女子大生こいし【完結】   作:指ホチキス

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「ハーンさん、何だか楽しそうね」

「……レポートを出せと言われた直後の私が楽しそうに見えたというのなら、貴方はとても素晴らしい目をしているのね」

 

 

とある講義室の中。

大学内の数少ない知り合いに声を掛けられ、思わず微妙な顔をした。

皮肉や嫌味を言わない性格なのは分かっているので、気にする事でもない。

言葉に若干の棘が入ったのは、仲ゆえのご愛敬である。

 

 

「男か」

「貴方は同じ相対性精神学を専攻しているのに人の心情が読めないのね」

「それは心理学」

「似たようなものよ」

「全然違うわよ。ところで誰!? あのハーンさんが惚れたのって誰!?」

 

 

話を聞かない人間には困ったものである。

全世界が同じ言語を扱えれば戦争は無くなると言われ続けてどれ程が経ったのかは知らないが、翻訳機能を持った携帯媒体が発売された今でも争いの根本を潰すことが出来ないのは、こういう人間がいるからではないのだろうか。

若干の苛立ちから高速化する思考を抑え、ニッコリと目を細める。

 

 

「綺麗な銀髪の、モデルも出来そうな位容姿の整った人よ」

「くっそぁ! 私も欲しいなそんな人ッ!!」

 

 

嘘は言ってない。

恋愛的にではないが、惚れかけているのは事実だし、相手も男とは言っていない。

 

 

「くそー何故宇佐見さんとビアン疑惑のあったハーンさんに恋人が出来て私にはできないんだ……顔か。やっぱり顔なのか……」

「ちょっと待って何その話」

「え? 一部では有名な話よ?」

 

 

聞けば二人きりのサークル、泊りで旅行に行く、などなど確かに勘違いさせそうな情報が多々出てきた。

が、あくまで私は自覚している限り、異性愛者である。

 

 

「まぁそんなことはどうでもいいとして。いつ! どこでそんな素敵な人に出会ったの!?」

「道端で」

「私も拾いたいなそんな人ォ!」

 

 

嘘は何一つ言っていない。

して、外より昼食を食べに出た同じ研究をする男メンバー二人が帰ってきた。

 

 

「あれ何人だろうな!絶対日本人じゃないって」

「整形……にしては跡が無さすぎるし、天然だとしたらスゲェな、いやマジで」

「宇佐見の知り合いかな。紹介して貰えねぇかなぁ……?」

 

 

何やら気になる単語が飛び出している。

生憎彼らが話す宇佐見は、私の知る宇佐見の筈だ。

という事は彼らの話題はこいしだろう。

話に耳だけ傾ける。

 

 

「モデルかな? マジで超美人だったよな」

「連絡先さえ知ればワンチャンあると思えば、宇佐見に話しかける事も悪くない……」

 

 

どうやらこいしはモテモテらしい。

容姿は整っている上に、人離れした不思議な魅力を持っている。

彼女は誰でも引き付けるだろう。

 

「誰か私を見初める男はいないのかしら」

「探せば?」

「恋人持ちの余裕羨ましいっすわぁ!」

 

こいしより私の隣で嘆く彼女にアタックを仕掛けた方が成功確率は絶対高い気がするが、男は美人に群がり易いので仕方がないと言えばそれまでである。

 

 

     ○○○

 

 

食堂に座ったはいいが、チラチラ見られているような気がして落ち着かない。

 

 

「こいし、目立ってるねぇ」

「うん……」

 

 

非常に居心地が悪いが、無視すると決め込めば存外気にならないものである。

管は隠しているので、外見上はちゃんとしたただの人間に見える筈だが、やはり目立ってしまうものだろうか。

 

 

「美人は何しても衆目を浴びるからねぇ」

「……美人?」

「こいしは整った容姿をしているから目立っているのよ」

 

 

やれやれと首を振る蓮子の顔は、若干嬉しそうで。

 

 

「……なんでそんな笑ってるの?」

「いや、なんか嫉妬とかなくて、ただこいしがそう思われているのがなんか嬉しくてね」

「ふぅん?」

 

 

良く分からないが、そんなものなのだろう。

 

―――なんて話していれば、端末が震えた。

ポケットから取り出してみれば、一件の通知。

送られてきたメッセージが画面に映っている。

 

 

『こんにちは、無意識の少女』

 

 

その短い文章に、ぶわりと冷や汗が吹き出た。

送り主は『ママ』。ハーンの母だろうか。

 

無意識の少女。それを知っているのは何故だろう?

訳も分からない不気味なメッセージに返信しようと、端末のロックを解除し、チャットを開く。

 

 

『誰ですか?』

『貴方が知っている者よ。名は明かさないけどね』

 

 

返信した瞬間に、更なるメッセージが続く。

 

 

『貴方が何故そこに居るのかは分からないわ』

『けれど、貴方が居なくなるのはそれはそれで困るの』

『だから、少しだけ取引をしましょう?』

 

 

なんなのだ。

この、全てを見透かされるような感覚は。

手が震える。

顔は、真っ白になっているかもしれない。

 

 

「こいし?誰からのメッセージ?顔が青いけど……」

 

 

蓮子が首を傾げながら覗き込んできた。

しかしそれを気にする余裕もなく、脂汗が滲む。

 

 

『調べたけれど、貴方は戸籍を持っていないようね。取引の代価は仮の戸籍と大学に入学しているという身分をあげるわ。どう?話に乗る気はない?』

 

 

震える手で、不気味な相手へとメッセージを送る。

 

 

『内容は?』

 

 

あまり話す気にはなれない。

そんな感覚のまま、相手の返答を待つ。

若干の沈黙の後、軽快な通知音が鳴った。

 

 

『貴方の記憶で手を打ちましょう』

 

 

その取引内容は、あまりにも奇妙で、胡散臭かった。

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