ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

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今回は前半ほのぼの後半ややシリアスです。




43撃目 影

 

 

 

 

 

 

「う、う~ん……」

 

 微睡んだ思考が徐々に覚醒していく。重たくなった瞼を擦りながら、九重が何故自分が今まで寝ていたのかゆっくりと思い出す。

 

そう、確か堕天使の総督アザゼルの紹介によって訪れたとある町にある駒王学園と呼ばれる学校に赴き、そこで太陽のような眩しい───。

 

「アオヤマ殿!」

 

「ん? 呼んだ?」

 

起き上がると同時に声を出す。我ながらはしたないものだと自覚するが、出てしまったものは仕方ない。そして、その時聞こえて来た声に振り返ると……。

 

「長旅で疲れてたみたいだし良く寝てたから起こさなかったけど、もうお昼だ。いい加減呼んだ方が良いと思ってな、早く来いよ」

 

そう言いながら、アオヤマは寝室を後にする。

 

 何故自分は見知らぬ寝室で寝かされていたのか、何故妖怪ハゲマントことアオヤマがエプロン姿で起こしに来たのか、そして何故自分はいつの間にか寝ててそしてお昼まで起きれなかったのか、聞きたい事、言いたい事は多々あるが……取り敢えず一言。

 

「……妾って、ホントバカ」

 

九重のその一言に自分に対する全てが詰まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてお昼時。食卓に並べられたアオヤマの作った炒飯を頬張り九重は本日の予定について質問の言葉を口にした。

 

「か、買い物……ですのじゃ?」

 

「あぁ、資金も手に入ったし、お前をこの町について色々教えるついでにオーフィスの服を買ってやろうかと思ってな」

 

「我の……服?」

 

「なんでお前が意外そうな顔をすんだよ。お前の今着てる服、所々汚れているだろ? 露出も変に多いし、一着だけじゃ流石にお前も不便だろ?」

 

「我、別に気にしてない」

 

「気にする、しないの話じゃねぇんだよ。俺も冬に備えて色々買い出しして置きたいし、折角の休日だから今日はそれに費やすつもりだ」

 

「そ、そうなのですのじゃ……」

 

「お前、喋りにくそうだな」

 

アオヤマからの今日の日程に心なしか嬉しくなる九重、尻尾をユラユラと揺らす九重に対し、オーフィスも無表情ながら椅子から伸びた足をパタパタと動かしている。

 

初めての人間界、初めての買い物、どちらも初めての体験を前に二人はそれぞれ違う表現の仕方で買い物を楽しみにしていると。

 

「あ~でもな、一つだけ問題があるんだ」

 

「え?」

 

「も、問題?」

 

「俺さ、妹とかそういうのいねぇし一人っ子だからさ、女の子の服とか選べないんだよ。だからお前等自分で選ぶ事になるんだけど……出来るか?」

 

兄弟も姉妹もおらず、一人っ子として育てられ、女性とも付き合いの経験がないアオヤマには女の子の肌着になど当然無知に等しい。

 

オーフィスもその辺りの知識には疎く、彼女自身に選ばせるには忍びなかったが、幸いな事にここには現在九重がいる。

 

「オーフィスも世間知らずな所があるから大変な事になるが、こればっかりは俺でもどうしようもない。九重、お前に結構苦労させる事になるが……頼めるか?」

 

「は、はい! 全身全霊で以て頑張らせていただきますのじゃ!」

 

アオヤマの頼みに二つ返事で応えてしまう九重。本日の日程も決まり、昼食も食べ終え三人はそれぞれ食器を片していく。

 

そんな中、九重はふと思い出す。自分がここに来た時遭遇した巨大なミュータントの存在の事を……。

 

まさか、あの未確認生命体が一緒に付いてくるのか、今更ながらここが冥界以上の魔窟だと思い出した九重はリビング内を見渡しながらアオヤマに質問した。

 

「あ、あの……アオヤマ殿」

 

「ん? 何だ?」

 

「先日、大きな狼と巨大な……その、アレ的なアレを見かけたのじゃが……」

 

「ミルたんの事? ミルたんならフェンリル達と一緒に散歩に行った。あのワンコ達、普段は生活の為に魔力とかで体を縮めているらしいから、休みの日くらいは思い切り体を動かした方がいいと思ってな、ミルたんならちゃんと面倒みれるだろ」

 

(あの未確認生命体はミルたんというのか、名前が妾がよく見る魔法少女者と被るのが気になるが……)

 

ひとまずここにはミルたんがいないことに安堵する九重、アオヤマとミルたんの奇妙な信頼関係に疑問を感じたりはするが、それは取り敢えずおいて置くことにした。

 

ともあれ今日は休日。妖怪ハゲマントことアオヤマの案内で町を歩くことになった九重はルンルン気分で外出の用意を始めた。

 

その途中───

 

「オーフィス………はて、どこかで聞いた事があるような気がするのじゃが、気の所為じゃろうか?」

 

