ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

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テロ、ダメ絶対。


23撃目 課題の復讐

 

 

 

 

 

 

 

 絶句。唯々絶句。自分の第二の我が家とも言えるアパートが燃え盛る光景を前に、住人の一人であるアオヤマは呆然と立ち尽くし、乾いた笑みと共に今も燃えるアパートを見上げていた。

 

「は、はは……燃えてる。皆燃えてる。俺の家が、課題とかも置いてあったのに……」

 

燃え盛るアパート。遠くで蝉の鳴き音が聞こえ、アオヤマの背が煤けた時、隣から大音量の悲鳴が聞こえてきた。

 

「にょぉぉぉぉっ!!? ミルたんの秘蔵DVDがぁぁぁっ!!」

 

叫び……否、半ば咆哮の雄叫びを上げながら、ミルたんは燃え盛るアパートに向かって突貫する。ミルたんの行動に呆気に取られたアオヤマだが、次の瞬間には我に返り、ミルたんの後を追ってアパートに突っ込んでいく。

 

 その後、数分の時間を開けて火事は鎮火。奇跡的に隣家へ燃え移らなかった事で被害は最小限に防げたが、それでもアパートの上半分は全焼。アオヤマの住まいは完全に燃えて無くなってしまっていた。

 

所々焦げ目を付かせながら、アオヤマは住処だった自分の部屋の跡を漁る。僅かな可能性に賭け、アオヤマが遂に掘り出したのは……。

 

「やっぱし、ダメか」

 

火事の業火に焼かれ、炭と化した課題のノートだけがアオヤマの手元に残った。

 

「にょぉおぉん、にょぉおぉん。ミルたんの、ミルたんの秘蔵コレクションがぁぁぁ……」

 

ミルたんの泣き声が聞こえてくる。その悲痛さからどうやら向こうも全滅らしい。夏の風が灰になった課題プリントを青空へと運んでいく。その様を見送る際、アオヤマは奇妙なモノを見つけた。

 

「なんだありゃあ? ……人、か?」

 

夏の青空に浮かぶ一つの黒。全身を包み込んだ黒いローブが宙に佇み、アオヤマとミルたんを見下ろす様に浮かんでいる。

 

一体なんだ? アオヤマが疑問に思った瞬間、黒いローブから潜もった声が聞こえてきた。

 

「貴様がアオヤマか」

 

「あ? なにお前? 俺の事知ってるの?」

 

「知っているともさ。堕天使の幹部を倒し、白龍皇をも打倒した規格外の人間。その力、是非とも我々の為に活用しては貰えないだろうか?」

 

「何言ってんだコイツ」

 

声色からして男であろうローブの人間。要領の得ない物言いにアオヤマは意味が分からないと首を傾げる。

 

「つーかさ、今こっち立て込んでるんだよね。用があるなら後にしてくんない? 今課題についてどう言い訳するか考えてるからさ」

 

そう言ってアオヤマは再び自室だった部屋の中を漁る。何か役立てる物はないかと探しながら燃え去った課題に関する言い訳について模索する。

 

既にローブの男はアオヤマの眼中に入っていない。現在アオヤマの思考は今夜の寝床と課題に関する言い訳だけだ。

 

そんな庶民派な態度のアオヤマにローブの男はそのローブ越しでも分かる程の怒りを募らせる。

 

「その態度、これだけの数の神器使い達を前にいつまで保たせられるかな!」

 

「あ?」

 

ローブの男が両腕を広げると、アオヤマの頭上一面にローブの人間がわんさかと現れる。 空を埋め尽くさんばかりに広がるローブ人間の軍勢にアオヤマの視界に嫌でも入り込む。

 

「さぁもう一度問う。“ヒーロー”アオヤマよ。その力、我々英雄派に役立てる気はないか? さすれば紛い物の正義を翳す事もなく、本物の正義を語ることが出来るぞ?」

 

男の語る正義。そこにどれほどの重みと意志が込められているかはアオヤマには分からない。だが、唯一つ、はっきりさせなければならない事がある。

 

それは……。

 

「なぁ、一つ聞いていいか?」

 

「何かな?」

 

「俺達の部屋、燃やしたのって……もしかしてお前等?」

 

アオヤマの問いにローブの男はほくそ笑む。

 

「あぁその事か。本来ならデカい花火にするつもりだったのだが、それでは各方面に悟られ厄介な事になるから仕方なく狼煙程度に納めたのだよ。やはり、お気に召さなかったかな?」

 

……納得。ローブの男の説明にアオヤマは納得した。通りでおかしいと思った。漏電もしていなければガスも漏れた形跡はない。それ以前に火事が起こっているというのに消防車は疎か野次馬の一人も見あたらない。まるでここだけが世界と切り離されたような錯覚。

 

この感覚に覚えがある。それは以前、駒王学園に襲ってきた禍の団と同じ結界術式。外界と切り離す世界の檻である。

 

尤も、アオヤマ自身はそんな専門的な解釈など出来るはずもなく、何となく覚えがある程度にしか認識していない。

 

いや、それ以上に気にかけるべき事実があった。禍の団とか英雄派などはどうでもよく、唯それだけを知る必要があった。

 

「そっか、お前等がやったのか……そっかそっか」

 

ハハハと、乾いた笑いが込み上げる。圧倒的戦力差を前に怯えもなく、恐怖もなく、淡々と笑うアオヤマにローブの男だけではなく、彼を狙っているローブの軍勢全てが動揺する。

 

