ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

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悪魔にも、いい奴はいるさ。


15撃目 悪魔の好意

 

 

 

 冥界、グレモリー領。リアス=グレモリーが次期当主として後に管理するであろう領土。広大な領土の中にある山奥で兵藤一誠は目の前の人物に対してどう対応していいのか見当付かずにいた。

 

「いやぁ、なんか悪いな。邪魔しちまって」

 

「い、いえ、それは別に構わないんですけど……大丈夫なんですか?」

 

「ん? まぁ、確かに服を一着燃えたのはショックだったけど、バッグは無事だったし、替えの服もあったから別に平気だ」

 

そう平然と返す男、アオヤマの台詞にイッセーは声を大にして違うと叫びたかった。

 

 辺りに鬱蒼と生い茂っていた木々は吹き飛び、まるで爆心地の様に抉れた大地。その中心でケロリとしているアオヤマにイッセーは頭が痛くなってきた。

 

何せ、龍王の一撃をマトモに受けて原型を保っているどころか平然とし、更には落ちてきたボストンバッグをキャッチしたかと思いきや、コンドは爆心地のど真ん中で着替えを始めたのだ。

 

きっと、こんな状況なら混乱するのは自分だけではない。そう自分に言い聞かせ、イッセーは気を取り直して麦わら帽子を被り直すアオヤマに問い掛ける。

 

「と、所でアオヤマ先輩。何故にこんな所にいる……というか、来たんです? まさかアザゼル先生絡みですか?」

 

「アザゼル? いんや違ぇよ。俺は今回ただの付き添いだ。ミルたんに頼まれて冥界に一緒に来ることになっていたんだが……肝心のミルたんが見当たらねぇんだよ。なぁ兵藤、お前何か知らね?」

 

「いや、俺もつい最近ここに来たばかりですし……というか今なんて言いました? ミルたんと一緒に来たって……」

 

「まぁな。俺とアイツお隣さんだから偶にこうして一緒に旅行とか行ったりしてるんだ。えーと、携帯携帯……あ、ダメだ。圏外だここ」

 

 サラリと衝撃的な事実を語るアオヤマにイッセーは頭を抱えてうずくまる。アオヤマはアオヤマで電波を拾おうと腕を伸ばし、ピョンピョンとジャンプしていると……。

 

「貴様、アオヤマと言ったか? 貴様の事は頻繁に耳にしている。……白龍皇を倒したらしいな」

 

「あん? 俺の事知ってるの?」

 

アオヤマが見上げる程に巨大な龍、タンニーンが鋭い眼光と共に声を掛けてきた。

 

「寧ろ知らぬ奴などこの界隈ではいないだろうよ。貴様は伝説の天龍の一角を落とした。貴様の力を欲し、これからは様々な神話体系の連中、組織が貴様を狙ってくる事だろう。精々気を付ける事だな」

 

「あ、ご心配どうも」

 

タンニーンの皮肉混じりの忠告も話半分に聞き流し、アオヤマは携帯に電波が届かないか辺りをウロウロする。

 

そんなアオヤマの態度にコメカミをピクリと動かす。明らかに苛立ちを募らせているタンニーンにイッセーはどうしたらいいか分からず、オロオロしていると……。

 

「おーい。赤龍帝、タンニーン、差し入れ持ってきて……て、おい。何故にお前さんがここにいる? アオヤマ」

 

背中に12の黒い翼を生やした堕天使、最近駒王学園の教師として赴任してきた『神の子を見張る者』の総督、アザゼルが弁当らしき小包みを持って現れ。

 

「あれ? アザゼルじゃん。アンタもこんな所で何してんだ?」

 

「いや、それ全面的にこっちの台詞だからな?」

 

その場の空気は、より混沌としてくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く、何故貴方はいつもこちらの予想を大きく上回るような事を仕出かしてくれるのかしら? ……ねぇ、アオヤマ君?」

 

 あれからアザゼルに連れられ、バカでかいお城に連れて来られたアオヤマは現在、客室らしき豪華な部屋へと半ば強制的に招かれ、現在はリアス=グレモリーと面会する形で向き合うようにソファーに座っている。

 

因みにリアスの眷属達は部屋の外で待機している。アオヤマという男が早まった行動を取るとは思わないが、事態が事態なので眷属達……特にゼノヴィアと木場、兵藤一誠はいつでも部屋に押し入れるよう準備の姿勢を整えている。

