女子大生こいし【完結】   作:指ホチキス

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とあるマンションの一室。

教授が借りていて、学生に掃除を任せる代わりにほぼ帰らないから自由に使っていいというその部屋は、現在、文化を忘れかけた状態にある。

何がどうしたかと言えば、下着姿の三人組が鍋の乗ったテーブルを囲んでいた。

 

とある術でサードアイと管を透明化させることに成功した私は、惜しげもなく肌を晒しながら表情を理解不能とばかりに歪める。

 

 

「毎度思うんだけど、何で脱ぐの?」

「万が一服のシミになったら面倒でしょう!?」

「そうよ!キムチ鍋の染みって抜きにくいんだからね!?」

「いや…皮膚の保護と服の染みを天秤にかけて服を取るのは自愛が足りてないんじゃないかな」

「火傷は跡も無く簡単に治る時代。でも服の染み抜きは有料。当然服の方が高いわ」

「えぇ…」

 

 

黒いレースの下着を晒してそう豪語するハーン。

その断言には、細々とした困惑の吐息を漏らすしかなかった。

 

 

「で、なんでこの時期に鍋なの?まだ夏だよ?」

「いや夏こそ鍋でしょ」

「理由を教えて」

「夏は暑い!鍋は熱い!暑い時に熱いものを食べられるのは夏だけ!よって夏に鍋!」

「おかしいなぁ。蓮子はもっと理論と根拠を組み立てて話せる人間だと思ってた」

「じゃあ、私が突然鍋を食べたくなって誰も反対しなかったから」

「うーん。着いた途端に脱げって言われて、既に鍋が目の前にあった私には拒否権が無かったという事か」

「心の中で訊いた」

「…口に出して言わないと、私には分からないかなぁ」

 

 

若干、表情が歪むのを感じる。

意図しないその言葉には、思うものが多すぎた。

引き攣るように口端を上げ、どうにか笑みの表情を浮かべて目を細める。

 

 

「んで、キムチ鍋」

「そ。鍋の元が安かったからさ。具材は肉、ニラ、白菜、もやし、豆腐、その他」

「へぇ。…待ってその他って何」

「っともう食べ時か。よーし、食べるよ!」

「その他って!!なぁに!!?」

 

 

鍋の蓋を開ければ、辛そうな色と香り。

赤に沈む具材が、沸騰により微かに上下を繰り返していた。

無数の気泡が弾け、汁が飛散する。

 

 

「んぐゥ!?目ッ!目がぁ!」

「…なぁに蓮子?三分間待ってあげるの?」

「汁が目に入ったんだよ優しくないなぁ!」

 

 

そう言ってキッチンへとふらふら歩く蓮子をよそに、ハーンが具を拾って自らの深皿へと入れていく。

 

 

「あ、直箸でいいよね?」

「いいよー」

 

 

ひょいひょいと具を拾っていくハーンに続き、とりあえず鍋に箸を入れた。

と、何かに刺さるような感触。

刺し箸は好ましくないが、とりあえず箸を上げてみれば妙な物が刺さっていた。

微かに赤の染み込んだ白い円筒状で3センチほど。

 

 

「……」

 

 

早速その他を引いたらしい。

見た事も無く、餠のような見た目のそれに、思わず箸が止まった。

 

 

「あ、トッポギ入れてたんだ」

「とっぽぎ」

「韓国の煮込み料理。それはお餅を棒状に伸ばした物よ」

 

 

口に入れてみれば、熱さに混じるピリッと辛い味と香りに、餅の甘みと食感が美味い。

かなり好きの部類に入る味だった。

 

 

「おいひい」

「ふふ、飲み込んでから喋りなさい」

「ほぉい」

 

 

白菜と肉を同時に口へ運ぶハーンに注意されつつ、鍋を見た。

意外にも辛みはマイルドだ。

舌が痺れるほどじゃないし、味に深みがある。

再度とっぽぎが欲しいと箸を入れれば、再度何かに刺さった感触がした。

上げてみれば、球体を切ったような見た目で色は赤。

 

 

「…蕃茄(ばんか)?」

「トマトも入ってたんだ」

「とまと」

 

 

またその他を引いたらしい。

蕃茄を食べるのは久しぶりだが、口に含めば辛みと酸味、そして微かな甘み。

深皿に掬ったスープを啜ればスープの旨味を更に強く感じる。

蕃茄をスープの味を深めるために使うとは、思いもよらない使い方だった。

 

 

「この…とまと。すごく美味しい」

「合成食品だけどね。んー食べた事無かった?」

「いや、お姉ちゃんが料理として出してくれたことはあったよ。柔らかいチーズと目帚(めぼうき)と一緒に食べると美味しいんだよ」

「じゃあカプレーゼかしら。お洒落な食べ方ね」

 

 

あまりに美味しいのでもう一つ蕃茄を探していたところ、蓮子が帰ってきた。

蓮子のシンプルな灰色の下着にはハーン程の色気は無いが、しなやかな健全さが垣間見えて素敵である。

そう考えて鍋を漁りながら見ていれば、その蓮子と目が合った。

 

 

「ただいま」

「「おかえり」」

「味はどう?」

「美味しいね。こいしが変わり種にハマってるよ」

「ふっふーん。その他も美味しいでしょ!」

「美味しい!流石蓮子!」

「もっと褒めていいのよ!!」

 

 

得意げに胸を逸らす蓮子。

ハーンに比べると控えめで女性らしい胸が曲線を描き、とても可愛らしい。

こういう仕草に異性は惹かれるのだろう。

そう思いながら、蓮子は異性に興味が無さそうだとも同時に思った。

 

 

「あ、そうだお酒持ってくる」

「それは最後でもいいんじゃないかしら?」

「蓮子、お酒は早いうちに入れると楽しいのよ?」

「…じゃあ旧型持って来て騒ぎましょうか」

「お!太っ腹!!」

「メリーより細いし!!」

「そう言う意味じゃないけどね!?」

 

 

姦しいマンションの一室。

鍋を囲んだ夜は、始まったばかりである。

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