リアス=グレモリーとディオドラ=アスタロトのレーティングゲームから数日。冥界では当時ゲームを装って襲撃してきた一件に付いて四人の魔王がサーゼクスの居城に集結していた。
「それで~? アスタロト家の坊ちゃんがシャルバにやられて~、そのシャルバも赤龍帝にやられて~、クルゼレイも捕獲ぅ~、旧魔王派は事実上壊滅と見て間違い無いのかな~?」
「シャルバの死体が発見されていない事からはっきりと断言できないが…まぁ、今はそうと見て間違いないだろう」
「赤龍帝の方はどうなんだ? 無理に覇龍を引き出したからかなり寿命を縮めたと聞くが?」
「それならひとまず無事、と言わせて貰うよ。イッセー君はギリギリの所で踏みとどまった事により最悪の事態は避けられたし、今は妹の眷属の一人が仙術によって彼の治療に当たっている」
友人達の質問にサーゼクスは一通り答える。旧魔王派もシャルバが行方不明になった事により事実上壊滅となり、これを期に悪魔側も種族繁栄と文明開化に漕ぎ着けようと動く事が出来る。
赤龍帝である兵藤一誠も近い内完全回復させるよう取り計らうつもりだし、悪魔側は盤石な道のりを進もうとしていた─────が。
「あのさ、気持ちは分かるけど、そろそろ現実と向き合った方がいいんじゃないかしら?」
そこに一人の女性悪魔が割り込んでくる。四人の魔王の一人、ソーナ=シトリの姉であるセラフォルー=レヴィアタン。
彼等の集った部屋は以前と同じ円卓のある場所であり、そのテーブルの中央にはある場面の映像が浮かび上がっている。
全身を黒で統一した一見すれば見目麗しい少女───オーフィス。禍の団の首領であり、無限龍と呼ばれており、その力は魔王や神々をも上回るとされ、世界中の神話から恐れられた最強の存在。
そんな存在が───。
『ぴぃ! みぎぃ!』
『ほーれ、あと三十回。歯ぁ喰い縛れよ~』
『ひぎゅぅぅぅぅっ!!!』
半裸のハゲに尻叩きをされていた。碌に抵抗も出来ず、ただ一方的に。
世界の頂点に君臨する怪物が見た目ただの人間にいいようにされている場面を目にすれば、彼等の様に現実逃避するのも仕方のない事なのかもしれない。
だが、いつまでもこのまま放って置く訳にもいかない。既にこの問題は悪魔側だけの問題ではなく、堕天使、天使、そして世界中の神話体系の問題へと発展してしまっているのだから……。
世界最強の存在を一蹴する存在───アオヤマ。彼の存在は既に全ての神々が無視できない存在になっていた。
「……そうだな。先延ばしにしても解決する問題じゃない以上、この件は早急に片を付けるべきだ。アジュカ、過激派達はどんな反応をしている?」
「やはり危険分子は排除しろという声が多いな。アオヤマという男がどんなに優れた人格者でも、それを知らない者達からすれば危険極まりない存在なのだろう。いつ此方に敵意を持って攻めてくるのか、それが彼等に先手を打とうと声が多い要因にもなっている」
アオヤマという男は比較的穏やかな人格を持つ者だ。それはサーゼクスもセラフォルーも分かっている事だが、それを知っている者はこの冥界で数える程しかいない。
仮に知っていたとしても、アオヤマの大きすぎる力がその姿を曇らせる。
「全く、皆慌てんぼさんなんだから。そんなに慌てなくてもアオヤマ君だっていつかはお爺ちゃんになるのに……」
セラフォルーの言うとおり、アオヤマは力こそふざけた強さを持っているが、それでも人間。年月と共に老いていつかは死んで逝く。
人間の寿命は悪魔や堕天使に比べて遙かに短い。万の時を生きる悪魔に対し、人間は良くても百歳前後。
下手に干渉せず、アオヤマが寿命で死ぬのを確認してから行動を起こせばいいのに。
その事実を知っててそれでもアオヤマに対する過敏に反応する世界を前に、セラフォルーは結局アオヤマを中心に世界が回っている事にやや不満を感じた。
「兎にも角にも、今は彼の……いや、彼と“彼女”の処遇に付いて話し合おう。死神様方に対する足止めも考えなくては」
「ハーデスか、死の神には冥界の底で大人しくして欲しいものなのだがな……」
「帝釈天も何だか不気味な動きをしているみたいだし、気を付けた方がいいのかもね~」
「やれやれ、禍の団の件が漸く片付きそうだというのに────神はいなくとも世界は回るか、良くも悪くも」
◇
私、レイヴェル=フェニックスは現在人間界でとある人のお宅前に来ています。
ライザーお兄さまの元婚約者であられるリアス=グレモリー様の兄、魔王サーゼクス様の直々の命があり、この度赤龍帝こと兵藤一誠様のマネージャーとしてかの街へと派遣されました。
後学の為にイッセー様の所にお邪魔する事になったのですが、その前に一つやらなければならない事があるのです。
“アオヤマ”現在、世界の裏側に携わる者ならばこの名を知らぬ者はいないでしょう。
自らをヒーローと名乗っておきながら人間の為だけではなく、悪魔や堕天使を助けたり、テロリスト達相手に率先して戦ったりとその気質は自由奔放。古来から伝わる英雄や勇者とは別の存在であるとサーゼクス様から聞かされています。
若手悪魔お披露目会での会場、そこで始めてお会いした時はその雰囲気と風格から不思議な方だと思いましたが、その直後には天井を破って戦場に突貫していく様子を目の当たりにして、彼に対する印象が一気に変わりました。
型破りで自由奔放、そして傍若無人の人なんだと改めて思いました。
ですが、彼が悪魔側にとって多大な借りというものがあるのも事実。サーゼクス様から頼まれた以上、決して粗相の無いよう対応し、これからも互いに良き関係である事に努めなければ。
意を決して呼び鈴を押す。これからお邪魔するのは世界を救った立役者でもあるアオヤマ様へのお住まい。
噂では神すら倒すであろうその人に酷く緊張し、今更ながら少しだけ後悔する。
呼吸を整える。せめて身嗜みを整えようと予め持ってた手鏡で自分の姿をチェックする。
大丈夫、どこも不備はない。あとは駒王学園で後輩として宜しくという挨拶をし、それとなく今の暮らしについて話をするだけ。
落ち着きを取り戻して扉を開くのを待ちますが……何故でしょう、一向に開く気配がない。もう一度呼び鈴を押して待ってみるけれど……やはり出ない。
留守なのだろうか? そう思い何気なく扉の取っ手に手を書けてみると───開いた。
不用心な。そう思いながらお邪魔しますと中へと入り、様子を伺ってみると。
「おい、何で俺ん所に幼女を連れて来てんだよ。──あぁ? 騒ぎが収まるまで暫く匿って欲しい? ふざけんなよ。子守をしてる暇と余裕がウチにあるわけないだろう!」
「成る程、オーフィスたんは自分の家に帰りたいからそのカオスなんちゃらに協力したにょね」
「そう、我、静寂が欲しい。その為にグレートレッド、倒す」
電話越しに叫ぶアオヤマさんと筋骨隆々とした怪物、そして無限の龍神がそこにいた。
…………なにこのカオス。
もしアオヤマが眷属を持つとしたらどんな存在を眷属にするでしょうか?
あ、でも女王は決定ね。誰かって? 言わせんな恥ずかしい。