ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

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曹操って、なんだかガロウに似てません?


25撃目 必殺

 

 

 

 

「俺が……本気になった事がない、だと?」

 

 アオヤマから突きつけられる一言に曹操の目が丸くなる。が、それも一瞬。次の瞬間にはその端正な顔立ちを瞬く間に憤怒の色に染め上げていく。

 

英雄。その子孫として生まれたからには戦いの中でしか生きられないのは必定。しかし、現代は戦乱のない平和な世。内戦や紛争の国はあるものの、世界を巻き込んだ大きな戦争に発展する事はない。

 

そんな世に果たして英雄の子孫として生まれた自分等価値はあるのか? 神器という世を揺るしかねない危険分子を植え付けて置きながら、何故自分達は平和の世界で生きねばならんのか?

 

力。そう力だ。力を持たなければ一方的に奪われ、中途半端に持ち合わせれば争いに巻き込まれ、やがてそれは火種となり、大きな災いとなって世界を呑み込む。

 

ならば望み通りにしてやろう。戦禍を広げ、世界を混乱陥れて世界に自分達の存在を思い知らしめてやる。そんな怨念にも似た思いが英雄派の基盤であり、曹操の思念でもあった。

 

それが今、真っ正面から否定された。なんて事無い、元は唯の人間相手にだ。心中穏やか所の話ではない。腸が煮えくり返る思いで、曹操は槍を支えにダメージで震える身体を起きあがらせる。

 

「貴様に、何が分かる!」

 

「あ?」

 

「大した思想もなく、覚悟もなく、自分勝手の正義を振り回して悦に浸っているヒーロー被れに英雄の何が分かる!」

 

「いや、知らねえよ。だって俺歴史の成績そんなに良くないもん。常に赤点ギリギリだもの」

 

叫ぶ曹操。英雄の子孫として生まれてきてしまった使命と黄昏の聖槍などという重荷を背負わされ、戦う事しか許されない彼には、世界の敵になるという選択しか残されていなかった。

 

そんな彼の慟哭の叫びも、アオヤマは鼻をほじくりながら言い返す。人を小馬鹿にした態度、此方を見下した物言い、その全てが曹操の神経を逆撫でる。

 

許せない。英雄としての矜持を、誇りを、意地を、その全てを土足で踏みにじる目の前の男が許せない。そう思った時、アオヤマは鼻糞の着いた指を突きつけて再び言い返す。

 

「つーかさ、お前今言ったじゃん。これしかないって、それはつまりさ、他にやりたいことがあるって事じゃん」

 

「っ!?」

 

息が詰まった。何気ない唯の人間だった男の言葉、けれど曹操はその言葉に言い返す台詞など思い浮かばなかった。

 

「なーんか小難しい事くっちゃべってるけどさ、要するに俺は悪くないって言いたいだけなんだろ? 英雄の子孫? だから世界を混乱させる? なんだその理由。そんな言い訳、今時小学生でも使わねぇぞ」

 

「な、何を……」

 

「この際だから言っておくぞ、お前等のやっている事は俺と何ら変わりない趣味なんだよ。けどな、お前等のは諦めの趣味だ。惰性や妥協よりも尚質が悪い」

 

言葉が見つからない。何かを言い返さなければならないのに口が動かない。曹操の目は目の前の男の言動に釘付けとなっていた。

 

「俺も趣味でヒーローやってるけどよ。俺は本気だ。ガチでこの趣味をやり通すって決めてるんだ。前提からして負けてる奴が、俺に勝てると思ってんのか! ヒーロー舐めてんじゃねぇぞ!」

 

「────っ!!」

 

 衝撃が曹操を襲った。趣味。自身の全てを掛けて行ってきた英雄派としての行動が趣味だと断じられた曹操は、自身の足場が脆く崩れ去っていく錯覚を覚える。

 

この男は本気だ。ヒーローというまやかしを、幻想を、趣味としてだが本気で体現しようとしている。

 

ならば、奴の言う諦めで戦っていた自分達では、最初から勝ち目などある訳が──。

 

そこまで考えが至った時、曹操は首を横に振る。まだだ、まだ自分にはコイツを倒せる術がある。それ出さない内に負けを認めるのは彼自身の意地が許さなかった。

 

英雄の子孫としてではなく、この時代、この今生きる自分として、曹操はアオヤマを睨む。

 

