ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

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今回からほのぼの回。


42撃目 狐の訪問

 

 

 

 

「……バイト?」

 

「あぁ、何かいい条件のある奴知らね?」

 

 いつもと同じ日常。ロキ強襲の件が漸く収まり始めた頃、放課後の駒王学園の教室でソーナ=シトリーは間の抜けた声を出してしまう。

 

目の前でどうしたものかと悩む“ヒーロー”その存在は既に世界中に知れ渡り、その活動と行動に常に警戒が敷かれている。

 

学友が世界の中心になっている。そんな事欠片も自覚していない目の前の友人は大きな溜息を漏らして悩みを露わにしている。

 

「……どうして、急にバイトを?」

 

「いやな、最近俺ん所に住む奴が増えてきてな。オーフィスとフェンリル達、オーフィスは服とか買ってやらなくちゃならんし、ワンコ達にも色々必要なモノがあるだろうし……」

 

無限の神龍や神喰狼をあくまで子供や犬扱い。全ての神話体系の神々なら卒倒しかねないアオヤマの言葉に、ソーナは一瞬眩暈を覚えた。

 

「え、えっと……アオヤマ君は先日オーディン様の護衛をした事でアザゼル先生から礼金が渡されたって聞いたけど?」

 

 先日、オーディンは日本の神々と会談を開く為、この国に訪れていた。多数のミドガルズオルムやヨルムンガンドのレプリカ、神喰狼達や元凶であるロキがいる中でそれら全てを撃退。窮地に陥っていたリアスやアザゼル達を救っての功績なのでオーディン自らアオヤマに報酬を渡すと言ってきたのだ。

 

北欧の主神自らの礼というのならばそれは相当な価値のある代物に違いない。礼金であれ何であれ、アオヤマが金銭不足になるとは思えないソーナはそれとなく本人に聞いてみると……。

 

「礼金? いや、そんなの貰ってないけど?」

 

「……え?」

 

返った来たその返答にソーナの表情が固まる。

 

「いやだってさ、俺がしてきた事って襲いかかってきた相手を殴って返り討ちにしただけだぜ? 別に礼金とかそんなん貰う様な事していないだろ」

 

「い、いやけど、フェンリル達を無力化したのも貴方だって……」

 

「あー、そういや俺事故とはいえワンコ達を轢いたんだよな。けどその割には俺に懐いてくれるし、ミルたんの姿にも怯えないでいるし……意外と賢い犬なんだなアイツ等」

 

ソーナの質問にアオヤマはアッハッハと笑って返す。自分がしてきた事、彼がその手でどれだけの事をしでかしたのか……その一割も理解していないアオヤマにソーナからブチリと鈍い音が聞こえた。

 

「……アオヤマ君。少しお話しましょうか」

 

「ど、どしたの会長? 何か目が怖いよ?」

 

ハイライトの消えた目で凄むソーナにアオヤマはガタリと椅子と一緒に後退る。何か悪いこと言ったか? そう思った瞬間、校内放送のアナウンスが流れた。

 

『えー、アオヤマ君、アオヤマ君、直ちに職員室に来て下さい』

 

「この声……アザゼル先生?」

 

「珍しいな、放送で呼び出しなんて……悪い会長、俺用事できたからこれで失礼するわ」

 

「あ、ちょ! ……もう」

 

タイミングよく流れた校内放送、これにより抜け道を見いだしたアオヤマはチャンスとばかりに鞄を持って教室を出る。その身のこなしの速さにソーナはついて行けず、アオヤマはそそくさとその場をさっていった。

 

ソーナの深い溜息が一人だけとなった教室に吐き出される。都合良く放送を流すアザゼルに不満を覚えながら、ソーナは先程まで彼が座っていたアオヤマの席に触れる。

 

「……お願いだから、少しは私にも苦労を寄越しなさいよ」

 

フェンリルもオーフィスも、本来なら自分達こそが何とかする問題の筈だった。

 

皆も立場はあるし、私やリアス達は三大協定の一つに属しているのだから、テロリストのトップであるオーフィスを匿うのがどんなに難しいのか理解できる。

 

だがそれでも、それでも何か出来る事があったのではないだろうか。彼に頼らず、自分自身がオーフィスを匿う事が出来るのでは無かったのか。

 

……例え、家の名に傷を付けようと、眷属やの皆に要らぬ危険が降りかかろうと、人間である彼に押し付けるよりはマシなのではないだろうか。

 

「……いや、これは私のエゴね」

 

自嘲に笑みをこぼすソーナ。その悲しげな顔は一体何を思い、誰に向けての微笑みなのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソーナが一人黄昏ている頃、職員室に呼ばれたアオヤマはアザゼルに応接室へと案内されていた。

