 

玄関の所には遠出支度らしいボストンバックと、ミルたん(はぁと)と書かれた旅の栞が置かれている。

 

「アオヤマ君、まだ準備出来ないにょ?」

 

玄関先の方から筋骨隆々の漢女、ミルたんが顔を覗かせてアオヤマを急かしている。

 

「悪い。もうちっと待ってくれ。えっと、コンセントは全部引っこ抜いたし、後は……」

 

ふと、壁に掛かったヒーロースーツに目が向く。今回は飽くまでもミルたんに付き添うだけの旅だ。

 

今から行く冥界がどんな所かは知らないが、少なくとも人間が住むような場所ではないのは確かだろう。

 

ミルたんが言うには冥界は悪魔や堕天使、他にも様々な怪物達が住んでいる世界であり、普通の人間ならまず行こうとすら考えない場所らしい。

 

そんな所に赴いてワザワザヒーロー活動するような事態にはそうそう遭遇しないだろうと思い、アオヤマは壁掛けのヒーロースーツには手を出さずにいた。

 

悪行というのは悪人と善人がいて初めて成り立つ。悪人しかいないというのであればそれは互いの自業自得しか成り立たない。

 

別に冥界だからって全ての悪魔、堕天使が悪人と決め付けるつもりはない。リアスやソーナといった話しの分かる悪魔もいるし、アザゼルみたいな気安い堕天使もいる。悪人、善人は別として。

 

それに、これは旅行だ。ミルたんの目的達成の為の付き添いの旅行に過ぎない。ワザワザ冥界にまで赴いてヒーロー活動をする意味が全くないのだ。

 

────だから。

 

「悪いミルたん。待たせたな」

 

「にょ、それじゃあ出発するにょ。目指すは冥界、悪魔さん達の世界にょ!」

 

アオヤマは、ヒーロースーツをバックにしまい込み、鍵を閉めて部屋を出る。

 

ヒーロー活動はあくまで趣味、そもそもそんな問答自体する意味がなかった。

 

自分がやりたいからやる。趣味というのは大抵そんなものである。

 

 アオヤマ。夏休みに入って四日目の朝の出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………で? 連れてこられたのはいいけどさ、こんな空き地に来て何するんだ?」

 

 ミルたんの後ろを追って歩いて数分、二人が辿り着いた先に待っていたのはアオヤマ達が住むアパートから少し離れた場所にある空き地だった。

 

てっきり駅にでもいって普段は柱にしか見えないゲートを潜って冥界行きの列車とかに乗り込むとか、飛行機に乗って境界が不安定な場所にダイブするとか、そういった楽しみをしていただけに、アオヤマは早くもテンションを下げつつあった。

 

折角三日徹夜して夏の課題を終わらせて自由の身になったと言うのに、肩透かしも良いところである。

 

因みに最後の一日は準備と睡眠に費やした。流石に三日連続の完徹は堪えた。もう二度とやらないとこの日アオヤマは己の魂に誓った。

 

そんなジト目のアオヤマにミルたんはチッチッチと指を左右に揺らす。

 

「アオヤマ君、心配は無用にょ。前回と違って今回ミルたん万全を期したにょ」

 

前回とは何のことだろう。自信満々に手荷物から一冊の本を取り出すミルたんに僅かながらの苛立ちを覚えると。

 

「今日はこのミルたんの秘蔵書物で冥界へのゲートを開くにょ。少し時間が掛かるから四十秒程待って欲しいにょ」

 

「秘蔵書物って、これ、設定資料集とか書いてあるんですけど?」

 

『ミルたんオルタナティブ7完全補完設定資料集』と書かれたブ厚い資料集を渡され、アオヤマは呆けてしまう。そんな間にもミルたんの作業は黙々と進み、凡そ三十秒程で────。

 

「完成だにょ」

 

空き地にちょっとした魔方陣が完成されていた。つーか完成度が矢鱈高い。本当に悪魔でも召喚出来そうな出来映えだ。

 

しかし。

 