「……だが、喩えそうだとしても、お前を倒すことを諦める訳にはいかない。お前がヒーローとして俺の前に立つというのなら、俺は英雄としてお前を倒す。黄昏の聖槍の極地“覇輝”でな」

 

「…………」

 

「槍よ、神を射貫く真なる聖槍よ。我が内に眠る覇王の理想を吸い上げ、祝福と滅びの狭間を抉れ。───汝よ、意志を語りて輝きと化せ───!」

 

曹操の口にする呪文と共に槍の先端が大きく開き、莫大な光が輝き出す。聖なるオーラ、尋常ならざるオーラの出量を前にアオヤマは静かに見据えた。

 

そして次の瞬間、光は割れた風船の様に爆ぜ、光の奔流が作られた結界内を覆い尽くした。眩い光、流石に直視出来なくなったアオヤマは腕で視界を遮る。

 

そして暫くして光が収まるのを知ると、アオヤマは再び辺りを見渡す。

 

「なんだぁ? 外に出たかと思ったらまた洞窟の中だ」

 

先程の東京の街中ではなく、そこが洞窟の内部だと知ると、アオヤマは先程の光景が結界で作られた幻であったと悟る。

 

洞窟の中にしては広々とした空間。サッカーが出来そうな程に開けた空間である所を見ると、どうやらここが奴等の修行場のようだ。

 

テロリストの癖に殊勝な連中だと、アオヤマは内心で呆れに似た関心を抱く。だが、目の前の男、曹操は信じられないと言った様子でアオヤマを見据えていた。

 

「バカな……何も、起こらないだと?」

 

「あ? なに、何か起こるものなの?」

 

 曹操の持つ黄昏の聖槍は遙か昔イエス・キリストを刺し抜いたとされる聖遺物の一つとされ、そこには今は亡き聖書の神の“意志”が内封されているという。

 

相対する者の存在の大きさに応じて多様な効果、奇跡を生み出し、相対者を圧倒する。それは打ち倒す圧倒的な力であったり、相手を祝福し心を得る。

 

因果をねじ曲げ、持ち主とその周囲に劇的な奇跡を授けるのが曹操の持つ槍。黄昏の聖槍なのだが……。

 

何も起こらない。確かに奇跡を起こす覇輝は発動したのに、その効果は一向に現れる気配は無い。どうして? そう思った曹操の脳裏に有る一つ、絶対に合ってはならない可能性を思いつく。

 

「まさか……勝てないというのか? 聖書の神の意志を以てしても、この男には……届かないというのか?」

 

「あ? 髪の医師? お前、髪のお医者さん知ってんの? ちょっと教えてくんない?」

 

惚けたアオヤマに対し、信じられない現実を前に曹操は先程よりも深い絶望に自分が落ちていくのをはっきりと実感した。

 

神。意思だけとはいえ奇跡の力を持った神の力が、この男には全くと良いほど効いていない。

 

理不尽、或いは不条理の塊と良い程の力を持つコイツには最早神ですら敵わないというのか?

 

神でもダメだというのなら、それこそ彼等……“無限”と“夢幻”の体現者である彼等しか対抗手段がないのではないか?

 

(人間でありながら無限と夢幻に割り込む? バカな、それこそ夢物語だ)

 

「おーい、さっきから何をブツブツ言ってんだ? どうでもいいからさっさと戻って……ん?」

 

 曹操が思考の海にトリップし、アオヤマがサルベージしようと声を掛けた時、それは起こった。

 

地震? 地中にいるから足下だけではなく、この空間全てが揺れていると思ったとき、一際巨大な揺れが洞窟内を揺り動かした。

 

そして同時に天地がひっくり返った様に上へと引っ張られ、地中に建設された基地が地表を巻き上げながら地上へと姿を現した。

 

その拍子に外へ投げ出されるアオヤマ達。気絶したジオルクやレオナルド、曹操達を抱えながら脱出したアオヤマはその際、信じられないモノを目の当たりにする。

 

「おいおい何だよアレ、天変地異? 隕石にしては大きくね?」

 

空に浮かぶ巨大な物体。国一つ覆った影の物体に流石のアオヤマも比較的大きなリアクションを見せた。

 

隕石。宇宙から飛来する未知の鉱物で構成されているとされる岩石を総じて呼称するが、空に現在進行形で落ちているソレは明らかにその規模を超えていた。

 

差し詰め衛星クラス。いっそ星とも呼べる巨大な物体の飛来の影響で凄まじい上昇気流が引き起こされ、天変地異とも呼べる現象が起こってしまっている。

 

