ハイスクール ワン×パンチ   作:アゴン

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今回、やや短めです。


8撃目 これから

 

 

 

 

「ほらよ」

 

 アオヤマの住まうアパート。帰宅したアオヤマは上がらせた一応の客人に対し、簡単なお茶をテーブルの上に差し出して形だけのもてなしをする。

 

「お、悪いな坊……兄ちゃん」

 

一瞬だけ言いそうになった禁句を呑み込み、男───アザゼルと名乗る男性は差し出された湯呑み椀を掴み、一口啜る。

 

ズズズとアザゼルが茶を啜っている間、アオヤマは制服を脱いで部屋着に着替える。基本的に私生活ではジャージを愛用しているアオヤマは差ほど時間を掛けずに着替えを完了させる。

 

着替え終える頃にはアザゼルもお茶を飲み終わり、腕を組んで目を瞑っている。アオヤマはアザゼルと向かい合う形にテーブルを間に挟んで座る。

 

「そんで、アザゼルだっけ? 確かグリコの提督を努めているっていう……」

 

「グリゴリな、あと提督じゃなく総督だ」

 

『神の子を見張るもの(グリゴリ)』メンバーの殆どが堕天使で構成されている三大勢力の一つ。

 

その総督、つまりは堕天使のトップが目の前にいるというのにアオヤマは普段の態度と変わらぬまま、大胆不敵な態度で対応する。

 

「そうそう、グリゴリだ。確か……堕天使の組織なんだっけ? グレモリーから聞いたぞ」

 

「グレモリーって言うと……あぁ、サーゼクスの妹か。成る程、触り程度には知ってるって訳か」

 

「サーゼクス?」

 

「魔王だよ。四人の魔王の内の一人でリアス=グレモリーの兄貴さ」

 

「ふーん」

 

魔王。さらりとトンでもない名称を口にするアザゼルだが、アオヤマもアオヤマで適当に聞き流している。知り合いの身内に魔王がいる。そんな事実を耳にしても尚態度の変わらないアオヤマにアザゼルは「へぇ」と声を漏らす。

 

「意外だな。てっきり驚いたりするもんだと思っていたが……もしかして嘘だと思っているのか?」

 

「いんや? ただそーなのかーって程度しか思えんだけだ。つーかいい加減本題を話せよ。その為にワザワザ俺んちまで押し掛けてきたんだろ?」

 

一向に話が進まない会話に、アオヤマは僅かに面倒になる。あのままバトルするものかと思いきや、アザゼルが突然話がしたいと言い出した時は流石に戸惑った。

 

堕天使特有の黒い翼を広げるものだからてっきりそのつもりだと思っていただけに、肩透かしもいいところである。

 

「そうだな。俺もどっちかというと回りくどいのは面倒な質だ。なら本題に入ろう。俺達グリゴリの幹部、コカビエルを殺ったのは……お前か?」

 

空気が張り詰める。腕を組んで目を細め、アオヤマを射抜くアザゼルの眼は僅かに殺気が滲んでいる。

 

先程までのおちゃらけたチョイ悪オヤジではない。今アオヤマの目の前にいるのはコカビエルと同じ、古の聖書に記された絶対的強者だ。

 

しかも組織のトップ、頂点に君臨するアザゼルの力はコカビエルの更に上なのは明白。

 

ビリビリと震える空気が部屋に充満する。ピシリと湯呑み椀には皹が入り、窓をガタガタと震わせている。

 

圧倒的圧力。並の者では相対するだけで失神するであろうアザゼルのプレッシャーを……。

 

「うん。そうだけど?」

 

アオヤマはそれを真っ正面から受けながらも、あっけらかんと応えた。

 

「…………」

 

 沈黙が、部屋の空気を支配する。まさか即答するとは思わなかったのか、あっさりと口にするアオヤマにアザゼルは一瞬呆けた顔になり。

 

「く、ククク……いやぁ、中々面白いなお前、イヤ、それとも流石というべきか? 成る程成る程、それならコカビエルの阿呆を一撃でヤったって話も嘘じゃなさそうだ」

 

