「レーティングゲームだぁ? 何ソレ?」
「レーティングゲームってのは、簡単に言えば悪魔側が開発したチェスを模した擬似戦争だ。眷属の悪魔達を駒に見立て、舞台となるバトルフィールドを盤とする。それがレーティングゲームだ」
「いや悪い。俺チェスとか全然知らないんだ。精々オセロが限界。カードゲームなら幾つか知ってるけどな」
アザゼルからレーティングゲームの説明を端的に受けたアオヤマはチェスそのものを知らないと返す。だが、そのレーティングゲームが複数人で行われる何らかの試合である事は理解できた。
「まぁ、複数人で行う戦技術を競い合う場と思ってくれればいいさ。で、どうだ?」
「何が?」
「レーティングゲーム、興味湧かないか?」
「は?」
アザゼルの提案にアオヤマは呆けた顔をする。サーゼクスやリアスも驚いた様子で目を見開いていた。
彼は、堕天使総督はこう言っているのだ。レーティングゲームに参加して欲しいと。そこにどんな意図が隠されているのか、リアスは勿論魔王であるサーゼクスも計れずにいた。
いや、サーゼクスは何となく分かっていた。アザゼルは異常な程のコレクターだ。集めるだけではなくそれを究明し、解明し、徹底的に調べ尽くさなければ気が済まない学者気質の持ち主だ。
恐らくはレーティングゲームを利用してアオヤマの自身でも説明できない強さの理由。ソレの探究し、解明する心算なのだろう。
レーティングゲームの盤上を、格好の実験場として。
「イヤだよ。何で俺が参加しなくちゃいけないんだよ」
「やっぱダメか?」
「大体、それって悪魔が主催とするゲームなんだろ? 俺ヒーローだぜ? 客観的に不味いだろ」
「ま、それもそうだな。悪かったなアオヤマ。妙な事を聞いて」
アオヤマの拒否にもアザゼルは気にしない素振りで詫びを入れる。ヒラヒラと掴み所のない態度を崩さないアザゼルにリアスは言いし難い不気味さを感じている一方で、アオヤマは別にいいよとこちらも軽い素振りで返す。
「失礼します。紅茶をご用意しました」
扉が開かれて部屋に入ってきたのは紅茶の用意をしたグレイフィアだった。その後、アザゼルとアオヤマはゲーム繋がりで最近のゲームについての話題で語り合って盛り上がり、堕天使総督と自称ヒーローによる談義は夜まで続いた。
「所でサーゼクス様。その髪型、そのままで宜しいのですか?」
「なんかこれはこれでアリかなって思えてきた」
「お兄様!?」
また一つ、リアスの胃痛の種が増えた。
◇
あれから数日。生活拠点が冥界であること以外変わらぬ日々を過ごすアオヤマは半ば図々しいと呼べる位に寛いでいた。
用意された部屋で寝起きし、食堂に行き、皆と顔を合わせながら食事をする食事風景に一人で食べる事に慣れきっていたアオヤマは内心少しばかり落ち着かなかった事をここに記す。
その時にリアスのご両親と初めて顔を合わせ、暫くの間お世話になりますと、頭を下げたアオヤマはふと思った。
お母さん若すぎだろうと。悪魔という生き物は魔力の影響です好きな姿でいられるとは言え、リアスと殆ど外見が変わらないのはどうかと思う。お父さんの方と肩を並べている所を目撃してしまうと、お父さんが危ない性癖の人に見えて仕方ない。
そんな疑問を流石に言葉にする気はなかったアオヤマはその後、一応泊めて貰っている対価として、それからもリアスとその眷属達のアドバイザーとして各自の鍛錬に見学という形で参加していたのだが……。
如何せん、筋トレで強くなったアオヤマには専門的な説明など出来るはずもなく、剣を振るっている木場やゼノヴィア、そして小猫にちょっとした助言をするだけに終わった。
遅いとか、足がもたついているとか、そんな素人目線の助言が役立つのかと不安に思いながらも、アオヤマの自分なりのアドバイスは続いた。
その際、木場の師匠である沖田総司と仲良くなったのはここだけの話。