「いや、あのねミルたん。確かに俺達は何度も異世界に渡った経験があるよ? 猫耳犬耳の亜人が支配する世界とか、ピンク髪の少女の使い魔にもなったりしたけどさ、それもこれも皆ちょっとした外的要因があった訳じゃん。幾ら何でもアニメの設定が現実に作用されるとは……常識として、どうよ?」

 

「大丈夫にょアオヤマ君。この世界には奇跡も魔法もあるんだにょ」

 

「おいバカよせ」

 

それじゃ救いはないだろう。そんなアオヤマの鋭いツッコミも軽く流し、ミルたんは魔方陣の中心に立って両手を叩き、祈るように呪文を唱える。

 

どうやら冥界旅行はご破算か。今にもはちきれそうなミルたんの衣装を冷ややかな目線で眺めていると……。

 

「開いたにょ」

 

「……マジで?」

 

ミルたんの足下を中心に描かれた魔方陣から眩い光が迸っていた。

 

ミルたんスゲェ!? そんな心境すら吐き出せぬまま、光はどんどん大きくなり。

 

「さぁ、いくにょ。この冒険で、ミルたんは不思議な力を授かってみせるにょ!」

 

意気揚々とミルたんは両手を掲げる。そんなミルたんにアオヤマは預かった資料集を返すと同時にふと思った疑問を口にする。

 

「あのさ、気になったんだけど。俺、結局パスポートとか用意出来なかったぞ? 大丈夫なのか?」

 

手にした旅の栞を開いてみるが、どこにもパスポートの文字は書かれていない。というか、どれもこれも見たことのない文字ばかりでマトモに読めた所はない。

 

ミルたんが言うにはこれも魔法少女の必須言語なのだとか。────ここではリントの言葉で話せとアオヤマは声を大にして言いたい。

 

「アオヤマ君。ミルたん達は冥界であって国じゃないにょ。そもそも世界自体が違うのにパスポートに意味はあると思うにょ?」

 

「そう言われればそうなの……か?」

 

 ミルたんの正論(?)に諭され、まぁいいかと納得するアオヤマは観念し、光の中へとその姿を消していく。

 

冥界。そこは果たしてどんな所なのだろうか? 年甲斐もなくワクワクしてきたアオヤマは光の中へと視線を戻す。

 

そして、光が収まる頃には、魔方陣を含め、二人の姿は完全に消えていた。

 

ミルたんの書いてくれた旅の栞だけを残して─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほらほらどおしたぁ! もっと早く動かないと消し炭になるぞ!」

 

「うひいぃぃっ!?」

 

 季節は夏。既に人間界では夏休みシーズンとなったこの季節。私兵藤一誠はリアス部長に招かれ、自身のパワーアップを計る為、アザゼル先生の提案の下、こうして山籠もりをしてまで修行の毎日を続けている訳なのですが……。

 

「いつまで逃げ続ける気だぁ! そんな事ではいつまでたっても強くなれんぞ!」

 

「そ、そんな事言ったってぇぇぇ!!」

 

背後から押し寄せてくる巨大な龍、タンニーンのおっさんから死に物狂いで逃げ叫んでいるが……うん、仕方ないと思うんだ!

 

だって龍王だよ!? 聖書に記されたモノホンの化け物だよ!? この人(龍だけど)吐く火の息は隕石の衝撃に匹敵するとか言われてんだよ!?

 

神滅具、『赤龍帝の籠手』を宿しているからといって元々はただの人間でしかなかった自分では、到底叶いっこない相手だ。

 

イヤね、確かに強くなる気はありましたよ? 部長の為ならどんな辛い修行だって乗り切るつもりでしたよ。けどさ、いきなり五大……いや、“元”六大龍王の一角を相手にするとか、やりすぎじゃないですかねぇ!?

 

あぁ、部長のオッパイが恋しい! あの柔らかいお胸様にめいいっぱい溺れたい!

 

「お前は何だ!? リアス=グレモリーの兵士だろうが! そんな腑抜けでリアス嬢を守れると思っているのか!」

 

その言葉に、俺の握った拳に力が入る。……あぁ、そうだよ。逃げてるだけじゃ……逃げてるだけじゃ、何も守れない。強くなんかなれないって事くらい、俺が一番分かっているんだよ!

