ガロウ編が漸く終結し、これからの展開にワクテカな作者がその場のテンションで書いたものです。
尚この話には本編とは何の関わりもないので、その点だけを注意してお読み下さい。
とある屋台。街の喧騒から離れ、電車の通過音だけが響く陸橋の下にその屋台はあった。人気もなく、店としてちゃんと営業出来ているのかと疑いたくなるくらい人気のないその場所。
そこへ一人の青年が屋台の暖簾を潜り、屋台のオヤジと対面するように席に座る。
「おっちゃん、ガンモちょうだい」
「あいよ」
青年の注文にオヤジは慣れた手際でガンモをよそい、青年の前に置く。熱々のガンモに青年は箸を取ってつつこうとした時、隣から年若い少年の声が聞こえた。
「おじさん、ちくわと昆布、あと卵ちょうだい」
「あいよ、ちょっと待っててくれな」
少年はオヤジに注文頼むと青年の隣に座り、注文の品を受け取る間隣を見る。青年も少年の視線に気付いたのか、彼の方へ視線を向けると。
「お久しぶりッス。先輩」
「おお、お前か、久しぶりだな」
少年は青年に挨拶すると、青年も親しげに挨拶を返した。
「最近顔を見せに来なかったな。そっちでなんかあったのか?」
「あったと言えばあったんですけど……先輩、この世に天使とか悪魔がいるって言われたら──信じます?」
「そりゃその時の状況によるかもだけど……え、なに? そっちにはいるの?」
青年の質問に少年はコクンと頷き肯定する。その様子に一瞬呆けてしまう青年だが次の瞬間には我を取り戻し、注文したガンモを頬張っていた。
「しかも堕天使とかドラゴンとか、果てには神様とか出てくる始末で正直色々お腹一杯なんですよねー」
「へー。けど、退屈はしなさそうじゃん」
「確かに退屈はしませんね。けど、その殆どの連中が一撃で終わってしまうんですよ? しかも中には聖剣とか高価な代物を武器として扱う連中がいるもんだから戦う此方としてはいつもハラハラしてるんですよ」
若干愚痴の論点がズレ始めた少年だが、青年は青年で何か思うところがあるのか、少年の愚痴に共感したような口振りで口を開く。
「あー、何となく分かるな。俺も以前同じヒーローの奴の刀を折っちゃってさー、暫くは請求されたりしないかビクビクしてたよ」
「確か……閃光の何とかさん、でしたよね?」
「そうそう、そりゃ苛ついた衝動でど突いた俺も悪かったけどさ、岩に挟まった腕を出してやるために協力したのに、実際は細い刀の為に働かされたんだぜ? しかも終始上から目線。なんで同じヒーローなのにそんな態度なんだって思ったわ」
「先輩の所のヒーローって、一つの役職みたいな扱いなんですよね。ランク付きの」
「そうなんだよなー、ヒーローにランクもクソもねぇのになんで皆そんなのに拘ってんのかね」
「そりゃ生活が掛かっているからじゃないんですか? ランクが上がれば給料も上がったりするんでしょ?」
「まぁ確かに俺もB級ってのに上がってからは給料みたいなのを貰ってるけどさ、なんかこー……俺が思ってたヒーローとは違うんだよなぁ」
いつの間にか愚痴の言う者と聞く者の立場が変わっているが、そんなものはお構いなしに二人の会話は続く。
「先輩の所も色々大変そうッスね」
「そういうお前はどうなんだよ? 悪魔やドラゴンがいるって事はそれなりに強い奴はいるんだろ?」
「さっきも言ったスけど、今の所殆どの連中が一撃で終わっちゃうんスよ。最近唯一チョロッと本気出せたのは隕石相手だったし……」
「へぇ」
「いや、別にそこら辺は構わないんですよ。戦闘狂のつもりはないし、不満と感じるモノはありません。ただ……」
「ただ?」
「何で悪魔とか堕天使の方がカッケェ鎧やら呼び名があるんだよっと少しばかり思う所はありますけどね」
乾いた笑みと共に吐き出される不満、これがここに来た理由かと、青年はこの時察した。
「大体、なんで悪魔がドラゴンの籠手とか宿してんだよ。何だよ赤龍帝って、何だよ白龍皇って! 殲滅姫とか雷の巫女とか、聖剣とか魔帝剣とか、そんなカッケェ名称貰ってんのに一撃でやられてんじゃねぇよ! 虚しくなるだろうが!」
「ホラホラ落ち着け。酒呑んでねぇのに酔ってんじゃねーよ」
肩をポンポンと叩いて落ち着くよう促す青年に少年は落ち着きを取り戻して青年に謝罪する。
「……すんません。熱くなっちゃって」
「いや、お前の気持ちも分かるよ。俺もヒーロー名が“ハゲマント”で通っているから」
「俺も、テロリストから妖怪ハゲマントって呼ばれてます。ナマハゲみたいな扱いで……」
「……呑むか?」
「……いただきます」
お互いの苦悩を分かち合う二人。青年はオレンジジュースの入った瓶を手に、少年は開いたコップを片手に今日は飲み明かそうと心に決めた。
と、その時だ。遠くの方から聞こえてきた爆発音と悲鳴に二人の動きがピタリと固まる。
「きゃぁぁぁ! 化け物よぉぉ!」
「こっちは馬鹿でかいドラゴンだぁぁぁ!」
「誰かぁぁぁ! 助けてぇぇぇ!」
街から離れた位置であるにも関わらずここまで届いてくる悲鳴。尋常じゃない事態であると察した二人は手に持った瓶とコップを置いて店から出て行く。
「おっちゃん、旨かったぜ」
「はふ、はふ、おじさん、代金ここに置いとくからな」
一度におでんの具を頬張った少年は熱そうに口を動かしながら代金を置いて青年と一緒に屋台から離れ、次の瞬間にはお互い“ヒーロー”を強調するスーツとマント身に纏っていた。
「それじゃいきますか」
「おう」
『──正義 執行──』
その身にヒーローとしての力を宿した二人は音もなく姿を消し、悪と戦うために戦場に赴く。
誰かの為ではなく、自分の為、己一人の欲求を満たすためにヒーロー二人は今日も己の正義を執行する。
“ドゴン”“ズドン”
戦場に二つの打撃音が街中に響いていった。
次回もハイスクール ワンパンを宜しくお願いします。