ミルたんが死神達を相手に魔法少女流のもてなしをしていた一方で、次元の狭間に閉じ込められていたアオヤマはグレートレッドとの会話をそこそこに切り上げ、そろそろ家に帰ろうかと思い瓦礫から立ち上がる。
「にしても何もない所だなぁ、オーフィスやお前には悪いけどとても住めそうな所ではないよな。碌に娯楽もなさそうだし、よくこんな所で退屈しないな」
「────」
「自分くらいの歳のドラゴンにもなると時の流れはさほど感じないって、そりゃこんな所にいつまでもいたらドラゴンでも体感時間おかしくなるっつーの」
「─────」
「そんな事より訊きたい事がある? 何だよ改まって…………何だ?」
グレートレッドと比較的和気藹々とした会話も束の間、アオヤマとグレートレッドの間に突如黒い炎の弾丸が降り注げられ、一人と一匹は強制的にその場から弾かれる。
足場を砕かれ、地に足を着けるスペースを無くしたアオヤマはどうしたものかと眉を寄せる。が、そんアオヤマの足下に赤い大地が現れた。
グレートレッド。彼がアオヤマの足場になることでどうにか着地する事に成功したアオヤマは礼の意味を込めて赤龍真帝の鱗を撫でる。
それよりもと先程の炎は何だったのかと上を見上げるアオヤマはその光景に若干驚いた。
次元の狭間という不可思議な空間を埋め尽くさんばかりに存在する無数の黒点、その一つ一つが黒く歪んだドラゴンだと認識すると、アオヤマは夏場の台所に出現するGを思い出した。
「えー、何あれ、ドラゴンってあんなにいるものなの? つーか、この不思議空間にはあんなのもいたのね」
若干引き、そして乾いた笑みを浮かべるアオヤマ。数による驚異ではなく、数が多すぎて気持ち悪くなる事に嫌悪感を示すアオヤマはやはり平常運転。
あの黒の軍勢も此処では日常茶飯事なのか、そう思うアオヤマだったが、グレートレッドの様子を見て考えが変わる。低い声で唸り、睨むかのように頭上の“黒”を見上げるその姿勢に流石のアオヤマもこの現象が普通ではないと事だと理解した。
「あー、もしかしてアレ……敵だったりする?」
アオヤマの質問にグレートレッドは首を振り返らせてコクリと頷く。やはりアレはここにあってはならない存在らしい。
ならばここはヒーローとして自分の正義を執行するべきだろう。普段とは違いヒーロースーツではなく私服だが、今はそう言ってはいられない状況だ。
精々戦いの余波で返り血など浴びないよう気を付けようとするが……既に邪龍さんの返り血でビッショリでした。
またこれで服が一つオジャンになった。ヒーロースーツといい私服といい、最近衣服関係で手痛いダメージを受けているアオヤマは憂鬱ながら拳を握り締めた。
と、その時だ。突然グレートレッドの鱗の一部が隆起してメキメキと音を立てて形を変えていくと、堅そうな鱗が一変してヒラヒラの布切れへと化し、アオヤマの手へと流れ込んできた。
一体何なんだろうかとグレートレッドの方へ視線を向けると……。
「─────」
「オーフィスが世話になる礼って、お前結構義理堅いな」
グレートレッドの粋な計らいにアオヤマも口角を上げる。私服の上に赤龍真帝の紅のマントを羽織ることで準備完了したアオヤマは、今度こそ拳に力込め、押し寄せてくるドラゴンの軍勢を見上げる。
「さて、誰かと組んで戦うなんて久しぶりだけど……合わせていくとしますかね」
「─────っ!!!」
アオヤマの言葉に合わせるかのように雄叫びを上げるグレートレッド。片方は拳に力を込め、片方は開いた口に光を灯らせ────。
「せい」
「────っ!!」
拳の衝撃波と極大な光の閃光。龍とヒーローの即席の合わせ技が黒の大海に大穴を開けた。
◇
絶対絶命。リアス達とアザゼル、バラキエルにロスヴァイセは既に満身創痍の状態で窮地に立たされていた。