気流に流され、草木や大木だけではなく、家屋までもが吹き飛ばされる超状現象に、近くの街から混乱の悲鳴がここまで聞こえてくる。

 

 曹操達を地面に下ろし、空を見上げる。こうしてはいられない。アオヤマは急いであの隕石を何とかしようと動くが……。

 

「は、ははは……成る程、聖書の神の遺志は俺の意志をそう受け取ったか」

 

「あ? 何一人で納得してるんだよお前」

 

背後から聞こえてきた渇いた笑い声を出す曹操にアオヤマの足がふと止まる。

 

「覇輝を使ったとき、俺は願った。コイツを倒したい。コイツを滅ぼすには何が必要で何をどうすればいいのかと。──そしたら返ってきた返事は『世界ごと滅ぼす』ときた。どうやら神の遺志はお前を世界ごと消さねば倒せないと察したらしい……」

 

「…………」

 

「これほどの巨大な隕石だ。当然三大勢力や各神話の神々も動いているだろう。世界は大混乱、本来とは違う形となったが、これで俺の役割も果たせたというものだ」

 

やりきった。そう言いたげな曹操の表情を一瞥した後、アオヤマは改めて隕石に向き直る。

 

こんな時でも怯え所か恐怖で動揺する姿も見せないアオヤマに曹操は呼び止めた。

 

「……行くのか?」

 

無駄だと、諦めろと、そう言った意味を込めて訊ねる曹操に、アオヤマは一言だけ返した。

 

「あぁ? 当たり前だろ。ヒーローがやらなきゃ誰がやるんだよ」

 

それだけを言い残し、アオヤマは来たときよりも強めに足に力を込め、隕石に向かって飛び立った。

 

「──────」

 

曹操はそんなアオヤマに仕掛ける事なく、動きもせず、ただ静かに落ちてくる巨大隕石を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジジイ! もう無理だって! 早いところ俺等もズラかろうぜ!」

 

「戯けた事抜かす出ないわい! 下にはまだ逃げ遅れの人間達が大勢いるんじゃ! 貴様も五大龍王の一角を張っておったんじゃろうが! もっと気張らんかい玉龍!」

 

「ンな事言ったって、これ隕石どころのレベルじゃねーよ! 完全に星だよ! 壊せる代物じゃねぇよ!」

 

 衛星軌道上。地球の重力がギリギリ及ぶ宙域で一人の小柄の老人と一等の巨大な龍が、言い合いながら落ちてくる巨大隕石に攻撃していた。

 

「壊すのでなく逸らすんじゃ! コレだけのデカブツ、仮に壊して砕けたとしても地上に多大な被害を出すのは明白。文句を垂れる暇があるなら死ぬ気でアレにブチかまさんかい!」

 

「クソッタレ! 随分龍使いの荒い闘勝神仏さんだ……よっ!!」

 

ヤケクソ気味に放たれる玉龍と呼ばれるドラゴンのブレスが、隕石に直撃する。街一つなら壊滅必死の一撃だが、今回の対象である隕石は文字通り桁が違った。

 

街を壊滅させる一撃も目の前の物体の前ではマッチの火にもならず、減速もさずに真っ直ぐ彼等に向かって落ちてくる。

 

闘勝神仏、初代孫悟空と呼ばれる老人も仙術の絶技で以て抑え込もうと試みるが、隕石に加護でも付与されているのか、抑え込む所か近付く事もままならず弾き出されてしまった。

 

「ったく、一体なんだってんだコレは。神の加護でも憑いてるのか……」

 

そこまで言い掛けた時、老人は何かを悟ったかのようハッとなり、今回の騒動の首謀者について目星が立つ。

 

と、その時だ。地上から飛び出してくる謎の物体に気付いた玉龍が孫悟空に向けて声を張り上げる。

 

「お、おいジジイ! 誰か来たぞ! 三大勢力からの増援か!?」

 

「バカ言うでないわ! 奴等は今頃全戦力で側面からの攻撃に集中しておる! 今更増援なんぞ……」

 

有り得ない。そう言い掛けた次の瞬間、初代の孫悟空と龍王の玉龍は目を疑う光景を目の当たりにする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───必殺、“ガチシリーズ”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ガチ殴り』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、大気は震え、次の瞬間には世界は停止し。

 

光が、地球上の空を覆い尽くした。

 

 

 

 

 




次回、ヒーローの一撃

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