 

このままじゃ白龍皇……ヴァーリには勿論、“あの人”にだって追い付く事もできやしない

 

「こなくそぉぉぉっ! こうなりゃヤケだぁぁぁぁ!!」

 

自暴自棄に俺は籠手に力を込める。逃げてる最中、予め溜めておいた倍加の力を一気に解放する。

 

「ドラゴン……ショットォォォォォ!!」

 

振り返り様にジャンプし、タンニーンのおっさんに目掛けて、俺は特大の一撃をお見舞いした。

 

巻き起こる爆発、舞い上がる砂塵。衝撃で木々を薙ぎ倒し、オッサンのいた場所にはデカいクレーターが出来上がっていた。

 

手応えはあった。しかし、今の一撃程度でどうにかなるとは思えない。……何故なら。

 

「ふん、やっとマトモな一撃が出せるようになったか。だがな、その程度の火力では精々俺の鱗一枚しか破壊出来んぞ!」

 

俺はこのオッサンに今みたいな一撃を既に何度も浴びせているからだ。

 

しまったと、この時俺は後悔する。この宙に浮かぶ最中、どうやったってオッサンの攻撃を避ける事は出来やしない。

 

 オッサンの口が開かれ、そこから灼熱とも呼べる炎が凝縮されていく。ヤバい。直感が大音量で叫んでいるが、それを行動に移せるだけの力が今の俺にはない。

 

「今の一撃の褒美だ。しっかりと受け止めてみせろよ!」

 

そんな俺を余所に、オッサンの口から特大の火球が放たれる。せめてもの防御として両腕を交差させるが、とてもじゃないが防ぎきれる自身がない。

 

これまでか、そう思われた瞬間。

 

 

「ぅぉぉぉぉおあああああ……あぶし!?」

 

何かが俺とオッサンの間に割って入り、オッサンの一撃に直撃した。

 

巻き起こる爆風。その規模は俺の放ったドラゴンショットの比ではなく、周囲諸共消し飛ばしていく。

 

暴風に煽られながら、俺は地面に叩きつけられる。何かが間に割って入ってきた為に直撃でなかったし、ダメージも地面に打ち付けられた事以外大した事はない。

 

だが、尚更気になった。そんなオッサンの一撃を一体何が防いだというのだろう。火球を放ったオッサンも訝しげに立ちこめる煙の中を睨んでいる。

 

そんな時だ。煙の中から人影らしきものが立ち上がるのを見て、オッサンは突然戦闘態勢に入り、俺も吊られて戦う姿勢になってしまう。

 

「…………」

 

オッサンの目が鋭い。それはこの数日間俺が見たこともなかった目だ。……ドラゴン、古の龍が敵意を込めて相手を睨むその様は、向けられてもいないのに此方が寒気を覚える程だ。

 

……重苦しい沈黙。煙の中の人影もタンニーンのオッサンも動かないまま数秒か経過する。たったそれだけの時間しか経っていないのに、俺の喉はカラカラに乾き、自然と生唾を飲み込む音が沈黙した空気に響く。

 

そして、煙が晴れた時、俺はきっと……。

 

「へっきし! ったく、いきなり空に放り出されたかと思ったらいきなり爆発に巻き込まれるとか、冥界式の歓迎ってこんなバイオレンスなのかよミルたん。…………あれ? ミルたんは?」

 

きっと、この上なく間抜け顔を晒していたことだろう。────だって。

 

「あ、あ、あ…………」

 

「ん? 兵藤? 何故にお前がここにいる?」

 

出鱈目な方法でデタラメに強くなった……人間らしき人間。

 

「アオヤマ先輩ぃぃぃっ!?」

 

眩しい頭が特徴的な、アオヤマ先輩が全裸姿でそこにいたのだから………。

 

「おい、誰の頭が後光差してるって? さしてたまるかこの野郎!」

 

心の声に反応しないで!?

 

 

 




アオヤマの弱点は火属性。

主に社会的に死ぬ。

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