今まで一緒にご飯を食べていた相手が無限の龍神だと知るのは……十秒後の話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────京都。

 

修学旅行の定番として知られ、多くの観光スポットのあるこの地で、外人であるアーシアは古き良き時代の景観に感激し、圧倒されていた。

 

故郷の国とは違い、独特の風情と趣のある建物や紅葉の景色に見取れていたら……。

 

「ど、どうしましょう。迷子になってしまいました……」

 

京都の景観に夢中で同じ班だった一誠達とはぐれてしまい、 絶賛見知らぬ土地で迷子となっていた。

 

 辺りを見渡して周囲に知り合いがいないか確認するがそれらしき人は見つからず、観光客らしき人達しか見当たらない。

 

早く合流場所に向かわなければ、アーシアはひとまず自分の勘を頼りに走り出すが……。

 

「へぶ! ……あうぅ、どうして私はこうも転んでしまうのでしょう」

 

悪魔に転生しても生まれ持ったドジ属性で転んでしまい、膝を軽く擦りむいてしまう。

 

早く合流しなくては皆に余計な心配を掛けてしまう。自分の不手際で要らぬ心配を掛けてしまう事実にアーシアは焦りと不安に陥った時。

 

「君、大丈夫かい?」

 

一人の青年がアーシアの下に駆け寄り、助け起こす為の手を差し伸べてきた。

 

「は、はい。大丈夫です」

 

見知らぬ男性に声を掛けられた事で少し萎縮してしまうが、男の人相を見て悪そうな人ではなさそうだと判断したアーシアは迷う事なくその手をとった。

 

「この辺りじゃ見かけないね、その格好からして学生さんみたいだし……もしかして修学旅行かい?」

 

「あ、はい、そうなんです。……ただ、ここに来る途中皆さんとはぐれてしまって……」

 

「迷子になってしまった訳だ」

 

苦笑いでトドメを刺してくる青年にアーシアは否定できず、恥ずかしげに俯く事しか出来なかった。そんなアーシアに青年は笑みを浮かべ。

 

「なら、俺が案内するよ。地元じゃないけど、数日ここにいたから修学旅行の学生の集合場所がどこなのか大体の見当はつけれるよ」

 

「い、いいのですか?」

 

「あぁ、俺も今知り合いと待ち合わせていたんだけど……ドタキャンされてね、手持ち無沙汰だったんだ。君さえよければ案内するよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「けど、その前に……はいこれ」

 

「え? 絆創膏?」

 

青年の親切さに何度も頭を下げて礼を言うアーシア、そんな彼女に微笑みを浮かべる青年は思い出した様にポケットから一枚の絆創膏を取り出し、アーシアに差し出した。

 

「膝、その様子だと結構擦りむいちゃったでしょ。良ければ使いなよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

度重なる青年の気遣いにアーシアは深々と頭を下げる。気にするなと声を掛けられながら、早速アーシアは擦りむいた膝に頂いた絆創膏を貼る。

 

自身の神器でなら擦り傷程度は瞬時に快復するが、それでは青年の心遣いを貶してしまう。クマの絵柄が付いた絆創膏を見て、アーシアは思う。

 

この人は悪い人間ではない。見ず知らずの自分にここまで親切に接し、力になろうとしてくれている。アーシアはこの出会いを主に感謝しつつ、青年に向けてある質問を投げ掛けた。

 

「あ、あの……」

 

「ん?」

 

「お名前を、教えて頂いても宜しいですか?」

 

「俺の名前を?」

 

「はい。この出会いはきっと主のお導きに違いありません。日本では縁と仰られるようですし、この出会いを記念して貴方様のお名前を知りたいのです。もし次にお会いしてお礼をしたい時、名前が知りませんと大変ですから」

 

「そんな大した事じゃないんだけどな……まぁいいか、俺も女の子の願いを断る程野暮じゃない。次があるかどうかは分からないけど俺の名前は教えておこう。俺の名は────」

 

「アーシア!」

 

 青年から名前を訊かされた瞬間、背後から呼ばれた聞き慣れた声に反応して振り返ると、そこにははぐれた筈の一誠達が自分の所に向かって走ってきていた。

 

「ここにいたのかアーシア、探したぞ」

 

「ご、ごめんなさいイッセーさん、他の皆さんもご迷惑をオカケして……」

 

「いや、アーシアが無事ならそれでいい。それよりも誰かと話していたみたいだが?」

 

「あ、はい。実はこの人にはぐれていた間良くして貰っていて……、ご紹介します。此方が私のクラスの────あれ?」

 

自分を心配して駆けつけてくれた皆に謝罪と感謝を述べたアーシアは折角だからといって青年にも紹介しておこうと振り返る。

 

が、そこには誰もおらずあるのは京都独特の古い町並みが並べられた景色だけが広がっていた。

 

一体どこへ、疑問と共にアーシアは教えられた青年の名前を口にする。

 

「……セイジさん?」

 

建物から延びる影が誰にも気付かれずゆらりと蠢いた。

 

 

 




次回、幼女のおつかい

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