不敵に笑うのは悪神ロキ、神さえ屠るとされる神喰狼と呼ばれるフェンリルを従え、止めとばかりにミドガルズオルムのレプリカと呼ばれる龍を大量導入し、リアス達を着実に追いつめていた。
護衛対象であるオーディンもフェンリルを前に出されれば下手に動く事も出来ず、その知略と僅かな手助け程度しか手が出せなかった。
本来なら万全を期して戦わなければならない相手、多くの手札や切り札を持ち得なければ打倒出来ない存在相手にここまで何とか食い下がる事が出来たのは、偏に彼等の成長の賜物だろう。
だが、そんなリアス達の奮闘を嘲笑うように悪神ロキは失笑する。
「しかし、此処までしぶといのは流石に想定外だったな。流石は二天龍の片割れの赤龍帝、例え宿主が最弱でもその力は健在か」
「くそ! 唯でさえ数が多いってのにフェンリルが厄介過ぎる!」
「せめてどちらかでもどうにか出来ればいいんだけど……」
悪態をつきながらミドガルズオルムの一体を殴り飛ばす赤龍帝こと兵藤一誠。禁手化したお陰でどうにか戦えているように見えているが、既に体力も限界。
回復担当のアーシアも体力の底を尽き、呼吸を整えるので精一杯。ゼノヴィアも木場も、小猫に朱乃にギャスパーも、それぞれが体力、魔力共に尽き掛けていた。
唯一マトモに戦えているのはアザゼルとバラキエル、そして戦乙女のロスヴァイセのみ。誰かに通信で助けを求めようとするが、教え子達とオーディンを守るのに手を塞がれ、八方塞がりな状態に貶められていた。
「お前等! 死に物狂いでアーシアを守れ! アーシアがやられれば必然的に俺らの負けが決まる! 何としても耐え抜くんだ!」
「は、はい!」
アザゼルの叱咤区にリアス達も声を上げて返すが、それがやせ我慢の虚勢だと知るロキは口角を上げ、笑みを深くさせる。
「涙ぐましいねぇ、かの堕天使の総督が新米悪魔の楯になろうとは、これが三大協定の賜物かねぇ?」
「るせぇ! さっきから高見の見物に洒落込みやがって、当事者ならテメェも戦いやがれ!」
「ふむ、どうやらまだ噛みついてくる元気があると見える。良かろう、ならば更なるゲストをお迎えする事にしよう」
激昂の叫びを上げるアザゼルに対し、ロキはそれを面白がって更なる戦力を投入。彼の背後に現れたのは先程のふフェンリルと同じ銀色の鬣を靡かせる二匹の銀狼だった。
「フェンリルが二体だと!?」
「この仔らはスコルとハティ、共にフェンリルの血を引く神喰狼。さ、これで舞台は整った。少々役不足な演目だが蹂躙劇には丁度良い────やれ」
ロキの指示の下、二匹の銀狼が牙を剥く。その疾走の先にいるのは……リアス=グレモリーの“女王”姫島朱乃だった。
「朱乃!」
「────っ!」
リアスの叫び、だがそれよりも速く二匹の銀狼は朱乃に食らいつく。咄嗟に横に回避して初撃を避けるが、既に第二の牙が彼女の喉元に向けて突き立てていた。
「こ、のぉぉぉっっ!!」
激昂の叫びと共に雷光を放つ。背中に堕天使と悪魔の翼を生やした朱乃は残された力の全てを使い果たし、銀狼を弾き出す。
だが、それでもただ弾いただけ、大して動揺もせず、首をプルプルと横に振るだけで済まし、次の瞬間には更なる殺意を持って押し寄せてきた。
全ての力を使い果たし、抵抗するだけの力を失った朱乃、遠くから父や皆が自身の名を叫ぶ中、朱乃だけはその瞬間がやたら緩やかに感じた。
(あぁ、私、これで死んじゃうんだ)
呆気ない自身の死、他人事にさえ思えてしまう現実を前に、朱乃はそっと目を閉じる。
もう少し、父と話をしたかった。そんな僅かな後悔と共に彼女は己の死を受け入れた。
その時、自分に襲いかかってくる銀狼の横でビシリと空間に皹が入り。
「だらっしゃぁぁぁぁっ!! ………て、なんか轢いた?」
赤いヒーローマントを靡かせて、自称ヒーローが世界最強のドラゴンを引き連れて二匹の銀狼を轢き飛ばした。
今回はやや短めでした。