 

そんな外の様子など知った様子もなく、アオヤマはソファーの背もたれに寄りかかりながらふと、窓から見える外の景色を見る。

 

 赤と紫が混じった空。空気は淀み、体も少し違和感を覚える。地上とは全く異なる環境にアオヤマは改めて冥界に来たのだなと思い知る。

 

「ちょっと、聞いてるのかしらアオヤマ君?」

 

「あ、悪い。全然聞いてなかった」

 

欠片も悪びた様子のない態度にリアスは笑顔のまま頬を引きつらせている。

 

アオヤマとしては事実をそのまま口にしているだけなのだが、どんな状況や人物に対しても変わらぬ態度で接してしまっている為、仮に真摯に謝ったとしてもその気持ちは相手に殆ど届く事はない。

 

そしてそれはリアスに対しても同じ事が言えた。

 

「あのねアオヤマ君。ここ周辺一帯はグレモリーの領土なの。そこへ貴方はいきなり現れた。どういう経緯であそこにいたのかは知らないけれど、貴方の仕出かした事は不法侵入と同じ事なの。分かる?」

 

「んな事言われてもなぁ。俺も別に来たくて彼処に落ちた訳じゃねぇし、気が付いたら空から落ちてたんだもの。携帯も通じねぇからミルたんと連絡とれねぇし」

 

 そう言ってアオヤマは改めて携帯を取り出すが、そこにはやはり圏外の文字があり、どうやっても連絡が取れない事を示していた。

 

アオヤマも人間だ。文明の利器には頼るし、縋りもする。しかし唯一の連絡手段が取れない以上、アオヤマには頼れるモノがないのも事実だった。

 

「まぁその辺にしときなリアス嬢ちゃん。聞いた限りではソイツがここに来たのは完全に不可抗力な事情なようだし、嘘も付いていたようにも見えん。ここらで手打ちにしといてやれ」

 

「けれどアザゼル、彼は無断で冥界に踏み入った違法者よ。そんな彼を放置していたら、グレモリーの名に傷が付くわ」

 

不機嫌なリアスを諭そうと今まで黙っていたアザゼルが介入するも、グレモリーの名に関わる事態にそれどころではないリアスは口を挟まないでと暗に吼える。

 

その時だ。何かを思い付いたのか、アザゼルは悪戯を思い付いた表情を浮かべると、リアスの耳元へ二、三の言葉を囁くと、リアスは先程までの苛立ち顔を少し和らげ、考え事をするように顎に手を添える。

 

一体何を相談しているのだろう? 一瞬そう勘ぐってしまうアオヤマだが、考えた所で分かりもしないと悟り、再び視線を外に移す。

 

すると考えが纏まったのか、リアスは徐に頷きアオヤマに声を掛ける。

 

「アオヤマ君。一つ此方のお願いを聞いてくれないかしら?」

 

「お願い? 何だよ」

 

「今現在、私達は強くなろうとそれぞれ必死に修行を行っているの。……悔しいけど、貴方の実力は私達よりも遙かに上。私達が束になっても勝てないというのは自明の理、けれど、いえ、そんな貴方にこそお願いがあるの」

 

「お前等の修行を見ろって事か? けど俺、筋トレ以外助言できそうな事ねぇんだけど」

 

しかも、その話しを以前の三大協定の時思いっきり否定してきたじゃん。内心でそう思うも口にしない辺り、アオヤマは意外と大人なのかもしれない。

 

というか、筋トレ以外強くなれる方法を知らないアオヤマは悪魔であるリアス達に何かしら助言が出来るとは思えなかった。

 

「別に助言だけが強くなる方法って訳じゃないだろ? 軽く手合わせしてみるとか、修行風景を見て、思った事を言えばそれだけで助かる事もあるってもんだ。それにもし行く当てがないってんならコッチで宿を用意するし、何ならここで泊まっても構わねぇぞ」

 

無論、燃えた服も弁償してやる。そう言ってどうだと此方の反応を見てくるアザゼルにアオヤマは天井を見上げて少し考える。

 

確かにアザゼルの提案は魅力的だ。悪魔に強くなる手助けをする事云々は抜きにして、ただで泊まれる拠点が手に入るのはアオヤマにとっても美味しい話しだ。

 

