ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

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遂に原作ガロウ編終結!

今後もワンパンマンには目が離せないぜ!


28撃目 人のコンプレックスは刺激しない

 

 

 

 

 ディオドラ=アスタロト。そう呼ばれる悪魔の青年は微笑みを浮かべ、アーシアに手を差し伸べていた。

 

場の空気が一気に凍り付く。同席しているアザゼルも静かにディオドラを見据え、生徒会の面々も静かに事を見守ろうと静観に徹している。

 

対してリアスとその眷属達、特にイッセーは今にも襲いかかりそうな様子で睨み、リアスはアーシアを自分の後ろに下がらせてディオドラを牽制するように見据えた。

 

木場や小猫、朱乃とゼノヴィアも比較的落ち着きは保っているが、ディオドラの挙動を注意深く観察している。

 

そんな張り詰めた空気の中、唯一人間であるアオヤマはいきなりの展開についていけず、ある人物に声をかけた。

 

「なぁギャスパー君。あそこの金髪坊ちゃんは誰なの? そして何故こんな剣呑な空気になってるの? ちょいと教えてくれない?」

 

「え? は、はいぃぃ。あ、あの人はディオドラ=アスタロト様といってアスタロト家の次期当主で僕たちの主のリアス=グレモリー様と同期の悪魔なんですぅぅぅ。そしてそんな人が何故ここにいるのかはディオドラ様がアーシアさんに結婚を前提にしたお付き合いを申し込んだらしいからなんですぅぅぅ!」

 

 ギャスパーと呼ばれる見た目は麗しい女の子は一呼吸で事情を説明すると、持参した物と思われる段ボールへと身を隠す。

 

この二人、先の夏休みの時に冥界で顔合わせをしたのだが、アオヤマの特徴的とも呼べる頭部を見ると、何故か苦手意識を強く持ち、あまり関わらないようにしていた。

 

後から聞いた所によると、日の当たる所では出来るだけ会いたくないと分かり易い具体例を挙げている。

 

まぁ、実際光ったり反射したりするので吸血鬼とのハーフであり、悪魔でもあるギャスパーにはある意味天敵とも呼べた。

 

何処がとは聞いてはいけない。絶対に。

 

言われた時こそ怒りはしたが、いつまでも引き摺るつもりはないのでアオヤマは怒ってないぞと段ボールに隠れるギャスパーに声をかけるが、本人はこの空気が怖いと言って一向に出てくる気配はない。

 

「リアス。僕はただアーシアと共に幸せになりたいだけなんだ。彼女を譲ってくれるのなら僕も出来る限りのお返しをしよう。トレードの際の駒達も見繕ってきた。此方のカタログにまとめてきたから一度目を通して──」

 

「お断りするわ」

 

 懐からカタログのメニューを出そうとするディオドラをリアスは即座に断る。一蹴され、一瞬だけ呆然とするディオドラだがすぐに微笑みの仮面を被ってリアスに問う。

 

「それは彼女が稀少な神器の持ち主だからですか? それとも、彼女自身が大事だからですか?」

 

「両方よ。アーシアは確かに優れた力を持ってるけれど、それ以上に私はこの子を愛しい存在だと想っているの。アナタの出そうとするカタログを目にしたくないのはそういう態度事態アーシアに知られたくないからよ」

 

「リアスお姉さま!」

 

ディオドラの質問を即座に返すだけではなく、アーシアが自身にとってどれだけ大切な存在だかを言い放つリアスに、イッセーは感激し、ソーナはフッと笑みを零し、アーシアに至っては感極まって涙ぐんでいる。

 

アオヤマも堂々した振る舞いのリアスに関心していた。

 

「……そう。けれど僕は諦めないよ。アーシア、今の僕達には障害が多いけれど、僕は必ず君を手に入れて幸せにしてみせるよ」

 

だが、それでも諦めないとディオドラは再度アーシアに言い寄る。しつこいとさえ思われる彼の言動にいい加減鬱陶しくなり始め、イッセーはより強い嫌悪感を示し、同室にいるソーナ達ですら眉を顰めてしまっている。

 

まるで出来の悪い一人舞台を見せられているようだ。そんな風に誰もが思ったとき、その空気に耐えられず、アオヤマは一人挙手をする。

 

「あのー、すみません。そろそろ外が暗くなってきたので、いい加減帰ってもいいですか?」

 

まさかの帰宅宣言。確かに外は日が傾き、夕暮れ時となっているが……今言うべき事ではないだろうと誰かが内心思った時、空気をぶち壊されたディオドラは僅かに悔しげに口を強く結ぶ。

 

「───っ、ああ、アナタは確かアオヤマさん。でしたっけ? アナタの事は冥界でも噂になってますよ。人間の癖に弁えない奴だと聞いていますよ」

 