「あれさ、俺が三日徹夜して終わらせた大仕事だったんだよ。蒸し暑い日差しの中、扇風機だけで過ごして汗水流して漸く終わらせたってのに……どうしてくれるんだよ? おい」

 

「知ったことか」

 

 アオヤマの低い声から発せられる質問を、男は下らないと一蹴する。その瞬間、アオヤマのやるべき事は一瞬にして決まった。

 

「ミルたん」

 

「にょ」

 

「聞いたな」

 

「勿論だにょ」

 

禿の後ろに筋肉巨漢のコスプレイヤーが現れる。その突然現れる奇っ怪な怪物に英雄派の面々から驚きのざわつきが起こり始める。

 

「さてお前等、確か英雄派だっけ? お前等がどんな連中かは知らないけど、一つ言っておきたい事がある」

 

空気が変わる。張り詰めた空気、背筋に悪寒が走り冷や汗が吹き出す。まるで蛇に睨まれた蛙の如く、指一つ動けなくなった彼らに、アオヤマが一歩動き出すと……。

 

「大人しくお前等の根城を吐くか、それともボコられて吐くか……選べ」

 

とても、とても穏やかな笑みを浮かべ、ローブの軍勢に微笑みかけていた。

 

瞬間、ローブの男が手を上げると辺りに影が充満する。“神器”聖書の神が作り出したとされるシステムの一端、それを男が発動させると、それを皮切りにその場にいる英雄派の全てが神器を機動させる。

 

炎、水、雷、風、中には剣を操り、ガントレットらしき武具を身に纏った者もいる。

 

頭上を埋め尽くした神器使いの軍勢。多勢に無勢、圧倒的数の暴力を前に。

 

「や、やれぇ!」

 

その拳を握り締めるのだった。

 

 

 

そして、数分後。

 

 

「すいやひぇんごへんばはいゆるじでくだびゃい」

 

アオヤマの自宅マンション周辺には、ボロボロとなった英雄派の神器使い達の屍の山(死んではいない)で埋め尽くされていた。

 

最初にアオヤマを挑発したローブの男はローブを剥がされ、顔中晴れ上がらせながら地面へと正座させられている。

 

「で、話す気になった?」

 

「そ、それは……」

 

英雄派の拠点を尋ねるアオヤマだが、流石に仲間を売るような真似はしたくないのか、男はアオヤマの問いに口を紡ぐ。

 

テロリストの末路は悲惨だ。世間を恐怖に陥れた者達の末路は総じて惨めで、凄惨な終わりを待っている。

 

男の手が震える。これから起こる拷問紛いの事が待ち受けると、怖くて仕方がないのだ。

 

しかし、それでも男は口を開かない。拷問程度で口を割るつもりはない、それが例え死んだとしてもだ。

 

そんな生半可な気持ちで組織に入った訳じゃない。全ては迫害した世界に対し、自分という存在を刻む為。その為に男は“あの男”の下で働くと決めたのだ。

 

来るなら来い。覚悟を決め、死を受け入れた男はアオヤマにキッと睨みをぶつける。

 

しかし、当のアオヤマはそんな男の態度とは真逆に慈愛の笑みを浮かべ。そっと、とある方向へ指を向ける。なんだと思い、男はそちらへ振り向くと……。

 

「ミルたぁぁぁあん、チィーーーッス!!」

 

「!!?!!!?!?!?!?」

 

浅黒肌の巨漢の生物が仲間だった者を抱き上げると、奇妙な叫びとともに仲間へ顔を近付けた。

 

 凄まじい吸音が辺りに響く。仲間の叫びにもならない慟哭を耳に、周囲にいる意識のある仲間達はガクガクと全身を震わせていた。

 

やがて吸音収まり、巨漢の生命体から解放された仲間は……それはもう、言いようのない表情を晒して事切れていた(ギリ生きてます)。

 

能面となった男アオヤマと向き直り。

 

「話して……くれるな?」

 

改めて問うアオヤマの質問に。

 

「はい」

 

男は、静かに即決した。

 

 

 

 

 

 

 

 男から一通りの話を聞いたアオヤマは、ヒーロースーツに身を包みながらアパートの庭先に出て、ミルたんにこれからの事を話す。

 

「そんじゃミルたん。俺これからコイツ等の拠点に行くから、コイツ等の事頼むな」

 

「分かったにょ、留守は任せるにょ」

 

赤いグローブを手に填め、全ての準備を終えたアオヤマは、ヨシッ。と意気込み、膝を曲げ、姿勢をグッと低くさせる。

 

何をするつもりだ? ミルたんを除いた全員がアオヤマの挙動を不思議に思った。

 

次の瞬間。

 

「とう」

 

軽い掛け声と共にアオヤマは地面を踏み砕き、遙か彼方へと跳躍する。

 

瞬く間に空へ消えていったアオヤマに誰もが言葉を失う。そんな間にもアオヤマはドンドンその姿を小さくさせ、やがてはミルたんでも視認出来ないほどに遠くなっていく。

 

飛翔……否、ただ真っ直ぐ跳んでいったアオヤマにはそんな優雅さなどあるはずがなく、その様は飛ぶよりも跳ぶと言った方が正しい。

 

差し詰め弾頭ミサイル。地球の自転に逆らいながらもアオヤマはお構いなくドンドン目的地との距離を縮めていく。

 

“英雄派”禍の団の派閥の一つを今日中に叩き潰すべく、アオヤマは跳んでいくのだった。

 

 

 

 




次回、ヒーロー対英雄

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