ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

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33撃目 ヒーロー(裸)と無限(幼女) 決着

 

 

 リアス=グレモリーとディオドラ=アスタロト、両者とその眷属達で行われる筈だったレーティングゲームは、禍の団の乱入によって破綻される。

 

禍の団と通じていたディオドラの手引きの下、大勢の旧魔王派の悪魔達に囲まれ、一時は絶対絶命の危機に瀕していたリアス一行。そんな彼女達を助けたのは北欧の主神、オーディン。

 

オーディンの助力により、窮地を脱したリアス達は連れ去られたアーシアを取り戻すべく、ディオドラの後を追い、本来レーティングゲームの会場となる筈だった神殿の中へと突入。様々な障害や敵を打ち倒し、遂にアーシアのいる最深部へと到達したのだが……。

 

「よくも、よくもアーシアを殺したわね! シャルバ=ベルゼブブ!」

 

「ふん、気安く俺の名を口にするなよ、忌々しいサーゼクスの妹よ」

 

 宙に浮かぶ悪魔の翼を広げる男にリアスは涙を滲ませ、殺意を抱きながら睨む。

 

男の───シャルバの放つ光の一撃にアーシアは消滅。姿は無くし、影も形も見あたらない、眷属の……家族同然と思っていたアーシアの突然過ぎる死に、リアス達は一瞬感情と思考がマトモに働かず、次の瞬間には溢れんばかりの怒りと殺意が込み上げ……。

 

シャルバに向けて躊躇無しの一斉攻撃が加えられた。リアス達は強くなった。それこそ、以前非公式に開かれたライザーと呼ばれる元婚約者とのレーティングゲームの時より、格段と強くなった。

 

だが、相手は魔王ベルゼブブの血を継ぐ者。その力は強大で、唯でさえ強力だと言うのに、シャルバはある方法で己の力を倍増させていたのだ。

 

そんな奴の強さにリアス達の攻撃は通らず、このまま殺されるかと思ったとき、リアスの兵士である兵藤一誠に変化が起こった。

 

『覇龍』 怒りに呑まれ、赤龍帝の籠手の禁業であるこの術を使い、シャルバを撃退。その凄まじさに圧倒され、敵を倒しても尚暴れ回る一誠にリアス達は手を拱いた時、彼等は現れた。

 

禍の団の中でも独立された部隊とされる集団、通称ヴァーリチーム。次元の海を探索していた所、偶々アーシアを発見、保護した彼等は覇龍を使用した一誠のオーラを感じ取り、彼等の協力の下、一誠の無力化に手を貸した。

 

その手段の内容はリアス=グレモリーの自尊心の為にはっきりとは説明できないが、一誠限定に通用するであろう策を用い、見事無力化を成功。覇龍も解かれ、気絶はしたものの命拾いした一誠と共に後はこの場を去るだけとなった。

 

しかし……。

 

 

“ドッゴォォォォォッッッ”

 

 

突如外から聞こえてきた轟音。同時に感じる尋常ならざるオーラにリアス達を始め、ヴァーリ達すら震えていた。

 

「な、なんなのこの巨大なオーラは!?」

 

「この力……アルビオン、これはまさか」

 

『あぁ、間違いなく奴だ。無限神龍、ウロボロスドラゴン────オーフィス』

 

 アルビオンから静かに語られるその名にその場にいる全員が凍り付く。

 

ここに禍の団のトップであるオーフィスがいる。しかもただの様子見ではなく、明らかに敵意を持ってこの戦場に来ている。

 

このままでは外にいる兄達が危ない。だが今回の戦いで既に限界な自分達ではどうしようも出来ない。

 

外の状況が分からず、時間だけが過ぎていく中、ヴァーリチームの筆頭、ヴァーリ=ルシファーが動き出す。

 

「どうする気だヴァーリ。まさかオーフィスに仕掛ける気じゃないだろうな?」

 

「まさか、今の俺では瞬殺も良い所。今はまだ手を出さないさ……ただ」

 

「ただ?」

 

「見てみたいのさ、オーフィスと彼……ヒーローアオヤマの頂上決戦を」

 

呼び止める美猴に不敵な笑みと共に応えると、ヴァーリは二人が戦っているであろう外へと掛けだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空気が凍り付く。広大な戦場に満ちた極限にして極大のプレッシャーにロスヴァイセは勿論、魔王や神、龍王や堕天使総督すら今の場所から下手に動けず、傍観する事しか出来なかった。

 

戦場に穿たれた巨大な大穴を挟んで並び立つ二人、その二人の様子に魔王達は勿論戦場全体が静寂に包まれていた。

 

全裸で仁王立ちする変態……もとい、自称ヒーローことアオヤマ。彼は間違いなく、先程オーフィスの放った一撃を受けた筈。

 

その事は彼に人一倍興味を抱いていたオーディンが確証を持って言える。オーフィスの放った一撃は間違いなくアオヤマを捉え、戦場諸共ぶち抜いた筈だ。

 

だが、その一撃を受けてアオヤマは健在で尚且つオーフィスの背後に佇んでいるのか、咄嗟に転移の魔法陣を敷いたのか? 否、アオヤマは力こそは飛び抜けているが、そのような特別な手段は持ち得ない。