初めての冥界旅行。知り合いの一人も知らずにフラフラ歩き回るのは少しばかり抵抗があった。主に面倒事に巻き込まれる的な意味で。

 

天井を見上げて数秒経過した後、アオヤマは納得する様に頷き、リアスとアザゼルに向き直る。

 

「その話しさ、悪いけど断らせて貰うわ」

 

「……どうして、かしら?」

 

「いやさ、ここに来たのは俺だけじゃねぇんだよ。知り合いも探さなきゃならないし、何より今回はソイツの付き添いでここに来ることになったんだ。一人で勝手に決める訳にはいかねぇよ」

 

そう、今回の旅行はあくまでミルたんの付き添い。困った時はお互い助け合い、頼る時はお互いを尊重しあってきた良き隣人同士だ。そんな隣人を放って自分だけ安寧を貪るなど、ヒーロー以前に人としておかしいとアオヤマは語る。

 

そんな友人を優先するアオヤマにリアスは少し目の前の同級生に対して見る目を変えた。誰かの為に決断できる人間は中々いないことを知る彼女にとって、アオヤマの選択はとても立派に思えた。

 

なら、彼の選択を尊重するべきだ。ソファーから立ち上がり、バッグを肩に掛けて出て行こうとするアオヤマにリアスも追って立ち上がり、アオヤマに向かって手を伸ばす。

 

「なら、私から言うことは何もないわ。……気をつけてね。冥界は人間界とは勝手が違う所が多いから」

 

「おう、あんがとな」

 

「不法侵入の件は無かった事にしておくわ。初犯でしかも悪気がなかったし……今回は特別よ」

 

そう言って互いに握手を交わし、笑みを浮かべる。リアスはアオヤマの今後の旅路の安全を願って、アオヤマは意外と話しの分かるリアスにありがたみを持って───。

 

これで今度こそ後腐れなく外に出ていける。そう思いアオヤマは扉のドアノブに手を伸ばすが…………。

 

その時、アオヤマのズボンのポケットから携帯の着信音が鳴り響いた。まさかと思い取り出すと、そこには圏外でありながらミルたんの文字が浮かび上がっていた。

 

『あ、もしもしアオヤマ君? 今どこにいるにょ?』

 

「あ、ミルたん? それはこっちの台詞だっての。今冥界のグレモリーの家にいるんだけど……そういうミルたんはどこにいるんだ?」

『ごめんなさいアオヤマ君。どうやら今回の転移魔方陣は失敗しちゃったらしいにょ。ミルたん、今天界にいて天使さん達とお話していたにょ』

 

「はぁ? 失敗? つか天界って……何でそんな事に?」

 

『あの後ミルたんの秘蔵書物を読み直したら、ハゲの人はお断りって注意事項が書かれてあったにょ。多分、その所為でミルたんとアオヤマ君はそれぞれ弾きだされた形で転移しちゃったんだにょ』

 

「おい。何だその差別的な注意事項は? 何でハゲてたらダメなんだよ? 魔法少女ミルたんはハゲに何か恨みでもあるの?」

 

『魔法少女ミルたんの最大の敵はハゲ痴の神、ハゲトースなんだにょ』

 

「知らねぇよ!? なんだよハゲトースって!? あれか? ソイツを見たらSAN値じゃなくて毛が減るのか!? ハゲを苛めるのも大概にしろ!」

 

『アオヤマ君、本当にごめんなさいにょ。帰ったらミルたんのお宝を一つ上げるからそれまで何とか……』

 

 そこまで言い掛けてミルたんからの通信は完全に途絶えた。何度も掛け直してみるが以前として圏外の文字は消えず、アオヤマは再び孤立無援の状態に戻された。

 

静まり返る客間。アザゼルは笑いを堪えてお腹を抑えているし、リアスは気の毒そうにアオヤマを見ている。

 

「えっと、その……やっぱりウチにいる?」

 

同情混じりの二度目の問い。そんな彼女の問い掛けに……。

 

「……お世話になります」

 

アオヤマは、素直に彼女の好意に甘える事にした。

 

冥界来日から早数時間。アオヤマ、早速泣きを見るハメになったとさ。

 

そしてこの日から、ヒーローによる悪魔強化合宿という奇妙な関係が成り立ってしまうのだった。

 

 

 

 




この世界に、髪はいない。

『ハゲ痴の神ハゲトース』

目覚めたら最後、この世の全ての生命体の毛が死滅する。

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