そして残りのメンバーは……正直言ってアオヤマの手には負えなかった。何せ魔力を使った戦闘訓練など、アオヤマには欠片も理解出来ない内容だからだ。魔力のまの字も知らないアオヤマでは役不足もいい所である。
ただ、初めてアオヤマと手合わせした時、何かを思ったのか姫島朱乃は何か決心した様子で頷きながら両手に力を籠めていたのは印象に残っていた。
小猫も方もやる気はあるようだが、オーバーワークな特訓の所為で倒れ、一時はどうなる事かと思ったが、リアスと兵藤の活躍により小猫は落ち着きを取り戻し、冷静に修行に励んでいく様子が確認できた。
本来ならアドバイザーであるアオヤマも何か言うべき事があったかもしれないが、この間の件もあったことで会うことはしなかった。何より、オーバーワークの経験がないアオヤマでは小猫に対して注意を呼びかける事など出来ない。
何せ体が無理だと信号を発していながら筋トレを断行した男だ。無理をして倒れた者の気持ちなど分かれと言う方が無理な話である。
兵藤? 彼なら心配ないだろう。何せ山の中をドラゴンと一緒に日夜マラソンに明け暮れているのだからきっと彼は強くなる事だろう。スタミナ面ではかなり伸びるのではないだろうか。
そんな彼にはただ一言、「頑張れ」とだけ告げれば十分だ。
さて、そんな色んな出来事があって数日。特に予定のないアオヤマは私服姿でグレイフィアが用意してくれた紅茶を飲みなら目の前のアザゼルに問い返した。
「今日のパーティーに参加して欲しいだぁ? 何でまた」
「いやぁ、結構無茶振りなのは分かっているんだが……ある奴がお前さんにどーしても会いたいといって聞かねえのよ」
アザゼルからのパーティーという参加への頼みをアオヤマは面倒くさそうに目を細める。
ここ数日、三大協定の和平について各地を巡っていたアザゼルはとある神話体系の人物と対面し、その人物の巧みな話術によりアオヤマについての情報を口にしまっていた。
アオヤマの存在について興味を持ったその人物は和平協定に一口乗る事を条件にアオヤマという人間に会わせろと言ってきたのだ。
「なぁ、頼むよ。別にレーティングゲームに出ろとか言わないからよ。チョロッと顔を出すだけでいいからよ」
「けどよ。それ悪魔が催すパーティーなんだろ? 前も言ったけど俺ヒーローだぞ。色々不味いんじゃねーの?」
「既に悪魔の居城でのんびり寛いでいる奴の台詞じゃねーぞ」
アザゼルの尤もな意見にアオヤマは露骨に視線を逸らす。確かにアオヤマはヒーローを自負しており、曖昧ながらその意味を認識している。
故に悪魔の巣窟とも呼べるパーティー会場への参加に対し若干ながらの抵抗があった。
まぁ、アザゼルが言うように既に悪魔の家で寛いでいるアオヤマが言えた事ではないが……。
「まぁ、どうせ暇だし別にいいけどよ。あんまし文句言うなよ?」
「助かる。格好はお前さんの正装で来てくれ。多少は騒ぎになるだろうが……まぁ、そこは冥界デビューって事で納得してくれ」
「俺、ダークヒーローになるつもりはないんだけどなぁ、で、そのパーティーにはいつ行くんだ?」
「今だ」
「……お前、結構行き当たりばったりなのな」
アザゼルの誘いに乗り、アオヤマは冥界で行われるとされるパーティー会場へと足を運ぶ。
冥界で話題になっている新人悪魔達のお披露目。そこで半ば騒ぎに巻き込まれる形で、自称ヒーローであるアオヤマもまた冥界の住人達に対してその名を刻む事になる。
─────一方。天界では。
「魔法少女! カレイドミルたん参上! さぁ天使の皆さん、ミルたんに魔法を教えて下さいにょ」
「バカな!? 私の炎が効かない!? なんなのだコイツは!?」
「ミルたんラッシュ!」
「ウボワー!?」
「ウリエルさまー!?」
魔法を教えて貰う為に、ミルたんは今日も頑張っていた。
次回はヒーローの冥界デビュー。