 

ならば何故? 目の前の光景に思考が追い付けないロスヴァイセだが……その事実は至って単純で明解な事。

 

オーフィスの一撃を受け、戦場ごとぶち抜かれた直後、目にも映らぬ速さでオーフィスの背後に立った。ただそれだけの事である。

 

聞けばなんて事ない話だが、その事実は戦場を停止させるには十二分な意味を有していた。

 

オーフィス。世界最強の存在の一撃を受けても平然としていられるアオヤマの耐久性。その事実にその戦場にいる誰もが驚愕していた。

 

「───お前、なにも……」

 

「動くな」

 

 アオヤマという未知なる存在にオーフィスは何者だと訊ねる。が、次の瞬間に響き渡る一言に戦場はより重い空気に包まれ、誰一人身動きか完全に出来なくなってしまう。

 

アオヤマから発せられる一言。何気ない文句の筈なのに言霊としてその場にいる全ての生命体に“行動の停止”を強要されてしまう。

 

サーゼクスもアザゼルも、オーディンもタンニーンも、そして旧魔王派のクルゼレイも訳が分からず身を固め、混乱の淵に叩き込まれていた。

 

ロスヴァイセに至っては目の前の光景にただ呆然としているのみ、今この場で唯一マトモに平常心を保てるのは最強にして最上の存在、オーフィスだけである。

 

言われたまま固まるオーフィス。言葉にまで力を宿らせるアオヤマに見た目無表情の少女は目を細めてアオヤマに対する評価を改める。

 

そして、対するアオヤマはと言うと……。

 

「ちょっと待ってろよ。今着替えるから……と、こんな感じでいいか」

 

何やらゴソゴソと物音が聞こえるが、その物音も直ぐに収まり、「もういいよ」とアオヤマから声が聞こえてくる。

 

一体何をしていたのだろうか。奇っ怪な行動をするアオヤマを不思議に思いながら振り返ると……。

 

「ふい~、取り敢えずこんなものか。いつまでも真っ裸のままじゃ気まずいし、ロスヴァイセさんもいるからな、気をつけないと」

 

そこら辺で転がっている悪魔から拝借したのか、アオヤマの下腹部には手製の腰巻きが巻かれている。そんな事の為にあれほどの圧力を醸し出すものなのか、オーフィスの中で再びアオヤマへの評価が激変する。

 

「……で、そこのお嬢ちゃん。俺に何か用? 何か言い掛けたみたいだけど?」

 

「───お前、何?」

 

 問い掛けるアオヤマの質問にオーフィスは言い掛けた質問をもう一度口にする。アオヤマという摩訶不思議な存在、それは悠久の時を生きるオーフィスにとっても初めて目の当たりにする不可解な存在だった。

 

「何って言われても……人間としか答えられねぇな」

 

「本当?」

 

「嘘付いてどうすんだよ」

 

オーフィスの質問にただ人間だと返すアオヤマ。嘘だ!と、普通なら叫びたい所だが、そんな疑問に思う事がないオーフィスはアオヤマの言葉に納得する他なかった。

 

「それよりも俺からも質問だ。何でこんな所にお嬢ちゃんみたいな子がいるんだ? 危ないから早く帰りなさい。ご両親が心配してるぞ?」

 

そんなオーフィスの心情も何のその、目の前にいる子をあくまで迷い込んだ迷子として接するアオヤマはヒーローというよりも街中にいる親切なお兄さんといった風だった。───半裸だが。

 

既に戦場はアオヤマとオーフィスしかマトモに動ける者はいない。だが一般常識、または最低限の良識を持つアオヤマとしては放って置くわけにもいかない。ここで出会った以上何らかの手助けをするべきだなと思い、オーフィスに向けて手を差し伸べる。

 

「ここにいたんじゃ危ないだろ? 彼処にいるちょい悪親父と話付けてくるから取り敢えずそこまで一緒に来てくれない?」

 

それは、紛れもなく善意。下心もなく、幼い子として見て助けてやろうというアオヤマの気持ちは本物だった。

 

────だが。

 

「───フッ!」

 

 “そんな事など知らない”オーフィスは差し伸べるアオヤマの手を払いのけ、残った片手に強大に圧縮し、凝縮された魔力の渦をアオヤマに叩き込んだ。

 

空間が歪み、次元に亀裂が生まれる。無限の力が再び奮われる事によって引き起こされる事象に戦場の時が再び動き始めた。

 

今のでどうだ。不可能な存在であるアオヤマに直撃したのを確認しながらオーフィスその場所から後ろに下がる……が。

 

「全く、いきなり殴りかかってくるなんて落ち着きのないガキだな」

 

呆れ口調の台詞にオーフィスは目を開きながら振り返る。

 

そこにはやはり無傷。しかも今度は腰巻きまで無事なアオヤマはやれやれと肩を竦め、嘆息しながら佇んでいた。

 

……オーフィスの表情に影が見え始める。それは焦りの様にも見え、僅かな───恐怖に近い感情を抱いた瞬間にも見えた。

 

