ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

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今回、初めて主人公の名前が出てきます。

散々悩んでその結果、このような形になりました。


2撃目 夢と悪魔と幻と

 

 

 

 

 爽やかな朝。小鳥は囀り、朝日は街を照らし、一日の始まりを告げる穏やかな時間。今日もいつもと変わらない日常が始まる。

 

────そう、思われていた。

 

 

“ドドォォォォッ”

 

 

大地を震わせる程に巨大な轟音が、街中に轟いた。

 

何事だ!? 普段の目覚ましではなく尋常でない轟音を耳にした男は、眠気に支配された意識を一気に覚醒させて寝床から起きあがる。

 

この腹の底にまで響きわたる音は、地震や事故などではない。もっと大きく、それでいて悪意に満ちたモノだ。

 

 何かイヤな予感がする。そう思い玄関の扉に手を掛けた─────その瞬間。

 

「っ!?」

 

突如、まだ開けてない扉から黒い手の様なモノが突き出て、男の顔を鷲掴みにする。巨大な手だ。しかも触れた感触から察するにこの手の力は人一人の頭など簡単に握り潰せるだけの腕力を秘めている。

 

ヤバい。その次の一瞬に確かに恐怖を感じた男は黒い手を払う為に腕ごと殴り飛ばす。───が。

 

「がっ!?」

 

返ってきたもう一振りの腕に顔面を殴られ、男は部屋の家電製品を巻き込みながら部屋の壁をぶち破られた。

 

外に放り出され、殴られた威力に堪えながらも、どうにかして体勢を整えた男は住居にしていたアパートを見て愕然とした。

 

「お、俺の家が………」

 

物の見事に開いた自分の部屋を見て、男は軽く絶望した。これでは風通しが良すぎて風邪を引いてしまう。ダンボールで応急処置をすれば大丈夫か? 業者の人に連絡しなければ等々。

 

 だが、そんな平和ボケした考えをする暇は男には無かった。何故なら、彼のすぐ背後に自分を殴り飛ばした黒い影が迫っていたからだ。

 

「────!?」

 

振り抜かれた拳を男は両腕で防御する。しかし、完全に防いだ筈の拳は、男を防御の上からお構いなしに振り抜き、男を近くにあった陸橋の壁へと叩きつけた。

 

「ぐは、かは!」

 

地面に落ち、跪いた状態から何とか立ち上がった男は、襲いかかってきた襲撃者に問いた────何者だと。

 

そしてそれ以上に、男の胸中は一つの感想に埋め尽くされていた。

 

(……つ、強い)

 

目の前に佇む黒い影、その一人一人が角や鋭い爪を持ち合わせており、目は赤く、妖しく輝き、何より蝙蝠の様な黒い翼を生やしていた事から、目の前の集団が人間で無いことは男でも容易に想像できた。

 

「何だとは失礼だな。我々こそがこの星の真の支配者だというのに───」

 

ドクン。いつの間にか隣接していた二体の怪物に男の心臓は高鳴った。

 

「我々は貴様等の言うところの悪魔────来るべき戦いに備え現世へと進出する事にしたのだが……お前達人間は数を増やしすぎた。堕天使や天使に取り込まれるのも面倒だから、貴様等人間は絶滅する事にした」

 

ドクン。自らを悪魔と名乗る怪物の言葉に、男の心臓は再び高鳴る。緊張と焦りが男の思考を染め上げていた。

 

どうする? 目の前にいるコイツ等は一人一人がとんでもなく強い。恐らくは自分と同レベルの連中が他にももっといることだろう。

 

それに────。

 

「既に六割近くの人間は土に還った。もうじき天界も動くだろう。どのみちお前達人間は我々の戦いに耐えられるだけの力はない」

 

例えどんな敵が相手であろうと、自分のやるべき事、やりたい事はあの日から変わらない。

 

「しかし驚いたな。殴っても死なない人間は貴様が初めてだ────だが」

 

故に。

 

「地上は我々悪魔がいただく……消えろ!」

 

男は、自身の信念に従い────正義を執行する!

