女子大生こいし【完結】   作:指ホチキス

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樹海の髪【エピローグ】です。
プロローグは無いのにエピローグはあります。


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「おはよう。適当だけれど、朝ごはんだよ」

「わぁ!ありがとうございます!!」

 

 

昨晩、樹海から出てきた先で蕎麦処がまだ開いているところを発見。

こいしがぐったりしていたので休ませていたところ、そのまま流れで宿泊に。

 

 

「あ、すごいお茶碗が焼き物だ」

「私が暇で暇でしょうがない時に作ったのよ」

「形も整ってるし…凄いですね」

「あら、ありがとね。サービスしちゃおうかしら」

 

 

朝日がよく磨かれた窓から入って来る。

年代を感じる一枚板のテーブルを照らし、反射が眩しい。

メリーが席に座り、手櫛で前髪を直すのを見つつ、三人目が見当たらない事に気がつく。

 

 

「そういえばこいしは?」

「あの娘かい?お腹空いてないし、ちょっと散歩に行ってくるってさ」

「病み上がりで元気ですこと」

 

 

老婆が釜から白米を掬いながら、窓の外を見た。

甘さにも似た良い匂いが、こちらまで流れ込んでくる。

ことり、とまず目の前に置かれたのは老婆手作りの茶碗と、漆塗りの器。

 

 

「まずは味噌汁とご飯から。おかずはもう少し待ってね」

「「いただきます」」

 

 

手を合わせる事は、感謝の意。

日本の伝統である。

 

 

「あ、このご飯美味しい」

「おぉ、分かるかい?出汁炊きって手法でな…」

 

 

老婆がおかずを皿に盛り付けながら、楽しそうに笑う。

久しぶりに誰かに作ってもらったご飯は、とてもおいしく感じた。

 

 

     ○○○

 

 

樹海に足を踏み入れた。

枝を踏み落ち葉を踏み、朝露で湿った空気に“乾き”が潤っていく。

 

人に紛れて乾いてしまった、妖の根本が満たされていく感覚がした。

深呼吸をすれば、幻想郷に比べると薄いが、確かな魔の匂い。

良い空気を堪能しながらしばらく歩けば、目的のものを発見する。

 

 

「…ん、あったあった」

 

 

白く長い髪を一本拾うと、そのまま目の前で揺らす。

 

…何も起きない。

なので今度は瞳に妖気を宿して目の前で揺らす。

 

 

「……やっぱり、迷いの竹林の月兎か」

 

 

くねくねと揺れる髪を見て、若干視界と周囲が歪み始めたのを確認して目を瞑った。

ハーンと蓮子には言っていないが、昨晩の記憶は若干残っている。

すべて憶えていないと誤魔化したが、微かに覚えている事はあった。

 

今回は恐らく、境界暴きに来たハーンの同類のような人間に対する罠だったのだ。

 

兎の発言はうろ覚えだが、確か変なのが掛かった、と言っていた。

つまり、この樹海で、境界を認識できるような人間がこの髪を見ると、一時的に別の空間に迷い込まされるといった罠だったのだろう。

 

 

「しっかしまた悪質な」

 

 

見ただけで狂気を振り撒き、迷わせる怪異。

恐ろしい話だ。

蓮子も共に迷い込んだ、ということは周囲を巻き込んで発動する怪異である。

下手をすれば数百人すら巻き込むことも出来るだろう。

それはつまり、それをキッカケに幻想を警戒させる原因になったかもしれないという事だ。

 

人は排他的な生き物である。

見えないものは見えるように。

怖いものは怖くないように。

取り除けないものは取り除けるように。

そうやって人は生きてきた。

 

 

「……よかったねぇ。八雲紫に殺されなくて」

 

 

幻想郷の中でも、特に活発で最も敏感な妖怪の賢者にバレていたら、罰は間逃れられなかったであろう。

下手をすれば妖としての根幹を弄られていた。

それ程の行為だったのである。

 

 

「ま、残りカスでも面白いから利用させてもらうよ」

 

 

今では、この髪も怪異の名残が残る残りカスだ。

これを媒体に再度幻想郷に入ることは不可能だろう。

 

白い髪をポケットにしまい、大きく伸びをした。

残念にも現世にまた戻って来てしまったわけだが、あの二人ともう少し遊ぶのも悪くない。

 

端末を開くと、“ママ”に何があったのかを打ち込んだ。

 

 

「…しかしこのママって本当に誰なんだろ」

 

 

ハーンの母だと私の警戒を薄めさせるための、その名前なのか。

誰なのかも分からない。

ただ、私を知っていて幻想郷も知っている存在。

どういう扱いをすればいいのかに、未だ困っていた。

 

…蕎麦処に戻ろう。

あの二人に心配をさせると後が面倒で仕方ない。

 

 

「………ここは少し、私らしくなっちゃうな」

 

 

“いつの間にか大振りのナイフを手に持っていた”のでそれをポイっと捨て、歩き出す。

 

―――湿った地面に突き刺さったナイフは、暫くすると溶けるように消えていた。

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