「こんにちは」
「こんにちは。綺麗な子ねぇ……メリーの親戚?」
街の些細な喫茶店。
隣には、管を隠せる様に貸した黒のゆったりとしたワンピースを着るこいし、向かいには蓮子で座るは四人用のテーブル。
一応何かあったほうがいいかとコーヒーは頼んだ。
美人だなぁと言いながらツーショットを撮る蓮子のコミュニケーション能力に驚きを得ながら、私は頬を掻く。
「知り合い」
嘘ではない。
互いを知っているので知り合いではある。
対して蓮子は顔を驚きに染めた。
「へぇ、人見知りの知り合いとは」
「失礼ね」
断じて人見知りではない。
ただちょっと他の人より人間関係に慎重なだけである。
親しくない人に対し、若干目が泳いだり、声が小さいことは自覚しているところであるが、抱く感情の探り合いとはそういうものだ。
そう、ある意味でそう見えるそれらは交渉術の一環である。
人見知りという点には断固として声を上げていきたい。
「しかしやっぱり海外の人は容姿が整う法則でもあるのかしら」
「私褒められてる?」
「……あ、メリーも日本人じゃ無かった」
「どう言う意味かしら」
相変わらずの蓮子ににっこり笑う。
するとこいしが照れたように頬を掻いている姿が見えた。
「家族以外から美人なんて言われたの初めて」
「ホントに? 絶対モデルとかやっててもおかしくないって」
確かにこいしの容姿は並外れて整っている。
緑がかった銀髪や、珍しい翡翠色の瞳も合わさり、さも人間ではないかのような印象すら得るほどだ。
……これで人工知能搭載の人形だったと言われれば、まぁ色々な問題に発展するわけだが。
「んで、どうして私に紹介?」
「あー実は気になることがあってね」
かくかくしかじか……等と古き良き表現があるが、私は四角い座敷を丸く掃く性格だ。
要点を掻い摘んで話す。
「……境界、ねぇ」
「多くは物や現象で発生するけど、個人に対して境界が発生するのは稀なのよ」
悩み混む蓮子は、まぁ随分と美人である。
普段の言葉遊びや皮肉を発する際は、無邪気な子供の様に歪む顔も、引き締めれば年相応の女性でしかない。
ボーイッシュに秘めたワンポイントの女性らしさもまた、ギャップだろう。
……例えば下着はレースが施された大人っぽいものが好きだとか。
「えーっと、そういえば名前は?」
「古明地こいし」
「今更だけど私は宇佐見蓮子よ。って、日本名?」
「多分生まれも育ちも日本」
私は海外生まれなので同様の件を知っていて違和を感じなかったが、確かに日本人じゃない容姿で日本名は不思議に感じる事もあるだろう。
「へぇ、どこ育ち?」
「ここより自然的」
「うーん……田舎育ちの妖精。売れるね」
「馬鹿言ってんじゃないの」
しかし帰り方が分からないのに育った場所を覚えているとは不思議な話だ。
だが光景を断片的に覚えているのであれば、そういう事もあり得るのだろう。
「変わった子ね。でもメリーの知り合いだから変な人間かと思った」
「失礼しちゃうわ」
変な人間など私の周りにはいない。
少なくとも、“私より変な人間”は探してもそういないだろう。
いや、蓮子も変な人間の一人ではあるのだが。
「しっかし境界に憑かれた子ねぇ……自覚はあるの?」
「さぁ、訊いてないわ。昨日は色々忙しくて」
疑問より先に色々する事があったのだ。
具体的に言うと布団の準備とか、着替えを探したりとか、明日の朝御飯が足りるかなどの確認とか色々である。
「ねぇこいし、肩が重いとかない?」
「蓮子、それ怨霊の話じゃない?」
「いやぁ……私怨霊に憑かれると死んじゃうからなぁ。あ、肩は重くないよ」
こいしが困った様な笑顔で呟いた。
しかしなんだ、どうにも怨霊について詳しい口調である。
「怨霊について知ってるみたいだけど……あ、そういえばこいしって何歳?」
大学の民俗学でも専攻しているのか聞こうとして、そもそも年齢を知らない事に気がついた。
質問に対してこいしは暫く考え込む様にして、口を開く。
「21」
「すごい童顔なんだね。羨ましい……」
子供の様に見える姿は女性が羨む若々しさの塊である。
やはり血の影響か、純日本人に比べれば顔立ちが早熟な身としては少しだけ思うところがある。
本当に容姿といい、反則的だ。
「じゃあ大学生か。専攻はどこ?」
「んんん、卒業も退学もしていないから學生ではあるのかな。でも、敢えて言うなら放浪者」
「……放浪者」
「そうだよ。ただ、無意識の情動に身を任せて狭い世界を放浪してる」
なんだか凄い事を聞いた。
「メリー、どうしよう。私、こいしにとても興味があるわ」
「そうね。でも場所を移しましょう」
ここでは話せない事も、この先出てくるかもしれない。
少なくとも彼女の境界については、話せるわけもなく。
「家、はめんどくさいなぁ」
「貴女片付けしないものねぇ……私もだけど」
以前蓮子の部屋を訪問した際は、それはもう素敵な光景だった。
当然悪い意味で、だが。
「じゃああっち行く?」
「そうね」
いつもの提案に頷き、席を立つ。
「こいし、行きましょう」
「どこに?」
「いつもの場所ってやつよ」
ウインクをすれば、こいしが頬を赤らめた。