「あ、そう? で、アザゼル。俺帰っていい? いい加減帰ってミルたんと相談したいんだけど……」

 

「そうだなぁ、流石に今からあの話をするのもアレだし……わかった。帰っていいぞ。済まなかったな」

 

「んじゃ」

 

ディオドラの目に見えた挑発と陰険な口振りにアオヤマは気にする素振りもなく、寧ろ眼中にないとばかりにアザゼルと会話をすると、鞄を片手に部室を後にする。

 

その余裕ぶりが気に障ったのか、ディオドラの内心は怒りで燃え上がる。そして、次の瞬間。

 

「あぁそうそう、思い出しました。アナタの頭を見てたら人間界の娯楽道具と瓜二つなのを思い出しました。まるでボウリングの様な頭をしているんですね。アナタは」

 

時が止まった。ディオドラの苦し紛れの悪口にその場の全員が地雷原に身を置いたディオドラをやっちまったといいたげな表情で彼を見る。

 

その凍り付いた空気にディオドラは戸惑う。確かに今自分は暴言を言ったが、それでも唯の悪口レベル。改めて思い返せば口にした自分が恥ずかしくなるような幼稚な内容だ。

 

それなのに氷点下を下回りそうな冷たい空気が一向に改善されない。と、そのときだ。

 

「…………おい」

 

ドクン。地の底から響き渡ってきそうな低い声に、ディオドラは心臓が掴まれた錯覚を覚える。極大なプレッシャー、先ほどまで唯の人間にしか見えなかった男は魔王の様な圧力を身に纏い。

 

「お前、今俺の頭をなんて言った?」

 

その阿修羅すら凌駕する面を直視したディオドラはその迫力に気絶。後に彼は二度とアオヤマには関わるなとある人物に強く進言するが、今更後の祭りであるのはこの時の彼はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ったく、初対面の奴に向かってボウリングとか。悪魔はそういう挨拶が流行っているのかよ」

 

 自宅(仮)に向かって帰宅途中のアオヤマは先程のディオドラの自身に向けた一言について不機嫌な様子で思い出す。

 

幾ら想い人に拒絶されているとはいえ、他人に八つ当たりをするのは良くないとアオヤマは思う。おかげであの後は怒ったアオヤマに戦慄を覚え、戦々恐々とした様子の面々に怯えられながら帰る事になってしまった。

 

唯一アザゼルだけが笑っていたが、それが引きつった笑みだと言うことはアオヤマは知らない。

 

 そんなに自分の顔は怖いだろうか。先程のディオドラの事は頭の隅に追いやり、自分の顔を一度確認した方がいいのだろか? そんな事を考えていると。

 

「あ、アオヤマ君。お帰りなさいにょ」

 

「ただいまミルたん。悪いな、呼び出し食らって遅くなっちまった」

 

アパート跡地に帰ってきたアオヤマ。迎えに来てくれたミルたんに遅くなった事への謝罪すると、ミルたんは気にするなといった様子で首を横に振る。

 

「それよりもアオヤマ君。今日はアオヤマ君にお客様が来てるにょ」

 

「客?」

 

客と呼ばれる者に心当たりがないアオヤマは恐る恐るテントの方へ顔を覗かせると……。

 

「お帰りなさいアオヤマ先生!」

 

筋骨隆々とした青年悪魔、サイラオーグ=バアルが直立不動でそこにいた。

 

「お帰りなさいじゃねぇよ先生言うな何しにきやがった帰れこの野郎」

 

ボウリング呼ばわりされたアオヤマはこの日、いつもより辛辣だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。英雄派は消えたか。……まぁいい、目障りな人間がいなくなった程度で俺のやるべき事は変わらん」

 

「おりょりょ? 随分余裕そうだねー? 霧使いの坊ちゃん達がいないと結構キツいんでないかい?」

 

「なに、足らない力は補えばいい。何せ“無限”がいるのだ。恐れるモノはなにもない」

 

「ふーん。ま、僕ちんはもう暫く高見の見物させて貰うよ。そんじゃ、頑張ってねー」

 

「ふん。道化が、相変わらず何を考えているのか分からんが……それよりも、だ。おい」

 

「? 我を呼んだのか?」

 

「そうだ。貴様には次の作戦の際その力を奮って貰う。例の“ヒーロー”とやらが出てきた際には……」

 

「分かった。我が……消す。────だが」

 

「分かっている。我が野望が叶いし時は貴様の願いも聞き入れよう」

 

「…………」

 

 

ただ薄暗い空間の中。常闇よりも深い黒髪の少女は、ヒーローと呼ばれる者の写真を手に……。

 

「あ、あお、あお…………ハゲヤマ」

 

間違った呼び名を記憶してしまっていた。

 

 

 




次回、弟子

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