 

「……おい、アザゼル。コイツは何だ?」

 

「校内では先生を付けろよ」

 

応接室へと入り、そこで目にした光景にアオヤマは目を丸くし、隣にいるアザゼルに問い掛けた。

 

「アザゼル殿、早く噂の妖怪に合わせてくれぬか……と、誰じゃそこの人間は?」

 

眩い金髪を靡かせ、アオヤマをジト目で睨み、ソファーにチョコンと座るのは幼女だった。

 

見た目こそは麗しい幼女だが普通の幼女とは大きく異なる点が二つ。その髪と同じ金色の尻尾と頭部からピョコンと出た耳が幼女が人間でないことを猛烈にアピールしているのだ。

 

一体この幼女は何者なのか、疑問に思うアオヤマに応える様にアザゼルが二人の間に入って紹介する。

 

「アオヤマ、このお嬢さんは九重。かの有名な九尾の狐の娘だ。お前も聞いたことあるだろ?」

 

「あぁ知ってる。何かスゲェ狐の妖怪なんだろ?」

 

アオヤマの凄いと賞賛する言葉に気分を良くしたのか、狐の妖怪少女(略して幼女)は耳をピコピコと動かして自慢げに胸を張って両腕を組んだ。

 

「その通り! 我が母こと八坂は京都の妖怪を束ねる大妖怪! そんじょそこらの上級悪魔では束になっても適わない位に凄いのだ!」

 

ソファーから降りて堂々とした振る舞いで母を語る九重にアオヤマはただそうなのかーと頷くしかなかった。

 

「で、その九尾の狐が何しにこの学校に? つか、俺が呼び出される理由はいい加減なんなのか教えろよ」

 

そろそろアオヤマも苛立ち始める頃、説明しようと前に出るアザゼル……が、それは目の前の幼女によって遮られてしまう。

 

「うむ! 我が用件は一つ! 近頃売り出し中の凄腕の妖怪、ハゲマントに用があるのじゃ!」

 

「…………は?」

 

目をキラキラさせてそう己の禁忌を口にする幼女に、アオヤマは怒りの前に呆然と間抜け面を晒してしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……てことはアレか? そこの狐の幼女は見聞を広める為にこの町……ひいては俺に会うためにワザワザ京都から来たと?」

 

「まぁ、要約すれば大体そんな所だ」

 

 アザゼルから簡単に説明を受けたアオヤマは納得しかねない様子で呟き、向かい側のソファーで先程とは打って変わってガチガチに緊張した様子の九重に視線を向ける。

 

“妖怪”日本に古くから存在する彼らは欲望や信仰を糧にする悪魔、天使とは別系統の力の源が存在した。

 

それは“畏れ”人間から恐れられ、怖がられ、畏怖される事によってその力を強め、存在する力と為している。

 

近年、科学が発達にするに伴って妖怪の存在を否定的になり、人間達から畏れという感情が薄まってきた頃、それを糧とする妖怪達は己が存在する力を保てず、消滅する妖怪が増えてしまい、妖怪達はこの事態を深刻に捉えていた。

 

しかし最近、その“畏れ”が急激に高まってきたのを関知した八坂は近々同盟を結ぶ予定にあった悪魔側と接触し、そこで妖怪ハゲマントの存在を知る事になった。

 

堕天使、天使、悪魔、禍の団、そして神すら畏れられている妖怪が存在すると知った八坂は驚愕すると同時に歓喜に震えたという。

 

神すら畏れる妖怪。その話は八坂を通じて京都全域に知れ渡り、妖怪ハゲマントの存在は妖怪の界隈においてカリスマ的存在へとなっていた。

 

その強大にして莫大な畏れによって妖怪達の問題となっていた畏れ不足は解消し、一部の妖怪はハゲマントを崇めている始末。

 

 そして近々、駒王学園の生徒達が京都に修学旅行に来るという事で、八坂達はこれを喜んで歓迎する事に対し、娘である九重にこの町に見聞を広めるという名目で妖怪ハゲマントと接触させる機会を設けさせたのだ。

 

つまり、目の前の狐娘は妖怪と呼ばれる自分に会いに来たのだと、それを改めて知ったアオヤマは深い溜息を零す。

 

「妖怪ハゲマント……一体誰が言い出したんだ」

 

見つけ次第ただではおかない。己の憎むべき異名に軽く殺意を覚えた時、アオヤマの肩にアザゼルの手が置かれる。

 

「てなわけだから修学旅行の期間中、そこのお嬢さんの面倒……よろしくな」

 

