────どうしてだろう。
ねぇ、知ってる? 三組のアオヤマ君。また先生に口答えしたみたいよ。
えー、またぁ? 彼、三年の先輩達にも目を付けられているのに、よく飽きないわね。
──── どうして、思った事を口にしただけで、怒られるのだろうか?
どうせアレだろ? 口答えしている俺カッケェェ! とか、頭ん中ではそういう事を考えてるんだろ?
なにソレ、チョーウケる!
でもさ、実際よく分かんない人だよね。アオヤマ君って……あんなこと言ったら、益々周りから孤立しちゃうよ。
────間違っている事を間違っていると言うのが、そんなにいけない事なのだろうか?
別にいいんじゃね? アイツ友達いなさそうだし、昼飯誰かと食べてる所なんて見たことねぇよ。
アッハッハッハ! それっていわゆるボッチ君じゃないですかー!
────間違っている事を間違っていると、そうはっきり言えるだけの力には、俺にはない。
────俺は、弱い。どうして俺はこんなにも弱いんだ。
────間違っている事を間違っていると、堂々と言えるようになりたい。
────あ、そうか。そうだったんだ。
「弱いんだったら、強くなればいいんじゃん」
これは一人の少年が 今に至る/ヒーローになるまで の物語。
高校入学と同時に強くなることを決め、一人トレーニングに費やす少年アオヤマ。
過酷なトレーニングの毎日に疲弊し、けれど充実を帯びた彼の日々は……やがて、一つの出会いをもたらした。
「君、どうしてそんなに毎日鍛えてるの?」
「あ? 誰お前?」
同じ志を、願いを持つ者。ヒーローになるという夢を掲げて往く二人の少年。
アオヤマとセイジ、共にヒーローになると誓った二人は、夜な夜な蔓延る悪と対峙する。
「グッハハハ! たかが人間の小僧二人が、この獅子王の覇道を止められると思うなよ!」
戦い、傷付き、それでも少年達は目指した者になる為に凶悪な怪物に戦いを挑む。
充実した毎日、興味の無い日常。けれど、二人で過ごした日々はアオヤマにとって色鮮やかな宝物となっていた。
「おら、行くぞセイジ。二人でヒーローになるんだろ?」
「分かってるよアオヤマ。────さぁ、行くよ!」
二人なら、きっともっと強くなれる。もっとずっと強くなれる。この日々は、ずっと続いていくのだと。
強敵と戦う最中も、アオヤマはそう────思っていた。
「セイジ君、彼の体を蝕む病は現代の医療技術では治らなくてね。───既に全身にまで侵蝕し……保って、後三ヶ月しか生きられないんだよ」
「────え?」
余命三ヶ月。まだ学生でしかないアオヤマに突きつけられる宣告は余りにも重かった。セイジを死なせる訳には行かない、そう判断したアオヤマの決断は……。
「お前、ヒーロー止めろ」
「アオヤマ? どうしたんだよ? アオヤマ!」
「俺は趣味でヒーロー目指していただけなんだよ。本気でヒーロー目指しているお前とは……いつか、こうなることは分かっていた」
アオヤマは決意する。セイジの為にも、絶対になってみせる。悪者を一撃で粉砕する“最強のヒーロー”になると。
そして、その舞台は誰もが予想しなかった事態へ移行する。
「我が名は地底を統べし王、地底王!」
「母なる海の支配者、深海王!」
「無限の大空の体現者、天空王!」
『我等三王が、この世界を統治する! 全ての生命よ、我等を崇めよ! 全ての存在よ、我等を恐れよ!』
世界を覆う嵐、大地を割る地震、全てを飲み込む津波、嘗て無い人類の窮地に世界は悲鳴を上げる。
「不味いぞアザゼル! このままでは……」
「あぁ、どうやら奴等、戦争を始めるのが目的らしい。ヤバいな、もし再びあの大戦が始まるものなら、今度こそ世界は終わっちまうぞ!」
世界が終わる。終焉を間近に全ての勢力が緊迫した状態で世界を見守る中……一人の少年が、大きすぎる敵に単身挑む。
「ほう? やるではないか人間、まさか我等の軍勢をたった一人で全滅させるとは……」
「だけど、その頑張りもここまでのようねぇ───死になさい」
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、くそ……!」
満身創痍の躯に加え、三人の王の猛攻に少年は肉体も心も、そして頭髪もボロボロになっていた。
このまま死ぬのか? 約束も守れず、こうして一方的にやられるのが自分の最期なのか?
悔しさに手が震える。口惜しさに躯が震える。言うことをきかない自分の躯に鞭を打ちながら、それでも立ち上がろうと少年はあらがう。
絶対的絶望。それでも抗う彼に現れたのは
「ジャスティスクラッシュ!」
……決別した筈の────友だった。
「なぁにぃ? この塵は?」
「貴様等の相手はこの俺だ! 食らえ! ジャスティスパンチ!」
「邪魔な奴だ。失せろ!」
一方的な蹂躙。立ち上がる度に叩きのめす王達にアオヤマは親友に逃げろと叫ぶ。
だが、彼は逃げなかった。それは短い命である故の自棄なのか────血を流し、泥にまみれながらも立ち上がる少年は。
「俺は……弱いから、誰かを守れる事も、何かを守る事も出来ないから……分かってるんだ。お前達に俺なんかが……勝てる筈もない事くらい、俺が一番分かってるんだ!」
「なぁにごちゃごちゃ抜かしてるのよ」
「けど、それでも! やるしかないんだ! 俺しかいないから───」
『勝てる勝てないじゃなく、ここで俺は、お前達に立ち向かわなくちゃいけないんだ!』
「────っ!!」
「───なぁ、アオヤマ、お前言ったよな。お前は所詮ヒーローは趣味でしか目指していないって」
「……あぁ、言った」
「俺はさ、それでもいいと思うんだ。趣味だろうがなんだろうが、結局は最後までやり遂げた奴が凄いんだから。……俺は、成れなかったけど、お前なら趣味の範疇でも、きっと誰よりも強いヒーローになれるよ」
「……あぁ、そうだな。けどなセイジ」
「?」
「俺は最強のヒーローになるけど、お前は俺にとって……最高のヒーローなってるんだぜ?」
「そっか、……ありがとな」
友から託され アオヤマ/少年 は立ち上がる。
「これは驚いた。まさかあれほどの攻撃を受けて立ち上がれるとは……」
「アンタ、一体何者?」
「俺か? 俺は────」
“趣味でヒーローをしている者だ”
これは、少年がヒーローに至るまでの物語。
嘗て世界には二人のヒーローが存在した。
最強を目指すヒーローと、最高のヒーローになりたかった少年達の……高校一年の物語。
ワンパン/Zero
四月三日、放映予定。
君は、ヒーローの生き様を目撃する。
はい。というわけで嘘予告でした。
今回のオリキャラ君は原作のあの方。この話では彼がアオヤマにヒーローとしての芯を与えた人物という設定です。
単行本を読んで何気にサイタマと無免ライダーは無自覚に出会っているんだなと思い。その衝動のまま書いた代物です。
……近い内に消すかも。