バカな。とオーフィスは驚愕する。今の一撃に避けられる隙などなかった。何かの術か? そんな事を考えてみるが目の前の男はそんな器用な事など出来るとは思えない。

 

「なら、次は……これ」

 

 そういって次にオーフィスが繰り出してくるのは───連打。極限に溜め込んだ無限の一撃を際限なく、そして圧倒的に打ち出すオーフィスの攻撃。

 

その一撃が戦場を割り、空を裂き、虚空を打ち抜く。人間界では決して起こしてはならない戦争がそこにはあった。

 

圧倒的力。その一つ一つが神をも殺す必殺の一撃────なのだが。

 

「ほ、そりゃ、あらよっと」

 

避ける。無尽蔵かと思われるオーフィスの攻撃をアオヤマは無駄のある無駄な動きで無駄にオーフィスの攻撃を避けまくっている。

 

事前の察知でも予知能力でもない。オーフィスの光を超える攻撃をアオヤマは目で見てから回避している。

 

本当に人間なのだろうか? 二人の戦いぶりを見てそう思わずには入られないロスヴァイセ。だが、一方的に攻撃をしてくるのはオーフィスだけでアオヤマは何もしてこない。

 

まさか避けるだけで精一杯なのか? 流石のアオヤマもオーフィスの猛攻には圧されてしまうのか?

 

戦場はドンドンその面積を減っていき、それに比例してアオヤマの逃げ場も失っていく。このままではアオヤマはオーフィスの一撃を受けてしまう。

 

と、そんな時だ。

 

「これで、終わる」

 

連撃を止めたと思った瞬間、オーフィスの右手に信じられない程のエネルギーが集まっていく。危険な一撃だ。周囲の空間が湾曲していくエネルギー量にアザゼルとサーゼクスは大声でアオヤマに逃げろと叫ぶ。

 

あれは放ってはいけない一撃だ。あれを一度放ってしまえばこの空間ごと消滅させられる事になる。

 

サーゼクスとアザゼル、二人は瞬時に行動を取る。サーゼクスはロスヴァイセとオーディン達の転移による脱出、アザゼルは翼を広げ、一誠達のいるであろう神殿へと駆け込んでいく。

 

オーフィスの一撃が放たれる。神話級の威力を持つオーフィスの攻撃に誰もが絶望しかけた時。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こら」

 

「あう」

 

それは、余りにも呆気なく止まった。アオヤマの放ったチョップはオーフィスの頭を捉え、その痛みと衝撃にオーフィスは手に溜めた力の奔流を四散させる。

 

────何が起こった? 混乱するサーゼクスが目にしているのは頭を押さえて縮こまっているオーフィスと、腰に手を添えて怒りを露わにするアオヤマがいて……。

 

「ったく、危ねぇなー。何がそんなに気に入らないのか知らないけどよ、あんまり女の子が癇癪起こすもんじゃねぇぞ?」

 

説教。世界にその名を轟かす無限神龍を堂々と説教を垂れるハゲがそこにいた。

 

「あーあ、折角の会場をこんなにしちゃって、修理費幾らするんだ? 俺しらねぇぞこれ」

 

見渡す限り変わり果てたレーティングゲームの会場を見て、一人嘆息するアオヤマ。

 

そんなアオヤマを見て、オーフィスは思う。

 

この男は危険だ。何がどう危険かは分からないが言葉に出来ないほど危険なモノがある。

 

それは無限龍と呼ばれる彼女の独特の勘か、無意識な反応かは定かではない。……唯一つ、今の彼女に残された選択は──。

 

逃げる。“奴”以外で始めて味わう敗北を噛みしめながら、オーフィスはその場を去ろうとするが……。

 

「おーい。どこに行こうってんだ? 逃がさねーぞ」

 

オーフィスが逃げようとする先には、既にハゲが回り込んでいた。

 

「さて、お嬢ちゃんはいきなり殴ってきた事とこの会場を壊した責任を取らなきゃいけない。こんな所に一人でくるんだ。覚悟は出来るんだよなぁ?」

 

 まんまとテロリストとの戦いに利用され、貰った服は一瞬にして消滅し、揚げ句の果てには幼女に殴りかかられる始末。

 

そろそろ怒りが爆発しそうなアオヤマはその額に青筋を浮かべ───。

 

「さて、お嬢ちゃん。お仕置きの時間だ」

 

嘗て無い恐怖が臀部への衝撃と共に押し寄せてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、ヴァーリ達は神殿から出てくると、目の前の光景に我が目を疑った。

 

何故ならそこには───。

 

「ぴぃ! ミィ! あぅぅぅっ!」

 

「はーい。あと76回な」

 

涙目になっている無限龍(幼女)と尻叩きを繰り返すヒーロー(半裸)が戦場だった筈の場所に陣取っていたからだ。

 

「ふぎゅぅぅぅぅ!?」

 

荒れ果てた戦場に幼女の悲鳴と尻叩きの音が響き渡る。

 

世の中、諸行無常である。

 

 

 

 

 

「あ、クルゼレイ君。大人しく捕まってくれる?」

 

「ア、ハイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の話でムラムラした人は町内を走って発散させなさい。(賢者)

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