新型酒、旧型酒は旧約酒場に拠るものです。
「……?」
「どうしたのこいし」
いつもの場所へと向かって歩く最中。
バッと頭を押さえたこいしに妙な目を向ける。
何処か恐ろしげな顔をしている事から、何かあった事だけは伺えた。
「……面を持っていた時に頭が凹むぐらいお祓い棒でボコボコにしてきた巫女の気配がした」
「どんな巫女よ」
そもそも巫女という職業は神棚を見なくなった頃より規模縮小して久しく、今では神社こそ維持されているが、神主や巫女がいるかはまた別である。
「田舎にはやっぱり神社ってあったの?」
「二つあったよ。ご利益は知らないけどねぇ」
「巫女も?」
「それぞれにいたよ。怖いのと頭おかしいの」
「どっちもどっちねぇ……」
神に仕えると何処か狂うのだろうか。
狂信者はどの時代でも恐ろしいものだ。
少なくとも怪しいカルト系の狂信者程、社会が警戒を高める存在はそうそう居ない。
「今の時代で狂信者、ねぇ」
「いるっちゃいるわね。メリーは十字架系じゃなかったっけ?」
「いや無宗教よ。この時代に宗教を信じる酔狂さは持ち合わせていないの」
こいしは不思議そうに首を傾げる。
「私は一応仏教徒だよ。一応」
「昨日肉も食べて安酒も飲んでいた恐るべき仏教徒ね。まぁ、この時代で信仰してるっていうのはそんな感じだろうけど」
宗教については色々と調べている。
ちょっと前には修行体験というものが、寺院での異文化という扱いであったとは資料で見た。
さて、と訪れたのは大学構内のコンビニ。
「ここがいつもの場所?」
「いいえ、少し買っていきたい物があるの」
そう言って生分解性の缶を二つ手に取る。
当然だが、コンビニに高価な旧型の酒は無い。
新型の酒が多く置いてあるだけだ。
「こいしはどんなお酒が好き?」
「呑むの?」
「新型でも多少舌が回る事もあるわ。気分と自分にしか酔えないけど」
酔い潰れない工夫がされている新型酒は所詮安酒だ。
安いほうがより健康というのは不思議なものだが、今の時代で不健康になるにはお金がかかる。
生活習慣病になるために努力しなければならない現代では、非生活習慣病と改名すべきと言われ続けている。
「私はしんがた?とかはよく分からないしハーンに任せる」
「新型が分からないってどういう育ち方よ。田舎は田舎でも酒蔵育ち?」
「まさか。酒蔵の子は外に出ないでしょう、出る意味も特に無いし」
現存する旧型の酒を作る施設は国に保護され、文化保護として山の奥地にある。
高価な旧型酒を求めて盗人も多く、秘伝される技術も多い。
旧型酒造りに携わる一族の子は、そこにいるだけで就職先は大手で、婚約相手など腐る程見つかる程度に良物件扱いだ。
わざわざ外に出る意味も少ない。
「ま、放浪生活で酒を呑む機会も少なかったって話じゃ無いの?」
「え?いや星熊盃の純米大吟醸なら何度か呑んだことあるけど」
「「え?」」
「……えっ」
今、なんと言った。
「純米大吟醸?」
「うん。浴びる程呑んだ」
「「浴びるほど!?」
新型に大吟醸の名を冠する酒は無い。
確実に、あの純米大吟醸だろう。
「え、えーっと……どこで?」
途端にしまったという顔をするこいし。
「あー故郷の、一番力が強い人がくれた」
恐らくだが、こいしは酒蔵の家系に近しい人間である事がほぼ決まった。
こいしの言う力が強いという表現が、権力的では無く腕力的な意味合いであることは。
「…まあいいわ。取り敢えず適当に買って行きましょう」
荒ぶる思考を収めるために蓮子の手を引いてレジへ引き摺る。
学生カードで支払いを終え、次に向かうのはマンション。
「さて、と。じゃあまた借りまーす」
合鍵でマンションに入り、エレベーターでいつもの階に登れば。
蓮子が慣れた手つきで鍵を開けながらチャイムを鳴らす。
ピンポーン…
「…あ、やっぱいないっぽいね。借りまーす」
「こいし、こっち」
この部屋は、とある教授から預かった部屋。
時々掃除する代わりに好きに使う事を許されている部屋である。
静かな部屋の中。
初めて気が付いたのは、九つの尻尾を持つ妖怪だった。
「…まだ外に妖がいる…?」
少し前で若干だが、博麗大結界に穴が開いた事を確認。
術式の綻びではなく、人為的に開けられたものだ。
しかし一時期境界を暴く事に躍起になっていた人間に対し、当時不穏な動きを察知した八雲霊夢が原子の陽子と中性子の境界を曖昧にさせる事で原子核を崩壊させ、事故という形で研究施設全体を放射能で汚染、崩壊させた筈。
それなのに人の手で綻びが生じたとは、妖の気がある者という可能性が大きい。
「調べてみるか…霊夢!!」
「あい」
「少しここをあける。後は頼んだ」
「分かったけど…外界に行くなら注意してよ」
「今期のスキマ妖怪は心配性だな」
「愛しの紫様じゃなくて悪かったわね」
「…頼んだぞ」
ある日を境に博麗霊夢にスキマ妖怪としての姓を与えて姿を消した主人は何処へ居るのか。
どれほど後を追っても分からない背を思い続け、どれだけ時間が過ぎただろう。
今回の件が手掛かりになれば良いと、そう思いながらスキマを通って外界へと降り立つ準備を進めるのだった。