 

「「「っ!!??」」」

 

 その光景を目にした時、悪魔達は驚愕し、戦慄した。背後からの必殺の威力を込めて放った拳は男には当たらず空を切る。

 

そして同時に、横に僅かにズレた事で回避した男は、すかさず裏拳で悪魔の頭を粉砕。突如やられた同胞を前に全員が一斉に動き出す。

 

「貴様ぁっ!!」

 

一体の悪魔の振り抜いた拳が、男の顎を跳ね上げる。やはりとんでもない力だ。体を仰け反らせながら男は自分が相手にしている脅威の力を改めて実感する。

 

だが、やられてばかりではいられない。仰け反った力を反対にバネとして利用し、勢い付けて悪魔の顔面を殴りつける。

 

頭部が吹き飛び、またもや同胞がやられた事に怒りを募らせる悪魔の軍勢。もはや彼等の目には目の前の男がただの人間には映らなくなっていた。

 

「このぉっ!!」

 

三体の悪魔が一斉に飛び出す。最早種族としての体面など言っている場合ではなかった。この人間は危険だ。ここで倒さなければ後々厄介な存在になる。そう確信した三体の悪魔は背後から同時に男に向かって拳を振り上げるが……。

 

 その行動の一部始終を読んでいた男は、浮き足たった三体の悪魔の動きを見逃さなかった。

 

「「「っ!?」」」

 

突然の浮遊感に戸惑う悪魔達、男に足払いをされ、バランスを崩された所へ……。

 

「ダラァッッ!!」

 

男の渾身の籠もった一撃を叩き込んだ。三体纏めて撃ち抜かれた悪魔達は、幾つもの建物を貫通して吹き飛び、漸く止まった頃には跡形もなく粉々になっていた。

 

「ハァァァァァッ!!」

 

男は興奮していた。突然起こった日常の崩壊。突然襲ってきた未知の怪物。それらを前にして男は……しかして胸の高鳴りを確かに感じていた。

 

「ぶっはっ!?」

 

悪魔達に蹴り飛ばされ、男は吹き飛び、その際に舞い上がった瓦礫の山に埋もれる。通常なら、今の一撃で全て片は付いた。───しかし。

 

「ッハァーーーーーッ!!」

 

男は立ち上がった。瓦礫の中からボロボロになりながらも、その瞳に強い光を宿して悪魔達と相対した。何故男は立ち上がる? 目の前の得体の知れない人間に悪魔達はふとそんな疑問を抱いた。

 

「俺は負けない! この地上は俺が守る!」

 

だが、その一言に悪魔達はそんな疑問などどうでも良くなった。目の前の人間は危険だ。故に殺す。そんな単純な殺戮衝動に駆られながらも、悪魔達はこの人間を脅威と認めた。

 

 そこから先は、まさに死闘だった。何千何万の拳の弾幕に晒されながら、死を前にしながらも男は屈せず、戦い続けた。

 

(……なんだ、この気持ちは?)

 

ドクン。心臓の鼓動が高鳴る。強くなって久しく忘れていたこの感覚。

 

殴り殴られ、倒し倒され、それでも目の前の“悪”と戦う事に、男は言葉では表せない高揚感を抱いていた。

 

(あぁ、そうか。────そうだった)

 

 やがて男は、悪魔の屍の上に一人立っていた。肉体はとうに限界を迎え、マトモに動かせることも困難だろう。しかし、そんな満身創痍の肉体とは間逆に、心は晴れ晴れとしていた。

 

そんな彼の前に。

 

『ほう? まさか我が同胞を全て打ち倒す人間がいたとは……少々見くびっていたようだ』

 

頭上から聞こえてくる迫力のある声に顔を上げると……。

 

『ならば次はこの我、悪魔王ルシファーが相手をしてやろう』

 

空を割り、神々しくも禍々しい光を放つ悪魔達の親玉がいた。

 

─────肉体も既に限界。マトモに戦えるだけの体力は残されていない。けれど、男の気力はこの上なく充実していた。

 

何故なら。

 

(これが俺の、求め─────)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジリリリリリリリリンッ!!

 

 

「…………」

 

けたたましく鳴り響く目覚まし時計の音に、男は目を覚ます。ゆっくりと布団から起きあがり、今まで自分の見ていたモノを噛みしめると……。

 

「夢オチかよぉぉぉっ!!」

 

今時使い古されたオチに、男は一人嘆くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私立駒王学園。数年前までは女子校だった為、現時点に於いても男子よりも女子の方が割合が多いこの学校。

 

三学年では実に二対八というちょっとしたハーレム気分が味わえる学校だが、余りにも女生徒が多い為、男子生徒は日夜肩身の狭い日常を余儀なくされている。

 

そんな環境で今年三年生となった男は登校して自分のクラスに入り、席に座ってHRの時間まで待った。

 

そこへ、一人の女生徒が男の下へと歩み寄ってきた。

 