「はぁ?」

 

にこやかに微笑みながら責任を押し付けてきたアザゼルにアオヤマは一片殴ってやろうかと割と本気で考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、アザゼルのヤロー、面倒事は全部俺に押し付けやがって」

 

 ぶつくさと文句を垂れながら帰路に付いているアオヤマは全ての面倒事を押し付けた元凶に苛立ちを覚える。

 

自分の知らない所で勝手に話を進められた事もそうだが、自分達で計画した癖に自分に何も告げていない自分勝手さにアオヤマは憤りを感じた。

 

サーゼクスもそうだ。以前あれほどお灸を据えてやったのにまだ懲りていないらしい。妖怪ハゲマントの情報を提供はほぼ間違いなく奴の仕業だろうと察したアオヤマは今度会った時の報復を考える。

 

が、その怒りは手に握らされた紙切れを見る事で沈静化される。

 

既にオーフィスやフェンリル達という巨大犬を預かっていることでアオヤマの財布は既に悲鳴を通り越して炎上し、明日の食い扶持にも困っていた所だった。

 

それを察したのか、アザゼルは九重を預かってくれる報酬という事で紙切れ───小切手に幾つかのサインを書いてアオヤマに手渡した。

 

小切手に記された八つの0の文字、元々金銭不足の為に悩んでいた為、提示されたその金額に目が眩んだアオヤマは渋りながらもコレを承諾。九重の短期保護者になる事になったのだ。

 

我ながら単純な手に引っ掛かったものだ。だが、預かるといった以上約束を反故にする訳にはいかない。それに、彼女が今ここにいるのは半分自分が原因のようなものだ。……妖怪扱いされるのはまことに遺憾だが。

 

小切手をポケットにしまい、隣で歩く幼女に声を掛ける。

 

「えーと、九重ちゃんだったか? 少し聞きたい事があるんだが……」

 

「は、はひゃい! 何で御座いましょうかアオヤマ殿!」

 

 アオヤマに呼び掛けられた事でビクリと身を震わせる幼女はガチガチに緊張した様子で振り返る。先程の学校でアオヤマが妖怪ハゲマントだと知った九重は初対面の時とは態度を180度変えて対応してきた。

 

まさか唯の人間だと思っていたハゲ男が、実は自分が憧れる妖怪ハゲマントなのだと知った時、九重は数分前の自分を殴り飛ばしたい思いで一杯だった。

 

そして九重が妖怪ハゲマントを尊敬しているとアザゼルから知らされたアオヤマは……これ以上ないくらいに複雑な表情だったという。

 

「いや、これから夕飯の支度をするんだけど……何か苦手なものがないか聞いておこうと思って」

 

「い、いえ! 九重に苦手なものはありません! ただ少し辛いのが苦手なのと油揚げが好物なだけです。はい!」

 

「そ、そう? つか、なんでそんな緊張してんの? 疲れない?」

 

「だ、大丈夫です! お構いなく!」

 

 明らかに緊張している九重だが、本人が大丈夫というので深く追求はせず、今晩の献立を考えながら再び自宅へと向けて歩みを進める。

 

そして、遂に玄関に差し掛かり、自動ドアを潜り抜けた所で……。

 

「ガウ!」

 

「ひっ!?」

 

「おーハティ、迎えに来てくれるなんて偉いなー」

 

「ガオフ」

 

「バウッバウッ!」

 

「ピイッ!?」

 

「おお、他の二匹も来たか。やっぱお前等頭いいよなー、何でこんな良い犬を前の主人は捨てたんだ?」

 

 出迎えに来てくれた巨大な三体の銀狼に狐の九重は尻尾をピンと逆立たせて後ずさる。本能的に目の前の狼が母と並ぶ超級の魔獣だと知った九重は何故こんな所にこんな怪物がいるのかと混乱するが。

 

ドン、と背後にぶつかった壁らしきものに「あれ? こんな所に壁なんかあったっけ?」と不思議に思い振り返ってみると……。

 

「こんばんわ、ミルたんだにょ」

 

「!?!?!?!?!?!?!?」

 

その存在を目にした時、九重は思考の許容量を越え、パニックを起こして気絶した。

 

「お、ミルたん。じゃん、ただいまーって、九重どうした?」

 

ここから数日、こんな居住者達と過ごしていくのか、気絶した思考の中、ハゲマントに対する畏怖を深めると同時にチョッピリ後悔する九重だった。

 

 

 

 




本当はバイトの話で劇場版魔法少女ミルたんを舞台にアオヤマ陣営VS三大組織のトップメンバーという話を書きたかったが、予想以上にアレになるのでボツにしました。

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