破顔一笑。先程の威圧の籠もった表情から、またチャラけたチョイ悪オヤジへと顔を変える。

 

(何なんだコイツ)

 

コロコロと表情を変えるアザゼルにアオヤマは少し引いていた。

 

「一体何なんだよお前、仲間の敵討ちに来たんじゃないのかよ?」

 

「敵討ちぃ? バカ言ってんじゃねぇよ。何で俺がそんな面倒な事せにゃならんのよ」

 

 これ以上話を長くしたくはない。明日も学校があるから早く終わらせたいアオヤマは単刀直入に問いただす……が、返ってきたアザゼルの返答に今まで平然としていたアオヤマが初めて面食らった。

 

何せ同じ組織の堕天使が倒されたのだ。こうしてこうして自分に会いに来たのもてっきり仲間の敵討ち辺りかと予想していた。

 

それなのにあっさりと否定。長い付き合いの仲間が死んだというのに、堕天使というのはこうも淡泊なものなのか……。

 

「コカビエルの野郎は終始戦争に拘っていたからなぁ。やれ堕天使こそ最強、やれ堕天使こそ至高、そんな事ばかり言っている正真正銘の戦争狂。ンなもん今時流行らねぇってのによ……」

 

 そう言いながらアザゼルは手をフリフリと横に振る。口調と態度は嘘を言っているようにも見えないし、何よりそんな事をする意味がない。

 

不意打ちならそれこそ暗闇に乗じて狙ってきている筈だ。まぁ、真っ正面からアオヤマと戦うつもりだったのなら戦いを有利に進める為の演技とも取れなくもないが……。

 

ただその軽い口振りの中に僅かな寂しさが混じっていた事は当然……アオヤマは気付かない。

 

「じゃあ、一体何しに来たんだよ? 堕天使の総督ってのは暇な役職なのか?」

 

目的の読めてこない目の前の総督にアオヤマはジト目で睨む。グリゴリという組織は意外と適当なのか? そんな気さえしてきたアオヤマに。

 

「────“神器”」

 

「は?」

 

「お前さんの持つ神器、少し見せてくれねぇか? こう言ってはなんだが、俺は神器の事に関してはそれなりに詳しいと自負している。そしてコカビエルを倒したお前の持つ神器に大層興味が湧いた。無論、タダでとは言わん。お前が望む限りの願いを聞いてやろう。金か? 女か? それとも地位か?」

 

神器。聞き慣れない単語と共にテーブルから身を乗り出してくるアザゼルにアオヤマはドン引く。

 

確かにアオヤマも人間だ。それなりに願いはあるし人並みに欲望も持ち合わせてもいる。……だが。

 

「な、なあ」

 

「ん? 何だ? 願い事は決まったか? なんなら三つまでなら聞いてやるぞ」

 

「いや、期待してるとこ悪いんだけど……神器って、何?」

 

アオヤマは、神器という存在を全く以て知らない。

 

故に。

 

「……何だと?」

 

アザゼルの時間が一瞬止まるのは、ある意味当然とも言えた。

 

何とも言えない空気が部屋を包み込む。これって俺の所為なの? 気まずくなったアオヤマがどう切り出そうか迷った時。

 

「……じゃあ、何か? お前さんは神器も持たずに肉弾戦でコカビエルを倒したと? そういう事なのか?」

 

「まぁな。と言っても別に大した事はしてないつもりだけどな。ああいう事はもう何回かしているし……実はコカビエルさん調子悪かったんじゃない? なんか矢鱈脆かったし」

 

ハハハと、アオヤマは慣れないフォローをするが、アザゼル本人は信じられない様子で眉の寄った眉間を押さえている。

 

いやホント、神器ってなんの事だろう? ジンギスカンなら知っているのだけど。そんなどうでもいい事を考えている間に数分が経過、気まずい空気の中で部屋の時計を見ると既に時刻は八時、いい加減腹の虫が煩くなる時間帯だ。

 

(てゆーか、何で俺堕天使の総督をフォローしてんだよ。色々おかしいだろ)

 