「あら、今日は遅刻しないできたのね。アオヤマ君。良い心掛けですよ」

 

「あぁ? 何だ会長か。朝から小言か? 勘弁してくれよ。俺、今日は朝から憂鬱なんだ」

 

 男────アオヤマと呼ばれた男は隣で立つ眼鏡女子に半目になって答える。会長と呼ばれた女生徒はズレた眼鏡をクイッと掛け直しながら、改めて訊ねてきた。

 

「憂鬱って、また例の夢の話かしら? 私としては貴方の見る夢の話はとてもユニークで面白くて好きよ? 以前は確か……ドラゴンを倒したとか言ってたわね」

 

 会長の語る夢はアオヤマにとって事実でしかないのだが……まぁ、現代社会での日本でドラゴン退治と風潮を流しても、誰一人信じないのが現実である。

 

男としても面倒という理由で訂正を促してはいないが、それでも決めつけた風に言われれば少しカチンと来るのが正直な話である。

 

だが、目の前にいるのはこの学園の長である生徒会長だ。一年の頃から何かと世話になっているアオヤマとしては頭の上がらない相手でもあった。

 

 頬杖をつきながら視線を窓際に移し、視界を青空に満たしながらアオヤマは今日見た夢の話を口にした。

 

「……悪魔」

 

「え?」

 

「悪魔集団とその親玉とガチンコバトルする夢を見た」

 

 自分で言っておきながら妖しい話である。これまで様々な怪物を倒し、とうとうドラゴンまで沈めたアオヤマだが、悪魔と呼べる存在とは今の所一度も邂逅したことはない。

 

まぁ、ドラゴンだっているのだ。探せば悪魔の一人位どっかの街にいるだろうと、高をくくっていたアオヤマなのだが……。

 

「…………会長?」

 

生徒会長からは何の反応もなかった。普段ならここでクスクスと笑ったり夢の話の感想を言ったりするのだけれど、今回はそれがない。今までと違う反応に怪訝に思ったアオヤマはどうしたのだろうと思い、振り返る。

 

「…………え? そ、そうですね。確かに今回の話は少しリアリティに欠けますね。いつもならもっとリアリティがあるというか、現実味がある話だったのですが……」

 

「まぁ、夢の話だからな」

 

 何だか呆けていた様にも見えた生徒会長だが、まぁ、別に何ともなさそうなのでスルーする。

 

それはそれとして、アオヤマの語る話はまごうごとなき真実だが、彼自身他は全部事実……とは言わない。何故なら言った所で誰も信じないというのが大きな理由だ。

 

実際、一年の頃にその事を正直に話したら、周りから案の定孤立した。まぁ、既にその頃から教師達からは目を付けられていた為にクラスからは余計な干渉はなかったから、イジメとか面倒な事は起きなかったから良しとしていたが。

 

 そんな頃から目の前の生徒会長からは何かと世話になっている。“ある理由”で遅刻を頻繁にしていた為、留年の危機にあった自分を何度も助けてくれた恩人でもあったし、宿題とかよく写させて貰っていた。

 

手間の掛かる人、というのが彼女の抱くアオヤマの人物像だろう。彼女自身も生徒会長としての仕事もあるだろうに……ホント、有り難い話である。

 

 暫く委員長と談笑を楽しんだ後、HR開始の予鈴が鳴る。

 

「────っと、それじゃあ私も自分の席に戻るわ。アオヤマ君もあまり居眠りしちゃダメよ?」

 

生徒会長の助言に分かったと簡単に返す。こうして今日も彼の一日が始まるのだが。

 

「あ、そうそう。放課後に先生方から話があると思うけど、一応言っておくわね。今日から暫くの間、学校が終わったらすぐに帰宅しなさい」

 

「?」

 

去り際に言われたその言葉は、忠告というよりも警告に聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜。草木が眠る深夜にてアパートの屋上に佇む一人の男がいた。

 

影の正体は言うまでもなくアオヤマだ。その身を手製のヒーロースーツに身を包み、手には赤いグローブを嵌めて、肩から背中には真っ白なマントが夜風によって靡いている。

 

生徒会長の話の通り、放課後は部活もしないで速やかに帰宅するよう担任の教師から言い渡された。何でもここの所通り魔らしき人物がいるためここ数日は部活動を中止し、速やかに帰宅するよう呼びかけているらしい。

 

しかも通り魔は深夜に徘徊する為、被害にあった人物は現在、警察に捜索願いを出されているという話だ。

 

そう言えばニュースで話題になっていたなと、アオヤマは夜風に当たりながら一人こぼす。

 

「まぁ、そんな奴がいるなら、放っておく訳にもいかないよな」

 

 趣味で始めてはいるが、実際に被害が出ているなら元凶を見付けて潰す。それが趣味として始めた“ヒーロー”としての自分の責務である。

 

「─────行くか」

 

正義執行。自分の目的を果たすため、ヒーローアオヤマは夜の街を跳躍した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言っても、犯罪者の根城ってこういう所が多いのはお約束だよな~」

 

 街を駆け出して数分、アオヤマは自らの直感に従い、町外れにある廃工場の跡地に来ていた。

 

犯罪者というものは自然と人気のない所に集まる。加えて日中でも人が寄り付かない場所といえば、自ずとそれは絞られてくるもの。

 

今はもう使われなくなった工場。その扉を開けて中に入ると、そこには血の臭いがイヤと言う程充満していた。

 

ビンゴ。中に入った瞬間確信を得たアオヤマは犯人はいないかと辺りを見渡す。と、視界の端に何か蠢くのが見えた。何かと思い一歩歩み出ると……。

 

『クヒヒヒヒ、キタキタキタキタぁ! 人間が来たぁ! 美味そうな人間がまた来たぁ!』

 

どうやら、最近の犯罪者というものは怪物も類に入るらしい。目の前に降りたった上半身は女、下半身は巨大な獣のような脚を持った怪物。

 

そんな怪物を前にして。

 

「なんか、最近多くなってきたなこういうの」

 

と、割と落ち着いた様子で眺めていた。

 

『お前の肉は美味いのかなぁ? お前の血は甘いのかなぁ? あ、でもなんか禿げてるから不味そうだな』

 

「おいコラァ、何故今標準語になった? さっきまでの化け物口調はどこいった?」

 

まさか怪物にまで禿げてる事を指摘されるとは、流石に思いもよらない反撃にアオヤマの頭には苛立ちの筋が浮かぶ。

 

『まぁいい。お前はこの悪魔、バイサー様が喰らってやるぅぅぅ。感謝しろぉぉ』

 

「な、何!?」

 

バイサーと名乗る怪物は、自らを悪魔と呼んだ。突然飛び出した名称にアオヤマはここにきて初めて動揺した。

 

(まさかホントに悪魔がいたとは……しかもあの翼、あれって夢に出てきた連中と同じ形をしてる!?)

 

よく見れば化け物の背中には夢でも悪魔と名乗っていた者達と全くといっていいほどの類似した翼を広げていた。

 

全く予期せぬ事態に、アオヤマはプルプルと震えながら俯いていると。

 

『なんだぁ? 今更恐ろしくなったかぁ? だがもう遅い。お前の肉体は骨の欠片も残さず、私が喰ってやるぅぅ』

 

アオヤマの姿を怯えているものだと思ったバイサーは、その口を大きく開けて彼に迫ると……。

 

「ふ、フフフフ……」

 

『?』

 

突然の微笑。遂に錯乱したかとバイサーは眉を寄せるが……。

 

「お前達の好きにはさせない! 地上は、俺が守る!」

 

『なっ!?』

 

「さぁ、やろうか!!」

 

アオヤマはこれでもかと言う程に目を輝かせ、拳を握って駆け出した。

 

『図に乗るなぁ! 弱小種族がぁぁっ!』

 

対するバイサーは、持てる力の全てを以てアオヤマの排除にかかる。

 

嗚呼、今朝のは正夢だったのか。まさかの悪魔との邂逅にアオヤマは胸を躍らせながら、バイサーに向かって拳を見舞った。

 

 

そして次の瞬間、夢は夢でしかないのだと、アオヤマは悟る事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、数時間後。

 

 

「……あの、部長?」

 

「何? イッセー」

 

「はぐれ悪魔を……倒しに来たんですよね?」

 

「ええ、そうよ」

 

「これ、死んでますよね?」

 

「ええ、死んでるわね」

 

「というか、粉々ですわね」

 

「「………………」」

 

「どうなってるのよ一体!!」

 

「ぶ、部長、落ち着いて下さい!」

 

「まさかの肩透かし、部長、ドンマイ」

 

「小猫ちゃん、シッ! あと親指立てない!」

 

廃工場に残された残骸を見て、とある一行がそんなやりとりをしたとかしなかったとか。

 

 

 




原作組とは序盤、そんなに関わりません。

本格的に絡むのは三巻辺りからになりそうです。

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