今更ながらの疑問。と同時にそんな義理も義務もない事に漸く気づき、晩飯の支度をする為、そろそろ目の前の堕天使総督さんに帰って貰おうと声を掛けようとした時。

 

アザゼルの懐から、携帯の着信音が鳴り響く。

 

「あぁ悪い。ちょっと出てもいいか?」

 

「はぁ、別にいいけど……」

 

悪い。アザゼルはそう謝罪しながら携帯を取り出し、アオヤマに背を向けて話し始める。何会話の内容は分からないが、悪魔やら契約やらと専門的な言葉が飛び交っている様で、やっぱりこんな堕天使総督なんだなとアオヤマは改めて認識する。

 

二、三ほど言葉を交えた後、アザゼルは携帯の通話を切り、懐にしまって再びアオヤマに向き直った。

 

「悪い。そういや今日別件があるんだった。この話はまた今度にしてもいいか?」

 

「いいけど、そん時は何か奢ってくれよ。こっちは腹減らせながら聞いてたんだからよ」

 

言われてアザゼルも時計を見ると、もうこんな時間かと呟く。

 

「分かったよ。んじゃそん時改めてお前の強さの秘密を教えて貰うわ。じゃあな」

 

そう言ってアザゼルは玄関から出て帰って行く。それを見送った後、アオヤマは飛ばないで行った事を不思議に思いながら部屋へと戻り。

 

「組織のトップって、皆あんなにフレンドリーなのかな?」

 

一人、そんな事を考える。

 

「まぁ、なんだっていいや。さっさと飯喰って風呂入って寝よ。明日も早いし」

 

台所に立ち、夕飯の支度を始める。時間も時間だから簡単な炒め物にしようと、野菜類を冷蔵庫から取り出す際。ふと、自分の手がアオヤマの視界に入る。

 

アオヤマの手、最初の頃はいつも危機ばかりだった。

 

泥だらけの戦い、命懸けの死闘。死にかけながらも強くなっていく自分の姿に当時のアオヤマはワクワクが止まらなかった。

 

喩え誰かからも理解されず、社会の役に立てなくとも、自己を満たせる事ができるその時までの自分にアオヤマは満足していた。

 

それが……一体いつからだろう。こんなにも戦いに虚しさを感じたのは。

 

一体いつからだろう。全ての戦いがワンパンで片付き、返り血を浴びたスーツやグローブを洗うだけの日々になってしまったのは……。

 

「強くなった秘密かぁ、別に秘密って程でもないんだけどなぁ」

 

 そんな事を呟きながら、アオヤマは憂鬱な気分を振り払うように調理を始める。その様子はまるで目の前の現実から逃避しているようにも見えた。

 

いつか強敵が現れる。そんな事を夢のように願い、或いは当然と“思い込み”ながら、アオヤマはその日の一日を終える。

 

「あ、この湯呑み割れてる。……今度アザゼルに弁償して貰おう」

 

そして、古の堕天使を既に呼び捨てにしている異常さに気付かないまま、翌朝を迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────そして、翌日。

 

当然の如く放課後にオカルト研究部に呼び出されたアオヤマは、暇だからいいかと自分に納得させながら部室に入ると。

 

「やぁ、君がアオヤマ君かい? 私はサーゼクス=ルシファー。君のことはリアスから聞いてるよ。うん、噂通りのとても…………眩しい頭をしているね。こういうのを後光って言うのかな」

 

目の前の紅髪の超絶イケメン兼魔王さまが待ち構えていた。

 

最近、自分のエンカウント率がおかしい。そんな事を考える一方で。

 

「最近のラスボス様は人を挑発するのが流行ってるんですかねぇ?」

 

ここ最近いじられている自分の頭に、少しイラッときたアオヤマだった。

 

そして数日後、とある協定会議にてそれは始まる。

 

世界の変動と、たった一人の人間の名が全世界に知れ渡る事態に。

 

時代が───動こうとしていた。

 

 

 




そう言えば、ミルたんって一人じゃなく、結構いるんですよね。

……タグにハーレムを追加するべきか?(昏倒)

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